クリスマス狂想曲   作:神納 一哉

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過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


13 12月23日 許嫁

――――――――――

 

手を繋いでバス停へと向かう途中、少年の携帯電話が鳴った。右手で携帯電話を取り出して画面を見る。

 

「小萌先生か。なんだろ?ちょっとゴメン」

 

「うん」

 

「もしもし…」

 

『上条ちゃんはお馬鹿さんですから、シスターちゃんは今日、先生の家にお泊りなのですよー』

 

「インデックスを預かってくださるのは助かりますが、なんなんでしょうか?その棘のある一言目は!?」

 

『明日のクリスマスパーティーは女の子限定ですから、上条ちゃんは来ちゃ駄目なのですよー』

 

「スルー!?そして上条さんにご馳走を食べる権利が無くなった!?」

 

『上条ちゃん?大事な人がいるのに、クリスマスに先生に世話になろうなんて思っちゃいけないのですよー?』

 

「大事な人?え?え?」

 

『御坂美琴さん、でしたか?上条ちゃんも隅に置けませんねー』

 

「う、え…」(な、なんで知ってるんだ!?)

 

『今もデート中なのでしょう?』

 

「ま、まあ…」///

 

『ふふふ。壁に耳あり障子に目ありですよ。上条ちゃんと常盤台の子がデートしているって聞いたものですから』

 

「まいったな…」

 

『ひとつだけ聞かせてください。上条ちゃんは、御坂さんを選んだのですね?』

 

「…いまいちなにを聞かれているのかがわからないのですが?」

 

『上条ちゃんの周りにいる女の子の中で、一番大事な人は御坂さんということでいいのですよねー?』

 

「あ、えーっと…。はい」///

 

『じゃあクリスマスは御坂さんと仲良くするのですよー。あ、でも、学生としての節度は守るのですよー』

 

「なっ!?」///

 

『ではでは、良いクリスマスをー』

 

「ちょ、ちょっと!?小萌先生!?」

 

一方的に通話を切られ、少年は困惑して携帯を見る。

 

「どうしたの?」

 

「ん?小萌先生がインデックスを今日泊めるってさ。それで、明日のパーティーは女性のみでやるから俺は来るなって。それで、クリスマスは美琴と過ごせってさ」

 

「ア、アンタとわたしのこと、何でアンタの先生が知ってるのよ!?」///

 

「あー、青ピから連絡行ったか、誰かに見られたのかもしれない」ウーム

 

「何でアンタそんなに冷静なのよ?」

 

「ん?だって俺たち許婚だろ?親公認だし、別に隠す必要も無いかなって」

 

「~っ!!」カァッ

 

「自分も独占欲強いとか言っておいて、何で照れてるんでしょうね美琴さんは」

 

「うぅ。それはそうだけども…」(やっぱり恥ずかしい)///

 

「ま、ゆっくり慣れてけばいいよな」ニコッ

 

「…うん」

 

「さて、と。じゃあ今日の夕飯と明日の食事はどうするかなあ」

 

「あ、そっか。あの子いないんだっけ」

 

「そうなんですよ。ま、今日は適当に作るとして、明日は…、明日もデートしようか」カァッ

 

「デ、デート!?」///

 

「今日みたいにショッピングでもいいし、どこか遊びに行くのでもいいし」

 

「う、うん。…あ、あのさ?」

 

「ん?どこか行きたいところとかあるか?」

 

「そうじゃなくって、その、さ。…今日の夕飯とか、明日のご飯とか、作ってあげようか?」

 

「…ホントに?」

 

「うん」

 

「うわ。すっげえ嬉しい」

 

「ふふ。じゃあ、スーパー寄っていこう。何か食べたいものとかある?」

 

「美琴センセーにお任せします」

 

「じゃ、行こっか」ニコッ

 

少年に向かって微笑むと少女は手を引いて歩き出す。その顔はとても楽しそうであった。

 

――――――――――

 

「御坂」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

スーパーで買い物をして、少年の家でカレーなどを作ってから門限ぎりぎりの時間に寮へ戻ると、寮監から声をかけられた。

 

「ちょっと私の部屋へ来てくれ」

 

「わかりました」(なんだろう?)

