咲-Saki-もし1年後に夢乃マホが飛び級して清澄高校に入学したら   作:神奈木直人

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団体戦が終わったところから、個人戦が行われるまでの話です。


第19話 対策

真紀は控え室に戻った。

「ごめんなさい、負けちゃいました。ははっ、カッコ悪いですよね。あんなに自信満々だったのに。」

「いえ、そんな事はありませんよ。誰も責められません。あんな方々相手に2位終了、しかも収支だけで見れば前後半合わせてプラス33000点の大トップです。自信を持って下さい。」

「・・・プラス33000だろうと勝てなきゃ意味無いんだよ!くそっ、悔しい!マジで悔しいっ!個人戦では絶対負けねぇ!宮永咲も天江衣も冬室氷華も夢乃マホも全部倒す!」

「そうですね。その為には頑張らなきゃいけませんね。」

「だな!明日から三日間全力で攻略して泣き面見るまで叩き潰してやる!」

(汐見さん怖い・・・)

(マッキー怖いっすね・・・)

「ま、まぁ、今日は帰ろうか。」

「はい。」

~龍門渕高校控え室~

「ごめん、皆、衣が至らなかったばかりに今年も全国にいけなくなってしまった・・・」

「仕方ありませんわ。全ては清澄のあの女があんなヤバいものを隠し持ってたせいですわ。」

「あんなのやられたら勝てなくても誰も責められないよ。」

「いや、咲があの対局で何もしてなかったとしても、鶴賀にやられてたかもしれない。」

「それは今決める事ではありませんわ。」

「えっ?」

「それは個人戦でお決めなさい。個人戦、今年は出るんでしょう?」

「うん、今年は合間見えたい相手が多いからな。」

「なら、また鶴賀の大将に当たったら絶対に勝ちなさい。」

「うん、衣、頑張る!」

「その意気ですわ!」

~風越女子控え室~

「ただいま・・・」

「華菜ちゃん、お疲れ様・・・」

「池田先輩・・・」

「四人で仲良く314500点を吐き出しましたね。」

(冬室さん、その言い方は流石に酷いよ・・・華菜ちゃん頑張ってたのに。)

「ごめん、いくら相手が悪かったとはいえ、キャプテンの癖にあんな点数で終わらせてしまって、本当にごめんなさい!」

「華菜ちゃん、いいんだよ。」

「池田先輩、そんな、頭を上げてください!」

「冬室さんも何か言ってあげてよ。」

「そうですね、あの3人が相手ならさっさと飛んで終わるだろうなと思っていましたけど、最後まで飛ばずに終わるとは思っていませんでした。お疲れ様です。」

「うん、そう言ってもらえると助かる・・・」

「とりあえず終わった事を言っても結果は変わりません。過去に囚われずに今度の個人戦の為にまた頑張りましょう。」

「・・・うん、頑張る。」

「話し合いは終わったか?」

控え室の扉を開けて久保コーチが入ってきた。

「久保コーチ!?」

「私からは何もないよ。言いたい事は全部冬室に言われちまったからな。」

「あっ、そうですか。」

「ほら、荷物まとめて帰るぞ。」

「はい!」

4校は団体戦を終えて各々の家に帰った。

 

 

