艦娘に転生……って、俺男だぞ!?   作:スライストマト

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6話 そして、新海域へ

 

「皆お疲れ様。今日はもう出撃は無しにするわ」

あと五時間はあるはずだが……まあこれ以上の戦闘は難しいか。

 

「随伴艦の皆は入渠しなさい。吹雪は執務室までついてきて」

 

「わかった」

「はいっ!」

出撃がないということは、次の海域の話かな?それとも明日の予定か?

 

と、そこで鈴谷が疑問を口にする。

「私、ドッグがどこにあるかわからないんだけど」

夕立もそれに続く

「私も知らないっぽーい」

 

「私が案内するから、着いてきて」

「は~い」

「ぽいっ!」

飛鷹の言葉に二人は頷き、三人でドッグへと歩いていく。

 

「私たちもいきましょ」

「そうだな」

まだ日は高い。

ボス戦から生還した俺達を祝福するかのように、太陽の光が降り注いでいた。

 

 

執務室に到着するなり花音が抱きついてくる。

「ありがとう!あなたがいなかったらきっと負けてたわ……それに飛鷹や鈴谷は沈んでいたかもしれない」

 

それは至福の瞬間だった。

五感の全てが花音に満たされ、意識が遠退く。

……ああ、このために生きてるんだな……!

 

「ねぇ、吹雪。聞いてるの?」

「……ああ聞いてる。いや、犠牲がでなくてほんと良かったよ」

「そうねー」

花音が身を離して顔を覗き込んでいた。

 

危ない危ない。危うく意識を持ってかれるところだった。

 

 

「たった一戦進んだだけでこんなに変わるとはな。あとどれくらいあるんだ?」

「全二十五海域よ」

「うへぇ、多いな」

毎回あんな苦しい戦いをしてたら持たんぞ。

 

花音は席に戻り、頭に手を当てて口を開く。

「そうね。一つ目の海域からあれでは先が思いやられるわ」

そこまで言うと花音は顔をあげた。

 

「それに海域の攻略はあくまでも通過点。私の目標はその先にあるわ」

その先?

 

「全海域を制覇した提督は一級提督と言われるの。大本営の作戦には一級提督しか呼ばれない。だから私は、一級提督になりたい!なって、人類が制海権を取り戻す手助けをしたいの!」

花音は表情を硬く、真剣にしてそう言い、続ける。

 

「今の海には大量の深海棲艦がいると言ったでしょう?なかには今日戦ったような海域棲型のものだけじゃなく、回遊型のものもいるの」

 

「回遊型?」

字面からするに、海を回遊しているということだろうか?

 

「ええ。回遊型の深海棲艦は編成や練度がバラバラな上、遭遇地点もわからない。だから、こちらも相応に高度な艦隊であたらなければならないの」

 

「なるほど、それで……」

一級提督、一人前の提督にならないと作戦には参加させてもらえないのか。

 

全滅したら、艦娘は深海棲艦になってしまうみたいだしな。

 

「本当はあなたを戦線には出したくない。あなたは人間だもの。でも今日の戦いを見ると、やはりあなた抜きで海域攻略するのは難しいわ」

 

花音はこちらを見つめて、続ける。

「もう少しだけ力を貸して。お願い!」

 

 

「もちろんだ。花音に俺が必要な間は、戦う」

戦力が揃うまでの間は手を貸す。

そう決めたのだから。

 

「ありがとう!」

そう言ってはにかむ花音はとても美しくて、可愛くて。

この人の夢を守れたことがただ嬉しかった。

 

「今日はもう疲れたでしょう。随伴の子達はもうでた頃でしょうし、あなたも入渠してきなさい。お疲れ様」

「そうだな。花音もお疲れ様」

 

俺は執務室を後にした。

 

 

疲れたな……一眠りしたい。

とりあえず風呂に入らないと。

そう考えた俺は服を籠へいれ、入渠ドッグへと入った。

 

「あ!吹雪さん!やっときたっぽーい!」

見るとピンクの髪を長引かせて少女が近づいてくる。夕立か。って……

「まだ入ってたのか?」

 

 

「一番の功労者に一人風呂させるなんてかわいそうじゃん?」

浴槽に腰かけた鈴谷がそう答える。ほどよい胸の膨らみと細すぎないスタイルが美しい。

 

「なかなか来ないから、入渠しないのかと思ったわ。もうすこし入っていこうかしら」

シャワーを浴び終えた飛鷹が濡れた黒髪をまとめ、風呂へと戻る。

 

 

「吹雪も早く風呂に入るっぽい!」

「わかったよ」

シャワーを浴びて風呂に入る。

 

すると飛鷹が申し訳なさそうに口を開く。

「私を庇ったせいで被弾してたわよね。大丈夫?」

 

「ああ、問題ない。気にしなくていいよ。無事で良かった」

魚雷は直撃してないし、砲弾もかすっただけだしな。それでも痛かったけど。

飛鷹を助けられたのなら安いもんだ。

またこの裸を眺められるのだから。

 

「吹雪は頼りになるっぽーい!」

「うわっ!やめろって!」

突然夕立が抱きついてくる。

服の上からではわからなかったが、たしかにある胸の膨らみが肩にあたる。柔らかい。

しかしのしかかられるように抱きつかれたため、体勢を崩しそうだ。

 

すると、逆側から飛鷹が体を支えてくれる。

「夕立。吹雪は疲れてるんだからそんな風に体重を掛けたらだめよ」

「鈴谷もくっつかせて!すべすべじゃーん!」

鈴谷が正面から抱きついてきて、顔が胸に埋まる。

両方の頬を白く柔らかなメロンが挟みこむ。

気持ちいいけど……

「く、苦しい……」

「鈴谷、離れなさい!」

「あ、ごめんごめーん」

鈴谷が離れ、息を大きく吸い込む。

こんなところで死ぬわけにはいかないって。

 

