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14:30 風紀委員第一七七支部
「ねえ初春さん。白井さん、どうしちゃったの?」
「し、白井さんがどうかしましたか?固法先輩」
「何か元気が無いのよね。上の空って言うかなんて言うか…」
「あー。たぶん御坂さんが原因です」
「御坂さんが?どういうことかしら?」
「固法先輩、白井さんが御坂さんを慕っているって知っていますよね?」
「ええ、まあ」
ツインテールの少女がルームメイトで同じ学校の先輩である御坂美琴のことを、様々な意味で慕っているのは知っている。
「昨日、私は非番だったので、佐天さんと一緒にセブンスミストへ行ったんですけど、御坂さんとお会いしたんですよ」(本当は佐天さんの案で御坂さんを探しに行ったんですけど)
「あなたたち、本当に仲がいいわね」
「あはは。まあ、そのときですね、御坂さんは一人じゃなかったんです」
「白井さんはそのとき巡回中だったから、白井さんじゃないわよね?」
「ええ。御坂さん、彼氏さんと一緒だったんですよ」
「え?」
「御坂さんは彼氏さんと一緒にセブンスミストに来ていたんです」
「か、彼氏?御坂さんに?」
「はい。手を繋いで名前で呼び合ってました」(ホントは佐天さんが呼ばせたんだけど)「御坂さんも彼氏って紹介してくれましたし」
「へえ。御坂さんやるわね。じゃあ白井さんの様子がおかしいのは、御坂さんに彼氏ができたからなのかしら?」
「おそらくは。と言うかそれしか考えられないですね」
「最近の中学生は進んでるわね」
「あ、御坂さんの彼氏さんは高校生ですよ」
「いったい、どういった経緯で知り合ったのかしらね?ちょっと興味あるわ」
「御坂さんがスキルアウトを更正させようとしていたときに、スキルアウトに絡まれていると思って助け出そうとしたのが彼氏さんで、それからみたいですけど…」
「まったく、御坂さんてば。危険だって言ってるのに。今度会ったら釘を刺しておかないと」
「私も注意したんですけどねー。あ、彼氏さんから言ってもらえば良いのか。御坂さん、彼氏さんの前だとすごく可愛かったし」
「機会があったら御坂さんの彼氏に注意してもらいましょう。…それで、御坂さん、どんな風に可愛かったの??」
「もじもじして上目遣いで彼氏さんのことを呼んだりとか、嬉しそうに寄り添ってたりとか」
「み、見てみたい気がするわ。そんな御坂さん」
「あはは。そのうち街で見ることができますよ。きっと。ラブラブでしたから」
風紀委員といえども年頃の女の子。まして知人の恋愛事情となると、知らず知らずのうちに話が盛り上がってしまうのであった。
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15:00 とある高校男子学生寮の一室
「当麻。意外と器用ね」
「ふっ。上条さんの料理スキルを侮ってもらっては困ります」
「普通に包丁で皮を剥けるのには驚いたわ。授業でも普通はピーラー使うし」
「何かあれ苦手なんだよな」
「慣れればピーラーも具合いいわよ」
「まあそうなんだろうけど」
「ふふ。でもこうやって一緒に料理するなんて、考えたことなかったわ」
「そういえば、夕飯作ってくれた時って、台所に入れてくれなかったよな?どうしてだ?」
「あ、あの時は付き合ってなかったから、一緒に料理なんてできるわけないじゃないの馬鹿!」
「なんでだよ?」
「ここ狭いじゃない。…アンタと肩とか手なんか触れちゃったら料理なんてできないって思っちゃって…」///
真っ赤になって視線を逸らすと、少女は恥ずかしそうに身を捩った。
「そ、そっか。いや、なんていうか、ゴメン」
