戦闘描写の難しさは異常ですね…
何度書き直して何度読み直しても単調になってしまう…
原作入りしてからは引用が効くので今よりはましになるかとも思われますが
まぁなにはともあれ大いなる詩人編終了です
エピローグも入れて今日は2話投稿です
それではどうぞ
切り裂かれた胸の傷から、赤い液体が迸る。
その赤は飛び散り、彼の姿へと降り注いだ。
それにあわせて、私は斬られた衝撃とともに後ろに倒れこむ。
彼の格好は一新されていた。
先ほどまではヒマティオンをエクソミスにまとい、草の冠をかぶり竪琴を奏でる、誰もが想像する吟遊詩人の姿をしていたが、今は古代ギリシャの戦士たちの装いをしている。
左手には楯ではなく竪琴を持っているが、彼はそれを左手だけで器用に操り、右手では剣を振るうのだろう。
「ふん、無粋なる神殺しよ、戦闘においても貴様は無粋であったな。いつから我が剣を使わぬと考えていたのだ。その慢心、驕りこそが貴様の敗北につながっていたのだ!」
「あはは、これは予想外だねぇ。何が予想外ってその剣、倭の時代の剣じゃない。日本の神様で『鋼』でそして十拳剣……オルペウスの冥界訪問譚を考えると、あなたの正体が掴めた気がするよ。あなた、伊邪那岐命の逸話を拾い食いして『鋼』になったのか……それなら日本に顕現したわけも理解できる。ああ、くそ今頃こんなことわかっても意味はないってのに……」
「ふはははは、見事! それほどの傷を負って猶、見事我が半身を見破って見せた! しかしそれでもまだ我が半身でしかないぞ! 神殺しとはこうも脆弱なものだったのか!? この程度で敗北するような!? 貴様にはまだ底力があるはずだろう!?」
「あはははは、戦闘に関する情報がないってことは、英雄として名前は持ってるけどそんなに強くないんじゃないかってことだと思ってたんだけど……甘く見すぎたね、ごめん謝るよ。」
大の字に倒れこんでいた私は、地に手を着いて徐に立ち上がる。
彼はそれを面白いものを見る目で見ている。
「あなた程度なら華麗に勝利できるかなーって侮ってたよ。まさか、こんな一撃を食らうなんて思ってもみなかったからね。不覚不覚……優雅じゃないねぇ。でも、これはいい方に誤算だね、最近私の見た目とかオーラとかに騙されて突っかかってくるような、弱いのしか殺ってなかったからさぁ、私の見る目も曇ってたみたいだよ。伊邪那岐命なんて引っ張ってきた神さまねぇ、存分に私を楽しませてよ! さぁ、ここから先は……私の本気だ!」
「出でよ蛇竜! 水を雨を嵐を司る天海の龍! 我がもとにその威容を知らしめよ!」
言霊が響き渡った瞬間、私の周りには暴風雨が巻き起こる。
天上には長大な影が踊り、雷鳴が轟く。
そして、それと同時に彼に付着していた
それらの水は彼の周りで渦を巻き、細く細く収斂していき……それらが槍の形となって彼の周りに檻が完成した瞬間!
GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
龍の咆哮があたりに轟き渡り、すべての水の槍が彼へと解き放たれる!
彼は咄嗟に竪琴を奏で結界を張ろうとしたようだが、咆哮に掻き消され満足に張ることができなかったようだ。
体中に無数の傷ができている。
それでも右手の剣で半数近くの槍を弾き飛ばすとは、今の彼はさすがは『鋼』の英雄神。
「またしても竪琴の音を掻き消されて、槍をその身に受けた感想はどう? あ、前に受けたときは矢だったっけ?」
「ぐ……まだこれだけの力を隠し持っていたか……力を出し惜しみしたことについては許せぬが、その強大さこそ見事。だが我も英雄神、竜蛇の類の一匹二匹討伐してくれようぞ!」
「あはっ、それでこそ『鋼』の神様だね。そうそう、こんな一撃で出落ちしてもらっちゃ困るんだよ! もっと私を楽しませて!」
叫びながら雨垂れを銃弾のごとく降り注がせる。
彼は竜の咆哮を警戒してか、その全てをステップとジャンプで避け続けている。
回避が危うくなれば右手の剣で空間ごと斬り払い、即席ながら結界を張り、少しでもこちらに隙を見つければ音弾を、斬撃を飛ばしてくる。
こうして彼を追い掛け回しているのも楽しいが、きっと彼はこれだけでは終わらないだろう。
むしろこの程度で終わられては、この権能まで開放した意味がない!
