咲-Saki-もし1年後に夢乃マホが飛び級して清澄高校に入学したら 作:神奈木直人
インターミドル個人戦の決勝、その舞台で冬室氷華と対局した二人がいた。その二人の名前は、上野望(うえののぞみ)と藤崎心音(ふじさきここね)だ。この二人はどちらも大阪在住で、高校は千里山女子高等学校に入学した。
「いやー、遂にやって来たな、千里山女子。」
「何ゆうとるんや、入学説明会の時も入試の時もオープンキャンパスの時にも来たやろ。」
「望の方こそ何ゆうとるんや、入学前にここに入ったんは『やって来た』とはちょっとちゃうやろ。」
「何がちゃうねん。」
「じゃあ望はその学校の校門を通ったらそこに入った事になるんか?」
「そりゃあなるやろ。」
「それやったら赤門潜って『東大受かったー!』って言っとる子どもと同じやん。」
「はぁ?どこが一緒やねん。」
「校門通ったらそこに入った事になるゆうてたやん。」
「あぁ、私がゆうてた『入る』はその場所に入るだけで入学とはちゃうわ。って、ウチらは何の話をしとるんや・・・」
「とりあえず、今日は入学式と部活説明会で終わりやな。どの部活見に行く?」
「いやいや、麻雀部以外無いやろ?ウチら、何の推薦で来たと思っとるんや。」
「冗談や冗談。間に受けすぎやろ。」
「いや、心音の言う事、どこまでが本気か分からんねん。」
「ウチは全部分かっとるけどなー。」
「そらそうやろ。って、そんな事どうでもええねん。はよ行かんと入学式から遅刻になるで!」
「望と話してるといつも脱線するな。」
「大体が心音のせいやろ。まるで私が悪いみたいにするんやめい。ほな急ぐで。」
「おー。」
「そういえば、部活説明会は今日やったけど、仮入部とかは明日からやなかったか?」
「えぇ、ここまで来て帰るんかいな。」
「んー、それもそうやな。ダメ元で行ってみて、ダメやー言われたら帰る。これでええやろ?」
「よっしゃ!ほな部室にレッツゴーや!」
「おー。」
部室に到着し、部室のドアを開いた。
「麻雀部の推薦で来た上野望です。」
「藤崎心音です。」
二人が千里山女子高校麻雀部の部室に入ると、そこには卒業しているはずの園城寺怜、江口セーラ、清水谷竜華の姿があった。
「なんや、今日はまだ仮入部出来んって舟Qがゆうとったから来たのに、二人も来とるやん。」
「あれ、今日は部活説明会だけで仮入部は無い筈ですよ?」
「じゃあなんで二人も来とるんや。」
「あの、すいません、私は止めたんですけどどうしても心音が行くってゆうてたもんですから止められず・・・」
「なっ、望がダメ元で行ってみるかとかゆうたんやん!何で人に罪擦り付けてんねん!」
「まぁまぁ、別にええよ、二人くらいなら新入生がいても。なぁ竜華?」
「怜がええなら構わんよ。」
「俺も問題ないわ。」
「ありがとうございます!」
「ええよええよ。」
「あの、間違いやったら悪いんですけど、もしかして園城寺怜さんですか?」
「まぁ、そうやけど。」
「私、園城寺さんの大ファンなんですよ!握手して下さい。」
「竜華、有名人は辛いな。」
「ははっ、ちゃんとファンサービスせんとな~。」
「せやな。」
怜が手を前に出して望の手を優しく握った。
「うわぁ、嬉しいです!去年のインターハイ注目選手と握手できるやなんて。」
「良かったなー望。」
「うん!」
「それより、貴方は江口セーラさんですよね?」
「お?俺の事も知っとるんか。」
「はい、去年の阿知賀女子の新子憧さんとの名勝負は素晴らしかったです。しかも収支は毎回トップ、尊敬します。」
「そこまで言われると嬉しいわ。」
「なぁなぁ、ウチはウチは?」
「えっ、えっと、確か・・・」
「酷っ、ウチの事知らんの!?去年頑張ったのに~!」
「・・・清水谷竜華さんですよね?」
「えっ、」
「知ってますよ、去年のインターハイでは、2回戦ではトップ、準決勝でも、あの3人相手にプラス収支で終わらせてる、素晴らしい方やとウチは思います。」
「あんた、名前なんて言うんやっけ?」
「心音です、藤崎心音。」
「心音ちゃん、ウチはあんたの事大好きや~!」
「うわっ、ちょっ、突然抱き付かんといて下さいよ。」
