クリスマス狂想曲   作:神納 一哉

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過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


4 12月23日 デート開始

ポケットから小さな紙袋を取り出し、そっと少女の前に差し出した。

 

「これを。私に?」

 

「気に入ってくれると嬉しいんやけど…」

 

「なんだろう?開けても。いい?」

 

「うん」

 

黒髪の少女はクリスマス包装された小さな紙袋のリボンを外し、開ける。

 

「これは!」

 

袋の中には、鈍く輝く指輪がひとつ入っていた。

 

「…ボクとお揃いやったりして」

 

「青ピ君」

 

「姫神ちゃん」

 

「お兄ちゃん!朝だよ~!」

 

「へ?」

 

「お兄ちゃん!朝だよ~!!」

 

ガバッ オニイチャン、アサダヨー カチッ

 

ベッドの上で飛び起きて、枕元に置いてあった目覚まし時計を止める。

 

「夢かいっ!!…いやしかし、姫神ちゃんの『お兄ちゃん』は新鮮やったな~」グヘヘヘヘ

 

――――――――――

 

「とうま。今日、こもえのところに行くけど、とうまも行く?」モグモグ

 

「あー、俺は…友達と約束があるから無理だな」

 

「むー。明日はこもえの家でパーティーなんだよ!ご馳走が出るんだよ!行かないと損なんだよ!」

 

「あー、クリスマスだもんなー」

 

「そうなんだよ!」

 

(…クリスマス、か)

 

「あいさやこもえと明日のパーティーの準備をするんだよ。私も手伝うんだよ」

 

「がんばれよー」

 

「ロースト・ターキー、クリスマス・プティング、フィッシュ・アンド・チップス…ご馳走がいっぱいなんだよ」ジュルリ

 

「…そこまで本格的なのは学園都市じゃ無理なんじゃないか?」

 

「クリスマスなのに?」

 

「んー、七面鳥は鶏の腿肉、クリスマス・プティング?はショートケーキ、フィッシュ・アンド・チップスはフライドポテトになるかなあ?」

 

「ご馳走だからいいんだよ」

 

「食べるものにこだわりがあるわけじゃないのか」

 

「国によって食べ物が変わるのは仕方がないことなんだよ」

 

「そういうものなのか」

 

「そういうものなんだよ」

 

「そうか」

 

「…明日は、……たいな」ボソ

 

「ん?なんだって?」

 

「なんでもない!」ブンブン

 

慌てて首を振る少女を見て、少年は険しい表情を浮かべる。

 

「インデックス…。お前…」

 

「え?な、なに?」ビクッ

 

そっと少女の額に左手を当て、右手を自分の額に当てて呟いた。

 

「んー?気のせいか?なんか熱っぽく見えたんだけどなあ」

 

「き、気のせいなんだよ、とうま」カァッ

 

少年の手から逃れるように少女は身を引いた。

 

「本当か?」

 

「本当だよ。ぜんぜん大丈夫なんだよ!」ブンブン

 

「ならいいけど…」

 

「心配してくれてありがとう、なんだよ。とうま」

 

「お、おう…」(やけにしおらしいけど、言ったら噛まれそうだから言わないでおこう)

 

「…なんかとうまがすごく失礼なことを考えているような気がするんだよ」カチカチ

 

「そ、そんなこと無いぞ」ダラダラ

 

「『疑わしきは罰せよ』なんだよ、とうま」ガブッ

 

「ぎゃああああああ!!不幸だああああああああっっ!!」

 

――――――――――

 

外から小鳥の囀りが聞こえてくる。

 

「…ね、眠れなかった」

 

―――アイツが悪い。

 

目を閉じて、布団を頭から被ると浮かんでくるアイツ。

 

『アイツは…なんていうか、甘えるのが下手な奴なんだよ。でも、そこが可愛いって言うかなんて言うか…』

 

「そこが可愛いって言うか…」

 

「可愛い…」

 

「可愛い」

 

―――可愛い

 

その言葉が、勝手に頭の中で繰り返される。アイツの声で。

 

