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それぞれ、大きな紙袋を抱えて、巫女装束が似合いそうな黒髪の少女と背の高い青髪の少年が肩を並べてショッピングモールを歩いている。
「ホンマ助かったわ。ありがとな、姫神ちゃん」
「ううん。こちらこそ。ありがとう」
「どうして姫神ちゃんがお礼言うんや?」
「私も。クリスマスオーナメント買いに来たから」
「ってことは、もしかしてボク、姫神ちゃんとお揃いのツリー!?」ハッ
「お揃いってことは無いと思う。あと。小萌のツリーだし」
「小萌先生のツリー!?」
「明日。小萌の家でクリスマスパーティ」
「なんやて!?」
「女の子だけ。…あ。あの子は男の子だったかな?」
顎に人差し指を当てて考えるようなポーズをとりながら、少女が言うと、少年のこめかみにビキッっと青筋が浮かび上がる。
「…ボク、そいつに殺意が芽生えたで」
「ふふ。シスターの連れてくる猫だけど?」
「猫かい!」
「ふふ」
「…姫神ちゃん、案外、意地悪やな」
「そうかな?」
「うん。今のわざとやろ?」
「ふふ。どうかな?」
そう言って笑う少女を、背の高い青髪の少年は眩しそうに見つめていた。
(あかん。その笑顔は反則やで)
「どうしたの?青ピ君」
「んー?姫神ちゃんは今日も綺麗やなーって思って見とれてた」
「青ピ君は。お世辞がうまいね」
「お世辞じゃないで?姫神ちゃんはホンマに綺麗やし」
「ふふ。さっそく猫のお返し?」
「ま、そういうことにしておくわ」
「ふふ」
パステルピンクに彩られたクレープショップの前で青髪の少年が振り返る。
「さ、ついたで。姫神ちゃん、なに食べるん?」
「チョコバナナストロベリースペシャル」
「じゃ、ボクはハニーベリーズで。…おにーさん、作ってる間に自販機で飲みもん買って来てもええ?ほな、ちょっと行ってくるわ。姫神ちゃん、なに飲む?」
「んー。ココア」
「おっけー。ほなちょっとここで待ってて」
「うん」
そう言うと青髪の少年は自動販売機まで走っていき、飲み物を二本買うと、また走って戻ってくる。
それから店先に置かれたベンチに持っていた紙袋を置いて、手招きをした。
「姫神ちゃん、ここ、ここ座って」
「わかった」
「はい、ココア」
「ありがとう」
「お、クレープできたみたいやな?もろてくるからちょっと待ってて」
「うん」
「おおっ!?スペシャルってごっついなー。スプーンまで刺さってるんや。…ほなこれで。おおきに。姫神ちゃん。お待たせ」
「ありがとう。いただきます」パクッ
(可愛いで。姫神ちゃん)
「ふふ。美味しい。幸せ」パクッ
「…ボクも幸せや」
「まだ。食べてないのに。幸せ?」
「うん。姫神ちゃんの幸せそうな顔見たら、幸せやなーって」
「そ。そうなんだ」///
「へ、変なこと言うてゴメン。お、ホンマや、美味いで。このクレープ」パクパク
「…」パクッ
「…」(や、やってもうた)
「…」パクッ
(ちょい赤くなってる姫神ちゃんもなかなかええなぁ)パクパク
「…」パクッ
(伏せ目がちなところもなかなか…)モグモグ
「…そんなに。見ないで」///
「ス、スマン。でも、見惚れちゃって」///
「馬鹿」///
「…姫神ちゃん、やっぱりわざとやってるやろ。さっきから男の萌えポイントつきまくりやで」
「そんなの。知らない」///
「可愛い。可愛すぎるで、姫神ちゃん」
「青ピ君。なんか。怖い」
「姫神ちゃんが可愛すぎるのがアカンのや」
「私は。可愛くなんて。ない」
「姫神ちゃんは自分の魅力に気がついてないんやな」
「もう。知らない」パクパクッ「…ぐむ!?」ドンドン
「姫神ちゃん、落ち着いて!ココアを飲むんや!ココア!!」
「…」ゴクッゴクッ「…はぁ」
「大丈夫?」
「…なんとか」
「よかった」ホッ
「…ごめんね」
「なにが?」
「心配させて」
「心配するんはボクの勝手やん?姫神ちゃんが悪く思うことないんやで?」
「でも…」
「でももヘチマもないで?」
「…」
「…じゃあ、明日もボクの買い物付き合ってや。それでご破算」(なーんて)
青髪ピアスはあくまで冗談で誘ったのだが、姫神秋沙は唇に人差し指をあてて何か考えるようなそぶりを見せた後、小さく頷いた。
「別に。いいよ」
「…マジで?」
「うん。小萌の家のパーティーは夕方からだし」
「言ってみるもんやなー」
「ふふ。なにそれ」クス
「じゃあ、今日はこれで帰るとしよか。…ホンマは今日買い物しとこ思たけど、明日付き合うてもらえるし」
「わざわざ出直すなんて。何を買うの?」
「せやなー。姫神ちゃんへのクリスマスプレゼントとか」
「ふふ。お返ししなくてもいいなら」
「姫神ちゃん。悪女やなー」
「ふふ。そういうことにしておく」
「じゃ、途中まで一緒にいこか?」
「そんなこと言っても。小萌の家は。教えない」
「あ、ばれた」
「ふふ。残念でした」
学生寮方面(常盤台中学前方面)へのバスが出るバス停へ向かいながら、並んで歩く。
「で、明日はどないする?」
「んー。9時40分ごろにバス停」
「また中途半端やな」
「バスの時間に合わせただけ」
「…姫神ちゃん。できる女やね」
「ふふ」
「ほなそれで。お、ちょうどバスがきたやん」
「ナイスタイミング」
「ほな、帰ろか」
「うん」
(あれ?姫神ちゃんとボク、ええ感じやない?)
「どうしたの?青ピ君?」
「ん。なんでもないで」
「そう」
「うん」
バスに乗り込むと、少女は運転席の後ろの席に座り、少年はその後ろの席に座った。
少女の隣が空いていたが、そこに座る勇気は少年には無かった。
「隣。座ればよかったのに」
「いや、狭いやろ?」
「そうかな?」
「そうやで」
「まあ。これでも。話はできるけど」
「せやな」
「…ねえ。青ピ君」
「ん?なんや?姫神ちゃん」
「今日。楽しかった?」
「ああ。楽しかったで」
「…そっか」
「うん」
「…ありがとう」
「なんか、今日、姫神ちゃんそればっかりやな」
「そうかな?」
「そうやで。今日は、姫神ちゃんも楽しんでくれたなら、ボク、それで満足や」
「…うん。楽しかった」
「そない言ってくれると嬉しいわぁ」
「ふふ」
目的地がアナウンスされると、少女が手を伸ばしボタンを押した。
ほどなくしてバスが停車し、少女が立ち上がる。少年もそれに続いて立ち上がるとバスを降りた。
「じゃあ。また。明日」
「うん。また明日」
少女が建物の影に入って見えなくなるまで、少年はその後姿を見送ると、自分も下宿へと向かって歩き始めた。