カンピオーネ -魔王というより子悪魔-   作:雨後の筍

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どうも作者です
お久しぶりですねー
データ消えたあと勉強したり昼寝したり昼寝したり昼寝したりしてたら更新遅くなりました
番外書いたり新連載書き貯めしてたりスランプ気味ってのも多少は関係ありますけど

まぁ作者の近況なんて誰も聞きたくないでしょうから早速本編をどうぞ


雷帝ヴォバン降臨‐3

 祐理が目を覚ましたとき、部屋には誰もいなかった。

 辺りを見回してみれば、そこは見慣れた自分の部屋。

 それにしては燐音がいない、とその姿を探したところでぽっと赤面した。

 確かに燐音が、祐理が倒れたことを聞きつけたら矢よりも早く駆けつけるだろう。

 しかもいま自分の寝せられている場所が自室だというのだから、燐音はいて当然だろう。

 むしろ問題はそういう前提があったにせよ、無意識のうちに燐音が傍にいるのが当たり前かのような行動をとってしまったことにある。

 燐音は親友だ。命の恩人でもあるし、とても大切な存在であることは否定しない。

 それでも目が覚めて最初に考えたことが、ヴォバン候爵を幻視したことでもなぜ自分の部屋に寝ているかでもなく、燐音はどこにいるのだろうということだったのが恥ずかしかったのだ。

 日頃から彼女のことを不潔だ破廉恥だなんだと言っているけれど、自分も大概他人のことを言えないではないかと髪を振り乱し悶えた。

 ここで単にふと親友の姿を探しただけ、とでも言い訳できればよかったのだろうが、彼女は混乱しており、日頃から燐音に刷り込まれた”女同士の友情”というやつにすっかり毒されてしまっていた。

 彼女自身がどう思っているのかはわからないが、彼女が起きてからの行動を傍から見ていると、少しばかり彼女の頭を心配してしまう光景だったとだけ言っておこう。

 襖の隙間から中を覗き見ているわらしの視線が痛い。

 それと彼女の名誉のために言っておくと、彼女は一時的に混乱しているだけで、別に本気で燐音に惚れているとかそんなことは未だない……はずだ。

 真実は神のみぞ知る。

 

 

 

 

 一方こちらは燐音。

 罰だなんだと言い訳していたとはいえ、寝ている祐理に一方的に口づけしたということで、こちらはこちらで悶えていた。

 祐理が悪影響もなくただ眠っているだけと確認もしたので、離れても大丈夫と判断し、わらしを祐理の傍にいるよう命じて、自室の床でごろごろと転げまわっていたのだ。

 口づけしてしまったというその事実に溺れ、しばらく歓喜を抑えるべく悶えまわっていないとどうにかなってしまう気がしたのだ。

 いや、傍から見ると今の方がどうにかなってしまっているが。

 

「ふひひひひ……ついにキスしてしまった……うふふふふ」

 

 ……にやけた口元を隠そうともせず、畳の上を転げまわるその姿はとても幸せそうではあったが、実に不気味でもあったし、襖の隙間から見つめるわらしの冷たい視線に気づきながらも転がり続けるその姿は、まさに変態そのものだった。

 でも、わらしもそんなのが主で不本意なのはわかるから働け。

 

 理由は違えど悶える2人。

 絆かはたまた偶然か。

 彼女らが落ち着き、話が進み始めるまでもうしばし。

 

 

                   ◆◆◆◆◆

 

 

 ふぅ……ああ、やっと落ち着いた。

 余りにもテンションが上がったもんで、着衣が乱れるレベルで床をゴロゴロしてしまったぜ……これじゃはしたないって祐理に怒られちゃうな。

 祐理に怒られるとか……ふふ、今の私にはご褒美です。

 じゃなくて、その……キスのことは置いておいて、甘粕にもう一度詳しく何があったのか聞きに行かないと。

 さっきは祐理が心配で心配で、聞いたには聞いたけど半ば聞き流してたからね。

 甘粕は……台所かな?

