艦娘に転生……って、俺男だぞ!?   作:スライストマト

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長らく更新を途絶えさせてしまい申し訳ございませんでした……
今後ともよろしくお願いいたします!


7話 働かなくてよくなるのも複雑だな

「わくわくするわね!戦艦できるかしら!」

 

俺はいま花音とともに工廠にいる。

次の出撃までは五分ほどか。

 

「俺も祈っとくよ」

「ありがと!」

 

花音はいつも通りドッグ前の機械を操作して戻ってくる。

 

「資材の残りが少ないわね。当分は建造できないわ」

「そうなのか」

「ええ」

勢いよくドッグへと落ちて行く資材を見つつ、花音は続ける。

 

「新戦力はドロップに頼るしかないわね……」

「戦艦とか正規空母とかも手にはいるのか?」

「うーん、ドロップでも当分は無理ね」

「それは大変だな……」

戦艦、欲しがってたからな。

飛鷹の強さをみても、艦種による強弱の差は大きいのだろう。

 

「うーん、そうじゃなくて。当分はあなたにも戦ってもらうことになっちゃうと思うの」

あ、そっちか。

「それは大丈夫だ。心配しなくていいよ。気長に待っとく」

「ごめんね」

花音は少し寂しげにそう言うと、ドッグへと向き直った。

「そろそろ出撃しないとね。建造時間確認してくるわ!」

「おう」

こい!戦艦!

 

「……総建造時間四時間、残り建造時間三時間五十七分!金剛型の戦艦だわ!」

花音が弾んだ声をあげる。

 

「やったな!」

「うん!ありがと!」

花音はそう言うと手を上げる。

 

俺は気恥ずかしさを感じつつものハイタッチをして、花音とともに廊下へと向かった。

お祝いだしな。

 

 

 

「さぁ行くわよ!目標、第二海域!」

背中の花音がいつになく張り切っている。

わかりやすいなぁ。

 

「お、提督ノリノリだねぇー!」

鈴谷に感づかれそうだな。

「建造うまくいったみたいですね。おめでとうございます!」

飛鷹には理由までばれてやがる。

流石だな。

 

「おめでとうっぽい!」

「うわっ!」

海上で抱きつくのはやめてくれ!

危ないから!

地上で抱きついてくれ!

 

「ほら夕立離れて!」

「ぽい~」

飛鷹に引き離され、夕立が持ち場へと戻る。

そろそろ行くか。

 

「じゃあ行くぞ!」

「はいっ!」

「おーう!」

「ぽいっ!」

三人の仲間が返事を重ねる。

ベルトが光りだし、俺達は前進した。

 

 

 

「これで決めるっぽい!」

夕立の放った砲弾が敵の駆逐艦をとらえ、轟沈させる。

 

「楽勝楽勝!」

「やりましたね!」

後ろでは鈴谷と飛鷹がハイタッチをしている。

四人全員が戦闘に慣れてきたからか、安定感が増してきたな。

 

「吹雪もグッジョブっぽい!」

「おう!」

夕立が手を掲げ、ハイタッチをする。

手のひらが乾いた音をたてると、夕立はひまわりのような笑顔を浮かべ、前へと向き直り、再び真剣な表情に戻る。

 

「花音、撤退するのか?」

「ええ。この先はボス戦なの。戦艦の

建造が終わるまでは進まないわ」

 

ボスの強さがどれほどかはわからないが、第一海域より強いことは確かだろう。

 

「そうなのか。わかった」

 

「六時の方向に転進!」

 

花音の掛け声で、全員は海域を後にした。

 

その日はさらに二回出撃し、へとへとになったところで花音の

「今日はここまでにしましょう」

の一言で終業となった。

「みんなに聞いてもらいたいことがあるから、このまま執務室に来てちょうだい」

「おうわかった」

なんの話だろう?

 

執務室に着くと間をあけず花音が口を開く。

「みんなお疲れ様。明日は新戦力の戦艦が加わる予定です。二回の出撃を経て、ボスを叩きます」

「おおー!」

もうボス戦か。意外とハイペースだな。

 

「また、このボス戦を最後に、吹雪には控えに回ってもらいます」

 

話ってのはこれか。焦らなくて良いって言ったのに。

最後まで戦い続ける覚悟がない以上、ここらが潮時か。

 

「ええっ!?なんでですか!これからの海域を突破していくには吹雪さんの力が必要ですよ!」

「そうっぽい!吹雪は頼りになるっぽい!」

「初期艦を下ろすほど戦力に余裕なさげじゃん?」

 

しかし事情を知らない他の艦娘たちは不満げだ。そらそうだ。

 

「みなさんの気持ちはわかります。でも、吹雪にはこれ以上負担をかけられないの。彼女には少し欠陥があるのよ」

「欠陥?」

俺を残しほかの三人が困惑した表情を浮かべる。

「ええ。……彼女には戦闘を恐れる欠陥があるの。これは安全が保障されない深海棲艦との戦いにおいては致命的なものよ」

 

「吹雪、戦闘が恐いの?」

飛鷹の瞳が俺へと真っ直ぐに向けられる。

そこにあるのは軽蔑でも嫌悪でもなく、ただただ俺の心を案ずる優しさだけだった。

見回せば夕立と鈴谷もまた、同じ光を宿した瞳を向けていた。

俺は、こんな仲間たちに背を向けてこれから生きていくのか?

