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「…」キラキラ
ショッピングモールにある喫茶店の店頭ウインドウの中を、少女が瞳を輝かせて見つめている。
『クリスマス限定キャンペーン!!カップルケーキセットをご注文のカップルのお客様に、サンタゲコ太、トナカイピョン子のペアストラップをプレゼント!』
そんなポスターの下に置かれたガラスケースの中に、どんぶりくらいの大きさのショートケーキが鎮座し、その横にサンタ服に身を包んだ髭を生やしたカエルのマスコットストラップと、茶色いトナカイの衣装を着たまつげの長いカエルのマスコットストラップが仲良く並んで置かれていた。
(御坂のやつ、すげえ目を輝かせている。…でもさすがにそれはないだろ)
(凄い欲しい、ゲコ太もピョン子も可愛すぎる!!でも、でも…!!)
「…」(まさか、な)
「…」(ううー。欲しい、欲しい)キラキラ
二人はショーウインドウとお互いの顔を交互に見ては、無言でその場に留まっていた。
『カップルケーキセットをご注文の際には、お二人がカップルであるという証明を行っていただきます』
(…カップルの証明って、嫌な予感しかしないんだが)
(ゲコ太欲しいなあ。ゲコ太…)キラキラ
(コイツ、このこと気づいてるのか?)
(ゲコ太…)キラキラ「ね、ねえ…」ドキドキ
「!な、なんだ?」(まさか…)
「ちょろ~っと、協力してくれないかな?なんて…」キラキラ
「やっぱりそうくる?」ハァ
「い、いいじゃないの!可愛いんだもん!!」
「ホント、好きだな、お前」
「ふぇ!?す、す、す、好きって!?」アセアセ
「…それ、えーっと、ゲコ太?」
「わ、悪い!?」(焦ったじゃないの!!)
「いや、別にいいけど。…ホントにいいのか?」
「ちょろ~っと『ふり』をしてくれればいいんだし、大丈夫でしょ?」
「いや、そこに書いてあることをよく読んでからにした方がいいと上条さんは思うんだが」
「なによ、書いてあることって」
「その、『カップルの証明』ってやつなんだけど…」
「んー?アンタとわたしならぜんぜん簡単でしょ?」ニコッ
「御坂さんがそう言うならいいんですが…」(マジか?)ドキドキ
「じゃ、決まりね!すみませーん!!このカップルケーキセットくださーい!」
「…」ドキドキ
「いらっしゃいませ。では、お二人がカップルという証明をお願いします」ニコッ
「あ、アンタ、ちょっと携帯貸して」
「あ、ああ」ケイタイ サシダス
「サンキュ。…んと、これでいいですか?」フタリノ ケイタイ サシダス
「えーっと、はい。これならOKですね。じゃあお席でお待ちください」ニコッ
「ほら、ぼけっとしてないで、行くわよ」
「あ、ああ…」(いったいどんな技を使ったんだ!?)
少女は軽やかな足取りで店内に入ると、適当な席に座って少年を手招きした。
「いやー、ラッキーだわ。レアなゲコ太を手に入れられて♪」
「よ、良かったな。で、どんな技を使ったんだ?」
「技ってほどのものでもないわよ。アンタとわたし、ペア契約してるじゃない」
「あ。そっか。そんなんで良かったんだ」
「…アンタなに考えてたのよ」
「スマン!お前をここで抱きしめたり、キスしたりしなきゃいけないかと思ってた」///
「うぇ!?アンタそんなこと考えてたの!?」ビリビリ
「だから謝ってるじゃないか!ってか、ビリビリ禁止!」
「う~。ゲコ太に免じて許す!」(なに赤くなってるのよコイツは!)///
「ありがとうございます、御坂様」
「…」(あれ?でも、これって脈ありってこと)///
「お待たせしました。カップルケーキセットです。こちらは粗品のストラップになります。ごゆっくりどうぞ」ニコッ
「やっぱりサンタゲコ太もトナカイピョン子も可愛い~♪」キラキラ
「良かったな。って、これは!?」カビーン
