フロンティアを駆け抜けて   作:じゅぺっと

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怪物との決着

「――きりゅりりゅりしぃぃ!」

 

 メガレックウザの十メートルはあろうかという巨躯が、尖った口元から放つ咆哮が夕日に染まり始める空を切り裂く。ジェムは図鑑やテレビでレックウザの姿は見たことがあるしダイバからエメラルドが所有しているという話は聞いていた。アマノが吹き飛ばされたショックから意識を戻して実際に向き合うとなると、それでも――。

 

「こんなポケモンがいるなんて……」

 

 ジャックのレジギガス以上の存在感。そしてこのレックウザにはあの巨人のような相手への優しさは微塵も感じられなかった。乱気流を巻き起こし、空を裂き、ジェムとダイバへ吼えるその様はドラコの竜たちとは違い、耳を塞いで気を逸らすことさえ許さない。元々その強さを知っているダイバが、冷静に声をかける。

 

「ジェム、一旦ラティアスは戻して。……作戦通り行こう」

「うん、ありがとうラティ、出てきてキュキュ!」

 

 ジェムはキュウコンを出す。出てきたキュウコンはメガレックウザに対し怯まず尾を逆立て、いつものように座ったポーズではなく4つの足でしっかりと立った。しかしその足はわずかに震えている。恐怖を隠すため、ジェムを守るために必死になってくれているのを感じる。ダイバが支えてくれていなければ、ジェムは身体が竦んで動けなかったかもしれなかった。

 

「さて、まずはその二匹からぶっ倒していいんだな?」

「……やらせない。この時のために、昨日一日……いや、ずっと考えてきたんだ」

「そうかよ……じゃあ俺様を楽しませて見せろ! 『神速』!」

 

 エメラルドが言い終えた刹那、メガレックウザの尾が動いた。ジェムの目にもダイバの目にも留まらぬ速さで、長い尻尾がキュウコンに叩きつけられる。それを理解したのは、銅鑼を叩いたような音と地面の砕ける衝撃を感じた後だった。素早さに優れたキュウコンでさえ、反応できない。

 

「キュキュ!!」

「『電光石火』や『ニトロチャージ』を使う暇もなかったな。さて……」

「……終わりじゃない」

 

 メガレックウザとキュウコンの間には、メガメタグロスの四つの腕が入り込んで盾になっていた。ダイバとメガメタグロスは初手での『神速』を読んでいた。防御力の低いキュウコンを狙うことも。故に事前にキュウコンを守ることが出来ていたのだ。

 

「今だジェム!」

「キュキュ、『鬼火』よ!」

「コーン!」

 

 そして返す刀で、守られていたキュウコンが揺らめく炎を間近からメガレックウザにぶつける。いくら相手が巨大なドラゴンといえど、キュウコンの神通力が籠った炎は確実に火傷の状態異常を浴びせる。

 

「おまけにメタグロスには『高速移動』と『鉄壁』の重ね掛け……なるほどなあ」

「状態異常に能力変化。メタグロスだって元々十分伝説級の力を持ってる……これなら僕のメタグロスの方が勝る! 『コメットパンチ』だ!」

「グオオオオオォ!!」

 

 メガメタグロスの四つの拳がばらばらに巨竜の体に殴りかかる。メガレックウザも体を振り回してはじき落とすが、自在に宙を舞う腕は弾かれてもまた向かっていく。

 

「キュキュ、『影分身』で腕をたくさん増やして!」

 

 キュウコンが尾から炎を出し、周囲の空気熱を操作してメガメタグロスの腕の分身を作り出す。四つの腕が十六に、十六の腕が六十四に。幾重もの虚像の腕によってメガレックウザは本物を叩き落とすことさえままならない。尾を、胴を、顔を、首を。何度も何度も殴り続けてダメージを与えようとする。

 

 

「――きりゅりりゅりしぃぃしゅぅぅうううううう!!」

 

 

