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12:30 第七学区 ショッピングモール
「この手袋、とってもあったかいんだよ!」
「ふふ。よかった」
「それと、これは凄く助かるんだよ」
そう言って抱えるように持ったランジェリーショップの袋を持ち上げる。
「さすがに、こういったものはとうまに買ってもらうわけにはいかないし」
「そ、そ、そ、そうね。ってかアイツに買ってもらう!?そんなの、そんなの駄目駄目駄目!!」
「…みこと。変なこと考えてる」
「へ、へ、変なことなんて、か、か、考えてにゃい!!」
「真っ赤になって否定しても説得力無いんだよ」
「あうう…」///
ティーンズ雑誌から『男性が女性に洋服を贈るのは脱がせるため』というアダルトな情報―中学生にしては―を得ていた美琴としては、インデックスの身に着けるものを上条に買わせるわけにはいかないのである。
「そ、そんなことより!お昼御飯にしよっか?」
「むう。誤魔化そうとしているんだよ」
「なっ!?インデックスがご飯に興味を示さないなんてっ!?」
「馬鹿にしないでほしいんだよ!」
銀髪の少女はそう言うと、足元に紙袋を置いてから腰に手をやって胸を張る。どうやらそのポーズがお気に召したらしい。
(困った…)
「御坂さん?」
どうしたものか悩んでいると、後から名前を呼ばれたので、美琴は渡りに舟とばかりに振り返る。
「こんにちは。婚后さん」
「こんにちは。奇遇ですわね。お友達とお買い物かしら?」
「あ、うん。そんな感じ」
「わたくしはてっきり、御坂さんは許婚の方とご一緒だと思ったんですけれども」
婚后は扇子を口にあて、銀髪の少女に聞こえないように言った。
「あー、この子、アイツの家族みたいなもので、アイツが学校行ってる間に買い物に来たってわけ。婚后さんは?」
「わたくしは、湾内さんと泡浮さんに教えていただいたカフェでランチをいただこうと思い立ちまして」
そう言って胸を張る婚后。美琴はその豊満な胸に一瞬目を奪われて、慌てて視線を外す。
「湾内さんたちと一緒に来れば良かったのに」
「湾内さんと泡浮さんは部活動ですわ。ところで御坂さん。確か許婚の方は、上条当麻さんと言いましたわね?」
「う、うん。そうだけど?」///
「ご家族の方が、どう見ても西洋の方にしか見えないのですが?もしかして上条さんってハーフとか?」
「いや、違うから!当麻は日本人だから!」
銀髪翠眼の上条を想像して、美琴は『それはないな』と、即座に頭を振る。それから上目づかいで婚后を見た。
「えーっと、その、私の妹みたいな『訳アリ』なんだけど、家族みたいな存在、なんだ。だから聞かないないでくれると、助かる」
「わかりましたわ。では、ご一緒にランチでもいかがです?御坂さん」
「婚后さん。…ありがとう」
「なんのことかしら?」
扇子で口元を覆いながら、婚后は小さく微笑んだ。
「みこと。その子は誰なのかな?」
「あ、ごめん、紹介するね。こちらはわたしと同じ常盤台中学の友達の婚后さん。婚后さん、この子は…」
インデックスを婚后に紹介しようとして美琴は言葉に詰まる。いったいなんと紹介すればいいのだろう。
「………イギリス清教のシスターのインデックス」
少しだけ考え、そう紹介する。まあ不自然ではなかったはずだ。
「インデックスだよ。よろしくね。…えーと、名前を聞いてもいいかな?」
「わたくし、婚后光子と申します。よしなに。インデックスさん」
優雅な微笑を浮かべて婚后が言うと、インデックスも無邪気な笑顔で応えた。
「よろしくね。みつこ」
「………インデックスさん、もう一度、仰ってくださいます?」
「?よろしくね。みつこ」
「っ!!」
両手で自らの肩を抱き、感極まった表情でインデックスを見る婚后。
「こ、婚后さん?」
「どうしたの!?みつこ!」
「インデックスさん。その、わたくしも貴女のことを呼び捨てにしていいでしょうか?」
「別に構わないんだよ」
「ああっ!わたくしの長年の夢が今、叶いますわ!」
「夢?」
「ええ。わたくし、その、家族ではない同性の方と名前だけで呼び合うことが夢でしたの!」
「そうなんだ」(言ってくれればわたしも名前で呼んでもらって構わないんだけどなあ。でも今から光子って呼ぶのは変な感じはするけど。うーん…)
そんな美琴の葛藤に気付かず、婚后はインデックスと向き合っていた。
「…で、では、いきますわよ…」
ごくりと唾を飲み込んでから、婚后は大きく息を吸い込む。
「…インデックス」
「みつこ?」
「インデックス!!」
ぎゅむっと音がしそうな勢いで、婚后はインデックスを抱きしめる。
「みつこ、苦しいんだよ!」
「ご、ごめんなさい。その、嬉しくて」
「嬉しい?」
「ええ。わたくしを名前だけで呼ぶのって、お父様しかいなかったものですから」
それを聞いたインデックスはきょとんとした表情で婚后を見つめる。
「ねえみつこ。みことは友達なんだよね?」
「御坂さん?ええ、大切なお友達ですわ」
「みこと。みつこは友達なんだよね?」
「え?う、うん。友達よ?」
「じゃあ、お互い名前で呼べばいいと思うんだよ?」
「み、御坂さんを名前で!?」
扇子で口元を隠しながら、婚后は上目づかいで美琴を見る。そんな彼女を見て、美琴は小さく微笑んだ。
「…そうね。婚后さんさえよければ、これからは光子って呼ばせてもらおうかな」
「御坂さん。…ええ、もちろんよろしいですわ」
嬉しそうに言う婚后に、美琴は人差し指を立てて左右に動かしながら片目を瞑って言う。
「そこは美琴、でしょ?」
「…美琴」
「よかったね。みつこ」
「インデックスのおかげですわ。ありがとう」
「別にいいんだよ」
「あの、インデックスもわたくしとお友達になってくださったのですよね?」
「みつこさえ良ければ、私たちは友達なんだよ」
「もちろんですわインデックス。そうですわ。お近づきの印に、ランチをご馳走しますわ」
「ご飯!?そういえばおなかが空いたんだよ!おなかいっぱい食べさせてくれると嬉しいな」
「ええ。いいですわよ」
「楽しみなんだよ!」
「ふふ。わたくしもですわ」
「…驚くわよ。間違いなく」
ぼそっと美琴が呟くのを聞いて、婚后は首を傾げる。
「驚くって、なんのことかしら?」
「インデックスのことだけど。満腹になるまでなんていったら、そうね、30人分くらいなら軽く食べるから」
「…冗談ですわよね?」
「ねえ、インデックス。この前レストランでパスタを何皿食べたっけ?」
「38皿食べたんだよ!美味しかったんだよ!」
その言葉を聞いて呆然としている婚后に、銀髪の少女は満面の笑みを浮かべて言った。
「早く行くんだよ!みつこ」