入学翌日。
私は二人よりも早めに起きて〈検知不可能拡大呪文〉のかかったバッグからトランペットを取り出した。そしてミッコの近くへ移動する。ふふ、昨日の仕返しだよ。
マウスピースに口を当てて、ミッコの耳元で『パンツァー・リート』を吹く。
「うわあっ!?」
「うわっ」
ミッコとアキが飛び起きた。ミッコは耳を抑えてキョロキョロしてるね。
「おはよう、二人とも。よく眠れたかい?」
「あ……おはよう、ミカ。もしかして……」
「おはよー。ところでさ、今の大音量、ミカでしょ?」
ミッコの問いには答えずにトランペットをしまう。ちなみに、バッグの中には大量の楽器があったりする。呪文をバッグにかけてくれたのがマッド-アイだからね。容量はまだまだあるんだ。
◇◇◇◇
授業開始一日目の夜、私たちは戦車談義に花を咲かせてたんだけど、やっぱり話は戦車をどうやって調達するかになった。
「自分で作る?」
「いや、技術的に無理だから」
「変身術なんて手もあるよ」
「現実的だけど……そこまで上手くなるのに時間かかりそうだよね」
案は出てくるけど実行するには難があるものばかりだ。
「学校外で魔法を使うと魔法省に感知されるんだけど、私たちには『匂い』って言うのがついてるんだ。十七歳になったら消えるんだけど、それを無効化する物がもしかしたら魔法省にあるかもしれない」
「……なんとなーく察しはつくんだけど、一体何をする気なのか言ってくれる?」
「魔法省に忍び込んでそのアイテムをかっさらう」
スパパンッ!と私の頭が衝撃とともに音を立てる。アキとミッコに叩かれた音だね。私は至極真面目に言ったんだけどな。
「ミカ、犯罪、ダメ絶対」
「アキの言う通り。他にいい方法が確実に……あ」
「何か思いついたのかい?ミッコ」
「いやー、戦車があるのって必要の部屋でしょ?その人に必要な物を出してくれる部屋。もしかしたらさ……匂い消しのマジックアイテムも出てくるんじゃない?」
……そんな手があったとは。アキの方を見てみると、ポカーンとした顔をしている。おそらく、私も似たような顔をしているだろう。
なんてことだ。あれだけ悩んだことがあっさりと解決するだなんて。
「でも、どうやって戦車を調達するのかがまだ決まってないよ?」
「匂い消しさえあれば、どこかの博物館にでも行って展示されてる戦車を貰ってくればいいのさ。〈双子の呪文〉をかけて本物の戦車をそっくりそのままコピーして、その状態で固定してしまえば簡単に手に入る。足りない機構や部品は変身術でパーツごとに作ればいい。ふふ、腕がなるね」
アキの顔が明るくなる。入学二日目にして戦車を手に入れる目処が立ったからだいぶ余裕ができるだろう。次の日曜日にでもBT-42を手に入れに行こうか。フィンランドのパロラ戦車博物館ってところに展示されてるそうだし、あとは場所さえわかれば簡単だ。
いつになく気分が良くなった私はアキをベッドに引きずり込んで抱き枕にして眠りについた。
「ちょっと、起きて、起きてってばー!恥ずかしいから離してー!」
アキが何か言ってるけど聞こえなーい。
思いついてからは早かった……必要の部屋になら匂い消しのマジックアイテムもあることでしょう。
授業風景?そんなものほぼ全部カットですよ?