fate/dark moon   作:ホイコーロー

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 そう言えば、召喚は朝の2時だから0日目も1日目と言えなくもないですね。
 あと言ってなかったですけど、全部が全部とっかえる訳じゃないので。原作から引き続き登場するサーヴァントもいます。好きなサーヴァントが登場するよう祈っといてください。



三話 2日目・結界〜初戦闘

「お、今日はちゃんと起きたんだな」

 

「あんた、やっぱり私のことバカにしてるわけ? 昨日が特別だっただけなんだから。ほら、今日は学校に行くんだから準備するわよ」

 

「なんだよ、冗談の通じないやつだなぁ。それに学校だって? てっきり聖杯戦争の最中はサボり続けるもんだとばかり思ってたぞ」

 

 アーチャーを召喚した二日後、ようやく本来の調子を取り戻した私は学校に行くことをアーチャーに告げていた。

 余程に予想外なことだったのか、アーチャーがこちらを向いて間抜けな顔を晒す。今は聖杯戦争が起こるか起こらないかという瀬戸際、勉学などにうつつを抜かしている余裕はないとでも思っているのだろう。

 聖杯戦争がやっていようがいまいが、行ける限りは行くべきだと私は考える。聖杯戦争は日常の裏側で行われるゲーム。これが表に露見することは、魔術の一端に関わる者として許されたことでない。だからこそ、表の世界でいつも通りのことをこなしておくのは一般人と参加者、どちらに対してもカモフラージュになる。

 

「へー、そんなもんか。遠坂って色々考えてんだなぁ」

 

「あったりまえでしょ! これでも伊達に魔術師を名乗ってるわけじゃないの。ほら、分かったらさっさと支度するわよ!」

 

「へいへーい」

 

 どうやらアーチャーはその方面の謀に関してはからっきしのようだ。何かしら意見くらいしてくるものかと思っていたが、大した衝突もなくことが進むのは気分がいい。

 でも、私は知らなかったんだ。今日学校に行くことが、どれほど大事なことになるかということを。

 

 

 

「ちょ、ちょっと! 何よこれ!」

 

 学校へと登校した私たちをとんでもないものが待ち構えていた。

 魔術による結界。それも少し調べてみれば、一度発動すれば内部にいる人間をドロドロに溶かして自らの血肉とするという、考えうる限り最恐最悪の結界だった。そんな物騒なものが私の通う学校をすっぽり包むようにして張られていたのだ。

 

「遠坂の話じゃ、他のマスターもまだ手は出してこないんじゃなかったのか。……それにしてもふざけた野郎だ」

 

「えぇ、そうね。私がいない間にこんなものを仕掛けてくるなんて。でも、これは文字通りの戦争なの。この小さな町でそんなことして、犠牲が出ないわけがないわ」

 

「おい遠坂、それは本気で言ってるのか」

 

 アーチャーがこっちを見つめて問いかけてくる。途端に彼の纏う雰囲気は一変し、真剣さそのものとなる。それはただの問いかけではなく、怒気を含んだ忠告だった。答えによっては、この先共闘するにあたって決定的な軋轢が生まれてしまうのは間違いないだろう。

 彼の本気に対して、誤魔化しなど通用しないしするつもりもない。私の本気をそのままアーチャーに伝える、ただそれだけ。

 

「……言ったでしょう。私、遠坂凛はこの土地を管理する遠坂家の六代目当主。私の土地で好き勝手やられてたまるもんですか! 何が何でもこの結界は破壊するわ」

 

「ふっ、そうかよ」

 

 それだけ言うと、アーチャーは満足したかのように視線を校舎の方へと戻す。そんな様子だけを見てると、本当にこいつが英霊だなんて信じられないような、どこにでもある光景だった。

 でも、何かがおかしいような……なんだろ。何かよくわからないけど、アーチャーがただ校舎を見ているその光景がとても不思議なもののように思えて、視線がアーチャーから離せなかった。

 

「やー、遠坂。昨日は休んでたみたいだけど、体調は大丈夫?」

 

「あら、おはよう美綴さん。平気よ、昨日は大事をとって休んだだけなの。ほら、インフルエンザとかだったら大変でしょう?」

 

 そんな私に声をかけてきたのはクラスメイトで弓道部部長の美綴綾子。女性としては非常に淡白ですっぱりした性格で、面倒見もいいことから姉御肌としてみんなに慕われている。

 文武両道に秀でていて容姿端麗。特に武道においては種類を問わずに非凡な才能を持っていて、そんじょそこらの人物が束になってかかっても話にならない程の実力者である。

 

「あはは、確かに。……ところで、そちらの御仁はどちらかな?」

 

