咲-Saki-もし1年後に夢乃マホが飛び級して清澄高校に入学したら   作:神奈木直人

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第17話 大将前半戦

咲が対局室に向かっていると、反対側から和が戻って来た。

「咲さん!」

「和ちゃんお疲れ。」

「はい。咲さんも頑張って下さい!」

「うん、行ってくる!」

和と別れ、対局室に向かった。対局室の扉を開けると、そこには既に風越のキャプテンである池田華菜が座っていた。

「宮永咲、今年は負けないからな!」

「はい、よろしくお願いします。」

華菜と話していると、もう一人が対局室に入ってきた。

「池田、咲、久しいな。」

「衣ちゃん!」

「ちゃんではなく!」

「あぁ、ごめん。」

「天江衣、今年は去年のようにはいかないからな!」

「ほう、では今年は去年のように容赦しなくても良いという事だな?」

「逆に華菜ちゃんが容赦する番だし!」

「ふっ、まぁ、楽しみにはしておこう。」

話していると最後の一人が入ってきた。

「はじめまして、お手柔らかにお願いします。」

「よろしく。」

「よろしく~。」

「じゃ、早速席決めしますか!」

~席決め結果~

汐見真紀:東

池田華菜:南

宮永咲:西

天江衣:北

『場決めが終わり、四人が所定の位置に座りました。大将前半戦、開始です!」

~東一局~ 親:汐見真紀

清澄 200800

龍門渕 82900

鶴賀 82700

風越 33600

(ま、最初は攻めずに様子見かな~。)

(トップとの差は17万弱、普通に考えたら勝つのは絶望的。でも、私はこれまでひたすら氷華と戦ってきた。勿論氷華には一回も勝てなかったけど、1度だけ、氷華のいる卓でプラス終了することが出来たんだ!たったの600点だったけどあの氷華から取れた点数なんだ、誇って良いはず。あの時みたいに打てば、この魔物二人とも、少しは善戦できるはず!今回の華菜ちゃんはこれまでと違うって事を見せ付けてやるし!)

「リーチだし!」

(風越の池田華菜、去年は天江衣の標的にされて散々な結果だったけど、この人も火力が高いから油断出来ないよなぁ。)

「ツモ!リーチ一発ツモドラ3で3000・6000!」

(跳満か・・・でも親被りだからちょっと痛いな。)

~東二局~ 親:池田華菜

清澄 197800

龍門渕 79900

鶴賀 76700

風越 45600

(この親番でせめて2位までは浮上してやる!)

~4巡目~

「リーチだし!」

(4巡目かぁ、速ぇ。しかも速いのに打点高いんだよなぁ。やっぱり名門風越のキャプテンなだけあるよな。)

「ツモ!リーチ一発ツモ純チャンドラ2で8000オール!」

(わぉ!親倍とか、凄いね~。でも、ウチがラスって言うのがちょっと頂けないかな~?)

(凄い、風越の池田さん、二連続和了だよ。)

(ふっ、束の間の喜びを与えられて天狗になっているようだが、その時も終わりだ。今年の衣は手加減なんてしない。池田だけでなく、咲と鶴賀の一年にも終焉を見せてやろう!)

ゾゾッ

(ん、何だ?今、天江衣から妙なプレッシャーが感じられた。って事は、来るって事か!天江衣!)

~東二局一本場~ 親:池田華菜

清澄 189800

龍門渕 71900

風越 69600

鶴賀 68700

~14巡目~

(全然聴牌出来ない・・・今年も天江衣の支配が始まってしまうのか。)

(何だよこれ、全然聴牌出来ねぇ、どうすれば良いんだこれ。)

(衣ちゃん、今年もやっぱり聴牌出来ないよ・・・)

~16巡目~

「リーチ!」

(ラスト一巡でのツモ切りリーチ、これってやっぱりあれが来るって事だよな・・・)

(鳴けないし・・・)

「ツモ!海底撈月、3100・6100。」

(やっぱり海底撈月で和了って来るのか。流石は天江衣だな。)

~東三局~ 親:宮永咲

清澄 186700

龍門渕 84200

鶴賀 65600

風越 63500

~2巡目~

「ポン。」

(5ピン、しかも赤ドラ二枚、どれを出せば良いんだ、これなら通るかな?)

「ロン。12000!」

(なっ、二巡目だぞ?速すぎる!)

(速っ、マジかよ、でも天江衣のお陰で風越との点差が広がった。よし、そろそろ攻撃モードで行くとしますか!)