「竜華、知ってる人がいただけで浮かれすぎや・・・」
「だってこの子、細かいところまで知っとったよ。嬉しいわ~。」
「ははっ、まぁ、そうですね。」
「そうや!お礼と言ったらなんやけど、ウチらと勝負してみいひん?」
「私達がですか?」
「うん!怜とウチ、そしてあんたら2人合わせて4人で!推薦で来たゆう事はそこそこ出来るんやろ?」
「そこそこ、ですか。ウチら、これでも去年のインターミドル2位と3位なんですよ。そこそこくらいやと思とったら足元すくわれるかもしれへんですよ?」
「へぇ~、ようゆうわ。ウチも言われっぱなしは嫌やな。ここは一つ、レベルの差を教えてやらんとな。」
「怜、無理したらあかんで。」
「分かっとるよ。竜華は心配し過ぎや。」
「怜が無茶するからやん!」
「分かっとる分かっとる。ほなやりましょか。」
「はい。」
「はい!」
「じゃあ、場所決めしよかー。」
~場決め結果~
藤崎心音:東
上野望:南
園城寺怜:西
清水谷竜華:北
~東一局~ 親:藤崎心音
藤崎心音 25000
上野望 25000
園城寺怜 25000
清水谷竜華 25000
(まずは様子見やな~。望は最初は殆ど怖ないから、園城寺先輩と清水谷先輩がどんな動きするんか見とくか。)
~2巡目~
「ポン。」
(いきなり鳴いてきた。上野望、やったっけ?風牌やないのにそんなに直ぐ鳴くんか・・・)
~4巡目~
「チー。」
(また鳴いた。この子、安うても早う和了るタイプなんやろか?)
~8巡目~
「チー。」
(3副露、あっ、次巡に竜華がタンヤオのみの1000点に振り込みか。まぁ、しゃあないな。協力プレイやないし、残念やけど、1000点くらい竜華なら楽勝やろ・・・)
「ロン、タンヤオのみ、1000点です。」
「おぉ、中々早いね。」
「ありがとうございます。」
(初っぱなから望が和了って来たか、ならウチも動き始めるとするかな!)
(今の和了り、わざわざ鳴かんでも和了れたんとちゃうか?なんでそこまで点を低くして早く和了るんや?親でも無いはずやのに・・・)
~東二局~ 親:上野望
上野望 26000
藤崎心音 25000
園城寺怜 25000
清水谷竜華 24000
~5巡目~
(よし、張ったで、これを和了出来れば心音に善戦出来るはずや。)
「リーチ。」
「ロン。2000。」
「うわっ、心音も張ってたんか。」
「おうよ。」
(二人とも安い手やな、本当にこの二人がインターミドルの2位と3位なんか?これやったら入りたての泉の方が強いわ。)
(早いには早いけど、あと一歩足らんって感じやな。まぁ、一局二局で分かるようなもんでもないか。)
(うーん、折角園城寺先輩もいることやし、ちょいと面白い事でもしよか。)
~東三局~ 親:園城寺怜
藤崎心音 27000
園城寺怜 25000
上野望 24000
清水谷竜華 24000
~6巡目~
(あれ、今、対面がウチの読んだ未来と違う動きをした気が・・・)
「ロン。タンピンドラ1で、3900。」
(染めたり一盃口を付けたり、もっと高く出来るやんか。そこまでして早和了りしたいんか?)
「振り込んだウチが言うのもなんやけど、もうちょっと高くなったんやない?その手。」
「まぁ、そうですけど、早く和了りたいタイプなんですよ。」
「そうか~。」
(もう一枚入るんを待ったら五面張やったから、そっちの方がどちらかというと早く和了れたんやないか?この子、せっかちなんかな?)
~東四局~ 親:清水谷竜華
藤崎心音 30900
園城寺怜 25000
上野望 24000
清水谷竜華 20100
(安手とは言え、早いんは事実や。そろそろ高い手を和了っておくべきやな。)
~10巡目~
(よし、これでリーチすれば次の2萬で跳満ツモや。いける!)
「リーチ。」
(怜がツモ切りリーチ、これは一発やな・・・)
心音がニヤリと笑った。
「ポン。」
(えっ!?一巡先を読んだはずやのに、その時は、ポンなんてしとらんかったのに。どうして・・・)
(なんか、怜の表情が変やな。まさか、心音ちゃんが予想外の動きをしたんか?でも、リーチする時は未来視するはずや。予想外の動きなんて、出来るんか?)
