クリスマス狂想曲   作:神納 一哉

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5 12月23日 ふたり

――――――――――

 

一騒動を起こしたからなのか、常盤台中学前からバスに乗ったのは彼ら二人だけだった。すばやく乗り込むと、後ろの方の席に並んで腰を下ろす。

 

扉が閉まり、バスが動き出すと、少年は大きなため息を漏らした。

 

「し、死ぬかと思った…」ハァ

 

「あはは~。…ごめん」ショボン

 

「…いや、俺も悪かったし」

 

「へ?」

 

「…普通に手を引っ張っちまってたからな。お前の学校の近くに行くってわかってたのに」

 

「でも、それはわたしが…」

 

「引っ張ってたのは俺。御坂は悪くない」

 

「…わかった」

 

「…」

 

「じゃ、せっかく遊びに行くんだから、この件はこれでおしまいね」

 

「え?」

 

「お互い暗い顔して買い物してもつまらないでしょ?」ニコッ

 

「あ、ああ。そうだな」

 

「あ、そういえばさ、アンタの左手が触ってても、能力使えたわね」

 

「…そういえば」

 

「ちょろっと実験♪右手出して」

 

「あ、ああ」ミギテ サシダス

 

 ミギテ カサネル「…なんなのかしらね?この右手は」ムニムニ

 

右手で相手の右手を握りながら、少女は不思議そうに少年の方へ身を乗り出す。

 

「ねえ、ちょっと…!!」(顔近い!顔!!)///

 

「な、なんでしょう?御坂さん」(顔近い、顔!)///

 

見つめあったまま数秒間、二人は顔を赤くして固まった。

 

「…あ、あのさ、ちょっとアンタの右手をわたしの頭に置いてみてくれる?」(落ち着け、落ち着け)ドキドキ

 

「あ、ああ。これで、いいか?」ポフッ(平常心、平常心)///

 

「ふむふむ。次は肩に置いてみて?」

 

「ああ」ポン

 

「…右手を持ってても使えないし、今も使えないから、アンタの右手が能力者の体に触れていれば、能力が使えなくなるってことみたいね」

 

「…」

 

「じゃあ、今度は右手離して左手を出して」

 

「ああ」スッ

 

差し出された左手を右手で握り、精神を集中する。

 

「…んー。右肩から能力消されちゃうみたいね。でも、右腕以外は守れそうね」

 

「えっと、何を言っているのでしょうか?」

 

「ん?電磁力で弱い防壁を展開しているんだけど、アンタの右腕以外はカバーできてるっぽいのよねー」

 

「へー、何も感じないけどなあ」

 

「弱いって言ってるでしょ。でも、あとで試しておきたいわね。最大出力で」

 

「…何か嫌な予感がするのですけど?」

 

「ちょっとビリッとするかもしれないわね。でも、戦うときに便利なのよ。銃弾ぐらいなら防げるし」

 

「銃弾って、洒落にならないんですけど!?」

 

「あのねえ、普通の人間はそういうもので攻撃してくるのよ。軍隊なんか特にね」

 

「これって、学生の会話じゃないよなあ」ハァ

 

「まあ、いろいろ首突っ込んじゃってるから仕方ないじゃない」

 

「それはそうだけどさ、今日はそういうの無しにしようぜ」

 

「え?」

 

「息抜きってやつ?普通に買い物してみないか?」

 

「アンタがそう言うなら、それでも…いいけど」

 

「じゃ、決まりな」ニコッ

 

「うん」///

 

――――――――――

 

学舎の園の文房具店で買い物を済ませて寮へと戻る途中、オープンカフェの一角で話す少女たちの声が耳に入ってきた。

 

「…やっぱり彼氏とかだったりするのでしょうか?」ヒソヒソ

 

「手をお繋ぎになっていたのですから、そう考えるのが自然だと思いますわ」ヒソヒソ

 

(また、くだらないことを)ハァ

 

「真っ赤になって可愛らしかったですわね」クスクス

 

「相手の殿方も電撃に巻き込まれていたように見えましたけど」

 

『真っ赤になって』や『殿方』まではいつもの下世話な話と思い聞き流していたものの、『電撃』というキーワードが出てきた瞬間、白井黒子の身体が硬直した。

 

(まさか、まさかまさかまさか…)ダラダラ

 

「『不幸だー』なんて叫んでいましたわね」クスクス

 

「そのくせ、手を離さないのですから、もしかしたらあの殿方も電気系の能力をお持ちなのかもしれませんわね」

 

『不幸』な『殿方』が『電撃使い』と手を繋いでいた。それらから導かれることは…。

 

「あんのおおおおおおおおおっ!!類人猿んんんんん!!」グギャアアアア

 

「「!!」」ビクッ!!

 

「…コホン、風紀委員ですの。貴女たち、その不純異性交遊が行われていたのはどこですの?」

 

「え、えーっと…」ビクビク

 

「バス停…です」ビクビク

 

「こうしてはいられないですの!今すぐお姉…じゃなくて不純異性交遊を取り締まらないといけませんですの!!では失礼」シュンッ

 

「…」

 

「…」

 

「なんだったのでしょう?」

 

「さあ?」

 

――――――――――

 

バスを降り、ショッピングモールの入口まで歩くと、少女が足を止めた。

 

「どうした?御坂」

 

「忘れてた。携帯見せて」

 

「ん。ああ」ゴソゴソ

 

「ん。無くしてないわね」ニコッ

 

「…」ドキッ

 

思わず視線を逸らしながら、ふと思ったことを口にする。

 

「…あのさ、お前は無くしてないよな?」

 

「無くすわけないじゃないの。ほら」

 

少女は携帯電話を取り出すと、そこに付けられているストラップを少年の目の前に突き出して揺らしてみせた。

 

「はは」

 

「何よ?」

 

「いや、なんか嬉しくってさ」

 

「え?」

 

「なんていうか、友情?絆?みたいなのを感じられるとでもいいましょうか…」

 

「あー、ふたりだけの約束みたいな?」

 

「そうそう、そんな感じ!」

 

「そういうのも悪くないわね」ニコッ

 

「そうだろ?そうだよな?そうなんです!」(そこでその笑顔は反則だ)

 

「…アンタとお揃いっていうのがポイントなんだけどね」ボソッ

 

「ん?何だって?」

 

「な、なんでもない!」カァッ

 

「今、何か言ったような気がしたけど?」

 

「あー、そのー、喉が渇いたかなー、なんて…」

 

「んー。じゃあ、その辺で何か飲むか?」

 

「うん」ニコッ


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