 

 

「夕立、頭がくらくらするっぽいー」

長く入ってればそうなるよね。

 

「そうね、そろそろ出ましょうか」

飛鷹がそう言って立ち上がる。

 

「えぇー!鈴谷はもう少し入りたい!」

鈴谷は不満そうに頬を膨らます。

「吹雪も疲れてるみたいだし、この辺にしときましょ」

「わかったー」

飛鷹に説得されて渋々と鈴谷が立ち上がる。

俺も出るか。

 

 

 

執務室により鈴谷の部屋を聞いた後、四人で自室へと向かった。

 

「それじゃ、また夕食の時に」

「夕立も眠いっぽい~」

夕立と一緒に二人に向かって手を振る。

 

「お疲れ~ぃ!」

「はい!」

鈴谷と飛鷹はそう言うとそれぞれ別の部屋に入っていった。

 

「夕立、俺達も休もう」

「ぽい!」

夕食まではあと三時間ほど。一眠りはできるだろう。

はしごを上っていく夕立が視界から消え、俺は、心地よい微睡みへと身を任せた。

 

 

そして明くる朝がきた。

夕食を食べるために起きた以外はずっと寝てしまっている。寝過ぎだ。

 

「夕立、そろそろ行こうか」

「まだねむたいっぽーい」

上にいる夕立へと声をかけると、眠たげな返事が返ってくる。

 

ベッドから降りて上を見上げると、夕立が眼をこすりながら体を起こすところだった。

 

「朝ごはん食べに行くぞ」

「ぽい~」

 

夕立はやっとはしごに手を掛けて降りようとするが、手を滑らせてしまう。

 

「ぽいっ!」

「危ないっ!」

スライディングで体を滑り込ませ、夕立をキャッチする。

お姫様だっこする形になった。

 

「無事か!?」

「うん!ありがとうっぽいー!」

「おう。気を付けろよ」

 

ふぅ。

まあ無事ならいいか。

 

「朝食行くか」

「ぽいっ!」

 

俺達は顔を洗い、朝食へと向かった。

 

 

朝食を終えると、出撃が待っている。

今日は新たな海域へと進むらしい。

 

前を歩く花音が、全体へと呼び掛ける。

「先程も言ったように、今日からは第二海域、南西諸島沖へと向かいます。全員気を引き締めて行きましょう!」

 

「おう!」

「はいっ!」

「おーう!」

「ぽいっ!」

四人の返事が合わさって、鎮守府の廊下へと響いた。

 

埠頭から離れ、旗艦ベルトの誘導に身を任せていると、前方の海域に旗艦ベルトと同じような光る部分があった。

大きさはテニスコートくらいだろうか?

光る海域に近づくにつれて旗艦ベルトの光が弱まり、やがて前進が止まる。

 

「全員あの海域まで移動して!」

花音の指示に従い全員で光る海上まで進むと、光が一層強くなった。

視界が白くなり、目を閉じても光が感じられる。

「眩しっ……!」

 

やがて光が弱まった。

暖かい潮風が頬を撫でる。少しだけ、じめじめとした湿気が強くなったように感じる。日差しも強くなったようだ。

これは……どういうことだ?

「南西諸島海域前に着いたようね。向かうわよ!」

 

強く言う花音だったが、背中から伝わる震えは強まっている。

そろそろ戦闘が近いようだ。

 

慎重に前進していくと、突然視界が回転する。

 

「花音!どういうことだ!?」

「この海域は最初に分岐があるのよね」

先に言ってくれよ!

 

「夕立も回るっぽいー!」

回転が収まり横を向くと、夕立がくるくると回転している。

花音が夕立に尋ねる。

「夕立も回されてるの?」

「楽しぃーっぽい!」

夕立の足元に渦潮はない。

どうやらただ遊びで回っていただけのようだ。

「夕立、前進するぞ」

「ぽい!」

そう言うと同時に前へと体が流され始める。

新海域での初戦が、近づいていた。

 

 

 

「敵艦を捕捉!駆逐艦二隻です!第一次攻撃隊、発艦始め!」

飛鷹は目をつぶりそう言うと攻撃機と爆撃機を飛ばす。

ラジコンのような大きさではあるが、第一海域ではなんども駆逐艦を沈めてきた。

 

「攻撃成功!敵大破一、小破一」

片方の駆逐艦からは煙が上がっている。

 

「鈴谷にお任せじゃーん!」

続いて鈴谷が腰についている大ぶりな主砲から砲弾を射出する。

 

 

 

 

甲高い風切り音を残して着弾した砲弾が、煙の上がっていない方の駆逐艦を沈める。

「うしっ!」

次は俺だ。

「いけっ!」

放った砲弾が敵の駆逐艦を掠めると、バランスを崩した敵はそのまま沈んでいく。

 

「楽勝だな」

「夕立も攻撃したかったっぽーい!」

近寄ってきた夕立が頬を膨らませる。だが、頭を撫でると気持ち良さそうに笑顔を浮かべる。

 

「また今度な。花音、この後は?」

「……ええ、帰投しましょ。八時の方向に移動してね」

「わかった」

花音に従って反転し、海上を滑るように移動し始めた。

 

 

しばらく進むと、再び海域が光だした。

「全員止まって!」

 

花音の指示に全員停止すると、一際強い光が艦隊を包む。

 

 

そして光が弱まる。

緩やかな波が足元をゆらし、吹く風はやや肌寒い。

 

「戻ってきたのか……?」

「そうみたいね。前進しましょ」

 

第二海域の初戦は、余力を残した勝利に終わった。

雲一つない空に浮かぶ太陽が、傷一つなく帰投する俺達を照らしていた。

 

 

 




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