 伝説の巨竜が叫ぶ。だがそれは痛みに悶絶する声でも強敵に対し己を鼓舞する声でもなかった。まるで顔の周りを飛び続ける小さな虫に苛々したような声。エメラルドが呆れたように頭を掻く。

 

「ったくよぉ……伝説級だとか、腕を増やすだとか……スケールが小さい、小さすぎるぜ! そんなもん、俺様とレックウザにとってはバチュルやアブリーの体当たりレベルだってことを教えてやる。『噛み砕く』だ!」

 

 鋭い顎に隠れた大口が開き、体をぐるりと回して首元を殴ろうとした本物の腕の一本を――アルミ缶を潰すようにあっさり噛み砕いた。ダイバが、驚きの声を上げる。

 

「なっ……!?」

「グゴオオオッ!!」

 

 メガメタグロスも苦しそうな声を出す。いくら電磁力によって体から離れて動かせるとしても、紛れもなく自分の身体の一部なのだから当然だ。

 

「確かにメタグロスのスペックは伝説のポケモン並だ。だが伝説にもランクってやつがある。ラティアスやレジギガスは準伝説……メタグロスはそれと同等。だが俺様のレックウザは真の伝説! そして真の伝説ポケモンの中でメガシンカを操れるのはこいつだけ……つまりホウエン、いや全世界で最強のポケモンだ。いくら攻撃力を下げて防御を固めたところで、種族としての圧倒的な力の差は埋められねえんだよ!」

「ジャックさんのレジギガスよりも力が上……!?」

 

 自分の師匠であるジャックの本気の戦いを思い出す。クチートを一撃で握りつぶし、ラティアスのどんな攻撃も受け付けず相手の力を利用してやっと倒せた、一体のポケモンとしてはジェムの知る最強の存在ですら、格が違うという事実に畏怖を持って相手を見上げてしまう。メガレックウザは鋼の拳を咀嚼した後破片をまずそうに吐き出した。隕石を食らうとされるレックウザでもさすがに鋼のポケモンを飲み込む気にはならなかったらしい。破片が落ち、ダイバとジェムの目の前まで転がってきた。腕一本で自分たちを乗せて運ぶほどの大きさだった腕が、自分の指先でつまめる程度まで砕かれて、ダイバが青ざめがならも指示を出そうとする。

 

「……ジェム、もう一度『影分身』で腕を」

「無駄だっつってんだろ?」

 

 メガレックウザが再び吼えると、乱気流がまた吹き荒れる。熱を利用して生み出された分身は空気をかき乱されてぐちゃぐちゃに霧散した。三つに減った腕の一本を、レックウザが今度は尾で思い切り叩き切る。腕が真っ二つに切断されてフィールドに落ちた。

 

「ッ……キュキュ、『火炎放射』!」

「はっ、いいのか? 攻撃してくるってんなら……俺様のレックウザは降りかかる『火の粉』は払い落すぜ。『神速』だ!」

 

 キュウコンが九の尾からありったけの炎を放つ。長さ何メートルにも及ぶ大火などものともせず、メタグロスの腕による防御がなくなった身体を緑色の尾で弾き飛ばした。何の容赦もなくフィールドの外、支えるものがない天空へと放り出す。

 

「ラティ、キュキュを助けてっ!!」

「ひゅううううあん!!」

 

 ジェムが咄嗟にメガラティアスを呼び出し、彼女はまっすぐキュウコンの下に飛んでいってその体を乗せフィールドに舞い戻る。ジェムはなりふり構わずキュウコンの体を抱きしめた。いつもは優しい温もりのある柔らかい毛並みが、冷たい大気に晒され空から落されかけ氷タイプの技を受けたわけでもないのにガチガチに凍り付いていた。

 

「わかるよ、すっごく怖かったよね……死んじゃうって思ったよね……」

「こん……」

 