「というわけで、もう一段階ギアあげて! アクセル踏んでいくよ!」
GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!
龍の咆哮が轟くと同時に、暴風が彼を無理矢理にその場に繋ぎ止め、無数の雨垂れの弾丸は回転しながら彼へと迫りゆく。
彼はこの攻撃をどう防いで見せるのか!
さっきから心臓がバクバク言って仕方がない!
平和主義者であるところの私ではあるけれど、快楽主義者でもあるからには、この刹那の瞬間が大好物であることもまた理解してもらえるだろう。
戦闘のこの漂う緊張感、一瞬で全てが決まる刹那の甘い魅力!
カンピオーネになってからというもの、周りのものがただただ魅力的に見えて仕方がない。
戦闘ですら、最初
人格破綻者しかカンピオーネになれないとは至言だと、いつもしみじみと思う。
そんなことを考えている間に彼は剣をしまい、竪琴を両手で構えていた。
「竜蛇というものは古来より大地と深い関わりを持つ。それは、竜というものが地母神が不当にまつろわされたものの末路であり、英雄が竜を下すことで地母神を味方につけるというサイクルを生み出す舞台装置であるからだ!」
彼は竪琴を掻き鳴らし言霊を唱え始めた。
彼に向かって勢いよく奔っていた雨だれたちの勢いが、急速に衰えていく。
ついに彼の切り札、言霊が使われたようだ。
しかもよりによって剣の言霊! 想像以上だ!
これなら全力を出しても差し支えあるまい!
さらに雨だれの量と勢いを増して彼に叩きつける!
「地母神たちは後から流入してきた男神主体の神話によってまつろわされ、男神たちの娘となり妹となり妻となった。これは、古代トラキアにギリシャの人々やアケメネス朝ペルシャ、ローマ帝国、ブルガリア帝国などが次々と進出してきたことを神話的に表現している。それらのことから発想を得て、彼女たちは『鋼』の英雄たちの征服する対象、つまり竜や蛇の怪物へと貶められていったのだ!」
しかし、彼が言霊を唱えるたびに勢いは減じ、彼の周りには不可侵であるかのように音の結界が渦を巻く。
言霊も音である以上、今の彼には飛び道具の一切は通用しないようだ。
未だ勢いが殺される以外の影響が出ていない今のうちに、決定打を打ち込んでおきたいのだが。
あの剣は驚異ではあるけれど、言霊を唱えている以上今は竪琴から手を離せないはず。
今度こそ鎌鼬で叩っ切る!
「しかし、ここには『鋼』と竜、地母神たちとの共生関係も見て取れる。日本の八岐大蛇討伐に代表されるように『鋼』たちは竜を討ち取って地母神たちの写し身たる娘を得、そして剣を得るのだ。これはペルセウス・アンドロメダ型神話と呼ばれている。だが、ここまでの話で語られるのは竜についてだけだ!」
!?
これはまずい。
西洋系の竜についての剣の言霊ならば私にはほとんど影響が来ない。
雨だれが防がれたように多少の影響はあるが、その程度のものでしかない。
しかし、これ以上の言霊はやばい。
権能の性質上、このまま言霊を聞き続ければ私の存在自体に関わる打撃となるだろう。
さっさと止めてしまわなければ!
