咲-Saki-もし1年後に夢乃マホが飛び級して清澄高校に入学したら 作:神奈木直人
白が中堅戦を始める少し前、晴絵が白を呼び止めた。
「白、お前はこの対局で何をするつもりなんだ?」
「決まってますよ。風越を飛ばす、ただそれだけです。」
「はぁ?無理に決まってる。20万以上の点数があるじゃないか。」
「余裕ですよ。親跳を12回くらい直撃すれば飛ぶじゃないですか。」
「少し落ち着いて。気持ちは多少分かるけど、だからと言って感情的になると必ず穴が出てくる。この中堅戦ではその穴を狙ってくる人がいる。それじゃあ白が負ける。」
「あたしは負けません!あたしは絶対に勝ちます!」
「その慢心のせいで、インターミドルも4位だったんじゃないか?」
「・・・今、何と言いましたか?」
「お前が傲っているせいで冬室氷華だけでなく藤崎心音にも負けたんじゃないかと言ったんだよ。」
「前に言ったじゃないですか、冬室氷華がいなければ藤崎心音には勝てたと。」
「前に聞いた時はそうかもしれないと思っていたよ。でも今お前と接してきて気付いたんだ。白、お前が今みたいに傲慢だったら、藤崎心音には勝てない。」
「貴女に何が分かるんですか!」
「分かるよ、これまで色んな選手を見てきたからね。」
「色んな選手を見てきたからって、あたしが藤崎心音に勝てないとは限らないじゃないですか!」
「分かるんだよ、お前は、去年の大星淡によく似ているから。」
「大星淡?白糸台のですか?」
「あぁ、そうだよ。彼女は自尊心が強かった。今の白のように。そしてその自尊心が故に去年の準決勝でシズに負けたんだよ。でもそこから反省したのか、決勝での彼女にシズは届かなかった。大星淡も宮永咲には負けてしまったけど、うちのチームと臨海女子を上回って準優勝になった。大星淡は負けた事で自分の実力を思い知って更に強くなったんだ。だけど今の白はどうだ?インターミドルを4位という不甲斐ない結果で終わらせておいて、それを全て冬室氷華のせいにして改善しようともせず、なお今も自分は強いと信じて疑わない。まったく、思い上がりも甚だしいよ。」
「もう結構です!貴女はもっと話が通じる人かと思っていましたが違いました。なら証明して見せますよ。あたしは大星淡さんとは違って強いって事を!」
「ふっ、まぁ、これは練習だから、白の好きなように打って貰って構わない。けど、今のやり方じゃ、遠からず必ず後悔する日が来る。」
「そんなの、来ませんよ。あたしは常に強くなっているので。」
「じゃあもういいよ、取り敢えず時間が無くなりそうだから中堅戦に行ってきな。」
「言われなくても行きますよ。」
(絶対に勝つ。そして謝罪させてやる!白を誤解してた、白は他とは違うって言わせてやる!)
白は殺気を剥き出しにしながら麻雀卓に座った。
~場決め結果~
文堂星夏:東
国広一:南
天理白:西
東横桃子:北
~東一局~ 親:文堂星夏
風越 218000
鶴賀 154100
龍門渕 21900
阿知賀 6000
(全部潰す!でもその前に風越を潰す!)
(な、なんだか阿知賀の人にめちゃくちゃ睨まれてるんだけど、大丈夫かな?でも、夢乃マホさんと対局した時みたいな事にはならないよね・・・)
~7巡目~
「ロン。8000。」
(うっ、早速阿知賀の人が私を狙い撃ってきた。これ、ちょっとヤバいかもな・・・)
(阿知賀は完全に風越狙い撃ちだろうけど、ボクも稼がないと直ぐに飛ばされかねない。どうにかして和了っておきたいね。)
~東二局~ 親:国広一
風越 210000
鶴賀 154100
龍門渕 21900
阿知賀 14000
~7巡目~
「ツモ。1300・2600。」
(速い・・・)
(そういえばこの人、県予選ではドラゴンさんの次に稼いでたっすね。やっぱり強いっすね。)
~東三局~ 親:天理白
風越 208700
鶴賀 152800
龍門渕 19300
阿知賀 19200
(さてと、やっちゃおうか!)
