クリスマス狂想曲   作:神納 一哉

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過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


16 12月24日 デート

――――――――――

 

10:00 セブンスミスト前

 

青髪の少年と巫女装束が似合いそうな黒髪の少女は、ショッピングモール前のバス亭からショッピングビルへ向かって歩いていた。

 

「今日もええ天気やなー。ホワイトクリスマスは望めなさそうやけど、出かけるにはちょうどええなー」

 

「でも空気が冷たいから。雪が降っていなくても長時間外にいるのは辛い」

 

「じゃ、とりあえず、中に入ろか」

 

「うん」

 

ビルの中に入り、あてもなくぶらぶらとファンシーショップやアクセサリーショップの店先を冷やかす。

 

「姫神ちゃん。今日も付き合うてくれてありがとな」

 

「別に。暇だったから」

 

「せや、姫神ちゃん。何か欲しいものある?」

 

「んー。服とかはこの前吹寄さんと見にきたし」

 

「ひ、姫神ちゃん。男が服を贈る意味、知ってるやろ?」アセアセ

 

「ん?服は見に来たばかりだからいらないってことなんだけど」

 

「どわぁ!今言ったこと忘れてや!」(何やってんのや!)///

 

「?」

 

「じゃ、じゃあ、アクセサリーとかは?」

 

「んー。あんまりちゃらちゃらした物は着けたくないなあ」

 

「そ、そっか」

 

「ピアスって。痛くない?」

 

「ボクはそんなに痛くなかったけど。姫神ちゃん、興味あるん?」

 

少女は自分の耳たぶを弄りながら首を傾げる。

 

「やっぱりいいや」

 

「着けピアスってのもあるんやで?」

 

「着けピアス?」

 

「粘着テープみたいので貼るやつ」

 

「なんか。痒くなりそう」

 

「姫神ちゃん、肌弱いん?」

 

「んー。どうだろ?」

 

「もし何か着けるとしても、無理にピアスやなくて、イヤリングで全然問題ないと思うで」

 

「まあ。そうなんだけど」

 

「実はボクを見て、ピアスしてみたいとか思ってくれたとか?」

 

「ピアス着けてるの。クラスじゃ青ピ君だけだしね。それから考えると。ちょっとは影響してるかもしれない」

 

「嬉しいわあ、ボク。…少しは期待してもええ?」

 

「え?何を?」

 

「姫神ちゃんともっと仲良うなれるって思ってもええ?」

 

少年はまっすぐに少女を見る。心なしか頬が少し赤くなっているようにも見えた。

 

「…少なくとも昨日よりは。仲良くなってると思うけど」

 

「え?」

 

「そうじゃなければ。わざわざ待ち合わせまでして一緒に買い物なんて来ないし」

 

早口でそう言うと、少女はくるりと身を翻らせて歩き出した。

 

「…減点かな」ボソ

 

「ちょ、待ってや。姫神ちゃん!?」

 

「待たない」

 

「堪忍してや!姫神ちゃん!」(姫神ちゃんがボクに『減点』て、『待たない』って、なんやこれ!?)

 

少年が慌てて駆け寄ると、少女は口元を小さく綻ばせながら言った。

 

「次はどのお店を見ようか?」ニコ

 

――――――――――

 

10:45 第七学区 ゲームセンター ラヴリーミトンプリクラ内

 

「じゃ、じゃあ、後ろから抱き着いてくれるかな?」///

 

「こうか?」

 

少女の肩に顎を乗せ、腋の下に腕を通して少女のお腹の辺りに左手を置き、右手で自分の肘を掴む。

 

「えへ。後ろから抱きしめられちゃった」///

 

言いながら少女は少年の左手を自分の右手で押さえ、嬉しそうに微笑む。

 

「…ええと、美琴さん?」///

 

「どうしたの?」

 

「なんと言いましょうか、この格好はですね、いろいろマズイと上条さんは思うのですが」///

 

「少しの間だからいいじゃない。…イヤなの?」

 

「イヤじゃないけど…その」///

 

「なによ?はっきりしてよ」

 

「ええと…怒らない?」(後ろから抱きついてる俺の手を、自分で胸に押し付けてるのが判らないのかあああああ!!)///

 

「なんか変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」

 

「上条さん的には大変嬉しいことなんですけど、…お前が右手で押さえてるもの」///

 

「ん?アンタの手よね?」

 

「うん。で、俺の手は何を押さえてる?」///

 

「え?」

 

少女の右手は、後ろから回された少年の手の甲を上から押さえていて、少年の左手は、少女の右胸を包み込むような形になっていた。

 

「あ、あぅ…」///

 

「ほら、右手を離せ、離そう、離しましょう美琴センセー」///

 

「…このままでいい。後ろからぎゅってされてる写真欲しいんだもん」///

 

「上条さんの理性が臨界点を超えそうですよ!美琴センセー」///

 

「ほ、ほら、カメラ見て、笑って」

 

ぎゅっと少女の右手が少年の左手を握る。

 

「お、おう…」(て、掌に柔らかな感触があああああ!!)///

 

フラッシュが光って撮影の終わりを告げる。だが、ふたりはそのまま動かない。

 

「ほ、ほら、終わったぞ?」

 

「うん」///

 

「離さないと、上条さん左手をにぎにぎしちゃいますよ?」

 

「ふぇ!?」(に、にぎにぎって!?)///

 

「だあああ!!右手を離しなさい美琴センセー!ホントににぎにぎするぞ!」///

 

少女は慌てて手を離し、少年も速やかに戒めを解く。少女は自分を抱くように胸を隠しながら、キッと少年を睨んだ。

 

