クリスマス狂想曲   作:神納 一哉

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過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


9 12月23日 想い

――――――――――

 

喫茶店を出て、気が付くとアイツと手を繋いで歩いていた。

 

アイツの顔は、まるでさっき飲んだストロベリージュースのように赤くなっていて。

 

わたしの顔も、アイツと同じように赤くなっている、と思う。

 

(…ってか、なんなのよ!?この状況!?)///

 

理解不能。意味不明。

 

(コイツはいったいどうしたいのよ!?)///

 

喫茶店を出てからはずっと無言で、だけど、いつの間にか手を繋いでいて。

 

さっきから胸はバクバクしっぱなしだし、掴まれた右手はじっとりと汗ばんでしまっているように思えるし、それはそれで女の子として凄い恥ずかしいっていうかなんていうか…。

 

「ね、ねえ?どうしたのよ?」

 

「…なんて言えばいいのか、考え中です」

 

「なによそれ?」

 

「いろいろしちゃいましたから」カァッ

 

「確かに、いろいろ、しちゃった…わね」カァッ

 

「正直、やりすぎた感じが否めないわけですが、…御坂のアレが一番ヤバかった」

 

「よーし、今すぐ忘れろ忘れるのよ忘れなさい!!」ビリビリ

 

「ちょっと待って御坂さん!自分から舐めといてそれはあんまりじゃないでしょうか!?」

 

「へ?」

 

「その、指で拭ってペロッって…」

 

「ぎゃああああああああ!!なに言ってるのよアンタ!!」(てっきりパンツのことかと思ったじゃないの!)///

 

「いや、でもなあ。アレは反則だぞ」

 

「な、な、仲のいいお友達なら普通のことよ!」

 

「女の子同士ならいいかもしれないけど、上条さん男の子ですよ!?」

 

「ア、ア、アンタならわたし、気にしないけど!?」(って、なに言っちゃってるの!?わたし)///

 

「御坂…。お前俺のことそんな風に見てたのかよ」

 

「うぇ!?そ、そ、そ、そ、そんな風ってどんな風に見られてると思ってるのよアンタ!!」

 

「んー。お前の言葉を借りれば『仲のいいお友達』ってやつか?」

 

「そ、そ、そ、そ、そうね!!そんな感じかしら!?」

 

「そっか。…まあ、そうだよな」ギュッ

 

「!?」(な、なんで急に握り締めるのよ~!?)///

 

頬が熱くなるのを自覚しながらアイツを見ると、アイツはなんとなく寂しげな表情を浮かべているように思えた。

 

なんとなくそれが引っ掛かった。アイツはわたしのことどう思っているのだろう。

 

「ア、アンタは、どう思ってるのよ。…わたしのこと」ギュッ

 

不意に握り締められたお返しにとばかりにわたしは質問とともにアイツの手を握り返した。

 

アイツの視線が、わたしの視線と重なる。

 

「あー。その上目遣いも反則だ」///

 

「アンタわたしより背が高いんだから仕方ないじゃない」

 

「そ、そうか。まあ、御坂は俺のことを、記憶のことも含めてよく知ってくれている数少ない仲間…っていうか、戦友?とも違うな…。うーん。なんて言えばいいんだ?」

 

「…」(まあそんなことだろうとは思っていたけど)

 

「まあ、気心の知れた相手って言えばいいのか?そんな感じだったんだ。…昨日までは」

 

取って付けたように漏らした『昨日までは』という言葉に、美琴は違和感を感じずにはいられなかった。

 

「どういうこと?」

 

「えーっとだな、ちょっと長くなるけど、聞いてくれるか?」

 

「いいわよ」

 

「とりあえず、階段のところにあるベンチまで行こう」

 

「別に歩きながらでもいいけど?」

 

「あんまり他人に聞かせたくないんだよ。あそこなら誰かが来てもすぐわかるし、寒さも凌げるから」

 

「わかった」(他人に聞かせたくないって、どういうこと?)ドキドキ

 

建物の中に入り、ファンシーショップやブティックの間の通路を、二階へと続く階段へと歩いていく。

 

そのまま階段を上り、中二階の登り階段側に置かれたベンチの前で立ち止まると、―気のせいじゃなければ少し躊躇いながら―繋いでいた手を離した。

 

「座って」

 

「うん」

 

促されるまま、わたしはベンチに腰を下ろす。するとアイツはわたしの右横に腰を下ろして、膝の上で両手を組む。

 

「…昨日、お前に電話しただろ?買い物に付き合ってくれってさ」

 

「うん」

 

「あれさ、友達と他愛のない話をしているうちに、御坂のことが話題になって、誘ってみろって言われて買い物に誘ったんだ。アイツが言うには二つ返事で了承するからって」

 

(なんだ。自分から誘おうと思ったんじゃないんだ)ショボン

 

「で、そのとおりになってさ、…正直言うと焦った。断られると思ってたから」

 

「…」(あー。コイツの中じゃ断られること前提だったから勝手に勘違いしたのね)

 

「それで、部屋に帰ってから、気が付くと御坂のこと考えてたりしてさ」

 

(え?それって?)

