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「…」
たまには。喫茶店でモーニングセットを食べてみよう。
そう思って。ショッピングモールまで来てみたら。上条君が。常盤台中学の女の子とデートをしていた。
途中で青ピ君や。女の子の知り合いと思われる子が乱入してきたけど。
そのたびに上条君や女の子が。『デートの邪魔』って言って追い払っていた。
それからすぐに上条君たちは出て行った。
真っ赤な顔の二人は。とても幸せそうに見えた。
私に気づかなかったのは不幸中の幸い?かな。
小萌の家のクリスマスパーティ。上条君はこないよね。
だって。可愛い中学生の彼女がいるんだから。
「…」ハァ
上条君の家の居候のシスターは。あの子のことを知っているのだろうか?
…たぶん。知らない。
『クリスマスパーティー楽しみなんだよ!スフィンクスも、とうまも!』
あんなに嬉しそうに言っていたのだから。
二人が店を出て少ししてから。私も喫茶店を後にした。
小萌の家のツリーを彩るクリスマスオーナメントや。小物を見るために雑貨屋へと足を向ける。
「…味。わからなかったな」
なんでだろう?
…上条君たちにあてられたかも。
今までに見たことのない表情。
真っ赤になって。それでいて相手を気遣っている優しい表情。
「…」ハァ
「溜息なんてついてると、幸せが逃げちゃうんやで?」
「え?」
振り返ると。クラスメイトの青ピ君が片手を挙げて立っていた。
「やっほー。姫神ちゃん。なんか嫌なことでもあったん?」
「ううん。別に」
「あれ?もしかして落胆の溜息じゃなくて、感嘆の溜息やった?」
「え?」
「いや。それ、綺麗やと思わん?」
そう言って青ピ君が指差したところには。クリスタルガラスでできた小さな天使像が。下からのライトに照らされてキラキラと輝いていた。
「うん。綺麗」
「綺麗やなぁ」(姫神ちゃんも綺麗やで)
「…青ピ君は。どうしてここに?」
「ボク?下宿先のクリスマスオーナメントの買出しとかやな」
「下宿?寮じゃなくて?」
「うん。ボク、パン屋さんの二階に下宿させてもらってるんや」
「そうなんだ」
「姫神ちゃん、もしよかったら、一緒にクリスマスオーナメント選んでくれへん?」
「え?」
「ボクよりセンス良さそうやし」
「そうかなあ?」
「ボクみたいなむっさい大男が選ぶよりも、姫神ちゃんが選んだ方が百万倍マシに決まってるやん」
「私。そんなセンス良くないと思うけど?」
「姫神ちゃん。自分を過小評価するのはアカンよ」
「でも。着てる服も地味だし」
「そういうのは、地味やのうて、スタンダードとかオーソドックスって言うんや。よく似合ってると思うで」
「ありがとう。でも。褒められている感じがしないのはなぜ?」
「そこは深く考えちゃアカン」
「そう」
取り留めのないことを話しながら。私は。気になっていたことを切り出してみた。
「裏切り者って。どういうこと?」
「え?仲間を裏切ること?」
「そうだけど。私が聞いているのは。…上条君にそう言ったこと」
「なんや、姫神ちゃん。見てたん?」
「うん。モーニング食べてた」
「あちゃー。恥ずかしいとこ見られたわー」
「恥ずかしい?」
「うん。まるっきりボクのひがみやもん。ホンマは友達としてカミやんのこと祝福せなアカンのに」
「そっか」
「でも、カミやんもひどいんやで?あの子、さんざんカミやんにアプローチしてたのに気づいてへんかったし。だけど、今日会うたら『デートの邪魔するな』やって。ひどいと思わへん?」
「どのへんが?」
「カミやん、気づいてへんかったから、昨日買い物にでも誘ってみ?って言ったんよ。案の定、あの子、二つ返事で了承したみたいやし」
「…」
「でも、デートに誘ったわけやないのに、デートになっていたってことは、あの子、カミやんに告白したんか!?いや、でもそれはありえへんで」
「どうして?」
「あの子、超電磁砲やで?常盤台のエースが自分から告白なんて、普通せえへんよね?」
「そう?上条君の傍だと普通の女の子にしか見えなかったけど」
「さすがカミやんやで。超能力者も関係あらへんなんて」
「上条君。誰にでも優しいから。きっとそんなところに惹かれたんだと思う」
「…姫神ちゃんも?」
「私は。…別にそんなんじゃないよ」
「ホンマに?」
「うん」
「そっか。…っと、そんなことよりもクリスマスオーナメントや。姫神ちゃん。ひとつよろしく頼むで」
「んー。どうしようかな」
「後でクレープでも奢るさかい。助けると思って!」
そう言うと青ピ君は大げさに両手を合わせて拝んできた。特に急いでいるわけではないし。まあ。いいかな?
「クレープ。スペシャル頼んでもいい?」
「ええよ。飲み物も付けちゃうで。ま、飲み物は自販機やけど。…交渉成立でええ?」
「うん」