 ……いや、なんでまた台所? 作業か何かするにしても居間でいいと思うんだけどな。

 まぁいいや、少しばかし喉も乾いたしついでになんか飲み物でもいただこうか。

 

 

 

「というわけで甘粕さんなにやってるの?」

「何がというわけかはわかりませんが、草薙護堂氏のもとへと送り込む愛人候補の選定ですよ。エリカ・ブランデッリという強敵が既にいる以上、それなり程度の人員では太刀打ちできないのですよ。貴女か祐理さんが使えればとても楽なんですけどね?」

 

 台所に来てみれば、テーブルの上一杯に履歴書を広げた甘粕がいた。

 それを傍目に、冷蔵庫からコーラのペットボトルを取り出してごきゅごきゅと飲み干す。

 残り少なかったから直接飲んでしまった。

 流石に女の娘が2Lペットのコーラを直飲みするのはなかったかもしれない。

 とちあえず飲み干してしまったからには新しいコーラを出さなければ。

 買いだめしてあるペットボトルのしまってある場所に行きがてら、テーブルの上を覗いてみる。

 それぞれの履歴書一枚一枚に女の娘の写真がクリップで止められている。

 どれも美少女ばっかりだ。

 可愛い娘、美人な娘、活発そうな娘、大人しそうな娘、千差万別色とりどり。百花繚乱ってやつだね。

 パッと見た時に見当はついていたけど、聞いたみたところどんぴしゃり。

 護堂君にあてがう女の娘の選定ってわけだ。

 護堂君はまだ若々しい学生の身。しかもエリカ嬢のこともあるから、女の娘をつけておけばそれだけでうまくコントロールできる……か。

 全く、いやらしい手口だねぇ。

 でも操られるのは勘弁だけど、ご相伴には預かりたいなぁ。

 実際問題あてがわれるのは美少女なわけだし? カンピオーネの横に侍れるレベルの才女でもあるわけだし。

 そういう人材がもういくらか集まったら、甘粕引っこ抜いて魔術結社でも立ち上げたいねぇ。

 カンピオーネが統領って時点で他の魔術結社は手が出せないからねー。

 今の時点で立ち上げると、さすがに人員不足で名ばかり結社になっちゃうから我慢してるんだけど……自分だけの魔術結社とか浪曼だよねぇ。

 いやはや物は相談、少しばかり融通していただこうかしら。

 

「というわけで甘粕さん私にも見せてよ。別に見せちゃいけない書類じゃないんでしょ? 大っぴらにこんなところで広げてるし」

「何がというわけなのかはわかりませんけど、一緒に見て選んでくださると嬉しいですねぇ。エリカ・ブランデッリと同系統で行くべきか、それとも反対の属性持ちで行くべきか……今すごく迷っていたんですよ。燐音さんの審美眼なら太鼓判の選出が出来るでしょう」

「いいよー。ただちょっと相談なんだけどさ、ここに居る娘たちってキープとかできるかな? 私が世間にカンピオーネだってバレてからでいいから、人員をいくらか回収したいのよ。魔術結社立ち上げようかと思ってるからさ、流石に甘粕さんと私と祐理だけじゃ人手が足りないでしょ? きちんと愛人にもしてあげるから、一応お相手が男じゃなくてもいい娘たちを選んどいてくれない?」

 

 こんなにたくさんいるんだから、少しばかり私がもらっていっちゃっても別に問題はないよね?

 カンピオーネの愛人になるって点では一緒だよ?

 ちょっと子供が産まれないから子孫がどうこうって話にはならないだけで。

 ……そこが一番の問題な気はするけど、別に私の権能を使えば性転換くらい一時的にできる、はず。

 私の力を考えると、古の儀式の文献に膨大な魔力、必要な星辰にそれらを我が身に降ろすための呪的体質、それらを統括する呪術の腕に儀式を執り行うだけの強い意志、全部が全部取り揃ってるからねぇ。

 まぁそんな大掛かりにやらなくても、秘薬の類に性転換薬とかありそうなもんだけど。

 今度暇なときにやってみようかな性転換。

 まぁ今はいいや、子を残すことがかなり重要な気もするけど、それなしでもいい娘をとりあえず選抜しておいてもらおう。

 

「ははは、燐音さんはいつもいつも無理難題を押し付けてきますね。はっはっは、笑いが止まりませんよ。ははははは、笑ってないと涙がこぼれそうです。はっはっはっはっは……はぁ。わかりました、委員会の方から問い合せておきます。これが中間管理職の定めです……主の注文には逆らえないのです」

「そうだよー、私の言うことは絶対なんだから。甘粕さんは一生私に傅いてればいいんだからね! 魔術結社立ち上げたら今よりもっといいお給料とかあげちゃうし! 代わりに死ぬほど働いてもらうけど」

 

 新しいコーラも冷蔵庫にしまったから、甘粕の向かいの椅子に座る。

 本音を言えば、委員会に属している身で私に仕えている甘粕には感謝している。

 どんな無理難題でもこなしてくれるしね。

 今回だって別にできればとても嬉しいなぁ、くらいの気持ちで持ちかけてみれば全力で応えてくれたしねぇ。

 まぁ、感謝するだけで使い倒すんですが。

 

