みんなが寮室へと上がったから、改めてレイブンクローの談話室を見渡してみる。
広い円形の部屋で、どことなく清涼な雰囲気がする。壁の所々にはアーチ型の窓があって、日中なら山々が見えることだろう。ドーム型の天井と濃紺の絨毯には星が描かれ、星座の姿が形作られている。そして、扉の反対側の壁のくぼみには、背の高い白い大理石の像──ロウェナ・レイブンクローの像がある。繊細な髪飾りの輪を石で再現した像の横には寮室に続く扉。
「『計り知れぬ英知こそ、我らが最大の宝なり』、か」
私は部屋をもう一瞥して、ミッコとアキの待つ寝室へ向かった。
◇◇◇◇
蒼銀のビロードのカーテンがかかった天蓋付きのベッドに腰掛け、二人と視線を交差させる。
「改めて、自己紹介でもしようか。私はミカ・クリスティだよ。趣味はカンテレの演奏。好きなものは音楽と戦車だね。ミカと呼んでくれるかな?」
「あたしはミコスール・クリスティア。イギリス人とドイツ人のハーフで、半純血だよ。戦車大好きだし、これからよろしく。あ、ミッコって呼んでね」
「えーと……私はアキーナ・クリストよ。アキって呼んで。七年間、よろしくお願いします。二人と同じく戦車が好きだよ」
自己紹介を終え、誰からか戦車の話が始まった。どの戦車が好きだとか、どんなところが好きなのかとか。
あと、ミッコの感が鋭いってこともわかった。
「まだ知り合って数時間だけどさ、ミカって何か隠してる気がするんだよねー。それも、すっごく大事なことを」
ミッコはこれから大成するかもしれないね。だけど、今はまだ知らない方がいいかもね。時が来たら教えるつもりだけれど──
「──よし、尋問しよう。てことでミカ、隠してるであろう秘密を教えろー!」
「ちょ、ミッコってば、何してんのぉ!?」
「ちょ、やめ、くすぐったいからあっははははは!」
しばらくは教えないでおこうと決めた途端ミッコにくすぐられた。それも脇腹や脇、足裏。だめだ、笑い死ぬ……って、ちょっと胸は絶対にやめ──ひゃん!?
「秘密は聞き出せなかったけど目の保養にはなった」
「後半は私も否定はしないけどさー……無理やり聞き出そうとするのは良くないよ、ミッコ。ミカが言いたくなるのを待つ方がいいって」
「あ、そうだ。これはあたしのお母さんからの情報なんだけど……ホグワーツには『必要の部屋』っていうなんでも隠せる部屋があるんだってさ。そこに、在学中に戦車を一両隠したって」
「ほんとに!?どんな戦車を?」
「詳しくは教えてくれなかったけど、ドイツ軍の戦車だってさ。ただ、乗り回すなら必要の部屋の中だけにしろって。でっかいから」
私がミッコのせいで痙攣している最中に話が進んでいたけど、すでに必要の部屋に戦車を隠した人がいるのか。大きなドイツ軍の戦車……ティガーとかパンターとかかな?
「どうせならあたしたちの代で、その戦車庫をさらに大きくしたいなー」
「うーん、でも、作るにしても材料も技術もないし、どこかから取ってくるにしても……」
「先輩方曰く、あたしら学生は学校の外では魔法を使ってはいけない、か。数代前の先輩方には、麺を小麦から作るって五人が居たらしいけどね」
ちょっと待て、今某アイドルグループが居なかったか?あの人たちはレイブンクローだったのかい?
「まあ、なんにせよ明日からだね。必要の部屋の捜索と戦車を手に入れる方法を模索しないと」
「そうだね。おやすみ、二人とも」
「おやすみー」
……私が関与しないうちに話がまとまった……。