咲-Saki-もし1年後に夢乃マホが飛び級して清澄高校に入学したら 作:神奈木直人
1年前、全国中学生麻雀大会インターミドル大会の個人戦決勝戦にて、凄まじい闘牌を見せた者がいた。その選手の名前は冬室氷華(ふゆむろひょうか)。彼女は、インターミドルの決勝にも関わらず、対戦相手3人の同時飛ばしをして優勝した。その圧倒的な力と終始無表情だった事から、彼女は冷血女王と呼ばれるようになっていた。
インターミドルが終了して、氷華は帰宅した。
「ただいま」
「おー!おかえり~。見てたよ~、優勝おめでと~。」
出迎えたのは3歳上の氷華の姉だった。
「冷やかしは辞めて、姉さん。」
「いやいや、冷やかしじゃなくて本心だよ~!なんたって私が行けなかった全国に行って、しかもそれで優勝してきちゃうんだもの。自慢の妹だよ!」
「あれくらい、大した事無い。高校になればもっと面白い人がいるはず。」
「ふーん、あ!そう言えば氷華は高校どうするの~?」
(高校?そう言えばまだ決めてなかったな・・・)
「姉さん、この近辺で麻雀の強豪校ってどこ?」
「強豪校~?う~ん、風越女子かな?」
「ふーん、なら高校はそこにする。」
「えっ!?ずいぶんとあっさり決めちゃうのね。」
「別にどこに行きたいとか思ってなかったし、正直麻雀が強くて家から近ければどこでもいいし。」
「まったく、氷華は本当に冷めてるね。だから冷血女王とか言われちゃうんだよ。」
「冷めてるのと冷血女王とか呼ばれてるのは関係無いでしょ。」
「いやいや~、関係ありありだよ~。氷華が無表情で無慈悲に3人飛ばしなんてするから呼ばれるようになったんじゃない。」
「はいはい、それより今日はもう疲れたから寝たいんだけど。」
「あー、悪いね~、じゃあおやすみ!氷華。」
「帰ったばかりだからまだ寝ないよ。」
「あはは、そーだね。お風呂沸いてるから先に入っちゃって。」
「うん。」
(風越女子か・・・強い人がいるといいな。)
そして1年後の4月、風越女子麻雀部部室にて。
「入部希望の冬室氷華です。よろしくお願いします。」
その名前を聞くと、部員達が全員彼女の方を振り向いた。
「冬室氷華!?去年のインターミドルチャンピオンの?」
「あー、はい、そうです。」
「マジで?」
「すげー!」
「大物が入ってくれたよ。」
「これで今年は全国に行けそうですね。」
肯定すると、様々な感想が氷華の耳に入ってきた。しかしその中で、1つの発言が気になった。
(今年は?じゃあもしかして去年までは行けてない?)
「あの、すみません。この高校って去年は全国大会に行って無いんですか?」
「あー、まあね。去年は清澄高校ってところに負けたんだよ。あと、2年前は龍門渕高校に負けた。その前まではうちが全国に行ってたんだけどね。」
(・・・は?全国常連なのかと思って入ったのに2年も行けてないの?はぁ、姉さんの言うことをもろに受けた私が悪いか・・・)
「つまり、風越女子麻雀部は大した事無いって事ですか。はぁ、やっぱり清澄に行けば良かったな。」
「大した事無いかどうか、自分で確かめてみろよ。池田、吉留、文堂、相手してやれ。」
大した事無いという発言を聞いて、顧問が腹を立てたのか、そんな提案を出してきた。
「はい!」
「わかりました。」
「了解です。」
(この人達が風越のトップ?そんなに強そうには見えないけど・・・)
「25000点持ちの半荘1回な。」
(25000点か・・・少ないな。)
「じゃあ早く始めようぜ。」
「はい。」
そして、試合が始まった。
~南三局~
「ツモ。」
(なっ!?)
(嘘でしょ。)
(そんな!?)
