クリスマス狂想曲   作:神納 一哉

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過去にしたらばに投下したものを加筆・修正しています。


1 12月22日 誘い

休日前の放課後。最近の家での勉強の成果あって、珍しく補習の宣告を受けなかった上条当麻がウキウキしながら帰り支度をしていると、後ろから青髪ピアスに声をかけられた。

 

「なあ、カミやん。帰りちょっとつきあってくれんか?」

 

「…最初に言っておくけど、上条さんお金ないですよ」

 

「ボク、カミやんにたかるほど困ってへんで」

 

「くそ、そう言われると何か悔しいな!」

 

「まーまー。ほな、行こか」

 

教室内を見回し、廊下からこちらに向かってくる足音がないことを確認して、上条は鞄を持ち上げた。

 

「そうだな。小萌先生の気が変わっても困るし」

 

「小萌先生の個人指導なんて、ボクから見れば羨ましい限りなんやけどなあ」ハァ

 

「代われるものならいくらでも代わってやるんだけど…」

 

「カミやん。それ、小萌先生に聞かれたら…」

 

「!!い、いないよな!?脅かすなよテメエ!!」

 

ビクッと身体を震わせ、辺りを見回す。担任教師の姿が無いことを確認して、上条は青髪ピアスに掴みかかった。

 

「…カミやん、小萌先生が見たら泣くで?」

 

「まだ言う!?そんなに俺を苛めて楽しい!?」

 

「カミやんが女の子やったら女王様プレイっぽくて愉しいかもしれへんなあ」ニヘラー

 

「!?なんかニュアンスが違う!?」ビクッ

 

身の危険を感じて青髪ピアスを突き飛ばすと、彼はまるでバレリーナのようにくるくると回転して階段の側まで行ってこちらを向いて止まった。

 

「そんじゃ、ちょっとつきあってもらうで」

 

「…言っておくけど、ホントに俺、貧乏だからな!」

 

「あー、ハイハイ、わかってるって」

 

――――――――――

 

繁華街に入ってすぐの場所にあるハンバーガーショップ。財政上の理由で普段なかなか入ることのできない店内の片隅にツンツン頭の少年は座っていた。

 

目の前のテーブルには『ごきげんバーガセット』と銘打たれていたセットメニューが鎮座している。

 

「…」

 

「なんやカミやん。こっちのビックリバーガーの方が良かったか?」

 

「いや、そうじゃないけど…、これ、本当に奢り?」

 

疑いの眼差しで青髪ピアスを見る。

 

「人の好意は素直に受けておくもんやで?」

 

「あとで返せとか言うなよ?」

 

「そんなこと言わん。ま、相談料みたいなもんや」

 

「相談料?」

 

「うん。まあ、その、なんや…」カァッ

 

青髪ピアスは頬を染めた。身長180cmの大男が頬を染めている姿は、傍から見ると正直言ってかなり不気味である。

 

「…あのな、ボク、姫神ちゃんにマジ惚れしたみたいなんや」

 

「ぶっ!?」ゴホッゴホッ

 

「汚なっ!?ボクのポテトにかかってないやろうな!?」

 

「そんなレベルの問題!?」

 

「…カミやん、食べ物の恨みは恐ろしいんやで」

 

「食べ物の恨みの恐ろしさは重々承知してますけど!って言うか、マジ惚れ!?守備範囲の広さを売りにしていたお前が!?」

 

「言わんといて。ボク、後悔してるんや」

 

「後悔…だと!?」

 

「…姫神ちゃんも当然聞いてるやろ?せやからなかなか伝えられへんのや」

 

「…以外とナイーブなんだな、お前」

 

「失礼やなカミやん!ボクの心はガラスのように繊細なんやで!」

 

青髪ピアスは立ち上がってテーブルを叩いた。その音を聞いて周りの席の話し声が一斉に止まり、視線が二人に集中する。

 

「わ、わかったから落ち着け!少しは周りを気にしろ」

 

「せ、せやな…」

 

二人は小さく頷きあうと、青髪ピアスは静かに席に座ってドリンクのストローに口をつける。同時に上条当麻は何事も無かったかのようにバーガーを手に取って食べ始めた。

 

衆人環視の中で何事も無かったかのように振舞うのは結構大変だったが、周囲の視線はその殆どが二人から離れていき、数分後には何事も無かったかのように賑やかな店内へと戻っていた。

 

「教室と同じテンションはやばかったな」

 

「悪かったでホンマ」ショボン

 

「まあ、青ピらしいけどな」

 

「関西人はどうしても突っ込んでしまうからなあ」

 

(いやいや、オマエ関西人じゃないだろ)「…で、なんで俺に?」

 

「カミやん、姫神ちゃんのことボクより知ってそうやし」

 

「…おいおい、ここで一緒に会ったのが初めてなの忘れたのか?」

 

夏休みのある日、ハンバーガーの山を前にテーブルに突っ伏していた巫女装束の少女。それが姫神秋沙であった。

 

「もちろん覚えてるわ。…そういえばカミやん、あのとき一緒にいたちびっこシスターと、女子寮の前で抱きついてきた常盤台のコ、どっちが彼女なん?」ニヤニヤ

 

「ぶふぉおおっ!?な、な、なにを言っているんですか!?この男は!?」

 

突然の質問に、食べていたバーガーを喉に詰まらせそうになってむせる。それでも噴出さずに堪えたのは、貧乏な生活を余儀なくされている悲しい性であろうか。

 

「カミやんお得意の知らんぷりは無しやで?」

 

「知らんぷりもなにも、あいつらはそんなんじゃなくて…」

 

「…カミやん。鈍感もたいがいにしとかんと、大変なことになるで」ハァ

 

「だからテメエはなにを言っているんだ!?」

 

「カミやん、その子らの連絡先、知ってるやろ?どっちでもええから今からボクが言うとおりに電話してみ?」

 

「は?」

 

「いいか?『明日、買い物に付き合ってくれ』って誘ってみるんや。絶対、二つ返事で了承するから」

 

「そんな馬鹿な」

 

「いいから。電話してみ?」

 

「無駄だと思うけどな…」(インデックスは電話に出ないだろうから、御坂にかけてみるか…)


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