「そちらの御仁って誰のこと……あぁっ!?」

 

「ん? あ、やっべ」

 

 そんな彼女が指を差して尋ねてきたのは他でもない私のサーヴァント、アーチャーだった。なんと彼はサーヴァントであるにも関わらず、霊体化もせずに私と普通に会話をしていたのだった。

 

「(違和感の正体ってまさかこれ!?)」

 

 霊体化とは、サーヴァントが有する技術の一つで、自らを霊体にして姿を消したり物理的な干渉を排除したりすることができるものだ。戦闘に組み込めるほど強力なものではないが、応用の効く大事な機能である。

 

「朝からの逢瀬を邪魔するつもりはなかったんだけどさ、こーも堂々と見せびらかされちゃあこっちとしては放っておくわけにはいかないわけ。男子たちの視線が釘付けなの気づかなかった?」

 

「(ちょ、ちょっと! あんたなんで霊体化してないのよ!?)」

 

「(悪ぃ、凛。忘れてた)」

 

「(ブッ殺すわよ!!?)」

 

 全くなんてことだろうか。サーヴァントとして息をするよりも常識といえる霊体化を、あろうことか忘れていたなどと。今回はまだ大したことがなくて良かったが、こんなうっかりを敵前でもされたらたまったものではない。

 一先ず、アーチャーは私の親戚で、今度通うことになるかもしれない学校の見学に来ていただけなのだと誤魔化す。納得しているようにはとても見えなかったが、すぐに引き下がってくれたので別に私をからかうつもりがあった訳ではなさそうだ。行動力はあっても他人の嫌がることに深入りはしない、この辺りが彼女の魅力の一つなのだろう。

 

 仕方ないので、アーチャーには一旦人目のつかないところへ行ってもらって、霊体化をしてから学校で改めて合流するということにした。

 敵サーヴァントが動き出している中、アーチャーを少しでも遠ざけるのは避けるべきなのだが幸いここは人目が多い。それに万が一に敵サーヴァントが現れた場合でも、サーヴァント同士はお互いの存在を感知できる。それこそアーチャーが飛んでやってくることだろう。

 

 

 

 ―――ちなみに、この出来事のせいで学校は『遠坂凛に彼氏がいた』という話で持ちきりになり、放課後に男子からの呼び出しが殺到したというのは言わなくともわかることだろう――――――

 

 

 

「いやー、それにしても驚いた。遠坂ってモテるんだな。こんな時間になるまで自由にしてくれないとはなぁ」

 

「ほんっと、どっかの馬鹿で阿呆で無能なサーヴァントのおかげでね」

 

「そんな怒んなって。俺だって霊体化するのに慣れてるわけじゃないんだから。申し訳ないとは、思うけどさ」

 

「あっそ。それならさぞかし大変だったでしょうね、産まれてから息をするのに慣れるまで」

 

「お前ホント……猫かぶりすぎだろ……。あーあ、これじゃあ振られた男子たちも浮かばれねーなぁ」

 

「そんなのどうでもいいのよ。どうせ、今日に告白してきた連中は呼び出される苦労を慮ることもできない自分勝手な奴らなんだから」

 

 男子たちからの呼び出しが止んだのは日が沈もうかという夕方頃だった。これは私が冷酷な訳ではない。実際、告白してくる男子たちは告白することそのものが目的で、本気で心から告白してくるようなのは一人としていなかった。

 

「それで、この結界はどういう状況なんだ」

 

「そうね、今のところは発動しないわ。この結界はまだ未完成だもの。……でもこれじゃあ私にできることなんてほとんどないじゃない」

 

 問題は結界だ。学校が大騒ぎになっていないのはこの結界がまだ発動していないからだ。これだけ大規模な術式、おそらくは敵サーヴァントの仕業だろうと推測する。こちらの常識が通用するような相手でないことは百も承知だが、発動までは一週間前後といったところだろう。

 ただ、期間などあってないようなものだった。この結界の仕組みと効果は解明できたが、それを構成する要素が全く理解できない。現代の文字でないことは明らかで、このことからやはり敵サーヴァントの仕業であることが裏付けられる。

 学校の中に今まではなかった魔力の残滓も確認出来た。

 

「じゃあ、それまでにそいつを見つけ出してとっちめればいいわけだ。分かりやすくて俺向きなミッションだぜ」

 

「そういうこと。それに阻止することはできなくても時間稼ぎならできるわ、延ばせて三日……いえ、二日ってところかしら。今からその工作に行くわ、着いてきてちょうだい」

 

 

 

 学校中のいたるところにあった結界の基点を見つけるたびに弱体化させる、という作業は言葉にする以上に骨の折れる作業だった。それでいて得られる報酬が二、三日程度の時間稼ぎだなんて、無駄骨もいいところ。

