レイブンクローの寮室近く、校庭が見える位置に彼女は漂っていた。
「やれやれ、灯台下暗しってやつかな。捜したよ、『灰色のレディ』」
「……あなたは、レイブンクローの一年生ですか。何の用です?」
「必要の部屋って知ってるかな?そこに案内して欲しいんだよ。ああ、安心して。『レイブンクローの髪飾り』とか、創始者たちの遺品が欲しいわけじゃないから」
「何を求め、その部屋を探すのですか?返答次第では、そこに案内することはできません」
「あなたなら知ってると思うけど、前に必要の部屋に戦車を隠した人が居てね。その戦車を探すのと、戦車庫をもっと充実させるために未成年の匂いを消すための魔法具が欲しい。どこに部屋があるかは知ってるけど、具体的な位置は知らないからね」
なかなか信用してくれないレディ。けれど、根負けしたように八階のタペストリー前まで案内してくれた。
「この石壁です。廊下の端から端まで三往復、求めるものを強く思い描き通りなさい。そうすれば、扉は現れます──それと、もう一つだけ」
「……おや、何です?」
「母の──ロウェナ・レイブンクローの髪飾りを見つけることがあったら、壊していただけませんか。本来ならば談話室の石像に返還するか、母の墓に埋めたいのですが、あれはもう、悪しき者の手で穢されてしまいましたから。まあ、あまり期待はしませんが」
レディ──ヘレナ・レイブンクローは壁を通り抜け、どこかへと消えて行った。探し出してもいいんだけど、あれを壊すのはハリーの役目だ。より正確には、原作ではクラッブの、映画版ではゴイルの悪霊の火の役割だ。最も、見つけやすい位置に置いておくぐらいはするかもだけれどね。何かをしても誰にも気づかれなければ意味はない。けど、誰にも気づかれずに誰かの手助けをするだなんて、かっこいいだろう?
まぁ、それよりも前に魔法具なんだけどね。未成年の匂いを消すアイテムを三つ欲しいって思いながら廊下を往復する。そして、三度目に壁を通り過ぎて振り返った時、壁には磨き上げられた扉があった。真鍮の取っ手に手を伸ばして、部屋の中に入る。窓はなく、中央に丸テーブルが一つだけ置かれている。そのテーブルだけがスポットライトが当たっているかのように明るく、金色の指輪三つが輝いていた。
「これで……学校の外で魔法を使っても大丈夫……な、はず」
指輪をポケットにしまい、一つだけ自分の指にはめる。少しぶかぶかだった指輪ははめた途端私の指のサイズにぴったりあった大きさになった。
一度部屋を出て、扉が消えたのを確認する。今度は戦車が隠された部屋を出そう、と思った時、外から歓声が聞こえてきた。試合が終わってしまったようだ。あと二十分ほどはマーカス・フリントが喚いて時間稼ぎをしてくれるだろうけど、ここからレイブンクロー寮まで遠いからね。さっさと帰ろう。
◇◇◇◇
「魂を証明しなさい」
「人が死んだ時、体重が少しだけ減るそうだよ」
「あなたはマグルの医者ですか?」
ドアノッカーは呆れたような声を出しながらも開いてくれた。私は自分の部屋に戻って、ベッドの上で残り二つの指輪を指で弄ぶ。ふふ、二人は驚いてくれるかな?アキの慌てた顔は可愛いからね。楽しみだよ。