カンピオーネ -魔王というより子悪魔-   作:雨後の筍

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アテナ編第3話!
アテナとの決着はいかに…?

それでは本編をどうぞ!


女神様が見てる‐3

 まず先手を打ったのはアテナだ。

 手元に底冷えのする気配を発する大鎌を呼び寄せた。

 それを大きく振りかぶったかと思えば、ただただ愚直に互いの距離を詰めてそれを振り下ろそうとしてくる。

 こちらに、接近しての戦闘の心得がないことを悟られたのだろうか。

 いや、ないとは言わないけれど、さすがに大騎士とかと比べられると見劣りするほどにしか修めてないから、間違ってはいないんだ……でもね、それでも一般的には名人とか言われるレベルなのよ? 魔術界の出鱈目さが身に染みるね……

 二人の間にあった5Mほどの距離は、彼女の地をへこませるほどの踏み込みで一瞬で詰められ、その大鎌はなんの構えもとれていない私に向けて振り下ろされた。

 と、彼女が認識してくれているといいのだけど。

 大鎌が振り下ろされた私の似姿は、切り裂かれたところから水滴となって辺りへと飛び散る。

 飛び散った水滴はまた個々に集まり、私の似姿を無数に作り出しアテナを取り囲んだ。

 水の屈折率を操って色まで似せてるんだから、気配を限界まで隠してる本物の私は見つけ出せないはず。

 

『さぁ、アテナさん、この状況をどう覆すのかな? かなかな? 似姿とは言え格闘くらいならできるんだよー? 私は私で他の権能だって使えるしね! さぁ、楽しませてよ!』

 

 オルペウスの権能を応用して声を全方向から響かせる。

 その際きちんとすべての似姿の口の動きを私の口の動きと同期させる。

 これくらい細やかに隠蔽をかけても見破ってきそうなんだから梟の眼ってのは怖いね……

 さて、ここまでの経緯を種明かしすれば、戦闘が始まった瞬間に水で似姿を作って、隠蔽の権能で一瞬本気で気配を消して入れ替わっただけ。

 そしてその一瞬の間にここまで有利な状況を作り出したというわけだ。

 実際のところは、この程度アドバンテージと言えるかも微妙なところではあるけれど、プラスではあるはず。

 ボンクラーズに言わせれば52くらいか。いわゆる誤差ですね、わかります。

 さぁ、ここからが本番だ。目にもの見せてやろう。

 

 私の似姿たちは少しずつ時間差を生みながら、アテナへと飛びかかっていく。

 その際に似姿の手元に魔術で短剣を呼び出すことも忘れない。

 カンピオーネの呪力と私の実力を持ってすれば、アテナに傷をつけられる程度の短剣ならば、全ての似姿に持たせることだってそんなに労力ではないのだ。

 作りおきのものを呼び出しているだけだから数に限りはあるけれど、対『まつろわぬ神』用である。ほとんど効果はないのは承知の上で数だけは揃えた。そうそうに尽きる、ということはないだろう。

 

「ほう、余りにも人の子と変わらないゆえ侮っていたぞ。覇気だけが一人前でまだまだ未熟なのかと思っていれば、力のほとんどを隠していたのだな。なかなかに凝った趣向だ! 力を隠しておきながら、正々堂々と真正面から決闘を申し出るとは! 面白い。力を隠すような神殺しならば不意打ちでも奇襲でも好き放題できただろうに、その気性好ましく思うぞ! ならば、妾も少し遊ぶとしよう! ――かような石の都では、妾の権能も些か振るいがいはないのだが、この程度の芸はできる! まずは前哨戦、互いに力比べをしようではないか!?」

 

 彼女が喋っている足元で硬いコンクリートの道路が大きくひび割れ、ひびを模様目として砂利とセメントを固めただけの蛇が現れる。

 蛇はアテナをその頭の上に乗せ鎌首をもたげ、高々とこちらを見下ろしていた。

 その高さは10Mにも及ぼうかという巨大さだ。そんなのが次々と辺りから現れ出てくる。

 都合5体となった蛇たちの姿は圧巻だった。まわりのビル群には及ばないものの、この程度のスペースにこれまでの質量がいきなり顕現すれば、さすがに圧迫感を感じる。

 現在、アテナへと襲いかかろうとしていた似姿たちは全員蛇に攻撃している。

 しかし、蛇の外皮はコンクリート。神にさえ通じる短剣とは言え、軽々とすべてを切り裂くことなどできはしない。

 