そして次の日、鶴賀学園麻雀部では、5人が集まって会議をしていた。

「と、言うわけで、個人戦の為にウチが注意しなければならない相手とその攻略方法をこれから提示していきたいと思います!」

「と言うわけって、どういうわけっすか・・・」

「私達、何も話を聞かされずに突然汐見さんに呼ばれたんだけど・・・」

「申し訳ありません!先輩方の大切なお時間を割いてしまって。」

一葉がへこへこと頭を下げて謝罪した。

「いや、まぁ、個人戦のための会議っぽいっすから別にいいんすけどね。」

「じゃ、始めていきましょうか!」

「はぁ、なんで私が謝って当の本人がこんなに堂々としていられるんですか・・・」

「申し訳ないとは思ってますけど、ウチも徹夜して情報収集したりしたので聞いてもらいたくてウズウズしてたんですよ。」

「それはそれは、お疲れ様。」

「うむ、私達は問題ない。話を始めていいよ。」

「ありがとうございます!まずは清澄高校の宮永咲さんについてですが、彼女は正直言って分かりません!」

「・・・へっ?」

「えっ、どういうこと?」

「昨日対局して牌譜を確認して色々弱点とか探してみたんですけど、手加減をしているようにしか見えなくて、確実な弱点を見つける事が出来ませんでした。」

「えっ、何か無いんですか?」

「鳴いてカン材をずらすって方法があったんですけど、昨日の最後に関しては最初から4枚揃ってたんで弱点と言えるのか分かんなくて。まぁ、基本的にあの人に関しては、生牌を切らない事と出来るだけ鳴いて手を完成させないようにする、くらいですかね・・・」

「開始早々分からないという言葉が出てくるとは思いませんでしたよ。」

「まぁ、でも次からは期待していいよ。」

「本当ですか?」

「本当だって、次は天江衣さんです。」

「あの人に対処法なんてあるっすか?」

「まー、あの人も難しいんですよねー。」

「やっぱり期待出来ないじゃないですか・・・」

「まあまあ、聞けって。臆測ですけど、あの人はセオリー通りに打ったら多分海底を和了られます。少し回り道して違う手を作ろうとすれば和了れるかもって感じです。」

「セオリー無視して打ったら普通は和了れませんよ。真紀だから和了れたんじゃないんですか?」

「いや、去年の団体戦で加治木先輩が和了してるんだよ。」

「流石加治木先輩っすよね。」

「まぁ、セオリーを無視しなくても宮永咲みたいに『カンすれば有効牌が入ってくる』みたいな能力があるなら別ですけど。妹尾先輩の牌の力なら何とかなると思いますよ。」

「うむ、問題は私とモモという事か・・・」

「いや、もしかしたらですけど部長も最後の方だけなら突破出来るかもしれないですよ?」

「えっ?私が?」

「はい。先鋒戦であの風越の人が他3人の手を鈍らせてたのに南三局五本場で和了ってたじゃないですか。」

「あぁ、なんか、最近よく感じるんだけど後半になった時に追い込まれてると何故か配牌やツモが良いんだよね。」

「起死回生の一手って感じでしたっすね。」

「あー、なんか、この前もそれで一葉を捲って1位になった対局がありましたね。」

「はい、あの時の部長さんはとてもお強かったです。」

「ま、ウチはこの前部長に倍満和了されても変わらず1位でしたけど!」

「まったく、真紀は・・・」

「ははは、汐見に勝てるんなら天江衣さんにも勝てるよ。」

「そうですね、ウチには勝てないですよね。」

「真紀!調子に乗りすぎです!」

「おっと、すいません部長。」

「いや、間違えた事は言ってないから気にしてないよ。」

「ムッキー先輩、先輩はそれでいいんすか・・・?」

「まぁ、汐見の言ってる事に間違いは無いからな。」

「そうですよね~。まぁ、それはそうと次です。今回一番注意しなければならない夢乃マホと冬室氷華です。」

「確かにあの人はヤバいな・・・」

「もう二度と対局したくないっすね・・・」

「あの二人は昨日の団体戦において、+214500と+250000という桁違いな結果を残しています。ウチや妹尾先輩の総獲得点数でもこの数字にはならないですからね。正直異常ですね。」

「改めて聞くと、凄まじい点数だね・・・」

「それじゃあ、もしかしてこの二人も特に対処法は無いんですか?」

「ふふーん、あるんだなーこれが。」

「まぁ、誇らしげに言ってますけどこれで無かったら本気で怒ってましたけどね。ところでどんな対処法なんですか?」

「夢乃マホが大星淡の能力を使った時にどんな風にリーチを掛けてましたか?」

「大星さんみたいに牌をくるくる回して・・・あっ、成る程。そういう事でしたか。」

「そう、夢乃マホはコピーをするときにその人がやる癖みたいなものもやってしまうのです。つまり、誰を使っているかはそれで判断します。その後はその能力に対応するだけです。」