(あーあ、心音、動き始めたか。)
怜が次の牌をツモるが、それは怜の和了り牌では無かった。
(これは、まさか・・・)
「ツモ。北混一。1300・2600。」
(これ、さっきまでは安手やと思とったけど、これは、去年の宮永照と同じやないか。どんどん打点が上がっとるわ。しかも、次はこの子の親。この親は早く流さんといけんな。)
~南一局~ 親:藤崎心音
藤崎心音 37100
上野望 22700
園城寺怜 22700
清水谷竜華 17500
~9巡目~
「リーチ。」
(今回は鳴けへんようやな。これで連続和了を止められるわ・・・ってあれ、さっき見た未来と違う牌を切ってる、まさか!?)
「ロン。7700。」
(なっ、わざわざ待ちを半分以下に減らしてウチの安牌を待ちにして上家に直撃。まるで狙ったかのような和了り、この子、一体何なんや?)
「一本場。」
~南一局一本場~
藤崎心音 44800
園城寺怜 22700
清水谷竜華 17500
上野望 15000
~7巡目~
(また持ってかれる・・・)
「ツモ。4100オール!」
(怜、防げんかったんか・・・)
(あーあ、こりゃあ、心音の独り舞台やな・・・)
「二本場。」
~南一局二本場~ 親:藤崎心音
藤崎心音 57100
園城寺怜 18600
清水谷竜華 13400
上野望 10900
~8巡目~
(よし、次こそやれる。このリーチで対面がポンをしてくるはずやから、その後に来るウチの牌でこの連続和了を止めてみせる!)
「リーチ。」
「・・・」
(!?なんでポンしないんや!?)
(また怜が動揺しとる・・・)
心音が妖しい笑みを浮かべた。そして、徐に左手で卓の角を掴みながら次のツモ牌を掴んだ。その牌は手牌の隣に置き、手牌を公開した。
「ツモ。6200オール。」
(今の、まんま宮永照やないか!?何者なんや、この子は・・・)
「はぁ、心音、何やっとるんや。」
「いやぁ、一回この和了り方してみたかったんや。」
「はぁ、まぁ、私はええけど、先輩もいるんやから少しは考えや。」
「へいへい。」
~南一局三本場~ 親:藤崎心音
藤崎心音 75700
園城寺怜 12400
清水谷竜華 7200
上野望 4700
~5巡目~
(次に望が6ピン出すからそれを和了ればウチの勝ちやな。)
「ロン。3900の三本場で4800。」
「うっわ、キッチリやな。」
「まぁ、ウチの実力やな~。」
(なんやこの子、ウチが何も出来ひんかった・・・)
~試合結果~
藤崎心音 80500
園城寺怜 12400
清水谷竜華 7200
上野望 -100
「さて、種明かしでもしますか。」
「せやな、心音、流石にやり過ぎやったしな。」
「へ?何の事や?」
「まさか、イカサマでもしとったんか?」
「そんな事はしませんよ。ただ、ウチの能力というか、先天性の力というか・・・」
「なんやはっきりせんな、言いたい事があるんやったらはっきりしいや。」
「はい、あの、笑われるかもしれないですけど、ウチ、人の心が読めるんです。園城寺先輩が一巡先を読めるように。」
「なっ、ほんまに!?」
「マジで?」
「はい、だからウチは宮永照さんのように連続和了とかは出来ません。・・・あの、園城寺先輩は納得して下さると思たんですけど。」
「あっ、確かに、ウチが見た未来と違う動きしとったわ。」
「そうです。実は園城寺先輩が見とった一巡先はウチにも見えてました。更に言うと四人全員の手牌も分かってました。」
「マジかいな・・・」
「これがマジなんですよ、怖い事に・・・」
「で、でも、いくら心が読めたとして、3人全員の手牌を覚えるなんて、情報量が多すぎるんとちゃう?」
「そうなんですよ。中2の時まではそれが全然で、それで集中も出来んくて、全く活躍出来とらんかったんですよ。だけど中3になってそれをマスターしたんです。」
「そうやったんか。大変やったんやな。」
「はい、でもマスターしてからは負けなしだったんです。去年の決勝を除いては・・・」
「インターミドルの決勝か?」
「あぁ、それなら知ってますわ。」
怜の後ろに立っていた舟久保浩子が反応した。
「冬室氷華やろ?」
「はい、そうです。」
「あぁ、紹介が遅れとったな、千里山女子麻雀部部長の舟久保浩子です。宜しく。」
「部長さんでしたか。」