~東四局~ 親:天江衣

清澄 186700

龍門渕 96200

鶴賀 65600

風越 51500

「わーい衣の親番だ~。」

(あざといな・・・)

(天江衣の親番、絶対に連荘させない!)

(さてと、この配牌、ならこうだな!)

(鶴賀の大将、いきなりドラの9萬切り?清一でも狙ってるのか?)

~2巡目~

(なっ、またドラ!?しかもツモった牌じゃなくて手牌から捨てた。って事は、ドラの対子落とし?)

(鶴賀の大将、何をする気だ?)

~3巡目~

「リーチ!」

(はっ?ドラの暗刻落としでリーチ!?って事は、ドラ捨ててなければダブリー出来てたって事か?何でダブリーしなかったんだよ。)

(鶴賀の人、ちょっと怖い感じだよ。)

(まさか・・・)

「ほい来た一発ツモ!メンタンピン一発ツモ三色赤4枚で6000・12000!」

(なっ、三倍満!?)

(ドラを暗刻落としして三倍満ツモ!?運否天賦?それともそれがこいつの実力とでも言うのか?)

(皆さん驚いてるね。ま、それもそうだろうな。変な打ち方をしたら点数が上昇したり速く和了れたりする。それがウチのやり方!そして、一葉だけが理解してくれた打ち方だ・・・)

 

 

3年前、ウチが中学に入って間もない頃、幼稚園からの付き合いである一葉と二人で麻雀部に入部した。ウチと一葉は小学生の時から麻雀を始め、小学3年の時には大会にも参加した。その大会でウチと一葉は県予選決勝まで登り詰めたものの、決勝では完膚無きまでにやられてしまった。小学生だったウチはその試合を思い出してしまう為、麻雀こそ辞めなかったものの大会には参加しなくなった。しかし一葉と他の友達とする麻雀は楽しく、そのお陰で中学からは麻雀の大会に出ようと決心した。そんなこんなでウチが入った中学の麻雀部は、結構な強豪校らしく部員も多かった。部員が多い為、大会に出られる人数も限られてくる。この中学では、団体戦の5人と団体戦で出場する5人を含めた8人がエントリー出来た。その選出方法は基本的には部員全員と総当たりで対局して、その中で一番成績の良かった上位8人を選ぶ。だが、顧問やコーチが話し合い、『こいつは駄目だ』と判断されたメンバーが外される場合もあった。それがウチである。ウチは、総当たりで1位になったのにメンバーから外された為、一葉と二人で顧問の所へ抗議しに行った。

「先生!どうしてウチがメンバー入りしてないんですか?ウチは総当たり戦で1位だったのに。」

「なんだ、汐見か。何故メンバー入りしてないかだって?はぁ、お前さ、全然なってないんだよ。変な打ち方ばっかりして、今回1位だったのはまぐれだ。調子に乗るな。」

(はぁ?何言ってんだこいつ。)

「いやいや、まぐれって、部員何人いると思ってるんですか?部員全員に勝ったのがまぐれだって言うんですか?」

「あぁそうだよ。たまたま運が良かっただけでここのメンバーになれると思うのがまずもって大間違いなんだよ。」

「先生!それはあまりにも真紀が可哀想です!」

(一葉・・・)

「ん?あぁ、一ノ瀬か。メンバー入りおめでとう。」

「茶化さないで下さい!真紀は部員全員を相手に全てトップで終わらせているのですよ?それが偶然だと仰るのですか?もしそうだとしたらどれだけの確率か分かってらっしゃるのですか?」

「成る程な・・・なぁ一ノ瀬、良い事を教えてやろう。確率というものは必ずしも回数を重ねなければならないとは限らないのだよ。まぁ要するに、仮に1万分の1の確率があったとしても、一番最初にその確率を引き当てる可能性だってあるんだよ。逆に1万回やっても引き当てられない可能性だってある。汐見は偶然その1万分の1の確率を掴み取ったに過ぎないんだ。先生の言っている事分かるかな?」