「さあ、我が牙よ。神殺しを押し潰せ!」

 

 顕現直後の硬直から解放されたのか、アテナが乗っている一匹を除いた4匹が周りの似姿を蹴散らし、私を探し出そうと暴れまわり始める。

 その際に尻尾や頭が度々周りのビルにぶち当たり、かなりの損害をたたき出しているが、所詮ここは夢の中。起きればそこには被害など欠片もない。

 だから、ここでこんなことしても平気なのさ!

 

『いいね、その挑戦受けてたとう! 見せつけてあげるよ! 私の力を!』

 

 

 

『出でよ蛇竜! 偉大なる巨大な天海の龍! 我がもとにその威容を知らしめよ!』

 

 言霊が迸ると同時に、その巨体が姿を顕した。

 その大きさはアテナの召喚した蛇と比べるまでもない巨大さだ。

 天を裂き顕れたその蛇の顎は、似姿も石造りの蛇もアテナも区別することなく、全てを圧倒的なまでの質量と巨大さで踏み潰し、ぺちゃんこにする。

 今回は嵐を呼び水を操るのではなく、その巨体自身を攻撃手段として使うのだ!

 私の攻撃の権能は基本的にこれに頼りっきりだからねぇ。()には感謝感謝だ。

 さて、この程度でくたばるようなやわな女神さまと戦ってる気はしてないんだけど、次はどういう風に出てくるかなー?

 

「ふむ、なかなかに強烈な一撃であった。腕ごと持っていかれると思ったぞ。しかし、妾を潰しきるには少々威力が足りなかったようだな!」

 

 ニヤニヤとして眺めていれば、予想外!

 あまりの衝撃に発生した土埃が去ったとき、そこには龍の巨体そのものを頭の上で両腕で持って支え、あろうことかこちらへと投げ返そうとしている女神様が!

 確かにシチリア島をブン投げた逸話のあるアテナだけど、うちの龍は大地を支えるとも伝承される大蛇の中の大蛇だぞ!?

 そんなものを笑顔で投げ返そうとしているあの女神さまの腕力はいかほどなのだろう?

 考えたくもない……とりあえずは彼には引っ込んでもらおう。私のほうがこのままじゃぺちゃんこだ。

 音の結界も今となっては無用の長物、呪力の無駄使いはよくないね。解除解除。

 

「よく防いだね、でも残念! そうは簡単にいかないよ!」

 

 龍を投げようとして、アテナが振りかぶった瞬間に龍を送還する。

 その圧倒的な質量が一瞬で消え去った影響か、体勢を崩したアテナに向けて辺りに散らばって水溜りとなっていた水滴を、銃弾のごとく撃ち出す。

 流石にあの体勢からこの一斉掃射は躱せない。先手はこちらがいただいた。

 それでもアテナもさるもの。手元に呼び出した大鎌を体の周りで大きく回転させることで、大半の水弾を叩き落としてみせた。

 予想通り全てを弾くことはできなかったようで、その肢体の所々に穴を開け、痛々しくも赤い血を流している。

 

「ふふ、なかなかやるな、乾燐音。まさか妾の眷属をそのまま意趣返しにされるとは思いもしなかったぞ。しかもその龍の神格が複雑なのか、貴女の隠蔽が強力なのか正体が全く掴めない。傷を負わされたというのに正体が掴めないとは思わなんだ。このアテナの梟の眼を欺くとはあっぱれ! ――しかし、ここから先は先程までのように行くと思うな! 見せてやろうではないか、妾の最強の盾を! アイギス!」

 

 ここで来たか、アイギスの盾。

 正直なところを言えば、アテナがあれを出し惜しみしている間に、どれだけダメージを与えられるかが今回の戦いの肝だったんだけど……少し予想より損害が少ないねぇ、困った困った。