「宜しくです。」
「まぁ、それはさておき、冬室氷華は化け物ですよ・・・」
「舟Q、その冬室氷華ってのはそんなにヤバいんか?」
「正直言ってとんでもない化け物ですね。東場は安手で即流して、南場で爆発させるタイプですね。」
「へぇー、去年の清澄高校の先鋒みたいやな。」
「まぁ、タイプとしては似てはいますね。」
「それがヤバいんか?」
「そうですね、冬室氷華は南場での爆発が片岡優希には比べ物になりませんね。冬室は南場になると満貫から倍満までを和了しまくります。」
「なんやそれ、満貫から倍満までって事はそれ以下とかそれ以上は出んのか?」
「そうですね、去年のインターミドルだけのデータだと、満貫より下は全く出してなかったですね。ですが、三倍満は3回、役満は1回出してます。」
「とんだ高火力プレイヤーやな。」
「そうですね。しかも冬室は長野県出身なんですよ・・・」
「えっ、マジで?」
「はい、もし冬室が清澄になんて入りでもしたら、冬室氷華、原村和、宮永咲が同じチームになってしまいますね。」
「うわっ、それは地獄やな・・・」
「まぁ、清澄高校は去年の優勝校ですし、冬室じゃなくてもヤバいのが入るかもしれへんですけどね。」
「結局優勝候補なのは変わらんって事か。」
「そうですね。」
「でも、逆に今年の白糸台高校は宮永照さんと弘世菫さんがおらへんからもしかしたらそこまでじゃないかもしれへんですよ。まぁ、大星淡は健在ですけど。」
「せやなー、じゃあ今回はウチらにもチャンスはあるかもしれへんな。」
「はい、うちにも絶対的エースがいますからね。」
「あぁ、そういえば、まだ来とらんな。」
「そうですね、もしかしたらまた先生に怒られとるんとちゃいます?」
「かもしれへんな。」
怜と舟Qが話していると部室の扉が開かれた。
「あれ、もしかしてあたしの話しとるんですか?」
「はぁ、やっと来たか渚。今まで何しとったんや?」
「いやー、授業中に麻雀の戦略本を読んどったら没収されたんでそれの回収と謝罪に行っとったわ。」
「はぁ、部活熱心なんはええけど、授業はちゃんと受けんと、また補習かかるで?」
「ちゃんと補習にならんくらいにはやっとるわ!・・・って、見かけん二人がおるな。誰や?」
「あぁ、言い忘れとったわ、去年のインターミドル2位と3位の上野望と藤崎心音や。」
「ほう、3年の二階堂渚(にかいどうなぎさ)や、宜しくな。」
「宜しくお願いします。」
「よ、宜しくです。」
「さあて、早速打ちたいんやけど、折角やしそこの二人とやりたいわ。園城寺先輩、清水谷先輩、あたしが入ってもええですか?」
「ええよ、じゃあウチ、ちょっと疲れたから休むわ。」
「ありがとうございます。さぁ新人二人、やろうか!」
「お願いします!」
「はい。」
(なんやこの人、絶対に勝てるって感じの自信が感じられるわ。なんか、冬室氷華と似たような何かを感じる・・・)
(さぁ、始めようか!)
~小ネタ~
「なぁなぁ、ウチはウチは?」
「えっ、えっと、確か・・・」
(この人、誰だっけ、確か、団体戦に出てたはずなんやけどな・・・)
「酷っ、ウチの事知らんの!?去年頑張ったのに~!」
(ウチ、団体戦でも二回戦じゃトップで、準決勝でもあの3人相手にプラスで終わらせたのに、知られてないんか、ショックやわ・・・)
(成る程、そういえばいたわ。千里山の大将やった人やな。でも、名前がまだ思い出せんわ。他の人の心も読んでみるか。)
(清水谷先輩だけ知られてないなんて可哀想やな・・・)
(竜華だけ知られてないんか。)
(名前は清水谷竜華さんか・・・)
「・・・清水谷竜華さんですよね?」
「えっ、」
「知ってますよ、去年のインターハイでは、2回戦ではトップ、準決勝でも、あの3人相手にプラス収支で終わらせてる、素晴らしい方やとウチは思います。」
(何とか間に合ったわ・・・)
「あんた、名前なんて言うんやっけ?」
「心音です、藤崎心音。」
「心音ちゃん、ウチはあんたの事大好きや~!」
(ははっ、ウチ、何も知らんかったのにこの人に好かれてしまったわ・・・)
(心音、また人の心読んだんか・・・)
千里山編を始めたのは良いのですが、大阪府予選は原作での描写が全く無くて、キャラ等も荒川憩以外全く出てないため、飛ばすと思います。そこをご了承下さい。