「成る程、分かりました。」

「そうか、一ノ瀬は物分かりがいいな。流石成績上位者だな。」

「なら、私が1を集めるのもその低い確率を掴み取ったに過ぎないかもしれないのでメンバーから外して下さい。」

「は?あ、いや、一ノ瀬は打ち方もしっかりしてるし速い上に火力も高い。一ノ瀬は是非メンバー入りして貰いたいんだ。」

「でも、速いのも火力が高いのも何万何億分の1の確率を掴んだだけかも知れませんよ?」

「はぁ?もしそれが確率だったとしたらそんなもの一発で掴める訳無いだろ!あっ・・・」

「今はっきり言いましたね、『そんなもの一発で掴める訳無い』と。」

「くっ・・・」

「真紀への発言の取り消しと真紀のメンバー入りの許可をお願いいたします。」

「いや、でも汐見のメンバー落ちはもう確定してるから厳しいんだよ。」

「・・・そうですか、なら私もメンバー入りを辞退します。」

「えっ!?どうして?」

「真紀がいない公式大会なんて、出る価値を感じ得ないので。」

「いやいや、一ノ瀬のメンバー入りも決まってるんだって!」

「なら、私この部活を辞めます。」

「はぁ!?」

「この部活を辞めれば自動的にメンバーから外れますよね?」

「確かにそうだが・・・」

「これまでありがとうございました。退部します。」

「ちょっ、一ノ瀬!」

「行きましょう真紀。」

「あぁ、うん。」

ウチらは教員室から逃げるように出た。

「ちょっと一葉、別に一葉まで辞めなくても良かっただろ。」

「真紀の事を分かって貰えない方の下にはつきたくありませんから。」

「だからって大会まで辞退しなくても良かっただろ。」

「先程も言いましたけど、私は真紀が出ていない大会には出たくありませんから。」

「そ、その気持ちは嬉しいけどさ、一葉は先生も言ってた通り強いから勿体無いよ。」

「それなら真紀の方が勿体無いですね。あんなに強いのにあんな不当な評価をされて。」

「それは、そうかもしれないけど・・・」

「なら、高校から始めましょう。そして、中学の先生に、真紀を選ばなかった事を一生後悔させてあげましょう。」

「一葉ってたまに怖い事言うよな・・・」

「あっ、ごめんなさい。・・・嫌いになりましたか?」

「何で謝るんだよ。それに、そんな事で嫌いになるならとっくに縁切れてるよ。」

その言葉を聞いた途端、一葉の顔が明るくなった。

「良かったぁ、真紀に嫌われたら私どうしようかと思いました。」

(どうしようと思ったんだよ・・・)

「まぁ、取り敢えず高校で全員蹴散らしてあいつらを見返してやれば良いって事だろ?」

「蹴散らすって・・・真紀も結構怖い事言うじゃないですか。」

「・・・嫌いになりましたか?」

「それ、私の真似ですか?」

「ははっ、似てた?」

「全然似てませんよ!」

「怒んなって。」

「もぉ!」

 

 

(そして、今日まで頑張って来たんだ。あいつらを見返す為、そして、一葉の為に、この試合は勝たなきゃいけないんだ!絶対に勝って全国に行く!)

『なんと、鶴賀の汐見真紀、ダブリーをせずに三倍満ツモ!』

『成る程な。』

『えっ、どうしたんですか?』

『ダブリーを掛けてればダブリーツモドラ7で倍満。だが敢えてドラを暗刻落としする事によって一発とタンヤオと平和と三色が付いて三倍満。まぁ、三色が出来てくれる事と一発ツモが出来る事の二つが同時に起きなければこの三倍満は無かったな。』

『凄い偶然が重なった結果こうなったって事ですかね?』

『まぁ、そんな感じじゃないか。』

『成る程、さぁ、東場が終わり、南場に突入します。』

~南一局~ 親:汐見真紀

清澄 180700

鶴賀 89600

龍門渕 84200

風越 45400

「リーチ!」

(なっ、今度はダブリー!?魔物は二人だと思ってたのに・・・なんてな、分かってたよ。鶴賀の副将であんなにヤバいのを出してきてるんだから天江衣と宮永咲のいる大将戦はもっとヤバい奴が来ると思ってたよ。でも、敵が3人とも魔物だったとしても、華菜ちゃんは諦めない!勝つ可能性が低いなら、最後まで勝ちを模索し続けるだけだ!)

「ツモ!ダブルリーチ一発ツモタンピン三色で8000オール!」

(また鶴賀!?しかも親倍・・・こいつ、マジでヤバいし。)

「続けて一本場!」

~南一局一本場~ 親:汐見真紀

清澄 172700

鶴賀 113600

龍門渕 76200

風越 37500

(あー、来ちゃったか~。ま、来ちゃうよな~、いいけど。)

「ツモ!天和、16100オール!」

(はぁぁぁぁ???天和!?)

(こいつ・・・)

(この人、お姉ちゃんみたいだよ・・・)

「更に続けて二本場ぁ!」

~南一局二本場~ 親:汐見真紀

鶴賀 161900

清澄 156600

龍門渕 60100

風越 21400

「リーチぃ!」

(またダブリー!?こいつ、親番だとダブリー出来るとかそんな感じなのか?)