 

「俺って結構、御坂に助けてもらってるなとか思ったりなんかして」

 

「そ、そんなことない…でしょ?」

 

「御坂に勉強を見てもらったおかげで補修は免れたし、家計がピンチの時にはインデックスともども美味しい豪勢なご飯を作ってもらったし、御坂になら安心して背中も任せられるし」

 

「べ、別にそんな大したことじゃない」アセアセ

 

「いやいや、そんな謙遜しないでくれ御坂。インデックスのこと何かとフォローしてもらったりさ、ホント、感謝してる」オジギ

 

「まあ、女性にしかわからないことってあるしね。むしろアンタが完璧にあの子のことフォローできてたら退くわよ」

 

「はは。確かにな。ま、ともかく上条さんは御坂に感謝してるわけですよ」

 

「はいはい。あの子のことは今、関係ないでしょ?」(今はアンタの話をしてるんでしょうが)

 

「悪い。話が逸れたな。えっと、どこまで話したっけ」

 

「感謝してる、ってトコ」

 

「そ、そっか。…えーっと、そんなわけで今朝も朝も早く目が覚めたりなんかしてさ」

 

(わたしなんて眠れなかったんだから。…なんて言ったらどう思うかな?)

 

「早めに部屋を出て公園で御坂を待ってるときに、なんつーか、凄い楽しみにしてる自分がいてさ」

 

「ちょっと待ってアンタ。そういえば震えてたけど、いつから公園で待ってたのよ」

 

「ん?御坂が来る十五分くらい前かな」

 

「そ、そう」(ん?コイツ今、『凄い楽しみにしてる自分がいて』って言った?)

 

「おう。それでお前が来て、いきなりアレだろ?上条さん頭の中が真っ白になりましたよ」

 

「う、アレは、アンタが寒そうだったからつい、その。…黒子にくっつかれたとき温かかったから、ね」カァッ

 

「やっぱり女の子のスキンシップだったんだな。うんうん。次からは気をつけような」ナデナデ

 

「うにゃっ、いきなり撫でるな!」///

 

「ビリビリ対策です。さすがにここで電撃はよろしくないので」ナデナデ

 

「うぅ」///

 

「それでまあ、ゲコ太のためにカップルケーキセットを頼んで、いろいろやっちゃったわけですけど」カァッ

 

「…何でそこで赤くなるのよアンタ」

 

「…スマン、…その、ゲコ太思い出した」カァッ

 

「よーし今度こそ今すぐ忘れろ忘れなさい忘れるのよ!」

 

「お、お、お、落ち着いて御坂さん!もうちょっとで上条さんの話し終わるから!」

 

「…それで?」

 

「俺は友達に『デートの邪魔するな』って言っただろ?その後、御坂が白井に同じこと言ってさ」

 

「う、うん」///

 

「それを聞いてさ、俺、喫茶店を出ても御坂とデートしていたいって思ったんだわ」カァッ

 

「…え?」

 

「それで御坂の手を掴んで、とりあえずどう伝えればいいものかって考えていたら、声をかけられたってわけ」

 

「…ちょっと待って、整理させてくれる?」

 

「ああ」

 

「昨日から今朝のアンタの心境は、…まあ置いといて」

 

「ひどっ」

 

「簡単に言うと、わたしとデートしたいってこと…かな?」ドキドキ

 

「う…、はい。そうです」カァッ

 

真っ赤になって視線を逸らすアイツ。

 

『デートしたい』っていうのを素直に認めたのは嬉しいけど、問題はそこじゃなくて。

 

「…ねえ、わかってる?アンタ」

 

「なにをでございましょう?御坂さん」

 

「デートの意味」

 

「う…。まあ、わかっているつもり…です」カァッ

 

「ふぅん。じゃあ、…その前にすることがあるんじゃない?」

 

大事な、とても大事なこと。

 

「あー、御坂。ひとつ聞いていいか?」

 

「なによ?」

 

「そうなったら、…お前は俺とデートしてくれるのか」///

 