「成る程、じゃあその各々の打ち方の対策はどうすれば良いんですか?」

「それは自分達で考えてよ。一つ一つ説明出来ないし、誰のコピーを出来るのかもよく分からないしね。」

「そんな無責任な・・・」

「でも一つだけ言える事があります。」

「なんですか?」

「夢乃マホは多分対局する相手と同じ打ち方をしてくると思います。東横先輩相手にステルス使ったみたいに。」

「そうかもしれませんが、もし私の打ち方を真似したとしても1の牌は私の方にくるんじゃないですか?」

「残念だけど多分それは無いと思う。」

「えっ?」

「何故なら、夢乃マホがステルスを使った時、東横先輩もステルスをしていたのにも関わらず放銃した。これはつまり、コピーした人の支配力を上回っているって事なんだよ。という事は、もし一葉と対局して夢乃マホが一葉の打ち方をコピーをしたら、一葉には1の牌が来たとしても1枚しか来ない。」

「そんな・・・」

「ま、そこをどうするかは自分で考えてよ。じゃあ次、ラストは冬室氷華です。」

「この人に対策なんてあるのか?」

「ふっ、実はこの人、個人戦においては穴が多いんですよ!」

「えっ!?」

「まずはあの人の特徴から押さえていきましょうか。まずは東場、彼女は安手、一翻でしか和了りません。しかし東場で和了した局に南場でも和了する。そしてその点数は満貫からどんどん上がって最終的には役満を連発してくるでしょう。しかも南場は冬室氷華以外の3人のツモが異常なくらい悪い為和了し辛い。更に東場で和了した局と同じ南場の局ではダブリー一発で和了してくる。ざっとこんな感じですね。」

「うむ、改めて聞くと凄まじいな・・・」

「全く勝てる気がしないっす。」

「しかーし!ウチはこの人の弱点を見つけてしまったのです!」

「本当ですか!?」

「あぁ、冬室氷華の弱点、それはズバリ、3つあります!」

「えぇ!?3つも!?」

「はい、その3つとは、東場で安手しか和了しない事とツモ和了りしかしない事、そして、南場でダブリーする時に、最初は満貫を和了る、この3つです。」

「・・・それの何処が弱点なんすか?」

「説明しましょう。まず東場で冬室氷華ではなく他の相手を4000未満になるまで削ります。そして南場での冬室氷華の親番。東場で安手をいくら和了ったとしても、他家が4000未満だったら親満ツモでトビ終了。その時に冬室氷華との点差が16000以上なら冬室氷華は自動的に2位終了してしまうのです!」

「な、成る程、南場での和了りを防げないなら和了ったら負けという状況を作ればいいのか。」

「汐見さん、凄い・・・」

「流石マッキーっすね。考え方がエグいっす・・・」

「いやー、そんなに褒められても困りますよ~」

「あんまり褒めてないですよ・・・」

「ま、そこは置いといて、この方法なら冬室氷華に一矢報いる事が出来ます!これにてウチの個人戦対策は終了です!」

「唐突に終わるっすね。」

「まぁ、ちょっとは為になったね。」

「うむ、じゃあ練習の続きをしようか!」

「「「「はい!」」」」

 

 

~風越女子高校麻雀部~

「ツモ。12300オールです。」

(なっ!)

(また・・・)

(こんなの勝てないよ・・・)

「はぁ、また3人トビ終了ですか。こんな始末では個人戦入賞出来ませんよ。」

「んな事言ったって相手が氷華じゃ相手にならないって!」

氷華と華菜が話し合っていると、部室の扉が開かれた。

「皆、お久しぶりね。元気してた?」

入ってきたのは去年の風越女子キャプテンの福路美穂子だ。

「キャプテン、じゃなくて福路先輩!」

「久しぶり華菜、今日は特別ゲストを連れてきたのよ。」

「特別ゲスト?」

(誰だろう、強い人だといいな・・・)

「焦華さん、入って良いわよ。」

(うん?焦華さん?)