(こんなの、何を出せば良いのか分からないよ、これかな?)

「ロン。ダブルリーチ一発タンピンドラ3で24600。」

(ぅわわっまた一発、しかも親倍に振り込んじゃったよ・・・)

(鶴賀の勢いが止まらない。このままだと私がやられちゃう!)

~南一局三本場~ 親:汐見真紀

鶴賀 186500

清澄 132000

龍門渕 60100

風越 21400

「リーチ!」

(またダブリー・・・)

「ポン。」

(ん?天江衣のポン、もしかしてずらされたか?)

「ポン。」

(またウチの手番を飛ばされた。まさか・・・)

「ロン。16900。」

(くそっ、掴まされてた。やっぱり天江衣速ぇ、一葉よりも速いな。)

(全然手が追い付かないよ・・・)

~鶴賀学園控え室~

「真紀の親番が終わってしまいました。」

「うむ、でも流石汐見だな。倍満の直撃喰らったのに、まだトップを維持している。」

「このままマッキーが勝って欲しいっすね。」

「汐見さん頑張って!」

~南二局~ 親:池田華菜

鶴賀 168600

清澄 132000

龍門渕 78000

風越 21400

~6巡目~

「ロン。タンピン三色ドラ4、16000!」

(また天江衣に直撃された・・・流石だな。)

(このままじゃ、衣ちゃんにも追い付かれちゃうよ。)

~龍門渕高校控え室~

「衣、調子が出て来ましたわね。」

「あっ、透華、起きてたんだ。」

「えぇ、大会の日にも関わらず倒れてしまい、申し訳ございませんわ。」

「いやいや、透華のお陰であんなに稼げたんだから負い目を感じる必要は無いよ。」

「そうでしたか。なら良いんですけど。」

~南三局~ 親:宮永咲

鶴賀 152600

清澄 132000

龍門渕 94000

風越 21400

~15巡目~

(また聴牌出来ない。って事は天江衣は次のツモでリーチしてくんのかな・・・)

「リーチ!」

(やっぱりリーチしてきたか・・・)

(全然鳴けないし・・・)

(また海底で和了られる!)

「ツモ!海底撈月。4000・8000!」

(また海底かよ、さっきから天江衣ばっかり和了って詰まんねぇな。ウチにも和了らせろよ!)

(また天江衣にやられちゃうのかな・・・)

~南四局~ 親:天江衣

鶴賀 148600

清澄 124000

龍門渕 110000

風越 17400

(このまま連荘させるわけにはいかないっしょ!)

(このままだと衣ちゃんにも捲られちゃう・・・)

~8巡目~

(タンピンドラ1の1向聴か・・・でもこのまま進んだらどうせ和了れないんだろうな。なら、私の打ち方と天江衣の支配だとどっちが上か確かめてみようじゃないか!)

~清澄高校控え室~

「なっ、鶴賀の人、平和とドラを捨てましたよ!」

「同じ牌が1枚重なったからドラを落としたのか、見た感じ、横より縦に手を伸ばすタイプじゃと思ってたんじゃが。」

「あっ、でも汐見さんがドラを切ってからどんどん手が横に延びてますよ!」

「本当じゃ、もう1枚入れば三暗刻じゃな。」

「そんな、偶然ですよ!」

~対局室~

「リーチ!」

(なっ、衣の支配を撃ち破っただと!?鶴賀の、汐見とか言ったか?こいつ、一体何者だ?)

「ツモ。リーチ一発ツモタンヤオ三暗刻。3000・6000!」

(やられた、しかも親被り。咲との点差が広げられてしまった。)

(1度も和了れなかったよ・・・)

「宮永咲さん、天江衣さん、もうちょっと本気出して下さいよ。でないと、ウチがこのままトップ終了してしまいますよ?」

(なっ、こいつ~!)

(この子怖いよぉ、誰か助けて・・・)

『大将前半戦終了。なんと、清澄の宮永咲がまさかの焼き鳥状態。逆に鶴賀の汐見真紀には目を見張るものがありました。』

『後半でどうなるかが期待だな。』

『そうですね。では5分間の休憩を挟んで大将後半戦を開始します。』

~大将前半戦結果~

鶴賀 160600

清澄 121000

龍門渕 104000

風越 14400




次でとうとう長かった県予選団体戦の決勝が終わります(予定)。真紀の回想シーンが思った以上に長くなってしまった為、最後辺りが少し雑になってしまいました。

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