 

「……俺は、」

「みんなの気持ちはわかるわ。艦娘なのに戦闘を恐れる異質さを不快に感じるのは無理もない」

俺の言葉を遮り、花音は続ける。

 

「でもわかってあげてほしいの。命を賭けた戦闘は、本来恐ろしいものよ。彼女に辛く当たるのは一切禁止します」

 

彼女はそこまでいうと俺へと目を向ける。

「今までご苦労様。もう少しだけ頑張りましょ」

「……」

本当にこれで良かったんだろうか?

俺は今後どうしたいんだろうか?

どうすべきなんだろうか?

まとまらない。

でも花音の勘違いだけは正さないと!

 

「では、明日も早いので解散します」

しかしそんな時間は与えられなかった。

花音の言葉が冷たく響く。

 

「わかったわ」

「ぽい……」

「おつかれ~い」

「ああ」

目の縁を光らせる花音に背を向け、俺たちは執務室を後にした。

 

 

明くる朝、俺は皆とともに工廠へと向かっていた。

一様に気遣わしげな視線を向けてくる飛鷹たちへの申し訳無さからなのか、戦闘から解放されることを嬉しいとは思えないでいた。

 

「ついたわね。開けるわよ!」

花音は昨夜のことが嘘だったかのように明るい。

花音が工廠の機械を操作すると、ドッグが開き、中からは肩を出した巫女服の女性が姿を現した。

ずいぶん奇抜な服装だな……

 

「英国で産まれた帰国子女の金剛デース!ヨロシクオネガイシマース!」

「私は花音!よろしくね!」

「よろしく」

「よろしくお願いします!」

「ぽい!」

「よろしくー!」

 

「提督ぅー!金剛がきたからにはもう安心ネー!大船に乗ったつもりで任せるデース!」

 

「ええ!金剛型戦艦のネームシップとして、活躍を期待しているわ!」

 

花音はそう言うと振り返り、続けた。

 

「出撃よ!目標は第二海域!」

 

「おぅ!」

艦娘たちの声が工廠をこだました。

 

「ブッキーはもうずっと戦ってるんデース?」

「いや、俺も四日目だよ。提督もな」

海上にでると金剛が問いかける。てかそのあだ名確定なのかよ。

 

「ま、私は研修とかで経験を積んでいるから慣れたものよ。安心してくれていいわ」

震えながら言われても全く安心できないわ。

わざわざ言わんけども。

 

「それなら安心ネ!」

そんなに肩肘張らなくてもついてきてくれると思うんだがな。

 

渦潮に目を回されると、いつも通りに海流が導き始める。

「この方向……いままでとは違うわ。補給があるわね」

振り返ると花音が羅針盤を覗きながら呟いていた。

「補給とはなんですか?」

飛鷹の問いに皆が花音に視線を向ける。

「補給場所ではなんらかの資材を受け取れるの。ここはたしか弾薬ね。ほらあれよ!」

指の先の方を見ると遠くの方から小舟が流れてくる。あれが資材か。

小舟はゆっくりと近づいてくると、艦隊の後ろについて同じように海流に流され始めた。

「このまま敵艦隊と交戦ね。いままでより少し強いかもしれないけど、絶対に勝てるわ!」

震えが大きくなってるけどほんとに大丈夫か!?

まあ大丈夫じゃなきゃそうは言わないよな。花音だし。

 

「お~ぅ!」

「はい!」

「ぽいっ!」

「いぇーす!」

「おう!」

金剛を仲間に加え、俺たちの士気は再び高まっていた。

 

 

 

 

「バーニング!ラーブ!」

金剛の巨大な大砲から放たれた砲弾が鈍重な風切り音を残して飛ぶ。

彼方の水平線上から現れた敵駆逐艦に炸裂し、大きな水柱を上げる。

二回戦闘を経験したからか、安定感が出てきたな。

 

 

「敵の艦影なし!やったわ!」

 

「了解、飛鷹。進撃よ!」

 

飛鷹の索敵結果を聞くと花音は即座に進撃の命令を下す。

因縁のボス戦だ。

 

俺は静かに頷くと前進し、海流の導くままにボスの待つ海域へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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