それがわたしの胸を苦しくさせる。頬が熱くなる。

 

でも、嫌な感じじゃなくて…。

 

「…はぁ」

 

常盤台のエース、学園都市第三位の超電磁砲。そんな肩書も、アイツの前じゃ意味を持たない。

 

アイツは、わたしのことを、ただの電撃使いの女の子として見てくれる。

 

アイツとは、友達くらいの関係にはなれていると…思う。

 

ロシアから戻ってきてから、半ば強引にアイツの手伝いをするようになった。

 

魔術師なんて聞いても最初はトリックか何かだと思っていたけど、実際に魔術を目にして、そんな考えは跡形もなく消し飛んだ。

 

紙切れが遊覧船くらいの船になったりとか、炎の巨人が暴れたりとか、大きな魔方陣が空中に浮かび上がって爆発的なエネルギーの奔流が起こったりとか。

 

まあ、ロシアでアイツがいたところも魔術で作られた空飛ぶ島なんだけど。

 

あんなのをいつも見ていたんじゃ、わたしに対して普通に接する理由がわかる気がした。

 

アイツは、いつもそんな非現実的な世界にいたのだから。

 

―――そんなアイツが、わたしを買い物に誘った。

 

それって、少しはわたしのことを『特別』に思ってくれている?

 

そう、思ってもいいの…かな?

 

アイツは、わたしにとって特別な存在だ。

 

アイツとの待ち合わせまであと3時間ちょっと。

 

眠れなかったけど、それよりもはやくアイツに会いたいと思っているわたしがいる。

 

「…好き」ボソッ

 

そっと呟いてみた。

 

それだけで、胸が苦しくなり、頬が熱くなった。

 

きっと、アイツの前じゃこんなこと言えない。今の関係を壊してしまいそうで怖いから。

 

でも、もしかしたら…。

 

何かが、起こるかもしれない。

 

――――――――――

 

「…あ」

 

「よう」

 

30分ほど前に待ち合わせ場所へ行くと、そこにはすでにツンツン頭の少年が、両手を擦りながら立っていた。

 

「は、早いわね」

 

「誘っておいて待たせるわけにはいかないだろ?」

 

「そ、そう。その、ありがと」

 

「お礼を言うのは俺の方だと思うんだけど?」

 

「そ、そうかな?」

 

「うん」

 

学生服にマフラーを巻いて毛糸の手袋をしているものの、少年は体を震わせていた。

 

一方、少女はロングコートを纏い、カシミアのマフラーを巻いて鞣革の手袋をしているのでそんなに寒さを感じていない。

 

「…アンタ、寒そうね?」

 

「ああ、今日は結構冷えるな」ハーッ

 

「あー、今日はお買い物に行くのよね?どこに行くの?」(寒そうね…。そういえば黒子が良く腕を絡めてくるけど、結構温かいのよね~)

 

「セブンスミストに行こうと思うのですが…」

 

「りょーかい」ドキドキ

 

軽く答えて、少女はさりげなく少年の右腕に自分の左腕を絡めた。

 

「へ?み、御坂っ!?」カァッ

 

「さ、寒いから盾になりなさい!べ、別に変な意味ないんだからっ!」(こんな感じなら自然なはず!)カァッ

 

「お、おう?」(腕になにか柔らかいものが当たるんですけど!?)ドキドキ

 

「い、行くわよ!」(へ、平常心、平常心)ドキドキ

 

「ちょっ!?引っ張るなって!!」(な、なんなんだ!?この状況は!?)