 メガラティアスも、キュウコンの傍で『癒しの波動』を使う。とりあえず体の傷は癒えていくが、それでも今の一撃を受けたキュウコンをあのレックウザに立ち向かわせることはジェムには出来ない。しかしすぐボールに戻すのも嫌だった。ジェム自身が空へ放り出された後、ダイバが支えてくれなければきっと怖くて立つことも出来なかったから。なのでジェムはエメラルドに対し提案する。

 

「エメラルドさん、もうキュキュは戦闘不能扱いでいいし、もうバトルに参加させないから……このまま、出しておいてもいいですか?」

「構わねえぜ。戦うポケモンへのメンタルケアってやつもトレーナーのフロンティアオーナーとして蔑ろには出来ねえしな」

「……ありがとうございます」

 

 あっさりと認めるエメラルドに一応礼を言い、ジェムはメガレックウザへ視線を戻しながらもキュウコンをしっかりと抱きしめる。いつもは自分が怖かったり寂しくなったときに抱きしめていた体を、今は自分が温める。メガラティアスはそんな主と仲間のポケモンを守るようにメガレックウザと向き合った。メタグロスは必死に戦っていたがまた一つ、そして最後に残った腕も破壊されてフィールドに散らばっていた。ダイバがまるで自分の足もなくなったように膝をつく。

 

「勝て、ない……レックウザを倒す手段は、もうない……」

 

 絶望に染まった声。残ったのは本体の頭だけ。『思念の頭突き』など可能な攻撃手段はあるが頭一つで突っ込んでも玉砕するのは明白だ。ガルーラではそもそも攻撃を当てることすらままならない。ジェムを連れてきたのはあくまでメタグロスのサポートの為だ。メガラティアスの攻撃性能は低くないし防御力もあるが、ドラゴンタイプのメガレックウザ相手では分が悪すぎる。そんなダイバの様子に、エメラルドは失望したような声を出した。

 

「……がっかりだぜ。俺様を倒すためにどんな攻撃方法を考えてきたかと思えば仲間の鬼火に頼り、防御と回避を上げて徹底的に保身に回るだけの臆病なバトルをするなんてな」

「臆病、じゃない。僕は、勝つために……パパに勝つ方法をずっと考えて」

「勝つためだ? ちげえよ。今のお前は負けることから逃げようとしてるだけだ。そんなんじゃあの小物には勝てても俺様やチャンピオンには……いや、隣の女にだって勝てっこねえぜ! 今のお前は俺やネフィリムが与えたポケモンが強いってだけで、お前自身はただ根暗な割に我儘なだけのガキだ!!」

「う……う……」

 

 エメラルドがジェムを指さす。その言葉には自分の子供への容赦は一切ない。ダイバの表情は見えなかったが、蹲る彼の床にぽたぽたと雫が落ちたのをジェムは見逃さなかった。だからジェムは、自分の相棒に指示を出す。ダイバの体が念力で、ジェムとキュウコンの傍まで移動させられる。そしてキュウコンと巻き込むように抱き寄せた。ダイバはそのことに反応も出来ず、泣いている。

 

「……それは、違うわ」

「……?」

「確かにダイバ君でもエメラルドさんには勝てないかもしれないし、私でも勝てない。でも……ダイバ君は一人じゃないでしょう?」

「はっ、二人で力を合わせれば1+1は4にも10にもなる……ってやつか?」

 

 エメラルドが小ばかにしたように言う。よく言われる話だしダブルバトルではそれが肝となるのは事実。でもジェムの言いたいことはそうではない。頭だけになってもレックウザと対峙するメタグロス、テレパシーで意思を伝えるサーナイトにボールの中で子供と一緒に待機するガルーラ。バトルには出られなくてもダイバを見守る残りのポケモン達。

 

「1+1なんかじゃない。メタグロスの腕はなくなっちゃったけど……まだ、ダイバ君のメタグロスは諦めてないよね。ガルーラだって、サーナイトだって……ダイバ君の手持ちのみんなは、まだダイバ君ならきっと勝てるって信じてるのが私にも伝わってくるもん」

