艦娘に転生……って、俺男だぞ!?   作:スライストマト

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3話 やったね結衣ちゃん!仲間が増えるよ!

 

 

 

結論から言うと、今日はカレーだった。

「秘書艦が来るって聞いてたから、朝から煮込んでたのよねー」

 

隣を歩く花音は嬉しそうだ。

「料理まで作らなくちゃいけないのか?」

普通外注するもんじゃないのか。

 

「いや、そうじゃないけど料理が趣味なの。美味しいものを作るっていいじゃない?」

そうなのだ。この提督のカレーはとんでもなく美味しい。

肉はしっかりと煮込まれ柔らかく、味もコクがあり深みあがあった。

 

「あれ?口に合わなかったかしら?」

「いや、いままで食べた中で一番うまかったよ。だから提督が作ったってのがちょっと信じらんなくてな」

この若さで提督なら、普通料理までは手が回らなそうなもんだ。

「失礼ねー!ま、口にあったならいいわ」

花音は少し安心したような顔をすると、金属製の物々しい扉の前で立ち止まり、口を開いた。

「着いたわ。開けるわよ」

「ここが……」

 

鎮守府最大の謎を抱える設備、工厰(こうしょう)

施設内のほぼ全ての機械が重要機密指定された、鎮守府が世界に誇る設備である。

くれぐれも軽率な行動をするな、と口を酸っぱくして言われた。

 

花音に続いて部屋に入ると、そこには小型のプールのようなものが二つと、さまざまな機械があった。

「どうやって仲間を増やすんだ?」

 

花音はプールの前にあるアーケードゲーム機のような機械を指差した。

「そこの機械で投入する資材を決めると、それに応じた艦娘が奥にあるドックで建造されるの。何種類かからランダムだけどね」

あのプールみたいなのがドックか。

 

「資材に開発資材を反応させると、工厰(こうしょう)のドッグによって艦娘が生みだされるって話だけど……」

あまり詳しい話はわからないのよね、と、花音は肩をすくめる。

 

「そうかあ。ま、仲間が作れるならそれでいいな」

これも重要機密なのかな?

 

花音は小さく頷くとドックの方へと歩いていき、口を開く。

「それじゃあ資材を投入しようかしら」

花音はドッグ前の機械を操作し、戻ってくる。

タッチパネル式のようだ。

 

「少し離れてて。危ないから」

すると、ドッグへと上から液体やら固体やらが降っていく。

「あれが資材よ。正規空母ができますように!」

やがて資材の落下が止まると、棒のようなものがドッグへと落ちて、蓋がしまる。

「今のが開発資材ね……さてと建造時間は何分かしらねー!」

花音は遠足前の子供のようにはしゃいでドッグ前の機械を覗き込む。

「総建造時間三時間、残り二時間五十九分……飛鷹型ね」

「おお、仲間か!強いのか?」

「最高ではないけれど、上々ね」

 

花音はふぅと小さく息を吐くと、こちらへと向き直った。

「それじゃあ、入渠(にゅうきょ)してもらおうかしら」

「え?」

「あなたにもドッグに入ってもらわないとね。損傷しているでしょう?」

 

「いやいや!いいって!」

俺にドックに入れって?冗談じゃない。

あんな訳のわからない液体や固体でもみくちゃにされるとか絶対に嫌だ……

 

「何言ってるの!艤装(ぎそう)を修復してもあなた本人が入渠(にゅうきょ)しないと意味ないんだから!」

「ドックになんて入るもんか!」

「猫じゃないんだからお風呂くらいで嫌がらないの!」

 

え?

「お風呂?」

「艦娘用の入渠設備はお風呂よ。というか温泉。だから早く来なさい」

あ、そうなのか。

工厰のとは違うのか。

そうかそうか。

 

「ほら、着いてきて」

「わかった」

こうして俺と花音は工厰を後にした。

 

 

 

「はーー気持ちーなーー!」

草津温泉とかこんな感じだったけなー。

疲れが染みでるというか。

極楽極楽。

 

「失礼するわね」

扉が開く。

え?

「なんでお前が!?」

「前は提督用の風呂もあったのだけれど、どうせ提督も女しかいないなら艦娘と同じでいいよね?ってなって無くなっちゃったのよね」

それにここの温泉、効能いいのよねー。

そう言うと花音は扉を締め、中へと入ってきた。

 

シャワーを使って体を洗う音がする。

 

「じゃあ俺もう出るから!もう堪能したから!」

「なに恥ずかしがってるの?女同士じゃない!」

そうじゃないんだってーー!