ジュースを飲もうとして少年の手が止まる。ショートケーキの横に置かれたストロベリージュースが入っていたのは、花瓶のような大きさのグラスで、そこにはストローが二本差し込まれていた。
ショートケーキの横に置かれているフォークも一本だけだったりする。
(カップルケーキメニュー…。侮れないな)ゴクッ
「どうしたのよ…って」カァッ
ストローを凝視して少女の頬が赤く染まる。
(本当にこんなのあるんだ…。アイツを見ながら同じジュースを飲むの?)///
「あー、喉渇いたから、飲むぞ?」///
「う、うん」///
少年がストローを口に含むのを見て、慌てて少女もそれを真似る。
「!!おまっ、何も一緒に飲まなくても!?」ゴホゴホ
「カップルなんだから一緒に飲まないといけないでしょ!?」///
「『ふり』なんだから、一緒に飲まなくてもいいんだよ」ボソボソ
「へ、変な目で見られたらゲコ太没収されちゃうかもしれないじゃない!協力してよ!」///
「そんなことないと思うけど、お前がそう言うなら協力する」ボソボソ
「ありがと…」(アイツの顔がこんな近くに)チュー
「…」(へ、平常心、平常心)チュー
「…」チュー
(恋人っぽく…か。じゃあ、やっぱりアレだな…)///
少年はストローから口を離すと、フォークを持ち、ショートケーキの一部に切込みを入れてフォークに刺して持ち上げた。
「…あ、あーん」(めちゃくちゃ恥ずかしいぞコレ)///
「ふにゃっ!?な、なに!?」ゴホゴホ
「あー、フォークが一本しかないからこうするものなのかと思ってな」///
「そ、そうなんだ…」///
「これって結構恥ずかしいんですけど?」///
「…あーん」パクッ///
「…」(き、緊張する)
「…」モグモグ(た、食べさせてもらっちゃった)///
「もう一口、どうだ?」アーン
「い、いただきます…」パクッ モグモグ
(なんだこれ。なんか色々ヤバイ)カチャッ
(あ、フォーク置いた。…わたしも、やっちゃおうかな?)「…あ、あーん」///
「う…」(もう自棄だ)「…あーん」パクッ モグモグ(あれ?これって間接…)ハッ
(あれ、コレって間接キ、キ、キ…)カァッ
真っ赤になって見つめ合うふたり。なんだかいい雰囲気である。
「しぬぅうぇええええええええええええっい!!!」ブワッ
「っ!!あぶねえ!!」ガシッ
「!!なによアンタ!?」(あれ、アイツの友達よね?)
「テメエ!なにしやがる!!青ピ!」
「なに朝から美少女中学生といちゃいちゃしてるんや!!この裏切り者!」クワッ!
「!」///
「い、いちゃいちゃなんか…」カァッ
「同じグラスのドリンク飲んで、同じフォークで『あーん』なんてやっておいて、いちゃいちゃしてないとは言わせへんで、カミやん」
「そ、それは…」(いやいや待て、ここは肯定しておかないと御坂のストラップを没収されてしまいかねん)
「っ~!」///
「…あのなあ、青ピ。俺たちが頼んだのは『カップルケーキセット』なんだから、仕方ないだろ?」(俺たちは恋人って設定なんだよ)
(え?それって、それって…)カァッ
「カミやん…。それってどういうことや?」
(ウエイトレスさんが見てる…)「デ、デートの邪魔をするんじゃねえって言ってるんだよ」///
「!!」(デ、デートって言った!?言ったよね!?)///
「な、なんやて…。カミやん、いつの間に…」
(よ、よし、もう一押し)「わかるだろ?青ピ」
「う、うわああああああ!!カミやんの裏切り者おおおおおおおおっっ!!」ダッ
この世の終わりのような表情を浮かべ、向かい合って座っている少年と少女を交互に見比べると、青髪の少年は大声を上げながら走り去っていった。
「まったく、青ピの奴…。御坂、悪かったな」ハァ
「…」(デート、デート…)ニヘラー
「御坂?」(なにボーっとしてるんだ?)
