クリスマス狂想曲   作:神納 一哉

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過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


20 12月24日 寮内放送

――――――――――

 

20:45 とある公園 自動販売機前

 

自動販売機の陰で抱きしめあい、やや長めに恋人のキスをした後、少女が名残惜しそうに背を向ける。

 

そんな少女の右手を掴むと、少年は言った。

 

「やっぱり、寮まで送る。ってか送りたい」

 

「うん。ありがと」ギュッ

 

「どういたしまして」ギュッ

 

指を絡ませて手を繋ぎながら、少女の寮へ向かって歩き出す。

 

「その、いっぱい、しちゃったね」///

 

「そ、そうだな。でも、その言い方はちょっと問題がありますから注意してください美琴センセー」///

 

「あ、う、そ、そうね。ゴメン」///

 

「いや、謝らなくてもいいんだけど。気をつけてくれればな」

 

「うん。その、さ、当麻は、その、したい?キスじゃなくって、さっき言ってた最終段階ってやつ」///

 

「気をつけろって言った矢先にそういうこと聞くのかよお前は!?」///

 

「ゴ、ゴメン。でも、その、したいなら、その、女の子には準備があるから、その、ね?」///

 

「したくないって言えば嘘になるけど、美琴はまだ中学生だろ?さすがにそういうのはまだできねえかなって」

 

「あー、その、ね。一応さ、学校から処方箋出てる、から…」///

 

「へ?処方箋って、薬?お前、どこか身体の具合悪いのかよ!?」

 

「あー、そうじゃなくってさ、その、…ピルって言えば、わかる?」///

 

「ピ、ピ、ピルゥ!?な、何考えてるんだ常盤台は!?」///

 

「えーっと、家庭の事情を勘案してってやつよ。わたしの場合は許婚がいるからってことで、さ」

 

「え?俺達って常盤台公認!?」

 

「うん。ママが連絡してくれたから」

 

「そっか。俺達、親公認だしな」

 

「うん。その、さ。家同士の取り決めで許婚になる子とかいるから。処方箋もそういう子を守るためのものだと思うんだけど」

 

「あー。そういうのって本当にあるんだな。お嬢様も大変だよな。それ考えるとさ、俺達って恵まれてるな」

 

「…うん」

 

「好き合って許婚になれて、上条さんは幸せ者ですよ」

 

「わ、わたしも、幸せ者だもん」

 

そう言って腕にしがみつく少女の頬を、少年は優しく撫でた。

 

「ふわっ!?」///

 

「あーもー、可愛いな美琴は」ナデナデ

 

「あ、ん」///

 

「…その、女の子の準備ってやつはさ、美琴に任せる。俺も、男の準備はしておくから」///

 

「な、な、なに言っちゃってるのアンタ!?」///

 

「馬鹿お前、いつまでも我慢できるわけねえだろうが!」///

 

そう言うと少年は少女を抱きしめる。

 

「!?」///

 

「…美琴が好きって気持ちが俺の中でどんどん大きくなってんだよ。美琴のすべてを知りたいし、俺のものにしたいって」

 

「…わたしだって当麻のこと知りたいし、わたしのものにしたいわよ」

 

「お互い素直に言いたいことが言えると嬉しいな」

 

「そうね」

 

「じゃあさ、キスしていいか?」

 

「そんなの、聞かなくてもわかるでしょ?」

 

ふたりは小さく笑い合って、唇を重ねた。お互いを存分に味わってから唇を離すと再び歩き始める。

 

「えーっと、素直に言うのが嬉しいって言うから正直に言うけど、その、わたしのアレって月の中頃くらいだから、女の子の準備終わるのって早くても来月の終わりくらいだから…」///

 

「そ、そうか」///

 

「うん」///

 

「いやいやいや!なんですること前提になってるんでしょうか!?美琴センセー」///

 

「だって、我慢できないんでしょ?」

 

「いやいやいや!美琴センセーが結婚できる歳になるまでは上条さんも我慢しますよ?」

 

「その、…わたしがしたいって言ったら?」///

 