「でもそれは……パパとママが、僕を守るように言ったから」

「最初はそうだったと思う。でもダイバ君も少しずつ成長して……今では自分の意志で指示を出してるじゃない。それにダイバ君の仲間たちは従ってくれる。ならもう――」

 

 ダイバの震える声をジェムはやんわり否定する。父親と同じように振る舞えると夢見て、無茶をするジェムを仲間たちが力になってくれた。ジェムとダイバは育った環境も何もかも違う。だけど、ポケモントレーナーとしての自分の仲間たちとの絆は同じように存在しているはずだ。

 

「その仲間たちがお父様とお母様に貰ったものだとしても、関係ないわ。だって今はもう『ダイバ君の手持ち』……そうでしょ?」

 

 ジェムがシンボルハンターとの戦いで母親に愛されていないという言葉を突き付けられた時、立ち上がることが出来た一番の理由は泣きじゃくる自分を心配してくれるポケモン達がいたからだ。ずっと一緒に過ごした仲間たちはいつもいつでも、本気で自分を支えてくれると信頼できる。

 

「私はまだダイバ君に会ったばかりだから勝手なことも的外れなことも言っちゃうけれど……ダイバ君の仲間なら、今のダイバ君がどうするべきか相談できるはずよ。ね?」

 

 ジェムはダイバの肩を支えてあの時のジャックがそうしてくれたように優しく言った。彼と同じく、どうするかはダイバとその仲間に委ねる。ダイバは頷いて、メタグロス、それに手持ちの仲間たちを見た。口は開いていないが、テレパシーで何かを伝えあっているのだろう。ジェムには内容がわからないが、そのことに不安はない。エメラルドは一連のやり取りを見やり、面白そうに口の端を歪めた。

 

「なるほどな、いい判断だ。私たちはもう仲間だとか諦めなければ勝機はあるとかそんな言葉よりも、ずっと説得力があるぜ。……だが、俺はあのシンボルハンターみたく気が長くねえぜ?」

「――きりゅりりゅう」

 

 メガレックウザが天空で欠伸でもするように鳴いた後ジェムたちを見る。伝説の中の伝説である巨竜には人間同士のやり取りなど興味を持つに値しないのかもしれない。

 

「……勿論、攻撃してくるなら受けて立ちます。ダイバ君が勝つ方法を思いつけるなら、勝てなくても耐えてみせる……のです」

「ひゅうあん!」

 

 メガラティアスとメガレックウザが向かい合う。伝説のポケモンでありメガシンカ同士、しかし伝説としての格は向こうの方が遥かに上。一対一では勝利は望めないことはジェムたちもわかっている。

 

「そうかよ、なら……伝説としての格の差を思い知りな! 『神速』!」

「『リフレクター』!」

 

 メガレックウザの尾がしなり、音速を超えてメガラティアスを狙う。横合いから叩きつけられた一撃は守りの壁を粉々にして、メガラティアスの体を木の葉のように吹き飛ばした。

 

「ほう……随分軽く飛んだな」

「ラティ、いけるよね?」

「ひゅうん!」

 

 小さな飛行機のようなメガラティアスの体は撃墜されない。『リフレクター』で一瞬でも体に当たるまでの時間を稼ぎ、攻撃を受けながらも自ら念力で飛ばされることで受けるダメージを大幅に軽減したのだ。元のフィールドに戻りながらも、『自己再生』による回復を忘れない。

 

「だったらこれはどうだ? 『噛み砕く』だ。首から上噛みちぎられても知らねえぜ?」

「そんなことさせない! 『竜の波動』よ!」

 

 メガレックウザが大口を開けて突っ込んでくる。『神速』ほどではないにせよ動きは速く回避は不可能。しかし向こうから近づいたのを利用して銀色の波動を放つ。狙いは瞳、相手の視界を潰す攻撃にレックウザは思わず仰け反った。

 