「時に、西洋の竜というのは今語ったように悪竜としての側面が強い。それは英雄に退治されるもの、というイメージが深く根付いたからであり、数多くの神話において竜とはただ討伐され、追放されるものである。しかし、東洋の龍にその括りは通用しない!」
中距離から鎌鼬を発射する。弾かれる。
「東洋の龍は西洋の考えとは違い、荒ぶる川を生き物に見立てたものであり、それらの龍は水や天候を司る。中国の黄河は大いなる母に例えられるとともに、荒ぶる龍とも称されることからも導ける話だ。それから転じて水や治水を司る龍神となり、善神として崇められていることも多い。これらの特徴を持つ龍はインド、中国、日本などに多く分布している!」
猶も近づきながら鎌鼬を乱射する。全て弾かれる。
「先ほど八岐大蛇の例を挙げたが、あれも河川の神格化だ。八岐大蛇はクシナダヒメを攫う直前に退治されるが、あれは洪水により稲田が荒らされることを治水の術によって止めたことを象徴していると考えられる。毎年娘を捧げていたことから、生贄を毎年出していたものの、治水の術によってそれもいらなくなったことも表している。洪水後の川に砂洲ができること、川がのたうち回り、それが蛇に見えたことなどから竜に見立てられたものなのだろう。また、八岐大蛇の腹が血で爛れているという記述、尾から十拳剣すら欠けさせる天叢雲劍が出てきたという話から考えて、川が砂鉄によって濁ったこと、鉄の剣では敵わない『鋼』の剣が時代的に出てきたということも示唆しているだろう。最先端の製鋼の技術によって作られた剣を頂点たる天照大神に献上するのは当然なことだからな。これらは竜と『鋼』の共生関係を説明するにあたって一番わかりやすい例だ。八岐大蛇に代表されるように日本には竜を冠した河川が大量に存在し、竜の名を持つ河川は気性が荒い、つまり洪水を起こしやすい場所も少なくない。貴様の龍の権能もこれらの例から説明できるはずだ!」
接近して至近距離で鎌鼬を纏った腕を振るい、勢いを乗せて殴りつける。
紙一重で回避される。
言霊の影響が出ているのか体が重たい。
想定通りの動きができなくなり始めている!
これ以上は本気でまずい!
これを外すわけにはいかない!
「元の姿を蛇または河川とし、西洋東洋に数多くの逸話を持つ。また『鋼』の英雄神たちと深い関係を持ち、倒されたあとは英雄神たちの力となる。その中でも貴様が扱うのは天候を操り、長大な影を持ち、水を操る東洋の龍神!」
彼が最後の言霊を言い終わる前に…妨害を!
乾坤一擲の飛び膝蹴り!
「ここにその龍神の力を我が『鋼』の礎とすることにしようぞ!」
あっけなくも彼はそれを竪琴で受け止め、最後の呪を落とした。
私はまたしてもその場に崩れ落ちることとなる。
今度こそ意図しなかった形で。
明確な神格までは解き明かされなかったからぎりぎりで繋ぎ止めることができたが、十分まずい。
神格はずたずたに切り裂かれしばらくは身動きすら取れないだろう。
自分との相性が良すぎてシンクロが強力すぎるが故に、フィードバックもまた強力なものとなる。
代わりにかなりの力を無制限に解放できるのだから、なかなか類を見ないくらい有用な権能なのだけど……
今回はその隙を的確に突かれた。
あの頃は勝手もわかっていなかったし、
今となっては多彩な権能を持ち、戦闘経験もかなりのものになるはずだ。
まさかここまで襤褸布にされるとは想定の斜め上を行っている。
昼飯までの時間潰しの予定だったのに、このままでは最悪晩飯にすら帰れなくなってしまうかもしれない。
祐理に怒られたくはないな……
根性を出さざるを得ないようだ。
負けるのは別に構わないけど、ご飯に間に合わないのはまずい。
どう考えても夜叉女さんが降臨してしまう。
やっぱり神様に出会うたびに私はひどい目にあうようだ。
たまにはうまくいくんじゃないかとか血迷ってたとしか思えない。
せめて昼飯を食ってからでかけるべきだった。
そうだ、昼飯を食ってから出かけるべきだった。
不覚だ……
とりあえず、人がぶっ倒れてる間に目の前に立ってるこの人から何とかして逃れないと。