 

少女に視線を向ける。よく見ると耳がほんのりと赤くなっていた。

 

(照れてる?いやいや、まさか)「おい、御坂。これじゃあお前が俺の盾になってるぞ!」

 

「じゃあ、アンタがエスコートしなさいよ」カァッ

 

「エ、エスコートってどうすればいいのでしょうか?」

 

「アンタがわたしを引っ張っていけばいいのよ」ギュッ

 

少女は後輩にされるように腕にしがみついてみた。彼女はその行為が女の子同士だからこそできるスキンシップであることに気がついていない。

 

「そ、そうか」(か、上条さんの手が御坂の大事なところに当たりそうなんですけど!?)カァッ

 

「はい、じゃあよろしくー」ギュッ

 

「あのな御坂。そんなにしがみつかれると、歩けないんだけど」カァッ

 

「わたしは別に平気だけど?」ギュッ(黒子なんてもっとしがみついて来るし)

 

(も、もう限界だ)「あーもー!!御坂さんには恥じらいというものはないのですか!?いろいろ当たったり、当たりそうになってるんですけど!」カァッ

 

「へ?何が?」キョトン

 

「…胸とか…その、俺の手とか」カァッ

 

「うぇっ!?」カァッ

 

絡めた腕を見てみる。少年の腕は胸に密着しているし、肘を伸ばすようにして絡めているため、手の甲はスカートの上の方で握り締められ、今にも下腹部に当たりそうになっていた。

 

「う、うにゃああああああっっ!!」カァァァッ

 

「お、落ち着け!御坂っ!」

 

「落ち着けるかああああっ!!」カァァッ

 

「いいから手を離せええ!!てか、動くな!!触っちまう!」カァァッ

 

「~~~っ!!」カァァッ

 

「そ、そうそう。腕を伸ばして…よし、離れたぞ!」

 

「あ~あうあう…」プシュー

 

「女の子同士ならああいう組み方もいいと思うけど、上条さんは男子ですから気をつけないと、な」///

 

「そ、そうよね…あはは…」シュン

 

「…ま、気にするな」ポンポン

 

「子供扱いしないでよ」ムゥ

 

「そんなこと言うなよ。…上条さんもいろいろテンパってるんですから…」ボソボソ

 

「へ?」(テンパってる?)

 

「な、なんでもない!!」カァッ

 

「気になるじゃないの!」

 

「あーのーなー、健全な男子なら当然っていいますか、その女の子特有の感覚(っていうか触感)に敏感なんです!」カァッ

 

「ふぇ?それって?」クビカシゲ

 

「わからないならいい!忘れろ!というかむしろ忘れてください!」

 

「…まあ、いいわ。許してあげる」(女の子として見てくれているみたいだし)

 

「サンキュー。じゃ、行くか」

 

「うん」

 

少女の目の前に少年の手が差し出される。先ほどまでしがみついていたのとは反対の手。

 

「え?」

 

「エスコートしなきゃいけないんだろ?だから」カァッ

 

「う、うん」カァッ

 

躊躇いがちに右手を差し出すと、少年の左手が優しくそれを包み込んだ。

 

「うし。行くぞ」ギュッ

 

「う、うん」(結構大きいのね。コイツの手)

 

「…」

 

「…」(手をつないで歩いてる…)

 

「…」(な、なにか話題になりそうなことは…)

 

「…」(夢、じゃないよね?)

 

「あー、バスってどこから乗るんだっけ?」(常盤台中学前でよかったと思うけど)

 

「んっと、学校前でいいんじゃない?」

 

「了解」

 

「♪」

 

バス停を目指して歩いているうちに、なんとなく視線を感じるようになってきた。それも複数の人間―常盤台中学の制服を身に着けた少女たち―の視線を。

 

「…」(待てよ…。常盤台って御坂の学校だよな…)ダラダラ

 

「♪」

 

「…御坂。いったん手を離すぞ?」

 

「却下」

 

「ええと、俺とのうわさを学校中にばら撒きたいのか?…もう手遅れかもしれないけど」

 

「は?なに言ってるのアンタ?」

 

「俺たちは今、常盤台中学前のバス停に向かっているわけだ」

 

「うん」

 

「部外者の上条さんと常盤台の御坂さんが手を繋いでいて、それを常盤台の子たちが目にするわけなんだけど…」

 

「…」ダラダラ

 

「実を言うと…さっきからなんとなく視線を感じているわけですが…」

 

「う、うにゃあああああああっ!!」ビリビリビリ

 

「ぎゃあああああ、不幸だああああ」


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