「あ、祐理起きたんだ。大丈夫そう? なんか体に違和感ない?」

「おや祐理さん。よかった、目を覚まされましたか」

 

 甘粕とたわいない話をしていれば、祐理が起きてやってきた。

 パッと見には異常はどこにもなさそうだけど、祐理の姿を見るだけで頬が弛み朱が差しそうになる。

 変に思われないように隠さなきゃ。

 人は悲しみを隠すのは得意なのに、なぜこうも喜びを隠すのが下手なのか。

 そんな哲学的なことを脳裏に浮かべるも、それは脱線でしかない。

 

「特におかしなところは、なにも……いや少しだけ唇に違和感? といいましょうか、先ほど寝ている時になにか触れた気がするのですけど。そのくらいですかね?」

 

 ビクッと体を震わす私、私にニヤついた笑みを送る甘粕、胡乱気な瞳でこちらを見る祐理、私を蔑みの目で見つめるわらし、とりあえずサッと目を逸らしておく。

 べ、別に私何もやってないし。

 ほら、裕理も気づいてないみたいだしなにもなかったってことで。

 

「あは、ははは、それは奇妙だねぇ。でもそれならもう本調子ってことだね、僥倖僥倖」

 

 キッと甘粕たちを一睨みにして、余計なことをこぼさないように口止めする。

 多少以上に舞い上がっていたし、私ともあろうものが動揺を隠しきれなかったのはあるけれど、こんなところで暴露されたんじゃたまらない。

 祐理にどんな目に合わされるやら想像するだに恐ろしい。

 とりあえずはなんの障害もなく祐理がまた目覚めたことを喜ぼう。

 誰がキスしただとかそういう無粋なことは今考えるべきことじゃないよ、うん。

 

「えぇ、異常はありませんが、私はあれからどうなったのですか? 気づいたら部屋に寝させられていたもので……」

「例の魔道書を霊視していただいた直後、急に意識を失われまして。慌てて七雄のお社まで連れ帰った次第です。いやー、宮司に権禰宜、燐音さんにも叱られましてねぇ。安全だというから送り出したのに何してくれてんじゃコラと。燐音さんには危うく潰されかけましたよ。燐音さんが祐理さんの心配を優先していなかったら、私は今頃こんなに呑気にしていられなかったでしょうね」

 

 甘粕は頭を下げているけど、その口元に浮かんだままの苦笑のせいで誠心誠意といったものは窺えない。

 それが甘粕のデフォとなりつつあるので何とも言えないのだけれど。

 

「それで祐理さん、あのとき様子が変でしたけど、何かすごいものでも視えましたか?」

「は、はい。その……何故視たのかはさっぱりわからないのですが、ヴォバン候爵の姿を幻視しました。その途端、意識が途切れてしまって……」

「……ヴォバン? あの爺さんを視たって? 甘粕、祐理になんの魔導書の鑑定を依頼したのか教えて」

 

 祐理の口から予想外の名前が飛び出してきた。

 サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン。

 戦闘狂いの老魔王様だ。

 今から4年も前に私と祐理は彼に出会ったことがある。

 どこぞの教授みたいな理知的な雰囲気を漂わせてるくせに、そのエメラルドの瞳に浮かぶのはギラギラとした欲望。

 しかも性欲とか睡眠欲とかはどうでもいいらしくて、食欲と戦闘欲だけが彼の中身を占めているらしい。

 なんにせよ、自ら『まつろわぬ神』を招来しようなんて考える、頭のおかしい人物であることだけは確かだ。

 まぁ、老魔王であるからにして300年近く生きているらしい彼は、戦闘狂であることも関係して相当な力を秘めている。

 権能の数だけで言うなら私よりも多いかもしれない。

 最近は彼の名前が売れすぎていて『まつろわぬ神々』のほうが逃げ出すということになっているらしいので、権能の数は一昔前までに稼いだ分だけだろうとは思うが。

 それでも『まつろわぬ神々』が逃げ出すほどの実力者だ。

 そうそう負ける気はしないが、バカみたいに苦戦はするだろう。

 権能の数が多い奴に限って蘇生の権能を持っていてもおかしくないし。

 そうなると火力不足の私にはきつい相手になる。

 まぁそんなことはどうでもいいのだ。あんなのと戦う日はまず来ないだろうから。

 そしてなんでまたそんな老魔王を祐理は幻視したのか。

 事と次第によっちゃ面倒なことになりかねない。

 今すぐに前言撤回してあの化物と戦う羽目になるかもしれないから。

 