「…何で謝るのよ」
「いや、そこまで惚れられてたのに、全然気づいてやれなくてさ」
「本当よ。苦労したんだから」
「悪い」
「…でも、今こうして当麻と一緒に居られるから、いいんだ」
「俺も、今こうして美琴と一緒に居られるのは嬉しい」
「ホント?」
「ああ」
「ねえ、当麻。ちょっと困ったことになっちゃったんだけど」ウワメヅカイ
「どうした?」
「料理中なんだけどさ、ぎゅってして欲しくなっちゃった」エヘ
「そ、そっか。…じゃあ、とりあえず鍋に水を入れて、切った野菜をその中に入れて…と」
「ちょっと、何スルーしてるのよ」
「…こいつをコンロにかけて…と」
「…馬鹿」シュン
「…よし、お次は、ぎゅー…と」ウシロカラ ダキツキ
「ふぇ!?」///
「お求めはこちらでよろしかったでしょうか?姫」ギュッ
「うん。…ありがと」
「どういたしまして」
「ね?お鍋が煮えるまで、このまま?」
「お望みのままに」
「じゃあ、このままで」
「ああ。わかった」
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19:30 とある高校男子学生寮の一室
「片付け終わったぞー」
「お疲れ様」
台所からリビングへと戻ると、少年はテーブルの上で何かを弄っている少女の前に座る。
「何してるんだ?」
「ふふ。ゲコ太もピョン子もケロヨンも可愛いわ」ニヤニヤ
「ホント好きだな」
「当麻もこの良さが判ってくれると嬉しいんだけどなー」
「いや、男子高校生がそういうのを前にしてニヤニヤしてたらやばいだろ。常盤台のお嬢様がニヤニヤしてるのもアレかもしれないけどな」
「べ、別にいいじゃない!誰かに迷惑かけているわけじゃないんだし!」
「まあ、俺の部屋とか自分の部屋ならいいけど」
「じゃあ問題なし」
「ま、そうだな」
少女は六種類のクリスマスオーナメントを弄びながら、そのうちのひとつ、クリスマスツリーの下にゲコ太とピョン子が立っているものを手に取った。
(…そうだ。これをあの紐に掛ければ)
立ち上がると、頭の上にあった部屋の蛍光灯の紐に手に持っていたクリスマスオーナメントを結んで再び腰を下ろす。
「えへ。一応、クリスマスツリー。机の上に立たなから結んじゃった」
「お。いいんじゃないか」
「食べる前に気付けば良かったんだけどねー」
「いやいや、充分すぎるほどクリスマスしてました。ホント、美味しかった」
「良かった」
そう言って小さく微笑むと、少女は真っ直ぐに少年を見て、先ほど結んだクリスマスオーナメントを指差した。
「あのさ。これ、クリスマスツリーってことでいい?」
「ん?いいと思うぞ」
「じゃあさ、ツリーの下に女の子がいるんだけど、当麻は何もしないの?」
「どういうこと?」
「…ヤドリギなんだけど」
「ヤドリギ?」
「もしかして知らない?」
「…悪い」
「別に謝らなくていいんだけど。えっとね、クリスマスの日、ツリーに飾られたヤドリギの下に居る女の子には、キスをしていいことになってるのよ」///
「え?」
「もちろん、女の子に断られたらしちゃ駄目だけどね。はい。説明終わり」
「ええと、…つまり、美琴さんはその…?」(キスしてもいい…のか?)
顔を赤くする少年を上目遣いで見ながら、少女は小さく言った。
「…当麻なら、その、断らないわよ」///
「そ、そうか」
ごくりと唾を飲み込んで少年は立ち上がると、少女の前へと歩いて行き、その肩に手を置く。
「いいんだな?美琴」
「…」
返事の代わりに少女はゆっくりと瞼を閉じた。
「…」
「…」
柔らかな感触がお互いの唇を刺激する。軽く触れるだけの優しいくちづけ。
「…えへ。ファーストキス」(夢、じゃないよね?当麻、キスしてくれたんだよね?)