「――きりゅりりゅりしぃぃ!」

「まるで一寸法師だな。ちょっとちくっと来たらしい……今までで一番まともなダメージじゃねえか」

 

 そういうエメラルドには気迫に満ちた笑みが浮かんでいる。もう十五分はその腕にネフィリムを支えているのに、重そうにするそぶりすらない。

 

「だが攻撃するんだったら……これくらいはやってみやがれ! 『龍星群』だ!!」

「上に攻撃を!?」

「これがオゾン層に住むレックウザだからこそ扱える、他のドラゴンとは一線を画す究極の技だ……受け取れぇ!」

 

 メガレックウザが口から金色の光を空、いやオゾンを突き抜けた宇宙まで放つ。遥か上で二つ目の太陽のようにフィールドを照らした。そして――光は分裂していくつもの黄金の龍の形を取り、一体一体が元々のレックウザほどの大きさを持ってフィールドへ降り注いでくる。メガラティアスだけではなく、ダイバと話しているメガメタグロスの本体も狙って。

 

「……ラティ、『光の壁』! 最後まで諦めないで……何度でも!」

 

 巨大すぎる攻撃に対し必死に守ろうとするメガラティアスとジェム。だが空中に張ったいくつもの壁は止めるどころか勢いを落とすことさえ全くできない。何度張り直しても、紙切れのように破られていく。いくらラティアスの防御力が高くてもドラゴンタイプ最強の攻撃、しかも格上の伝説相手の技を耐えきれるとは思えなかった。迫りくる黄金の龍はジェムにそう思わせるのに十分すぎた。ジェムの頭が真っ白になる直前。

 

「ジェム、ラティアス……今から僕達がやることを信じて、受け止めてくれる?」

「当たり前よ!」

「ひゅううん!」

 さっき涙に震えていた時とは違う、いつもの冷静なダイバの声。自分たちが稼げた時間は一分あるかないかだった。それで立ち直るなんてやっぱり私よりもずっと強いな、とこんな時にも思いながら応える。ジェムとラティアスがそれぞれの言葉で応えた瞬間。それを信じて既に動き始めていた頭だけのメタグロスが、『思念の頭突き』を使いながらラティアスの頭にぶつかった。

 

「えっ!?」

「血迷ったか。それとも『龍星群』を食らう前に戦闘不能にすればこれ以上傷つかずにすむって腹か? だがもう手遅れ――なに!?」

 

 エメラルドがいいかけ、そして初めて本気で驚いたような声をあげた。ジェムも驚く。だがそれはメタグロスとラティアスが相討ちになったからではない。メタグロスがメガシンカするときに己の体を変形させるのと同じ光に包まれ、ラティアスの身体と混じりあう。そしてそのまま『龍星群』が直撃した。

 

「……やれるかどうかは賭けだった。でももうこれしかない……そう思った」

 

 いくつもの星がフィールドに落ち、フィールドが焼ける。だがその場の全員の視線はメガラティアスに注がれていた。光が消え、黄金のエネルギーが体を通り抜けたそこには……メタグロスの鋼によって体をコーティングされまるで本物の飛行機のように丸みと硬さを持ったフォルム。胸にメタグロスのXラインを付けた鋼を纏ったメガラティアスがそこにいた。自分の無事を伝えるように彼女は鳴く。

 

「ひゅうううううん!!」

「メタグロスの鋼が、ラティを守ってくれてる……」

「どういうことだ……合体したってのか、ポケモンが」

 

 あり得ない話ではない。ヤドンとシェルダーが合わさってヤドランになるのは有名な話だし、カブルモやチョボマキがお互いに交信し合うことでそれぞれ進化を果たす例もある。何よりメガシンカとは要は己の体を変質させて新たな力を得る能力だ。メガメタグロス自体ダンバルやメタングとメガシンカのエネルギーを使い合体できるから成立する。ならば変改した体をラティアスにフィットさせるのは理論上可能ではあるかもしれない。とはいえそれは机上論だ。実際に全く異なるポケモン同士が突然合体するなど奇跡でも起こらない限り不可能だ。