 アイギスの盾。

 形状としては彼女の周りに浮かぶ幾数の鉄板だ。

 ドーム状に彼女を取り囲み、ふよふよと彼女を中心として漂っている。

 盾と言うには少々洗練されていないように見えるが、それらの全てにメデューサの姿が彫り込まれている。

 かの有名な盾の防御力は、アテナがポリスの守護神だったことからも絶対的に近いものがあることは理解できる。

 どこまでの規模を防げるのかまではわからないが、こちらの主な攻撃手段である水弾、鎌鼬などではその防御を抜くことはできないだろう。

 そして、あの盾には攻撃にも活かせる力があるのだ。なんだそのチート。

 水弾、風は効かない、だからといってあの龍の巨体ですら支え切った剛力無双、接近戦もできたもんじゃないし、はてどうしたものか?

 切り札はもう少し先までとっておきたいんだけど……贅沢言ってられないかなぁ。

 よし、短期決戦で決めちゃおう。長引けば長引くほどこっちの権能がバレて不利だしね!

 

「へぇ、それがアイギスの盾。メデューサの首とともに語られる絶対の守護の象徴。盾のくせに、こっちに攻撃を仕掛けてくるようなのを使うなんて反則じゃない?」

「何とでも言うがいい、乾燐音よ。これを出したからには妾には万に一つも敗北はありえぬ。先程からの攻撃を見ていれば、この盾を脅かせるほどの攻撃を貴女は放てないようだからな! 精々足掻いてみせるといい!」

 

 やべ、私に火力がないことがアテナにもバレちゃった。

 これは本格的に切り札を一枚切らなくては。では、早速いこうか。

 手元に竪琴を呼び出す。練習したことがあるわけではないけれど、指が勝手に動き旋律を奏で始める。

 

「じゃあ始めさせてもらうとしようか、まずは蛇。――貴女の力の象徴、いや、あなたの本質そのもの」

 

 囁くように旋律に乗せて響いていく言霊は、アイギスの盾などなかったかのようにアテナの肢体へと染み込んでいく。

 

「貴女は常に、蛇と関わりの深い女神だった。さらに言えば、梟とも」

「ほう? な、これは剣の言霊か!? それにしてはアイギスで防げぬとはどういうことだ!?」

「残念ながらこれは剣の言霊じゃないんだよね。剣の言霊だったならこれだけで勝利できるはずなんだけどねぇ。さて、貴女がどういう神なのか読み解く鍵になるのは『蛇』だよね?」

 

 音が渦を巻く。私の周りに音符を模した呪力の塊が浮かび、浮かんでは旋律に沿って流れるようにアテナへと向かっていく。

 彼女はそれを必死に振り払おうとしているが、盾もすり抜け彼女に染み込んでいく言霊はいかんともしがたいようだ。

 

「蛇といえばメデューサだね。アテナとメデューサは、もともと同一の女神だった。二柱の女神が異邦――北アフリカの大地からギリシャに招来される前の話だよ」

 

 アイギスの盾たちが鈍く輝き、こちらに向けて閃光を放つ。

 しかしそれらの閃光は、私の周りに浮かぶ音霊に阻まれて私に届くことはない。

 

「元を辿れば、あなたこそが蛇の女神だった。それだけじゃない。ギリシャ神話ではアテナの母とされる智慧の神メティス。この女神も、元は貴女だったんだよね?」

 

 業を煮やしたのか、アテナの足元からまたしても灰色の蛇が生まれ、私に向けて襲いかかってくる。

 しかしこれまた私の目の前まで来ると動きが鈍る。

 流石に音霊だけでは勢いを殺しきれないので、とっておき! 水を勢いよく指先から放出することで、水圧カッターのごとく蛇を切り刻む。

 これを習得するのにどれだけの時間がかかったことやら……

 さて、続けよう。

 

「貴女はギリシャ出身の女神じゃない。北アフリカで生まれ、地中海の全域で崇拝されるようになった大地の女神だ。そして多くの別名と姿を持つ。メティス、メデューサ、ネイト、アナタ、アトナ、アナト、アシェラト――彼女たちは皆、貴女という原初のアテナ(オリジナル)から産まれた分身、姉妹と言ってもいい」