 屋上に見つけた最後の基点に作業を加え終わり、すっかり冷えてしまった外気に晒されながら私はため息をつく。

 

「別にそんな悲観的になることないだろ、その間に解決法が見つかれば御の字じゃないか」

 

「そうだといいんだけどね。冷静な奴なら結界が完成するまで姿を現さないでしょうし……」

 

 ()()がないわけでもないが、これはもう、結界を張らせてしまった時点で負けが確定していると言っても過言ではない。

 

「ま、どうにかして結界を消す機会を伺いましょ」

 

「……凛、気をつけろ、何かが来る」

 

「へ?」

 

「何だよ、消しちまうのか? もったいねぇ」

 

「ッ!?」

 

 やるべきことを終え、家路に着こうと歩き始めた私たちの前に一つの脅威が立ちはだかる。接近に気づいたアーチャーが私に警告を発し、それに私が答えたのとほぼ同時に黒い影が浮かび上がった。

 

「……なに、これはあなたの仕業なの?」

 

「いいやぁ? 小細工を弄するのは魔術師の役割だ、俺たちはただ命じられたままに戦うのみ。……そうだろ、そこの兄ちゃんよぉ?」

 

「こいつ……アーチャーが見えてる!? ということはやはりサーヴァント……!」

 

 痛烈なほど深く鮮やかな青い服を身に纏った一人の男が、闇夜に煌る紅く獰猛な瞳で私たちのことを見下ろしていた。彼から発される雰囲気は紛れもなくこの世に存在してはならないもので、今にも心臓を抉り取られそうな殺気が背筋を凍らせる。

 

「あぁ、いかにも。そして……それが分かる嬢ちゃんは俺の敵ってことでいいんだよなぁ!!」

 

「くっ! アーチャー、一旦引くわよ!」

 

 敵サーヴァントがその手に真紅の槍を出現させて迫ってくる。現界したアーチャーがその攻撃を防ぎ、私は命からがらフェンスに向けて走り出した。

 私たちが今いるのは学校の屋上、四方を柵に囲まれたこの狭いフィールドでは分が悪すぎる。そう判断した私は足に魔力を流し込んでブーストし、フェンスを乗り越えて屋上から飛び降りる。

 

「アーチャー! 着地頼んだ!」

 

「あーあー、こりゃまずったなぁ。何もわからねぇようでいて要点だけは押さえてやがる。面白半分に声なんかかけるんじゃなかったぜ。ま、兄ちゃんは俺の気配をいち早く察知してたみてぇだが」

 

 無事に着地した私は、魔力によって速度をブーストしたまま100mを7秒で走ろうかという速さで校庭へと向かって走る。なんとか敵に追いつかれることなく校庭にたどり着いた私たちは、追ってきた敵サーヴァントに行く手を阻まれる形で再びそいつと相見えた。

 その手に握るのは先ほど私の心臓を貫かんとした槍。その禍々しさは言葉では言い表せないほどで、間違いなく奴の宝具だと確信する。

 

「槍兵……ランサーのサーヴァント……」

 

 ランサーのクラスには最速の英霊が選ばれるという。近接戦ではセイバーにも引けを取らない性能を見せるランサーを相手に、ここまで接近されてしまった私たちはどうするべきなのか。

 

「そっちのサーヴァントは何者だぁ? 見たところ、近接戦をこなすようには見えねぇ……っつうかなんだ、ただのガキじゃねぇか。怪しい気配があるから来てみりゃあ、とんだハズレくじだぜ」

 

「さぁ、それはどうだかな。やってみなきゃわからないことだってあるんだぜ?

 遠坂、ここは俺に任せちゃくれないか」

 

「アーチャー……」

 

「なに、どうやら遠坂はここまで来ても自分のサーヴァントの実力を信じきれてないみたいだからな。ここらでその不安を取っ払ってやろうかっていう俺の優しさだよ」

 

 首筋に嫌な汗が流れるのを感じながらアーチャーの言葉に耳を傾ける。敵がランサーだとわかった今でも、アーチャーの自信は揺るがない。何か考えがあるのか、それとも本当に自分の力を見せつけてやろうとしているだけなのか。

 どちらにせよ、私の答えは一つだった。

 

「そうね……分かったわ。アーチャー、ランサーを迎撃しなさい!」

 

「いいねぇ、そうこなくっちゃなぁ!」

 

 私の言葉と共に、ランサーが何とも楽しそうに残酷な笑みをたたえて地面を蹴る。

 そして、私たち二人の初戦の幕が切って落とされたのだった。


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