(!?今の感じ、衣みたいな感じがした・・・もしかしてこれからもっと凄いのが来るの?)
「リーチ。」
(ダブリー!?親番でダブリーなんて、マッキーみたいっすね。)
(こんなの、何を出せば良いか分からない・・・これかな。)
「ロン。ダブリーダブ東ドラ3、一発ついて24000。」
(うわっ、親倍!?)
(これが、今年の阿知賀のダークホースっすね。)
(なんだか、白糸台の大星淡さんにちょっと似てるな・・・)
(さて、この調子で風越を飛ばす!)
~東三局一本場~ 親:天理白
風越 184700
鶴賀 152800
阿知賀 43200
龍門渕 19300
「リーチ。」
(またダブリー!?)
(しかもこれ、ドラがまた東だ。これ、もしかしたらまたダブ東ドラ3で和了られちゃうかも・・・)
~5巡目~
「ロン。ダブリーダブ東ドラ3。18300。」
(また風越を狙い撃ち、この人、風越を落とす気でいる。)
(またダブリーダブ東ドラ3で和了ってきたっすね。)
(これ、ヤバいかも・・・)
~東三局二本場~ 親:天理白
風越 166400
鶴賀 152800
阿知賀 61500
龍門渕 19300
「リーチ。」
(うっ、またダブリー。阿知賀の中堅の人がこんな強いなんて・・・)
(一発消ししとこうか。)
「ポン。」
(一発消しですか、そんなものあたしには関係無いですね。あたしの狙いはただ1つですから!)
「ロン。ダブリーダブ東ドラ3。18600。」
(3連続で私に直撃された!どうすればこの連荘を止められるの・・・?)
(そろそろ仕掛けていかないとヤバいな・・・)
(阿知賀のダークホースさんのお陰でトップになれたっすね。それに、多分もうステルス状態になってるはず。この勝負、貰ったっすよ!)
~東三局三本場~ 親:天理白
鶴賀 152800
風越 147800
阿知賀 80100
龍門渕 19300
「リーチ。」
(このままだとまた風越がやられる。そしてもしトップまで行ってしまったらボクが狙われるかもしれない。ここは阻止しないと!)
「チー!」
(また一発消しでしょうか?意味が無いのに・・・)
「ポン!」
(また鳴いてきた、もしかしてあたしを止めようとしている?)
~7巡目~
「ツモ!タンヤオ三色赤2つで2300・4200!」
(止められた!?まだ稼ぎ足りないのに・・・)
(やっと止まった・・・)
(ここからっすよ。)
~東四局~ 親:東横桃子
鶴賀 150500
風越 145500
阿知賀 75900
龍門渕 28100
(やっぱり、親番が終わったらダブリーはしなくなるんだな。ならこっちも攻める!)
~8巡目~
「リーチ!」
(速い・・・)
(止められてしまった、これ、ヤバい・・・)
「ツモ!リーチ一発ツモタンピン三色。3000・6000!」
(っ!先に和了られた!これは、ヤバいな・・・)
~南一局~ 親:文堂星夏
鶴賀 144500
風越 142500
阿知賀 72900
龍門渕 40100
~10巡目~
「リーチ!」
(また龍門渕、調子が良いですね・・・)
(これ、またやられちゃう・・・)
「ツモ!リーチ一発ツモ純チャン三色。4000・8000!」
(また一発ツモ!?)
(ステルスになってるのに何も出来ずに局が進んで行ってしまうっすね。)
~南二局~ 親:国広一
鶴賀 140500
風越 134500
阿知賀 68900
龍門渕 56100
(この親番は易々と流させる訳にはいかない!少なくとも阿知賀は捲る。そして、出来るだけ稼いで透華にバトンタッチする。)
~9巡目~
「リーチ!」
(またですか!?)
(凄い、全然押さえられない・・・)
(この局も貰った!)
「ツモ!リーチ一発ツモタンピンドラ1。6000オール!」
(また和了られた、それに捲られた!?)
