クリスマス狂想曲   作:神納 一哉

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過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


17 12月24日 見つめる先

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13:30 第七学区 スーパーマーケット内

 

ツンツン頭の少年の押すショッピングカートの籠の中に、茶髪の少女が食材を入れていく。

 

「あの、美琴センセー?」

 

「ん。なーに?」

 

「なんか量が凄いんですけども」

 

「シチューみたいな煮込み料理ってさ、たくさん作った方が美味しいのよ。それに、インデックスもたくさん食べるでしょ?」

 

「いやー、何か悪い気がして」

 

「わたしが好きでやってるんだから気にしないの。それに、か、彼氏と過ごす初めてのクリスマスだし、気合入っちゃうんだから」///

 

「上条さんは幸せ者です」///

 

「えへへ。他に何か食べたいものある?」

 

「ビーフシチューにポテトサラダにローストチキンがあれば十分だと思います。ケーキは店先で売ってたのでいいよな?」

 

「さすがにケーキまで焼く時間ないしね」

 

「飲み物は…と、アレでいいか?ゲコ太のクリスマスオーナメント付いてるぞ」

 

そう言って少年が指差した場所に、サンタのコスチュームを着たゲコ太の絵が描かれたポスターが貼られているクリスマスカクテル(ノンアルコール)が置いてあった。

 

缶の上にプラスチックの蓋のようなものが被されていて、その中に入っているキャラクターのラベルが貼られている。

 

「全六種か。買いね」

 

「味は三種類だから、それぞれ二本ずつ買おうぜ」

 

「うん。…えへ。サンタピョン子可愛いなあ」

 

「…可愛いな」ボソ

 

「ア、アンタもそう思う!?可愛いわよね!」(ついに当麻もゲコ太の良さに気付いてくれた!?)

 

「ああ。可愛いぞ。美琴」

 

「ふにゃっ!?」///

 

「思わず笑顔に見惚れてしまいました」///

 

「えへへ…」(可愛いって言われちゃった)///

 

「美琴…」

 

「当麻…」

 

見つめ合うふたりには、周囲など見えていないのであった。

 

――――――――――

 

14:00 第七学区 ファミリーレストラン内

 

「ボク飲み物入れてくるけど、姫神ちゃん、何にする?」

 

「んー。ティーポットとダージリン。お願いしてもいい?」

 

「ええよ。ついでやし。砂糖とかはいる?」

 

「いらない」

 

「ほな、ちょっと行ってくるわ」

 

「うん」

 

青髪の少年はドリンクバーへと歩いていく。その背中に視線を送りながら黒髪の少女は小さく微笑んだ。

 

(加点1かな)

 

トレイの上にソーサーとティーカップ、ダージリンのティーパックを置き、ティーポットにお湯を注ぐ。

 

(これって、デートと思ってもええんかな?)

 

ティーポットをトレイに載せ、コーヒーカップをドリップマシンに置き、ブレンドコーヒーのボタンを押しながら、青髪の少年は昨日の友人の姿を思い出していた。

 

(いやいや、カミやんみたいにラブラブなのがデートなんやろうな。ボクと姫神ちゃんはまだ、友達同士のショッピングってとこやね)

 

砂糖とミルク、ソーサーとスプーンをトレイに載せるのとほぼ同時に、ブレンドコーヒーが出来上がった。

 

(ま、カミやんは元から好かれてたっぽいしなあ)ハァ

 

コーヒーカップをトレイに載せ、少女のいる席へと戻るために歩き出す。

 

(ちょっとは、仲良うなれたと思うんやけど)

 

席に戻りテーブルの上にトレイを置く。

 

「お待たせ。…ホンマに砂糖とか要らんかった?」

 

「うん。ありがとう」

 

少女がティーパックの袋を取り出して、ティーポットの中に入れると、透明のお湯がたちまち琥珀色に染まっていく。

 

「なんか、一瞬で色が変わると感動するわあ」

 

「ふふ。私もそう思う」

 

コーヒーに砂糖とミルクを落としてかき混ぜながら、少年はティーポット越しに少女を見る。

 

「…綺麗やな」ボソ

 

「青ピ君。意外と詩人?」

 

「そうやなあ。ボク、ロマンチストやもん」

 