「皆さん初めまして、冬室氷華の姉の焦華です。よろしく~。」

(特別ゲストって姉さんの事か・・・)

「姉さん・・・何で来たの?」

「いやー、氷華が普段どんな人と対局してるのか気になってさ、福路さんにお願いしたら了承貰えたから来ちゃった。」

「はぁ、まぁ、個人戦も近いから姉さんとは戦いたく無いんだけど。」

「まぁ、私と対局したら氷華が闇堕ちしちゃうもんね~。」

「・・・」

「ん?闇堕ち?何だそれ。」

「そんな事はどうでもいいですから池田先輩達は姉さんとでも対局して下さい。」

「う、うん、分かったし。」

「じゃあ、福路さんと池田さんと吉留さんの3人と対局したい。」

「いいですよ。」

「お手柔らかにお願いします。」

「華菜ちゃんが勝つし!」

~対局結果~

冬室焦華 79600

福路美穂子 14200

池田華菜 5400

吉留未春 800

「わーい、私の勝ち~。」

「・・・全然勝てなかったし。」

(最初は私がリードしていたのに南場で一気に追い上げたわね。やっぱりこの姉妹、南場に強いわ。)

(やっぱり誰も姉さんには勝てないか。福路先輩ならもしかしたらとか思いましたけど、やっぱり大学でまた麻雀をし始めてから更に強くなってますね。)

「私、もっと皆と打ちたい!誰かやろうよ!」

焦華がそう言って立ち上がると部員全員が目を逸らした。

「あの冬室さんのお姉さんなんか、勝てる訳無いよ・・・」

「福路先輩があんなに負けてるのにあたし達じゃ絶対に無理だって。」

部員達がひそひそと話し出した。

「はぁ、そんな消極的だからあんな結果に終わってしまうんですよ。」

(冬室さん、文句言いたいけど何も言い返せない・・・)

(ははっ、氷華も結構酷い事言うね~。)

「もう一度、もう一度対局して下さい!焦華さん!」

(おっ、大将の池田さん、流石、あの3人相手に最後まで諦めなかっただけあって根性あるじゃん。そういう子は是非とも潰してあげたいね。あの子達みたいに!)

~鶴賀学園麻雀部部室~

ゾクッ

「な、何だ今の・・・!?」

「真紀も感じましたか。」

「一葉もか、なんか、悪寒がしたな。まるであの時みたいな・・・」

「やっぱり風越の冬室さんって、あの人の妹さんなんじゃ?」

「そうかもな、なら、絶対に負けられないな!よしっ、続きやるぞ!」

「はい!」

 

 

~清澄高校麻雀部部室~

「そういえば個人戦、今年は強そうな人がいっぱいいるよね。」

「はい、特にあの人ですよね。」

「冬室先輩・・・」

「あれはヤバかったじぇ・・・」

「あんなんとは対局しとぉ無いのぉ。」

「マホ、今の冬室先輩には勝てる気がしないです・・・」

「ま、まぁ、マホは冬室さんよりも点稼いでるし、多分大丈夫だって。」

「そうでしょうか・・・」

「とりあえず今は練習あるのみだよ。」

「自分に自信を持とうよマホ!」

「はい!マホ、もっと強くなるです!」

「その意気ですよ。」

「私も次にあいつに会った時は負けないじょ!」

「ですが、注意すべきは冬室さんだけでは無いと思いますよ。」

「そうだね、衣ちゃんと真紀ちゃん、それに一葉ちゃんも。」

「あと、妹尾さんもじゃな。」

「今年の鶴賀学園、凄く強かったですよね。」

「龍門渕も相当じゃったけどのぉ。」

「うぅ、個人戦、怖いです・・・」

「そんな事言ってたら勝てる試合も勝てなくなっちゃいますよ?」

「わっ、和先輩が精神論なんて・・・」

「わ、私だって無感情では無いです!精神論を言って何か悪いんですか?」

「あっ、ごめんなさいです。そういうつもりでは無かったのです。」

「まぁ、いいです。ほら、続きやりますよ。」

「はい!」

それから3日後、個人戦に出る全員が予選会場に集まった。個人戦の1日目が始まろうとしていた。

 




『闇堕ち』という言葉をネットで調べたところ、善人が悪に手を染めると言った感じの意味だったのですが、氷華の闇堕ちは別に悪事をするようになるわけではありません。個人戦で氷華は『闇堕ち』するのか、誰が個人戦を勝ち抜きするのか、どうぞご期待下さい。

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