(龍門渕が止まらない。)
(4連続和了、凄いっすね。そういえば県予選の時は清澄のコピーさんがいたから霞んでましたけど、やっぱりこの人の実力は本物っすね。)
~南二局一本場~ 親:国広一
鶴賀 134500
風越 128500
龍門渕 74100
阿知賀 62900
~5巡目~
(よし、聴牌した。これなら龍門渕を捲り返す事も出来る。)
「リーチ。」
「いいんすかそれ。ドラっすよ?」
「えっ・・・?」
「ロン。リーチ一発タンヤオドラ3。12300っす。」
(リーチ!?いつの間に!?)
「あの、リーチの発声、してなかったですよね?」
「したっすよ。皆さん、してましたよね?」
「ちゃんとしてましたよ。」
「白、悪いけどちゃんと『リーチっす。』って言ってたよ。」
「そう、ですか・・・はい。」
(これがステルスですか。先輩方が言っていた時は頭が湧いているのかと思いましたけど、まさか本当に見えなくなって聞こえなくなるなんて・・・でも、次は親番、ダブリーは使えないけどここは連荘しなきゃ。)
~南三局~ 親:天理白
鶴賀 146800
風越 128500
龍門渕 74100
阿知賀 50600
(阿知賀の親番、ダブリーしてくるかな?・・・あれ?してこない。なんで?)
(やっぱり、連風の時にダブリーしてくるんすね。)
(阿知賀が来ないならこっちも攻めるよ!)
~6巡目~
「リーチ!」
(また龍門渕!?まだ負ける訳にはいかないんです!私も追いかけます!)
「リーチ!」
(阿知賀もリーチを掛けて来た!?もう降りるしか・・・)
(ここで阿知賀に和了られるわけにはいかない!)
「ツモ!リーチ一発ツモ混一。3000・6000!」
(うぅ、先に和了られてしまいました・・・)
(龍門渕の国広さん、やっぱり強いっすね。)
~南四局~ 親:東横桃子
鶴賀 143800
風越 125500
龍門渕 86100
阿知賀 44600
「リーチ。」
(ダブリー!?親番にダブリーするんじゃないの!?)
(やっぱり連風の時っすね。これはやられちゃうっすかね・・・)
「ツモ。ダブリーダブ南一発ツモドラ3で4000・8000です。」
「これで終わりっすね。」
「お疲れ様です。」
「お疲れ様でした。」
(あたしが最下位で新子先輩にバトンタッチする事になってしまうとは・・・)
「お疲れ様、でした・・・」
~中堅戦結果~
鶴賀 135800
風越 121500
龍門渕 82100
阿知賀 60600
(勝てなかった、まったく敵わなかった・・・)
「これで分かっただろ白、今のお前では夢乃マホが圧勝したこの3人に勝てないんだ。自分が弱い事を自覚した方がいい。」
「そう、ですね。でも、じゃあどうすれば強くなれますか!?」
「そうだね、まず今の対局について言えば、東場の親番の時に風越ばかり直撃していただろう?あれを直撃じゃなくてツモるのを待っていれば少なくとも龍門渕には上回っていたはずだ。まぁ、その前の局も風越を狙っていなければもう少し稼いでいたかもしれない。感情的になると周りが見えなくなるのは悪い癖だから治した方が良い。」
「そうですね。次からは気を付けます。」
「そして、どんな相手だとしても油断大敵だ。それに、自分は強いと思い上がらない事。まぁ、細かい事は適宜行っていくよ。」
「分かりました。赤土先生の言う事に従います。そうすれば強くなれるんですよね?」
「今よりは確実に強くなると思う。まぁ、優勝出来るかどうかはあんたら次第だけどね。」
「・・・分かりました。あたし、これから麻雀に対して真摯に取り組みます!そして、必ずやこのチームを先輩方と5人で優勝校にしてみせます!なので、ご指導宜しくお願い致します!」
「任せな!」
晴絵が白の指導を終わらせると、憧が立ち上がった。
「ふぅ、次はあたしか。」
「ごめんなさい新子先輩、最下位でバトンを渡してしまって・・・」
「良いよ、こういうのは助け合う物なんだから、その代わり、あたしが今度調子が悪かった時にはちゃんと稼いでよね。」
「新子先輩・・・ありがとうございます!」
「うん!じゃ、行ってくるね。」
「頑張って下さい。」
中堅戦が終わり、副将戦が始まる。