「…アンタ、ずるい」

 

「な、なんでだよ?」

 

「わたしの答えを聞いて、回避しようとしてるの見え見えじゃない」ハァ

 

「う…」

 

「…まあ、わたしは嫌いじゃないわよ。アンタのこと」///

 

「…」

 

「…」ドキドキ

 

「御坂…」ドキドキ

 

「…」ドキドキ

 

「…」ガバッ

 

アイツは、掠れた声でわたしを呼ぶと、次の瞬間、左手でわたしを抱き寄せた。

 

「ふにゃっ!?」ビクッ

 

「悪い。お前の顔見て言えないから、こうさせてくれ」ダキッ

 

「う、うん…」ドキドキ

 

「好きだ!御坂。付き合ってくれ」///

 

「…」

 

「…」ドキドキ

 

「…うん」

 

―――嘘みたい。これって、夢じゃないよね?

 

「…ね、ねえ?」

 

「な、なんだ?御坂」

 

「わたしで…いいの?」

 

「御坂じゃなきゃ、嫌だ」

 

「ホント?」

 

「本当だ」

 

「じゃあ、もう一回、わたしを見て、言って」

 

アイツの左手をそっと押しながら、わたしはアイツへと向き直った。

 

アイツも、左手を離しながら、わたしの方を向く。その顔は林檎のように真っ赤だった。

 

「わたくし、上条当麻は御坂美琴が好きです。付き合ってください」///

 

「…わたし、御坂美琴も上条当麻が、好きです」///

 

そう返したわたしの顔も、きっと負けず劣らず真っ赤になっているだろう。

 

「み、さか…」

 

想いが止まらない。気が付くとわたしは言っていた。

 

「ずっと、好きだったの」

 

「…マジで?」

 

「…アンタは、まったく気づいてなかったけど」

 

「悪い」

 

「でも、アンタが言ってくれたから、許す」

 

「御坂…」

 

「ねえ、最初のお願い。彼氏なら、わたしのこと、名前で呼んで」

 

「…美琴」

 

「よく、できました」ニコッ

 

「はは。なんだよそれ」

 

「えへへ」

 

「あ、じゃあ、お前も俺のこと名前で呼んでくれるのか?」

 

「ふにゃ!?アンタのことを名前で!?」カァッ

 

「俺だけ名前で呼ぶんじゃ不公平だと思いますけど?」

 

言われてみて気付く。確かに不公平かもしれない。えーっと、コイツの名前は…。

 

「と、と、と、と、とうみゃ!?」///

 

―――思いっきり噛んだ。慣れないことはしちゃいけない。

 

「なに噛んでんだ、落ち着け」

 

「だ、だ、だ、だって、今までそんなこと考えてなかったし」///

 

「付き合うことになったら名前で呼ぶとか思わなかったのお前?」

 

「ことごとくスルーされてる相手と付き合うことになった後のことなんて考えられないわよ」

 

「…あー、スマン」

 

「わかればよろしい」

 

「…俺は、たまに名前で呼んでたけどな」ボソッ

 

「へ!?それってどういうこと!?」

 

「んー。今考えると結構前からお前のこと好きだったのかもしれない。お前が中学生だからストッパーかけてたんだと思う」

 

「そ、そういうものなの?」

 

「たとえば、お前の同級生が小学生の男の子を好きだって言ったらどう思う?」

 

「…ショタコンってやつかしら?」

 

「そうだろ?だから俺が中学生を好きだって言うと、同級生からロリコンと思われるわけだ」

 

「ああ、そういうものなのね」

 

「そうなんですよ」

 

「アンタとわたし、二つしか違わないんだけどねー」

 

「そうだな」

 

「そのくらいの差って普通よね?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、考えるのやーめた」ダキツキ

 

「お、おい、当たってる。当たってるから」///

 

「嬉しいでしょ?と・う・ま」ニヤニヤ

 

「お前、キャラ変わってるぞ!?」カァッ

 

「いいじゃない。積極的な彼女は嫌い?」ギュッ

 

「嫌いじゃない、嫌いじゃないけど、ここではヤバイ」

 

「むー。どうしてよ?」

 

「馬鹿!お前、健全な男子高校生の性欲舐めるな!」

 

「せっ!?」///

 

「とりあえず離れる、離れれろ、離れましょう!そして上条さんにクールダウンの時間をください!」

 

「せ、せ、せ…」アワアワ

 

「おーい、美琴さーん?」

 

「ふにゃあああああっっ!!」プシュー

 

「み、美琴!?なんで倒れるの!?ふ、不幸だああああああ!!」


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