「な、何言ってるのよアンタ!馬鹿!スケベ!」///

 

「お、俺の手を胸に持っていったのはお前だぞ!」///

 

「だ、だって、…ぎゅってして欲しかったんだもん」ショボン

 

(そんな風に言われたら怒れないじゃないか)「…あー、ゴメン。俺が引っ張られるまま手を動かしちまったから触っちゃう形になったんだな」

 

「え?」

 

「美琴も良く考えて行動するようにすれば、こういうことも減るだろ?」

 

「う、うん」

 

「ってことで、この話題はこれまで。な?」

 

「…なんか強引に纏められた気がする」

 

「あのな。折角のデートなのに喧嘩するのは嫌だろ」

 

「まあ、そうだけど」

 

不満そうな少女の肩に手を置いて前に向かせると、少年は画面を指差して言った。

 

「ほら、じゃあ次のフレーム選ぼうぜ?」

 

「…じゃあ、一番上のゲコ太とピョン子のやつ」

 

「俺が右、お前が左でいいのか?」

 

「うん」

 

「これはどんな格好で?」

 

「…また、ぎゅってしてくれる?」

 

「手、気をつけてな」

 

「…別に当麻になら触られてもいいんだけど」///

 

「いきなりそういうこと言わないの!」///

 

「なんでよ?」

 

「抑えがきかなくなるだろうが。美琴さんは自分の魅力についてもっと真剣に考えるべきだと思います!」

 

「み、魅力?」

 

少女の後ろから抱きつき、手で自分の肘を押さえるようにして事故を防ぎながら、少年は囁いた。

 

「あんなこと言われたら止まれなくなるぞ。上条さん、健全な男子高校生ですから」

 

「!?」///

 

「こんなところでなんて、美琴も嫌だろ?誰が見てるかもわからないし」

 

「うぅ…」

 

「まー、くっつきたいのは上条さんも同じだから、お互い注意しような」

 

「うん。注意する」

 

「素直な美琴、可愛いな」ギュッ

 

「ふにゃ!?」///

 

抱きついたまま、少女の肩に顎を乗せて目を閉じる。

 

「あー、なんか安心する。ちょっとだけ、こうしててもいいか?」ギュッ

 

「う、うん」(と、当麻がわたしに甘えてる!?)///

 

(いい匂いだなー)ポー

 

「ね、ねえ?そのままでいいから、一枚撮っちゃっていい?」

 

「別にいいけど、いい写真にはならないんじゃないか?」

 

「わたしから見るとすっごくいい感じなのよ」(当麻が甘えてくれるなんてこの先あるかわからないし)///

 

「じゃ、撮り終わるまでこのままにしてる」ギュッ

 

「うん。ありがと」///

 

それから少なくとも五分もの間、ラヴリーミトンプリクラで撮影が行われることは無かったのであった。

 

――――――――――

 

11:30 セブンスミスト アクセサリーショップ

 

店先のショーウィンドウを覗き込み、青髪の少年は言った。

 

「お、この店、値段も手頃やし、デザインもええわあ」

 

「ピアス?」

 

「うん。あの青い石が入ってるのなんて、いいと思わん?」

 

少年が銀色の台座に青いガラス球が埋め込まれているピアスを指して言う。

 

「ピアス。髪に合わせてるの?」

 

「いや、別にそういうわけやないけど。シンプルでええなあと思って」

 

「そっか。今。着けているのも青い石だから。髪に合わせているのかと思った」

 

「たまたまやで。まあ、確かに青は好きな色やけど」

 

「私は。赤の方が好きかなあ」

 

「姫神ちゃん、赤、好きなん?」

 

「んー。好きって言うかアクセントとしてはいいかなって」

 

「そっか。そっちにイヤリングあるで?」

 

「どれ?」

 

イヤリングに視線を移し、ピアスで見ていたのと同じようなシンプルなデザイン-クリップの前面が台座になっていて、そこにガラス球が埋め込まれている-のものを探す。

 

「あ。これ良いかも」

 

そう言って少女が指したのは、クリップの前面に赤いガラス球が埋め込まれた金色のイヤリングだった。

 

「それ、気にいったん?」

 

「うん」

 

青髪の少年は少女が指したイヤリングを見つめながら口を開く。

 

「…姫神ちゃんがよければ、それ、ボクにプレゼントさせてや」

 

「え?」

 

「姫神ちゃんにクリスマスプレゼントを買うってのが、今日の目的やねん」

 

「そうだったんだ」

 

「うん。その、迷惑やったらやめるさかい」

 

視線をイヤリングに落としたまま、少女は思案する。

 

今いるアクセサリーショップは学生をメインターゲットにした店のようで、値段的にも貰うのに抵抗があるというほど高価なものではない。

 

友達同士でアクセサリーをプレゼントし合えるような店だった。

 

(…友達としてなら。貰ってもいいかな)「じゃあ。お言葉に甘えて」

 

「え?」

 

「ありがとう」

 

「ホンマ!?すんませーん。このイヤリングください。あ、プレゼント包装で頼んます」

 

少年が店員を呼んだ後、少女は少し躊躇いがちに声をかけてくる。

 

「青ピ君。ちょっと。席はすずね」

 

「あ、うん。ほな、ボク、一階の階段の前で待っとるから」

 

「うん。じゃあ。後で」

 

「うん」

 

少女の背中を見送って、少年はひとつ大きな溜息をついた。

 

(とりあえず、受け取ってもらえるんやし、少しは期待してもええんかなあ?)


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