 

 私の周りに漂っていた音霊が爆発的に展開する。

 私の背後に曼荼羅のごとく呪力が渦を巻き、そこに彼女の物語を紡ぎ出す。

 

「不快だぞ、乾燐音! 妾を暴きた立て、弱らせる言霊! 忌まわしき過去を思い出させてくれるな!」

 

 彼女の顔は憤怒に満ち溢れている。

 オルペウスの権能「吟遊詩人の挽歌(レクイエムオブミンストレル)」。

 言霊を操り、相手の対抗神話を組み上げる権能。

 それ以外にも音にまつわる力を使えるが、これが主なものだ。

 

「あなたはエジプトのイシスやバビロニアのイシュタルと同じルーツを持つ、古き大地母神の末裔なんだよ。そもそもは大地の女神でありながら、同時に冥府を支配する闇の神でもあったってこと」

 

 私が言霊を唱えるたびにそれはアテナへと向かって飛んで行き、彼女の体へと染み渡っていくのだ。

 彼女の顔からは余裕が抜け落ち始めている。

 なにせ現在進行形で力がどんどん弱まっていくんだからね。

 

「これが何を表しているか。それは、あなたが3つの属性を常に併せ持つ、三位一体の女神アテナだということの証明そのものだよ。戦神としての特性は、時代が進むにつれて付加されたものじゃないかな。死を齎す冥府の神が最大の災厄として存在する戦争と結びつくのは至極当然のことだからね。そうやって付加された戦神としての性質が、ポリスの守護者としての属性も持ったんじゃない?」

「利いたふうな口を、良くもべらべらと!」

 

 彼女は手に持っていた大鎌を長弓へと変化させると、閃光と見紛うばかりの一射を披露してくれた。ご丁寧にも私の額めがけてだ。さすが闘神だね。

 だが残念、ここまでこの権能を展開した以上その程度の攻撃で私の詩を止めることはできない。

 今度は音霊だけでその矢を受け止める。

 続けて射を繰り返すが、一本の矢も通らない。

 

「残念でした! さて、また立場が逆転したよ! またしても意趣返しを食らった気分はどんな感じ? ねぇねぇ今どんな気持ち? あっははははは!」

「クッ……! 乾燐音、神殺しよ! 貴女は妾の想像を超えた強者であったようだ! しかし、今の言霊で妾も理解したぞ。オルペウスだ! あなたが殺めた神は、オルペウスだ! 我が同胞アルゴナウタイの勇士。音を奏で、詩を吟ず吟遊詩人! なぜ、『鋼』のごとき力を持っているのかはわからないが、だからこそその力だけで妾を倒すことなどできないだろう?」

 

 あー、だめだこりゃ。

 こっちの手の内まで全部読まれてる……

 確かにこれで弱らせても、もう一回ボディプレスするか、なんか画期的な攻撃方法見つけないとあの盾を抜けないんだよねー。

 こっちが有利だって見せかけようとしてるのに、それを一発で見破ってくるとかアテナさんまじドS。

 

「オルペウスはアポロンが息子。それはオルペウスも太陽と結びつくということだ。しかし、貴女はオルペウスの権能を音に関わる神力として扱っている。妾の闇を駆逐するには、太陽の光こそが望ましかろうに、太陽の力を使えないのだな! それならば、その言霊が切れた時こそ貴女の最後よ!」

 