Homo homini lupus(ホモーホミニールプス)です。19世紀前半にルーマニアで自家出版された魔導書で、なんでも……」

「その昔エフェソスの地で密かに信仰された『神の子を孕みし黒き聖母にして獣の女王』の秘儀について記した研究書だね。今回鑑定を依頼したってことは『人ならざる毛深き下僕』に変えられた人でも出てきた? 読み解き方を間違えたらそうなると思うね、この内容だと。多分この場合の人ならざる毛深き下僕は人狼だと思うけどねー、祐理があの爺さんを幻視したことだし」

 

 例のごとく薀蓄話を披露しようとした甘粕には悪いけど、下手すると時間がないのだ。

 頭の中から件の魔導書の情報を引っ張り出す。

 記された文字そのものが力をもち私を毛むくじゃらに変えようとするが、カンピオーネであり、超一流の魔術師たる私にはそんなものは効かない。

 正確に内容を把握していく。今回の幻視に何が関わったのかわからないからね。

 とりあえず無駄な説明はいらないだろう。多分祐理も一度聞いた内容だろうし。

 甘粕が落ち込んでるけど無視無視。

 

「で、祐理は幻視した内容教えて」

「はい。最初は闇に包まれたじめじめとした空間でした。そして、そこに箱のようなものが横たわっていました。その中に蠢くネズミのようなものがいたのですが、それが徐々に大きくなっていき規格外の大きさの狼へと変わったのです。狼は4足から2足へと変わり、直立して暗闇――おそらく洞窟だったのでしょう場所から地上へと出て行きました。外には満月が浮かび、彼の狼は天高く吠えたかと思うと走り出し、生い茂った木々のあいだを抜け歩いていた人へと頭からかぶりついたのです。そしてその溢れ出す血を喜ばしげに啜っていました。それからその人狼は老人へと姿を変え、口の端から血を滴らせこちらに獰猛に微笑みました……あのエメラルド色に輝く邪眼の持ち主はヴォバン候爵に相違ありません」

 

 以上らしい。

 話し終わった祐理はブルブルと震えている。

 昔のトラウマを刺激されたようだ。

 実際あの時の爺さんはやばかったからね。いや内容も結構やばかったけど、小心者が見聞きしたら一発で縮み上がるレベルには。

 それでもあの時のじいさんの方が上かな、儀式を止められたことに激怒して大暴れしてたもの。

 あの瞳で睨まれただけで大半の人間が失神しかねないっていうのに、あんな逸般人向けの感情なんて爆発させられたらねぇ?

 あそこにいた巫女さんたちの大半があれでトラウマ持ちになったんじゃないかな。

 

 まぁそこはいいや、祐理の話を解釈してみよう。

 多分ではあるけれど、祐理が見たのはあの爺さんが最初に手に入れたっていう『貪る群狼(リージョン・オブ・ハングリーウルヴス)』の成立過程なんだろうね。

 権能は手に入れた『まつろわぬ神』の持っていた力が一番自分にあった形で定着する。

 私の権能なんかはそれが顕著だ。

 どの権能も最低でも2~3個は能力を発揮する。

 その代わりと言ってはなんだけど、どれも尖った力は持っていない。

 そう、器用貧乏なのだ。

 だから火力不足で毎度毎度戦闘に入ると苦労するんだよね……まぁ日常的に過ごすにあたっては便利なものが多いんだけどさ。

 

 とにかくだ、権能には成立過程が存在する。

 もとの神が持っていた力を自分に適したものへと変換する過程。

 多分そのプロセスの存在を把握できているのは『お義母様』と私くらいなもんじゃなかろうか。

 天位とか地位の頂点の魔女なら、目の前で権能の獲得を見ることができればなんとか存在の知覚くらいは出来るかもしれないけど。

 カンピオーネたちは私が見る限りその過程を認識していない。

『まつろわぬ神』を弑逆してから権能を得るまでの間にしばしの間隙があることに疑問を抱かないのだろうか。

 私もアマノウズメを倒してなかったら気づかなかったことだけどさ。

 とりあえず各々に存在する様々な資質を鑑みて権能は形作られる。

 私の場合は器用貧乏、護堂君なんかは臨機応変、七星の野郎なんかは虚勢とかかな? 

 そしてヴォバン候爵の資質がなんなのか、それの指標となるものが祐理の幻視なのだろう。

 この成立過程のバカにできないところは、すべての権能がこれを基本原則として成り立っているからだ。

 色々な伝手で集めた各カンピオーネの性格などの素行と権能の情報から導き出した結論だ。

 それでも、ヴォバン候爵と羅濠教主の情報だけは古すぎてなかなかまともなものが集まっていないから、今回の幻視をヒントに読み解いていかなければならない。

 なかなか骨の折れる作業になりそうだ。




いかがだったでしょうか?


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