 

部屋に入り、促されるままダイニングテーブルの椅子に座る。部屋の主はティーカップとティーポットをテーブルの上に置き、少女の対面に座る。

 

「飲むか?」

 

「いただきます」

 

「砂糖はいるか?」

 

「いえ」

 

「そうか」

 

寮監は優雅に紅茶を一口飲むと、音を立てずにソーサーにカップを置き、まっすぐに少女を見た。

 

「まずは、おめでとう。と、言っておこう」

 

「は?」

 

「…婚約だ」

 

「…は、はい」///

 

「お前を呼んだのはその件だ。常盤台は淑女を教育するための学校でもあるから、親公認で許婚ができることもまあ珍しくは無い。だが、正直に言うと、私にはお前に許婚というのは想定外だった」

 

「…」

 

「話が逸れたな。とりあえず、許婚がいる場合、門限や外泊に関しての規則が緩和されることになる。もっとも、届出は必要になるが。…まあ、お前の場合は研究協力なども多いから今までとあまり変わらないかもしれないが」

 

「…」

 

「あとは、その、親公認である場合は、薬剤が処方される。なるべくはやく薬局へ行って処方してもらってこい。これが処方箋だ」ペラ

 

「はい。わかりました」(薬?)

 

処方箋に目を通した少女の顔が一瞬で紅に染まる。

 

(こ、これ、これ、これって~~~!!)///

 

薬剤の備考欄には『常盤台中学校 特措×-○における対象生徒 健康管理のための処方 エストロゲン調整剤 PI:0.1 要継続摂取』と記されていた。

 

授業で習っているため、エストロゲン調整剤の意味を少女は知っていた。エストロゲン調整剤、簡単に言えば経口避妊薬である。

 

「まだ早いとは思うが、なにぶん相手もあることだし、学校としては不測の事態を避けるためにもあらかじめ処方することにしている」

 

「あ、あはは~。わたしにはまだ早いと思いますけど」///

 

「服用は月経が終わってから、準備期間は一週間だ。それまで、性行為は慎むように」

 

「せっ、せっ、せっ!!」アワアワ

 

「お前がまだ早いと思っているのはわかるが、男というものは征服欲が強い。まして許婚ともなれば家単位で法律よりも慣習を優先させる傾向がある」

 

「…」(ア、ア、ア、アイツと…)///

 

「御坂。私はな、寮監という立場上、そういった生徒を見てきた。だから、お前が傷つかないよう服薬をすることを勧めさせてもらう。傷つくのはいつも女の方だからな」

 

「…」

 

「私からは、常盤台の学生として、節度ある行動を心がけるよう行動してくれとしか言えない」

 

「…はい」

 

「次は装飾品についてだが、婚約指輪や慣習で引き継がれる貴金属は校則で禁止されているアクセサリー類からは除外される」

 

「…」///

 

婚約指輪という言葉に反応して、そっと左手に触れ、少女は頬を染める。その様子を見て、寮監は小さく首を傾げた。

 

「…御坂は、許婚に対して恋愛感情を持っているのか?」

 

「ふぇ!?」///

 

「いや、すまない。家の都合で婚約するものが多いから、お前みたいに嬉しそうにしているのは珍しいから…な」

 

「あ、えっと、はい。…好きです」///

 

「相手もお前のことを好いていてくれるのか?」

 

「は、はい」///

 

「…そうか。それは良かった」

 

「…わたし、恵まれてるんですね。好きな相手と、婚約できて」

 

「そうだな。だが、私は、婚約とは本来そういうものであって欲しいと願っている」

 

「…」

 

「だから、御坂。私はお前が相思相愛で婚約したということを、常盤台の寮監としてではなく、一人の知り合いとして祝福したい。おめでとう。御坂」

 

「あ、ありがとうございます」///

 

「ところで、公表はするのか?」

 

「友人以外には言わないと思います。まあ、すぐに広まるとは思いますけど」///

 

「そうだな。学校というものはそういう話に敏感だからな」

 

「…彼にも言われたのですけど、親公認だから、その辺は開き直ってしまおうかと思いまして」///

 

「許婚はどんな奴だ?」

 

「わたしよりも二つ年上で、お人よしで、おせっかいで、正義感が強くて、超能力者だろうがなんだろうが特別視しない人です」

 

「高校生か。超能力者だろうがなんだろうが特別視しないということは、学園都市の生徒か?」

 

「ええ、まあ」

 