「………我慢できないかも」///

 

「当麻のえっち」///

 

「自分から誘っておいてそれはないんじゃないでしょうか?美琴センセー!?」

 

「さ、誘ってなんて…」///

 

「ほう。『わたしがしたいって言ったら?』なんて言ったのはどちらさまでしたっけ?」

 

「うぐっ。…と、当麻としかしたくないんだからね」///

 

「俺だって美琴としかしたくないからな」///

 

「じゃあ、いいや」

 

「だな」

 

「えへへ」

 

「ははは」

 

笑い合いながら二人は寮の前で立ち止まる。

 

「…着いちゃった」

 

「ああ。門限ぎりぎりってところか?」

 

「うん。あとちょっと」

 

「そっか。じゃ、部屋に戻ったらメールするから」

 

少年を見つめてから、少女はそっと瞼を閉じる。

 

「…おやすみのキス、して?」

 

「いいのか?寮の前だぞ?」

 

「許婚だから隠す必要ない…んむっ!?」

 

話し終わる前に少女の唇が少年の唇で塞がれ、口内に舌が差し込まれた。

 

「ん…ふっ」(あ、吸われてる、…わたしも)チュク

 

「…んぅ」(応えてくれた。美琴…)チュク

 

恋人のキスを充分に堪能してから唇を離す。ふたりの間に透明な糸が伸び、切れた。

 

「おやすみ。当麻」

 

「おやすみ。美琴」

 

「おかえり。御坂」

 

「ただいま戻りました。寮監…様!?」

 

「ずいぶん情熱的な接吻だったな?御坂」

 

「ふ……」(み、見られた!?見られちゃった!?)///

 

「ふ?」

 

「!!」(マズイ!)

 

「ふにゃああああああああああああっっ!!」ビリビリビリ

 

「不幸だああああああああああああっっ!!」

 

――――――――――

 

21:05 常盤台中学学生寮 寮監室

 

 

「砂糖は?」

 

「あ、結構です」

 

「どうぞ」

 

「いただきます」

 

一口飲んでソーサーにティーカップを置き、視線を自分の前に座っている女性から、自分の肩に頭をもたれさせている茶髪の少女に移して、上条当麻は頭を掻いた。

 

(美琴が気を失っちまったから部屋に連れて行けばいいと思ったんだが、なんでここにいるんだ?しかもお茶なんか出されてるし)

 

「君が、御坂の許婚か?」

 

「はい」

 

「まあそうでないと困るのだが。だが、許婚とはいえ、寮の前での接吻はできれば自重してもらいたかった」

 

「う、すみません」(そういえばこの人に見られたんだっけ)///

 

「御坂もわかっているはずなのだがな。…まったく、恋は盲目とは良く言ったものだ」

 

「…」

 

「特に今日はクリスマスイブだからな、寮生達もそういうものには敏感なのだ。困ったことに」

 

「…」

 

「私が門前に出たことで多少は防げたと思うが、それでも効果はないだろうな」

 

「…それってどういう意味?」

 

上条が尋ねると、寮監は立ち上がって扉の前に置かれている衝立の向こう側へと歩いて行く。

 

「君はそこから動かないように。あと、御坂が気付いたら黙らせておいてくれ」

 

「え?」

 

「まあ、すぐにわかる」

 

扉を開ける音がすると同時に、廊下の向こう側から複数の少女の声が聞こえてきた。

 

「寮監様、御坂様は!?」

 

「逢引なさっていたとか」

 

「門前でせ、接吻をしていたとのことですが…」

 

「御坂様が殿方と!?」

 

「御坂様が!?」

 

「寮監様!本当ですか!?」

 

「お前達、静かにしろ。御坂には今厳重注意をしているところだ。今回の件については御坂家にも厳重に注意をする」

 

「御坂様の家にも注意をするということは…婚約者ですか?」

 

「御坂様に婚約者が!?」

 

ひときわ大きい声が聞こえてきたところで上条にもたれていた少女が小さく身動ぎした。

 