「確かに。クリスタル細工を見て綺麗って言える男子って珍しいけど」

 

「綺麗なもんは綺麗って言っても、別に悪くないやろ?」

 

「うん」

 

少女がティーポットを持ち上げ、ティーカップに紅茶を注ぐ。少年はそんな少女の顔に視線を向けて呟いた。

 

「…綺麗や」

 

「ふふ。青ピ君も紅茶にすればよかったのに」

 

「…姫神ちゃんが、やで」

 

「え?」

 

まっすぐに少女を見て、少年は言う。

 

「姫神ちゃんが綺麗やって、言ったんや」///

 

「私?」

 

「うん」

 

「もしかして。からかってる?」

 

「ボク、本気やで」

 

「…」

 

少女は胸元に右手を置き、服越しに十字架に触れる。

 

「私は。別に綺麗じゃないと思うけど」

 

「それは謙遜やで。姫神ちゃん」

 

「そうかな?」

 

「うん。姫神ちゃんは美人やし、魅力的な女の子や」

 

「いきなりそんなこと言われても。困る」

 

視線をティーカップに落としながら、少女は言った。

 

「ゴメン。でも言いたかったんや」

 

「どうして?」

 

「昨日と今日で姫神ちゃんとボク、少しは仲良うなれたと思ったんや。一緒にクリスマスオーナメント選んでもろうたり、プレゼント受け取ってもらえたり、食事したりして、姫神ちゃんと仲良うなれたと思ったんや」

 

「…」

 

「そしたらな、ボク、馬鹿やさかい。舞い上がってしもうて、姫神ちゃんも同じ気持ちかと思うてしもうて」

 

「…」

 

「今なら姫神ちゃんが綺麗やって、ずっと思ってたこと。伝えられるかなって」

 

「青ピ君…」

 

「はは。なんかカッコ悪いなあボク」

 

「…そんなこと。ないよ」

 

そう言うと少女は横に置いてあるバッグから何かを取り出し、掌に載せて少年へと差し出す。

 

「これ。クリスマスプレゼント」

 

「…ボクに?」

 

「うん」

 

「開けてもええ?」

 

「うん」

 

袋を開けて小箱を取り出し、小箱の中身を見て少年は目を見開いた。

 

「え!?これ…」

 

小箱の中にあったのは赤いガラス球が嵌め込まれた金色のピアスだった。少年が少女に贈ったイヤリングと同じデザインである。

 

「…一応。お揃い」

 

「そ、そやな」

 

「それだけ?」

 

「いや、いきなりやったから、なんて言ってええか判らなくて」

 

「困るでしょ?さっきの私と同じ」

 

そう言って少女は小さく微笑む。

 

「姫神ちゃん…。ボク」

 

少年が何か言おうとするのを、少女は自分の唇に人差し指を縦に当てる仕草で止めた。

 

「今はまだ。友達でいた方がいいと思う」

 

「姫神ちゃん…」

 

「雰囲気に流されているだけかもしれないし。お互いをもう少し知ってからの方がいいと思う」

 

「ボクはクリスマス前から…」

 

「見た目だけじゃわからないし。私のこと知って欲しいし。…青ピ君のこと知りたいし」

 

少年が何か言おうとするのを少女は言葉で遮った。最後の方はほとんど聞こえないほど小さな声で。

 

(そんな急になんて。切り替えられないし)

 

―――ただのクラスメイトからいきなり恋人というのは無理がありすぎる。順番的にもまずは友達から。うん。別に変じゃない。はず。

 

「とりあえず。連絡先交換しよう」

 

「ええの?」

 

「うん」

 

少女はバッグから携帯を取り出し、赤外線データ受信モードに切り替える。

 

「ほな、送るで?」

 

「…受信完了。じゃあ次は私が」

 

「っと、準備OK」

 

「じゃあ送信」

 

「…姫神ちゃんのアドレスゲット。ボク、感激やわ」

 

「それは。大げさ」

 

「大げさやないんやけどなあ」

 

「そう言ってまた困らせる。…減点1」

 

「また減点!?てかそれって何の点数なん?」

 

少女は少年を見ると、自分の顎に人差し指の先を当てて小さく微笑んだ。

 

「青ピ君の点数。かな」


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