しかしシャワーの音が止まると、霧の向こうから花音が現れる。

咄嗟(とっさ)に後ろを向いてしまう。

「ほんと恥ずかしがり屋さんねー。可愛い!」

「離れろって!」

花音は温泉に入ると、こともあろうに抱き着いてくる。

「ええー、いいじゃない!減るもんじゃないんだし……」

すべすべな肌が背中や腕に当たる。柔らかい……が、

「花音、落ち着いて聞いてくれ」

ここはちゃんと説明するべきだろう。

多分花音もすごい恥ずかしい思いをすることになるだろうが、仕方ない。

未来のために、今を頑張ろう。

 

花音が背中合わせに座り直したのを確認し、口を開く。

「信じられないかもしれないけど、実は、俺は……」

俺は自分に起きたことをありのままに話した。

自分がもともと十六才の男であったこと。

自室で寝ようとしていたら提督の目の前に立っていたということ。

いまでも、考え方は男であった時のままだということ。

「え……冗談でしょ?私にちょっかい出されるのが嫌で、そんな冗談を……」

「いや、本当だ。そんなことでこんな大それた話するわけないだろ」

「たしかに……それって!」

 

突然背中で水の跳ねる音がする。

そして水面が揺れる。

「私!先にでるから!」

そう言うと花音はシャワーをさっと浴び、浴場の外へと出ていった。

 

 

脱衣場で鉢合わせしたくない。

そう考えた俺はその後しばらくの間入渠を楽しみ、そして提督室へと足を向けた。

 

「提督、居るか?」

 

ノックをして尋ねる。

「居るわ。入って」

大きな木製の扉を開き、そして閉める。

花音に向き直るが……なんて言えばいいんだろう?

 

花音は悪の総帥のように執務机に肘を突き、手を組ませている。だが、そんな姿すらも様になっていた。

 

「とりあえず、事情は了解したわ。いろいろ変だとは思っていたけれど、それなら納得いくし」

花音は椅子にもたれ腕を組むと、顔を紅潮させ、続ける。

「恥ずかしいけれど、お互い忘れたことにしましょ。あなたには命も助けられたし」

 

最初から思っていたが、この提督、なかなかに物分かりがいい。

今回の件は黙っていた俺の方に責任がある。

彼女の為にも浴場でのことは早めに忘れよう。

努力目標だがね。

 

「そうしてもらえると助かる。それで、この後はどうする?」

「問題よね……いまの戦力は軽空母一隻のみ。あなた抜きだと正直不安だわ」

あ、そっちか。

俺はこのあとの予定を聞いたんだがな。

 

「いや、それは大丈夫だ。ある程度戦力が充実するまでは俺も戦うよ」

「でもあなた、中身は艦娘じゃないのよね?轟沈したら消えるかもしれない。だとしたら、人間となにも変わらないじゃない。そんな人に前線に立てなんて言えないわ」

 

たしかに、そうだ。

だが、人間は戦わないのか?

この提督は、死を怖れている。多分、俺以上に。

それでも前へ進んでいる。

世界の為に、命を賭して戦おうとしている。

それならば俺の答えは決まっている。

 

「大丈夫だ。戦力がある程度充実するまでの間は力を貸すよ。誰も轟沈させないんだろ?」

「でも……」

「気にすんな。俺も花音に死んでほしくないんだ」

花音は大きく目を見開く。

「ありがとう。でも、嫌になったらすぐ言ってね」

「わかった」

「……ふぅ。あ、そういえばあなたの部屋に案内するのを忘れてたわ。艦娘用の部屋があるフロアに案内するから、新しい艦娘が来たら案内してあげてね」

「わかった」

立ち上がり、部屋を出て行く花音に続き、俺は執務室を後にした。

 

 

「ここが艦娘の部屋よ!」

おお意外と広い。ってか広すぎないか?

「広いな」

「二、三人で使ってもらうからねー。一人だと広いかも」

「なるほどな」

「くれぐれも問題起こさないようにね!もし相部屋の子に手だしたら轟沈させるから」

「誰も轟沈させないんじゃなかったのかよ!?」

花音は笑って続ける。

「冗談よ。でも、ほんとに手は出さないでね」

「わかった」

 

といっても当分は一人部屋かな。

「部屋は何部屋くらいあるの?」

「五十部屋よ。基本的には艦種が同じ部屋で相部屋ね」

「じゃあ相当先まで一人部屋だな」

まあ、そっちの方が気楽でいいけど。

「ううん、次の駆逐艦に入ってもらうから、すぐ二人部屋になるわよ。そっちの方が精神的にいいらしいから」

そういうもんなのか。

 

自分の部屋だと思うと眠くなってきたな……

「あら、あくび?眠いならちょっとゆっくりしてていいわよ。一六二○に出撃するから、一六○○まで自室にて待機なさい」

花音は部屋を出て扉を閉じる。

 

あと二時間半か。

三段ベッドの一番下に入ると、普段より柔らかなマットレスに体を支えられる。

温泉に入ったこともあり、少し疲れが出てるようだった。

「やばいな……ガチ寝したら起きれない……アラームないし……」

しかし睡魔に抗うことはできず、深い眠りへと沈み込んでいった。

 

 

 

 

「――起きなさい!吹雪、起きなさい!」

眼を開けると、そこには女神の顔があった。

瞳は大きく、肌は綺麗で、ほどよい長さの黒髪が艶を放つ。

あっ……

「ごめん!完全に寝ちまった!いま何時だ?」

「大丈夫、まだ四時五分だから。出発までは時間があるわ」

「おおそうだったか。よかった」

もう五時よ!とか言われたら立つ瀬が無い。

偉そうに手を貸すとか言っといてそれはないよなー。

「もう出発するのか?」

「まずは工厰にいきましょう。仲間がいるわ!」

「おお!」

そうだった。

ついに仲間が……!