「これで飛び終了ですね。」
(マジで飛び終了させやがったこいつ。)
「やっぱり大した事無いですね。私程度にやられるなんて。」
氷華が試合中ほとんど見てなかった四人の点数を見ると意外な事に気が付いた。
~試合結果~
氷華:113600
池田:1300
吉留:-6400
文堂:-8500
(3人飛ばし出来ていない?一人だけ点数が残ってる。誰?名前は・・・池田華菜。)
「すみません、池田先輩はどなたですか?」
「むっ、池田は私だけど。」
(あぁ、対面にいた人か。)
「池田先輩はキャプテンですか?」
「そうだけどどうして分かったんだ?」
(やっぱりこの人がキャプテンか・・・)
「成る程、この高校にもましな人はいるみたいですね。」
「華菜ちゃんの質問を無視すんなー!」
「あぁ、すみません。キャプテンだと思った理由は、池田先輩だけハコになってなかったからです。」
「あー、そういう事か。」
「はい。それより、先生。」
「な、なんだよ。」
氷華に畏怖の念を覚えていたため、顧問は少し怯んでしまっていた。
「インターハイに出るためにはどうすれば良いのですか?」
「なんだ、そんな事か。インターハイには校内ランキング上位に入れば行ける。」
「じゃあ、今ランキング上位に勝ったんで1位じゃダメですか?」
「はぁ?良いわけ無いだろ。何試合か重ねて総合的に評価された物が我が校のランキングだ。それに、半荘1回だけだったら池田達に勝った奴は結構いるぞ?それなのにランキング上位に食い込める訳無いだろ。」
「そうですか。なら、私が風越の部員全員に勝ったら認めて貰えますか?」
氷華から感じられる強大なオーラが部員全員を恐怖させる。『この人を敵に回してはいけない』という動物の本能のような物が部員達の頭に張り付かれているような感覚に襲われる。
「私、あの人と同じ卓を囲みたくないよ・・・」
「絶対嫌だよあんな異次元の打ち手。」
部員達が氷華に怖じ気づいていたところ、顧問が氷華に尋ねた。
「どうしてそこまで上位に入りたいんだ?」
「インターハイの個人戦と団体戦の両方に出たいからです。」
氷華は淡々と答える。
「インターハイ?団体戦はともかく個人戦なら別に上位じゃなくても出れるぞ?」
「個人戦だけじゃダメなんです。団体戦にも出ないとダメなんです。」
「何でそんなにインターハイに拘るんだ?まぁ、インターハイに拘るのは良いことだけどさ。」
「去年のインターミドル個人戦の県代表で私はたった一人だけに負けてるんですよ。まぁ、卓を囲んだ3人とも私をマークしてたせいで3対1みたいになってたってのもありますけど、それでも稼ぎ負けたんです。それが悔しくて、それで彼女を倒したいんですよ。」
無表情で淡々と話している彼女の悔しいと思っているという発言を聞いて部員が少し驚いていた。
「それなら個人戦だけでもいいんじゃないのか?」
池田が氷華に尋ねた。
「ダメなんです。彼女には個人戦だけじゃなくて団体戦でも倒したいんです。というより、彼女を全国に行かせたくないと言った方が正しいですね。」
「その相手は誰なんだよ。」
「夢乃マホ。当時高遠原中学2年の子です。」
「2年?3年じゃなくて?」
「はい。2年です。」
「何で2年なのに今年のインターハイに出る必要があるんだ?」
「噂に聞いたんです。夢乃マホが飛び級して高校に入ったって。」
「飛び級!?そんなまさか。」
「まぁ、あり得ないかもしれません。でも、もし来ないとしても、今年活躍して差を見せ付けるのも良いかと思いまして。」
「成る程、ま、これから上位に入れるように頑張れよ。」
「はい。」
(夢乃マホ、次に同じ卓になったら叩き潰す。)
次回は鶴賀の新メンバーの紹介をする予定です。投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。