「上条さんもファーストキスですよ」(夢、じゃないよな?美琴とキスしたんだよな?)
「そっか。嬉しいな」(もう一回、したいな)
「美琴…」(可愛いな。美琴)
「お返し、するね」(いいや、わたしからしちゃえ)
「…んぅ!?」///
「ん…」チュッ
先ほどの触れただけのものとは違い、少し唇を吸ってみる。言葉に言い表せない気持ちが少女の中を走った。
(ちょっとだけ、当麻を奪ったような気がする)///
「…美琴」(俺も…)
「んっ!?」
「…」チュッ
少女がしたのと同じように、軽く唇を吸う。蕩けそうな感覚が少年を襲う。
(こ、これって、奪われてる感じがする)///
「…ヤバイな、コレ。止まらなくなりそうだ」///
「…もう一回だけ」チュッ
「…ん」チュッ
しばらくの間、お互いに唇を吸い合う。しばらくしてから名残惜しそうに唇を離すと、少年は少女を抱きしめた。
「好きだ。美琴」
「わたしも好き。当麻」
「キスでこんな気持ちになれるって、凄いよな」
「うん。キスって凄いね」
「こんな気持ちになれるのは、美琴とだから。…美琴とだけだから」ギュッ
「わたしも、当麻とだけだから。当麻じゃなきゃこんな気持ちにならないんだから」ギュッ
「ありがとう。美琴」
「ありがとう。当麻」
お互いに素直な感謝の気持ちを伝えると、なんだか可笑しくなってきて、気が付くとふたりで顔を見合わせて笑った。
「なにやってんだろうな、俺達」
「ホント。でも、素直に言いたいこと言いあえるのって、嬉しい」
「ん。そうだな」
「だから…、ねえ?…もう一回、しよ?」
「み、み、み、美琴センセー!!その言い方はエッチすぎます」///
「エ、エ、エ、エッチってどういうことよ!?」///
「アレのおねだりにしか聞こえません…ハイ」///
「ア、ア、ア、ア、アレって何よ!?」///
「えーっと…、エッチの最終段階?」///
「ど、ど、ど馬鹿ああああああっっ!!」///
「あーもー!!男子高校生の性欲舐めるなって言ってるだろうが!」///
「あ…う…。と、当麻は、その、わたしのこと、そういう目で見てくれてるんだ?」///
上目遣いの少女の言葉に、少年はビクッと身体を震わせた。
「お前…それ、反則」(可愛すぎるんだよお前)
「え?何か言っちゃいけないこと、言った?」
「…もう喋らないようにその口を塞ぐことにする」
「え!?…んむっ!?」///
唇を重ね、舌先で相手の唇を軽く舐めながら少しづつ差し込んでいき、湿った場所に触れる。
(これって美琴の…)
(し、し、舌!?いわゆるこれって大人のキスってやつ!?てかわたしもしないと!?)///
ぬるっとした感触がお互いの舌先に触れた瞬間、ふたりはほぼ同時に唇を離した。
「わ、悪い」
「わ、わたし、舌出しちゃ駄目だった!?」
「え!?いや、その、イヤじゃなかったか?」
「こ、こ、恋人のキス…でしょ?イヤじゃない、わよ?」
「いや、もう、でも、その…」///
「今度は、わたしが塞いじゃおっと♪」
「んんっ!?」///
(い、入れちゃっていいのかな?いいよね?)///
(なにこれ!?なにこれ!?舌、シタ、したぁぁぁ!?)///
(あ、歯だ。この下が…舌よね?)///
(舐めていい、のか?やべ、ディープキスってやつかこれ?)
(やだ、唾が垂れそう。…ええい吸っちゃえ)チュル
(やべ、吸いたい。いいか。吸っちまえ)ジュル
最初はぎこちなく、徐々に大胆にお互いの舌を絡ませながら、ふたりはその行為に没頭するのであった。