 

 

 

「ふむふむ。建造完了ね。出てきなさい!」

 

ドック前の機械を花音が操作すると蓋が開き、中から黒髪の女性が現れる。

背中まで伸びた黒髪が巫女服に映え、全体的に清楚で可憐な印象を与える。

そして口を開いた。

「名前は出雲ま……じゃなかった、飛鷹です。航空母艦よ。よろしくね、提督!」

『出雲ま』ってなんだ!?

 

「こちらこそ、よろしく。飛鷹」

花音は全く動じていないが『出雲ま』ってなんなんだよ!?

 

「はい!それでいまの状況は?」

「現在、我が鎮守府においてあなたは二隻目。海域はまだ突破していないわ」

花音の言葉を神妙に聞く飛鷹。と、花音がこちらに眼を向けて話を続ける。

「あっちが現在の秘書艦、吹雪。わからないことがあれば彼女に聞いてね」

「よろしくね。吹雪先輩」

先輩だなんて、照れるなぁ。

とりあえず『出雲ま』がなんなのか聞かないとなぁ。

「こちらこそよろしく」

「それじゃあ挨拶も済んだことだし、出撃するわよ!」

「おーー!」

「はいっ!」

俺達にとって二回目の、飛鷹にとっては初となる出撃が始まった。

 

 

そして再び埠頭(ふとう)から離れ、海上を滑るように前進する。

 

「そういえば飛鷹?最初のとき言い掛けてた『出雲ま』ってなに?」

後ろを振り返り尋ねると、飛鷹は頬を赤く染めて答える。

「私、最初は商船になる予定で……その時の名前が出雲丸っていったの。それでいまでも言っちゃうことがあるのよね……」

 

飛鷹はそう言うと身を縮こませる。

「そうなのかー。いろいろあるんだな」

 

あれ?背中の花音がやけに静かだ。大丈夫かな?

そう思っていると旗艦ベルトによるアシストがとまる。

海域の入り口だ。

 

「飛鷹、準備はいいか?練習とか」

「大丈夫。偵察機、直掩機(ちょくえんき)、発艦始め!」

飛鷹は巻物を広げ小型のラジコンのような飛行機を飛ばす。

「準備できたわ!」

「わかった、行くぞ!」

「はいっ!」

 

前進しようとすると後ろから小刻みに震えが伝わってくる。

ほんとに大丈夫かな?

小声で聞いてみるか。

「おい花音……提督、大丈夫か?」

「だ、大丈夫。進みましょう」

「わかった」

前進すると海流に飲み込まれ、前方へと引っ張られっていった。

 

「提督はなにをしているの?」

「帰り道がわかるように羅針盤を見てくれてるんだよ」

そうだよな?と聞くと花音が頷く。

潮の香りに混じって運ばれてきた、花音の匂いが鼻腔をくすぐる。

「止まったわね」

海流が止まった。ということは。

「来るぞ、駆逐艦の群れが……」

「見えました!」

ん?どこに?

そう思い振り返ると、目をつぶってる。

なんだ、ギャグか。

「目をつぶって見えるわけないだろ!」

「あっ、いえ、空母は航空機の視界を共有できるので……」

マジか、冗談じゃなかったのか……

突っ込んじゃったよ。

「そうだったのか。ごめん。冗談で言ってるのかと思って」

「大丈夫。それより敵の駆逐艦を。第一次攻撃隊!発艦始め!」

そう言うと再び巻物を広げ、先程より僅かに大きな飛行機を二種類飛ばしていく。

 

飛行機が飛んでいく先を見ると、たしかに豆粒ほどの駆逐艦が見える。

 

「行っけーー!」

叫ぶ飛鷹。

遠くで水柱が上がり、煙がもくもくと立ち上る。

「や……やったか?」

これでやられてたら先輩の面目丸潰れだよ。

そう思いフラグを立ててみる。

 

「敵艦の轟沈を確認。やったわ!」

え?

「お、おめでとう」

空母強すぎじゃね?

 

「すごいじゃない!飛鷹!」

花音も喜んでいる。まあ勝てたしいいか。

最終的に俺は参加しなくなるわけだしな。

仲間が強いことは喜ばしいことだ。

 

でも、この虚しさはなんなんだろう?

 

「帰投します。二時の方向へ」

「はい!」

「おう」

花音の指示により、鎮守府へと帰投する。

 

こうして俺達にとって二回目の出撃はあまりにもあっさりと幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 




お読みいただき、ありがとうございました。

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