「ふぇっ!?…あ、その、ゴメン。…はい、あーん」スッ
「うぇっ!?…あ、あーん」パクッ モグモグ
「…美味しい?」ニコッ カチャッ
「…」コクッ
「…あーん」アーン
「!!…あ、あーん」
「…」パクッ モグモグ
(なんか自然にカップルしちゃってるんですけど!?)///
「はうぁ!?何故あの二人が一緒にいるのですか?幻ですの?…いえ、ここはまず確かめないといけませんの!」シュンッ
「ひぅ!?」ビクッ
下半身に違和感を感じ、美琴は身体を震わせた。スカートの中で何かが蠢いている。
「どうした?御坂?」
「な、なんでもないっ!」(コイツに気付かれちゃいけない)///
平静を装って机の下を覗きこむと、自分のスカートに頭を突っ込んでいる常盤台中学の制服が目に入った。その右腕にある風紀委員の腕章と、背中に垂れた二本の黒髪の束には見覚えがある。
「短パンも履いてますし、ゲコ太パンツですの。…するとさっきのお姉様は偽者!?」
「く、く、く、く、く、黒子!!アンタ一度死んどく?」バチッ ビリビリ
「お、お姉様が類人猿色に染められていなければ…、黒子はそれで一安心ですのおおおおおおおぉ!?」ビクビクッ
「い・い・か・ら離しなさい!!」
「ん?白井か?…オマエ、机の下に潜り込んで何してるんだ?」ヒョイ
「!!アンタは覗くなあああああ!!」ビリビリ
机の下には電撃を喰らって痺れているツインテールの少女がいて、その少女の右手にはクリーム色の短パンが掴まれており、短パンから伸びたすらりとした足の上には、口髭を生やしたカエルのプリントが施された白い布地が燦然と輝いていた。
「ス、スマン!!」///
「アンタ見たの!?見ちゃったの!?見やがったの!?」///
「ふ、ふ、ふ、ふ、不可抗力だ!」///
「く~ろ~こぉ~」バチバチ
「ああ~んっ!!愛の鞭ですのぉぉぉぉぉぉ!!」ビクンビクン
(み、見られた!見られちゃった)カアァァッ
ツインテールの少女の手を引き剥がし、短パンを履き直しながら、少女は真っ赤になって俯く。
「あー、そ、その。…とりあえず、あーん」スッ
「何でそうなるのよっ!?」
「馬鹿お前!ここで変なそぶり見せたらゲコ太没収されるぞ!いいから口開けとけ!」ボソボソ
「そ、それは嫌!」ボソボソ「…あ、あーん」パクッ モグモグ
「もう一口、あーん」
「…あーん」パクッ モグモグ
「…」カチャッ
「…あーん」スッ
「あ、あーん」パクッ モグモグ
「…なんかとてつもなく凄いことが私の上で起きている気がしますの…」(お姉様が類人猿と食べさせっこをしている!?)ガクガクブルブル
「…あ、クリーム付いてる」スッ パクッ
「!!」(な、なんですと!?)カァッ
「あ…」カァッ(や、や、やっちゃったーーーー!!)
「お、お姉様が、お姉様が類人猿と間接キス、うふ、うふふふふ、うふふふふふ」ガクガクブルブル
「あー…」///
「…」///
「喉渇いたなー」
「喉渇いたわねー」
二人はそう言うと、ほぼ同時にストローを咥えた。
「!!」///(なんでこうなるんですかー!?)
「!!」///(なんでアンタも咥えるのよー!?)
「ま、真っ赤になって見つめ合っている!?しかも同じ飲み物を!?」ガビーン
「く、く、く、黒子!デ、デートの邪魔しないでよね!?」///
「!!」
「お姉様?今、なんと仰いました?」
「わたしたちのデートの邪魔をするなって言ったのよ!」カァッ
「お、お姉様が…お姉様が…、穢されてしまいましたのおおおおおおおおおっっ!!」シュンッ
「な、なにを言ってるのよ!あの子は!!」カァッ
「…」チュー
「…で、アンタはなんでそんな普通にジュース飲んでるのよ?」
「上条さん、さっきからドキドキしっぱなしですけど!?」
「嘘!?」
「ホント!もういっぱいいっぱいです!」
「そ、そう…」カァッ
「…」チュー
「…わたしも、いっぱいいっぱい、かな」///
「御坂…」
「…」チュー
「と、とりあえずそれ飲んだら出ようか」
「…」チュー コクン
(き、気まずい!!)