「無粋なる神殺しよ、貴様との戦いはなかなかに楽しむことができた。その勇姿に敬意を示して貴様のことは私が後世に語り継いでやろう。それでは……さらばだ! 神殺し!!」
彼の剣が私へと振り下ろされる様がスローに見える。
ここだ。ここが今回の正念場となるだろう。
ここから……私は……
「わらし!!」
私の横に和装の童女がふっと現れ、彼女が私の体を引っ張ると同時に私もそちらに体を傾ける。
彼は先の一撃を放つためにぬかるんだ地面に足を思い切り踏み込んでいたせいか、剣撃の軌道を変えることができなかったようで、
彼女に支えてもらってなんとか立ち上がる。
返す刀で斬りつけてこようとする彼に対して私は鎌鼬の刃を振るう。
私の一撃は彼の右手を切り裂き、彼の剣は
驚愕の顔を浮かべる彼に対して、私は獰猛な笑みを浮かべながら告げてやった。
「うちのわらしは座敷わらしたちの中でも特に霊格の高い一柱だからね。私が不幸をある程度貯めていればそれを幸運に変えることなんて造作もない。たとえそれが『まつろわぬ神』を相手取っていたとしても見劣りすることはないのさ。つまり、最後の最後でどんでん返しってわけ。いい戦いだったよ。特に剣の言霊なんてすごい驚いた! まぁ、私には後一歩及ばなかったけどね。それではまたの出会いを願って、see you later!」
そして、高々と振り上げた鎌鼬の刃は振り下ろされ、無数の風の刃が今度こそ彼をずたずたに切り裂いた。
ここに『まつろわぬ神』オルペウスと『神殺し』乾燐音の決闘についに終止符が打たれたのだ。
「見事だ、神殺しよ! 絶体絶命の窮地を二度もひっくり返すか! それでこそ神を殺めし超常の徒よ! 敗れはしたが貴様のその戦姿、我が詩によって後世に語られることだろう! 此度の現界はこれにて幕引き。次にあいまみえるときは剣だけでなく詩も交わしたいものだ。さらばだ神殺し! 我が権能をもって次の邂逅に備えるが良い!」
薄れゆく体をおしてそこまで告げたオルペウスは、そのまま煌く粒子となって消えていった。
首だけでも残れば川に流してやろうかと思ってたんだけど……
さて、私も家に帰らなければいけないんだけど……体に力が入らない。
盛大にやっちゃった☆ミ
服がぼろぼろなのはまぁどうにかなるし、怪我してるところも魔術で治せるからいいんだけど……今の私には体力、呪力自体が足りてない。
最後の最後にわらしの力を使うので精一杯だったのだ。
まぁ権能を手に入れた感覚もあるし、ここはひとつ大団円としようじゃないですか。
だから、さっきから感じるこの視線のことは忘れさせてください。
思いっきり私のことをガン見してるんですけど。
ここ
つまり、万が一私の部屋に飾ってあるこの庭で摘んだ花の隠蔽が剥がれてたりしたら……彼女ならここについて霊視が降りるかもしれない。
もしかしたら幻視までしちゃったりするのかもしれない。
そして私の姿を見て、この何とも言えない威圧のオーラを出すのかもしれない。
霊視先でまで感じられる威圧感って……考えたくもない。
さて、『まつろわぬ神』は撃退したが、私の平穏はやっぱりまだまだ先のようだ。
いつものことではあるけれど、もう少し運があってもいいのに。
折角わらしがいるんだしさ。
わらしの力で無限に幸運を得たりとか……出来たらいいのになぁ。
トホホホホ……
これは『殺神姫』乾燐音と『玻璃の姫巫女』万里谷祐理の平々凡々たる闘争の記録の始まりのページ
『殺神姫』と『玻璃の姫巫女』の道が交わり、ここに新たなる神話が紡がれ始める
ただ……その始まりは少々締まらないものになりそうではあるが
いかがだったでしょうか
戦闘描写についてもっとこんな風に書いたほうがいいよ
ここの表現に違和感が…等等
作者の文章力を引き上げてくださる辛口な意見募集中です
質問疑問感想批評評価指摘、荒らし以外のすべてを歓迎しておりますのでよろしくお願いいたします
あ、剣の言霊の冗長さ、内容については仕様です
この世界の竜蛇の捉え方は原作と違い作者準拠なのであしからず