「…ん」

 

「…美琴、目、覚めたか?」ヒソヒソ

 

「当麻?…ここ、どこ?」パチパチ

 

少年は人差し指を自分の唇に当てて静かにするよう合図をしてから言う。

 

「ここは、お前の寮の寮監さんの部屋で、寮監さんが寮の人に説明をしているところだ。静かにしてろ」ヒソヒソ

 

「説明?」ヒソヒソ

 

「おやすみのキス、何人かに見られたかもしれない」ヒソヒソ

 

「うぇ…むぐっ!!」

 

茶髪の少女が叫びそうになるのを察知して、少年は慌てて右手で少女の口を塞ぐ。

 

「静かにしてろって言っただろ」ヒソヒソ

 

「~っ!!」ジタバタ

 

「美琴。今から手を離すけど、声出すなよ」ヒソヒソ

 

暴れる少女の耳元でそう囁くと、少年は少女の顔を覗き込む。目が合うと、少女は小さく頷いた。

 

「…苦しかった」ヒソヒソ

 

「スマン」ヒソヒソ

 

「謝るだけ?」ヒソヒソ

 

「…ちょっとだけだぞ?」ヒソヒソ チュッ

 

「…ん」チュッ

 

「お前たち、正直に言え。誰が何を見た」

 

「寮監様、たまたまですが私、二階の廊下の窓から御坂様が門の前で殿方と接吻をしているのを見てしまいました」

 

「!!」

 

「そうか。他にはいないのだな?」

 

「…」

 

「全く、御坂にも困ったものだ。まあ、年に一度のことだし、お前たちも大目にみてやってくれ」

 

「それって、あの殿方は御坂様の婚約者、ということでしょうか?」

 

「否定はしない。詳しくは御坂に聞け」

 

「御坂様に婚約者が!」

 

「御坂様に彼氏が!」

 

「御坂様に恋人が!」

 

「さあ、解散だ。解散」

 

「「「「「「失礼します」」」」」」

 

寮生達の挨拶を背中で受け、寮監は寮監室へ入ると扉を閉めた。

 

「まあ、あんな感じだ。明日には寮内に広がっているだろう…」

 

「…ん」チュゥ

 

「…んぅ」チュッ

 

「お前達…」

 

「ふにゃっ!!」ビクッ

 

「あ、その、これは…」ビクッ

 

「御坂が目覚めて大声を上げそうになったから唇で塞いだとかそういうことか?」

 

「は、はい、すみません!!」

 

「あ、あ、あ…」(見られた、また寮監に見られちゃった)ピリ…パチッ

 

「うわわわわっ、美琴、落ち着け!」

 

少年が少女の頭に右手を置く。それと同時に少女から漏れ出していた放電が消えた。

 

「!」(御坂の力を止めた、だと?)

 

「ど、ど、ど、どうしよう、どうしよう当麻!?また寮監に見られちゃったよ」アワアワ

 

「お前は悪くない、悪いのは俺だ。だから落ち着け、な?」ナデナデ

 

「当麻ぁ…」グスッ

 

「よしよし」(やべ、可愛い)ナデナデ

 

「君は無能力者と御坂から聞いているが、今、御坂の力を消しているのは君の力ではないのか?」

 

「あ、いや、これは生まれつきというかなんというか、俺の右手、能力消しちゃうんですよ」

 

「ほう。それは興味深いな。だが超能力が消せるなら無能力者とはいえないと思うのだが」

 

「でも、身体検査にひっかからないんですよね」

 

「ふむ。それは第七位と同じ原石と呼ばれる力なのではないか?」

 

「よくわからないです。ははは」

 

「…」(統括理事会は当麻の力を”幻想殺し”として、管理しているけれど、無能力者扱いなのよね…)

 

「第三位より強い無能力者か…。まあそれもいいかもしれないな」

 

「いやいやいや、そんなことありませんから!」

 

「御坂が君に身を委ねている時点で、君の方が御坂より強いと思うが?」

 

「え?」///

 