 

「……『思念の頭突き』で僕とメタグロスの意思をラティアスに全部伝えた。そこでラティアスがほんの少しでも拒否すれば合体は失敗になった。可能性にして……成功する確率は五パーセントにも満たないってメタグロスは言った」

 

 でも、それは成った。ラティアスがダイバ達を、いやラティアスが信じるジェムがダイバ達を信じたことでメガシンカポケモン同士の融合という奇跡をなし得たのだ。

 

「これが僕とメタグロスの……いや、ここにいる全員でたどり着いたメガシンカの答えだ!!」

「すごい……すごいよ! これならきっとメガレックウザにだって勝てる!」

「ハッハッハッハッハ!! こいつは傑作だ、予想以上だ! 面白い、やはりあいつの考えることは笑わせやがる!!」

 

 本気で面白そうに、愉快そうに笑うエメラルド。レックウザも目の前の現象に流石に驚いているのか、咆哮にはわずかに混乱が交っている。

 

「だが! どんな信頼も奇跡も、結局は勝てなきゃ意味がねえ! それがお前達二人のたどり着いたシンカの先だって言うんなら……『画竜点睛』を欠くなんて真似はするんじゃねえぞ!! レックウザ!!」

「――きりゅりりゅりしぃぃしゅぅぅうううううう!!」

 

 メガレックウザ自身が、己の本拠地であるオゾン層へと昇る。その巨躯を動かすエネルギー源はオゾン特有の空気。それを十分に吸い込み、全ての力を込めた大空からの急速降下を行う。

 

「行くよ、ラティ、メタグロス!」

「これが僕達の……最後の一撃! 集う想いが拳と代わり、伝説を超える意思となれ!」

「私達が未来をつかみ取るために誰が相手でも戦い抜くと、お父様達じゃなくこの子達に誓うわ!」

 

 鋼の体を、メガシンカしたラティアスとメタグロスによる思念の力が駆け巡る。アクロバット飛行をする戦闘機のように回転しながらメガレックウザに正面から向かっていく。その想いは赤青緑紫、メタグロスの特徴である巨大な四つの拳を形どりメガラティアスの四方に完成する。ダイバとジェムはこの戦いに勝つために、二人で叫んだ。

 

「『天河絶破拳』――――」

「『タイタニック・フィスト』!!」

 

 作り出した四つの思念の拳が降下するメガレックウザと激突する。ぶつかり合い拮抗したのは数瞬。自身の身体すら超えるサイズの巨大な拳に押され、メガレックウザの体が後退していく。最後にメタグロスを纏ったラティアスがぶつかり――メガレックウザの象徴、鋭い顎を粉砕して上へと駆け抜けていった。

 

 

「……見事だ」

 

 

 上空を見上げていたエメラルドが決着を理解し、真剣な声で言う。メガレックウザは倒れることはなくそのままオゾンの中へ消え、最後の一鳴きを残し遠くに飛んでいった。鋼を纏ったラティアスがジェムたちの元へ帰還し、いつも通り――いや、ジェムとダイバの周りを嬉しそうにくるくると回る。

 

「ありがとうラティ、メタグロス、みんな……!」

「じゃあこれで……」

 

 キュウコンとジェムに包まれたダイバがエメラルドを見る。彼は袖口に持っていた金色のシンボルを掲げ、宣言した。

 

「てめえらの勝ちだ。危機に陥ったバトルタワーを救い、俺様に勝ったその強さ……認めてやるぜ! これがお前達の才能の証、アビリティシンボルだ!」

 

 指ではじいて渡されたシンボルは、メガレックウザを象徴する細長い緑の長方形に金の輪があしらわれている。それが突然バトルタワーを襲った者達に真の支配者。数々の戦いを潜り抜けた二人への最大の賛辞だった。この一戦は、のちに伝説の戦いとしてホウエン中で語られることになる――。

 


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