「…そういえば一時期、常盤台の超電磁砲が追い掛け回している無能力者がいるという噂があったな。お前の相手はその噂の相手なのか?」

 

「うぇ!?」(う、噂になってたんだ)///

 

「幼馴染か何かか?」

 

「あー、幼馴染ではないです。でも縁があるというかなんというか…」

 

「見知った仲ではあるということか」

 

「まあ、そうです」///

 

「…学園都市で知り合って、親公認の許婚か。…それは運命の相手と言えるのではないだろうか」///

 

どこか遠くを見るような眼差しで、寮監は言うと頬を紅く染めた。

 

「…へ?」

 

「幾多の困難を乗り越え、将来を誓い合うふたり。そこにあるのは真実の愛」ウットリ

 

「りょ、寮監様?」

 

「…羨ましい」ボソッ

 

「あ、あはは」(あれ?寮監ってこんな人だった?)///

 

「…んっ、ゴホン。ともかく、おめでとう」///

 

「あ、ありがとうございます」(あ、戻った)

 

「…報告はいつでも受け付けるからな」

 

「ほ、報告なんてしません!!」(やっぱり戻ってない!!)///

 

「そうか。遠慮しないで良いのだぞ」ニコッ

 

「し、失礼します」(寮監が壊れた…)バタン

 

まるで年下の友人のように恋愛話を聞きたそうにしている寮監に恐れを抱いた少女は、すぐに立ち上がって部屋から出た。

 

(寮監も乙女だってことかしら…)ブルブル

 

幸い寮監が追いかけてくることはなかったので、そのまま自室へと足を向ける。

 

(そういえば黒子に文句言わないといけないわね。黒子のせいでアイツにパンツ見られちゃったし)///

 

軽く頭を振って恥ずかしさを振り払うと、部屋の扉を開けた。

 

「ただいま。黒子」

 

「……………………」ブツブツ

 

ルームメイトはベッドの上で体育座りをして、なにやら呟いていた。

 

「お姉様が類人猿と間接キスをしていただなんて黒子は認めないですの。でもお姉様が類人猿の口に付いたクリームを指で掬ってペロッと舐めたのは事実。いえ、あれはきっと何かの間違いですの。黒子は疲れていた。お姉様は実験をしていた。でも、実験をしていたお姉様は類人猿の好みで短パン+ゲコ太パンツを履かずに縞パンを履いていた。つまり類人猿によって穢されていて、そんなこと、そんなこと黒子は、黒子は認めないですの」ブツブツ

 

「アンタはなに呟いてるんじゃゴラアアアア」ビリビリ

 

「ああ~んっ!!愛の鞭ですのぉぉぉぉぉぉ!!」ビクンビクン

 

「てか、実験って何よ!アンタどんな妄想してるのよ!」

 

「…ハッ、黒子はなにも見ていません!お姉様とは会っておりませんの!縞パンなんて見ておりませんの!」(実験のことは秘密でしたの!)

 

(縞パンって、確か妹達が履いていたわよね…。妹達の一人が偶然、黒子に会って実験中とか言って誤魔化したのね、きっと)「そうよね。アンタは喫茶店でわたしの短パンずりおろしただけよねぇ…」ビリビリ

 

「お、お姉様!?落ち着いてくださいませ。あれは、お姉様の貞操を確認したかっただけですの」

 

「アンタねえ。デートの邪魔しておいて言いたいことはそれだけかしら?」

 

「デ、デ、デート!?今、デートと仰いましたの!?」

 

「ええ。アンタ、わたしのデートを邪魔したわよね」

 

「あ、あ、あの類…殿方とお姉様がデート!?」

 

「そうよ。わたし、当麻と付き合うことになったから」

 

「な、な、名前呼び…」ブルブル

 

「別に、彼氏のことを名前で呼んでもいいでしょ?」

 

「お、お、お姉様が、お姉様が殿方のことを彼氏と…。黒子は、黒子は、少し外の風にあたってきますの…」フラフラ

 

ツインテールの少女は虚ろな表情で立ち上がると、そのまま部屋から出て行った。

 

(なんか思ってたよりも静かだったわね。もっと騒がれると思っていたんだけど)

 

ベッドに仰向けになり、左手を上げて薬指を見る。

 

(許婚、かあ)ニヘラー

 

幸せそうな微笑を浮かべて、少女はしばらくの間、指輪を眺めるのであった。


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