優しい眼差しで茶髪の少女を見ると、寮監はほうっと溜息をつく。

 

「そのような御坂も、新鮮だな。実に初々しい」

 

「は、はは…」(また、寮監が壊れた)

 

「ああ君、そういえばまだ名前を聞いていなかったな。聞かせてもらえるか?」

 

「あ、はい。上条当麻と申します」

 

「ふむ。すると御坂はゆくゆくは上条美琴になるのだな」

 

「え?あ、はい…」///

 

「改めて言われると何か恥ずかしいな。いや、嬉しいんだけどさ」///

 

「えへへ」///

 

「上条君、御坂。今日のことは不問とするが、今後このようなことが無いよう寮の近辺及び内部では節度を持って行動してもらいたい」

 

「「はい」」

 

「先ほどは夢中で聞いていなかったと思うが、御坂に婚約者がいるということが寮全体に広がるのは時間の問題だと思われる」

 

「…まあ、仕方ないです。んー。そうすると明日には学校、いや、学舎の園ときて、第七学区、学園都市全体へと伝播するでしょうね。こういうことってあっという間に広がるから」

 

「そういうもの!?」

 

「ま、ね。たぶんアンタの学校でも話題になるわよ。『超電磁砲に婚約者!』ってね」

 

「女というものはそういう話に弱いからな」

 

「まあ、アンタの名前までは出ないわよ」

 

「…俺は別に名前が出ても構わないけどな」

 

「え?」

 

「言ったろ?独占欲強いって。別の奴とお前が噂になるくらいなら、俺の名前出してもらった方がいい」

 

「わたしも、当麻以外の人と噂になるのは嫌」

 

少年と少女は見つめあう。

 

「…ふむ。じゃあ御坂、いっそ寮内放送で発表するか?」

 

「え?」

 

「お前自身が発表すれば変な噂をたてられずに済むぞ」ニヤリ

 

茶髪の少女は少年を見て、それから静かに口を開いた。

 

「そうします」

 

――――――――――

 

21:30 常盤台中学学生寮208号室

 

(門限も過ぎていますのに、お姉様は一体どこに…。はっ、まさかまだ上条さんと一緒にいるのでは)ワナワナ

 

~~~~~~~~~~

 

美琴「当麻…。わたし今日帰りたくないの」

 

上条「美琴…」

 

美琴「…ねえ?当麻。ホワイトクリスマスにしてくれる?」

 

上条「俺、雪は降らせられないぞ」

 

美琴「もう、わかってるくせに」

 

上条「なにがだよ」

 

美琴「ナニよ」

 

上条「俺色に染め上げてやるぜ~」ガバッ

 

美琴「ああーん。優しくしてーん」

 

~~~~~~~~~~

 

「お姉様がそんな破廉恥なことするわけないですのおおおおおおっっ!!」ギャアアアアア

 

ピンポンパンポーン

 

ツインテールの少女が妄想に悶えていると、室内のスピーカーから軽快なチャイムが流れてきた。寮内放送の合図である。

 

(寮内放送?こんな時間に?)

 

『夜分遅くに失礼する。これより、寮生二年、御坂美琴から全寮生に向けて報告がある』

 

(お姉様!?)

 

『二年の御坂美琴です。夜分遅くに申し訳ありません。私事で恐縮ですが、わたし、御坂美琴は先日とある高校一年の上条当麻氏と婚約いたしましたことをご報告申し上げます。なお、この件に関しては常盤台中学に報告済です。以上、ご静聴ありがとうございました』

 

ピンポンパンポーン

 

「……………………は?」

 

ぽかんと口を開け、主のいないベッドを見つめる。

 

(なんですの?お姉様と上条さんが婚約…??)

 

まるで何かに殴られたかのような眩暈にも似た感覚が少女を襲った。

 

―――婚約。それすなわち男女が将来における結婚の約束をすること。

 

「婚約ぅぅぅぅっっ!?」

 

そんな少女の叫びは、ほぼ同時に寮内から湧き上がった嬌声によって掻き消されるのであった。


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