クリスマス狂想曲   作:神納 一哉

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過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


22 12月25日 阿吽

――――――――――

 

08:08 常盤台中学学生寮208号室

 

朝食を終えて部屋に戻るのとほぼ同時に、ポケットの中の携帯電話が振動した。

 

(…こんな時間に誰?…って、当麻!?)「…も、もしもし?」ドキドキ

 

『御坂美琴さんですか?』

 

「…………どちらさまですか?」

 

恋人からと思っていたのに別人の声が聞こえてきたので、思わず怒鳴りそうになったが、ふと恋人の不幸体質を思い起こし、もしかしたら携帯電話を拾った誰かが学園都市では有名人である自分の名前を電話帳で見つけて電話をかけてきたのではないかと思い至り、小さく尋ねる。

 

『常盤台の超電磁砲の御坂美琴さんですか?…この携帯電話の持ち主の婚約者の?』クックッ

 

「アンタ!?アイツに何かしてないでしょうね!?」

 

『アイツ?』

 

「その携帯の持ち主よ!わたし、御坂美琴の婚約者の上条当麻!!」

 

「ヒギィッ!?」ビクッ

 

『…………みんな聞こえたかにゃー?【御坂美琴の婚約者の上条当麻】って超電磁砲が言ったにゃー』

 

『ばっちり聞こえたぜー!』

 

『うう。本当だったのね』

 

『冗談じゃなかったのかよ!』

 

受話器からは大勢の悲鳴とも怒号ともとれる声が聞こえてくる。

 

「……………は?」

 

『いや、まだだ、まだ信じないぞ!』

 

『上条に告白させろ!』

 

『それいいわね。ツンデレお嬢様だから否定するかもしれないし』

 

『熱いの頼むぜ!上条ォく~ン』

 

(えっ~と、これってもしかして、教室で吊るし上げ喰らってるってこと?)

 

なんとなく状況を理解すると、少女はほっと溜息をついた。

 

『………あ~。美琴?』

 

「ずいぶん楽しいクラスみたいね?」

 

『まあな。わかってると思うけどさ、これ、スピーカーホンになってて、だだ漏れ状態なんだけど…』

 

「別に聞かれても問題ないでしょ?婚約してるのは親公認だし」

 

『『『『『『『『『『なんだって!?』』』』』』』』』』

 

『そうなんだけど。こいつら、まだ冗談だって思ってるみたいでな。上条さんとしては完全に払拭させたいんですけど、いいか?』

 

「ふふ。じゃあ、アンタにもわたしにも手を出そうなんて思えないようにしちゃおっか」

 

そう言うと小さく微笑み、少女は大きく息を吸いこんでから叫ぶように言った。

 

「当麻。大好き!!愛してる!!」

 

「ギュオエエエエエエッッ!?」バタッ

 

『俺も大好きだ美琴。愛してる!!』

 

『『『『『『『『『『ぎゃあああああああああっっ!?』』』』』』』』』』

 

「えへへ。ねえ?夕御飯、何が食べたい?」

 

『え?リクエスト募集中?』

 

「やっぱ、だ、旦那様になる人の好みとか知りたいかなって」///

 

「……何も聞こえませんの何も聞こえませんの何も聞こえませんの何も聞こえませんの…」ブツブツ

 

『惚気を超越している!?』

 

『通い妻状態かよ!?』

 

『上条君が臆面も無く惚気るなんて!?』

 

『上条さん感激です。美琴は百二十点な嫁ですよ。…そうだなあ、温かい鍋なんか食べたいな』

 

「りょーかい。当麻への愛情たっぷり入れて作っちゃうんだから」

 

『それは楽しみだ~』

 

「うん。じゃ、勉強がんばってね」

 

『サンキュ。美琴』

 

――――――――――

 

08:10 とある高校 一年七組

 

「ま、まさかカミやんが惚気を隠さないなんて…」

 

「まさかの嫁発言」

 

「あそこまで臆面も無く惚気られると何も言えなくなるわね…」

 

「なんだあの阿吽の呼吸は…」

 

「負けた。すべてにおいて負けた…」

 

「あ、あれがバカップルってやつなのかしら…」

 

「おそらく。そう」

 

ある者は項垂れ、ある者は机に突っ伏して先ほどの会話を頭から振り払おうとしていた。

 

「おはようございます。あれ?なんか皆さん元気ないですけどどうしちゃったのですか?それから、上条ちゃんはちゃんと椅子に座ってください」

 

「そうしたいのはやまやまなんですが、ちょっと動けなくてですね」

 

「ま、ま、まさか、私のクラスでいじめ!?」

 

「違う」

 

「じゃあなんでそんなことになってるんですか~」

 

「御坂美琴。惚気話」

 

「はい?どういうことですか?」

 

黒髪の少女は無言で携帯電話を取り出し、ボタンを押した。

 

ピッ

 

『…だって思ってるみたいでな。上条さんとしては完全に払拭させたいんですけど、いいか?』

 

『ふふ。じゃあ、アンタにもわたしにも手を出そうなんて思えないようにしちゃおっか。………当麻。大好き!!愛してる!!』

 

『俺も大好きだ美琴。愛してる!!』

 

『『『『『『『『『『ぎゃああああああああああああっっ!?』』』』』』』』』』

 

ピッ

 

「「「「「「「「「ぎゃああああああああああああっっ!?追い討ちっ!?」」」」」」」」」

 

「これを聞かされた」

 

「なに録音しちゃってるんですか!?姫神さん!?」

 

「上条ちゃんはラブラブなのですね~」

 

「ま、まあその、はい」///

 

「あっさり肯定!?」

 

見た目小学生な教師が驚きで固まったのを尻目に、ツンツン頭の少年は黒髪の少女に視線を向ける。

 

「…姫神。その録音データくれないか?」

 

「…どうして?」

 

「彼女の愛の言葉を保存しておきたいから、かな」///

 

「か、上条が愛…だと!?」

 

「もう惚気はいいかげんにして…」

 

「………」ピッ

 

「待て、消さないでくれ!姫神!!」

 

「うん?送ろうかと思ったんだけど。良く考えたら。上条君のアドレス知らなかった」

 

「謹んで送らせていただきます」ピッ

 

「確かに。じゃあ送るね」ピッ

 

「サンキューな。姫神。…これは後で美琴の声だけ抜き出して着信音に…」ニヤニヤ

 

「か、上条が自分の世界に入り込んでいる…だと!?」

 

「あんな笑顔見たこと無いわ…」

 

「上条をここまで骨抜きにするとは…恐るべし超電磁砲」

 

メールの着信を確認して満面の笑みを浮かべるツンツン頭の少年を見て、見た目小学生な教師は大きな溜息をついて言った。

 

「はぁ…。幸せ真っ只中ですけど上条ちゃんは放課後補習ですからね。あと、とっとと椅子に座りやがれ」

 

「なっ!?不幸だ…」


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