 流石智慧の女神、頭の回転の速いこと速いこと。

 もしかしたら太陽の力が使えるかもー、とか一瞬も疑わないのね。

 実際問題当たってるからいいけど、逆に今はそれが問題なわけで……

 打開策が全くと言っていいほどないなぁ。

 あれ? 詰んだ? 状況だけ見れば圧倒的優勢なはずなのに。

 あー、あのドヤ顔をなんとかしたいなぁ、ほんと。

 かの有名なアテナといえども、降すことは()でも無理なくできると踏んでたんだけど、結局()だけの力じゃ足りないのかぁ。

 残念だけど、このまま負けるのも癪だから、言霊が終わり次第奥の手を使うことにしよう。

 これで決まってくれないと負けちゃうし、()()を使うのは私の本意ではないのだけど……

 今回は弑逆するわけじゃないしいいよね。()()使っちゃうと、義母さんったら怒って新しい権能くれないからなぁ

 ()の力での勝利ってわけじゃなくなるからって理屈はわかるんだけど……私の権能のはずなのに理不尽だとも思う。

 まぁいいや、何はともあれ今は全力で言霊で弱体化しないと。

 

「その昔、古代世界の頂点に君臨するのは女性だった。神に仕え、人々を統治するのは女王の役割だからね。だから神々の長も女神――翼ある蛇の女神だった。だけど、彼女たちが至高の座を逐われる時が来る。武力を持つ男たちが謀反を起こし、女権社会は終わったからだよ」

 

 この言霊が最後で最強の言霊。

 アテナの根っこの部分に突き刺さる言霊だよ。

 

「女王の時代が終わり、王の時代が始まった。同時に至高の神も、母なる地母神から厳格な父神へと成り代わった。ゼウスをはじめとする、神王の誕生だね」

 

 今、目の前にいるアテナはかつて地中海に君臨した神界の女王。

 落魄する前は強大な権力を持っていた、まつろわされた女神。

 だからこそ、この言霊が彼女に対して最大の効力を発揮する。

 

「古きアテナとその分身たちは、王である神の妻、妹、娘に貶められ、かつての栄光を失った。神話の改竄が行われたんだ」

「…………黙れ」

「アテナは王の娘となった。メディスは陵辱され、智慧だけ奪われた。メデューサは魔物にまで墜とされた。それだけじゃない。ギリシャ神話のヘラもアルテミスもヘカテーも、全て敗北した地母神だ。貴女と起源を同じくする、生命と死の女神たちだ!」

「黙れと言っている! その言霊、まこと穢らわしい!」

 

 アテナはさっきまでの余裕はどこへやら、私の言霊を聞いて激怒している。

 このまま冷静さを失ってくれれば、()だけでも……無理か。

 ここは覚悟を決める場面だね。

 よし、とりあえずラストスパート行こう!

 

「敗れた地母神は、翼ある蛇として神話で語られるようにもなる。翼ある蛇――つまり、竜だね。数々の英雄神話に登場する、邪悪な竜。英雄や神に退治される竜たちは、敗北した地母神を貶め、悍ましく描いた姿だよ! さぁ、これでどうだ!」

 

 竜に関しての言霊は一回本人に喰らったことがある。

 だからこそどういう成り立ちを経ているのか、熟知している。

 もともとは地母神であった彼女たちは貶められ、竜へと変わり、英雄たちはそれを退治することで地母神たちの加護を得る。

 どこまでも英雄や男神たちに都合のいいサイクルだ。

 これこそが古代からのギリシャの征服の歴史を表し、女たちの権威の失墜を描くなによりもの証拠なのだ。

 言霊の完成を経て、私の後ろの曼荼羅がゆっくりと回転をはじめる。

 その輝きはやがて一点に集約していき、あまりにも眩い一つの光球となった。

 そして、次の瞬間その光球は弾け、私とアテナを取り囲むようにプラネタリウムの如き、光の結界が出現する。

 この結界の中では、アテナはその存在の弱点を晒し続けることになる。

 この言霊にもう少し汎用性があれば、アイギスも一緒に無効化できたんだけど、あれはゼウスから与えられた武具。アテナを対象とした対抗神話では干渉することは難しいのだ。

 先程まで言霊を聞きながらも、それに干渉することもできず立ち尽くしていたアテナは、言霊が終わったことで私に絶対の隙ができたと判断したのだろう。

 あの黒い大鎌を構え、アイギスを従えて私へ飛びかかってくる。

 私も手元に短剣を2本呼び寄せ、2刀で対応するも、技量の差は歴然。

 だんだんと追い詰められていく私に、アテナは鬱憤が晴らせることにご満悦のようだ。

 こんな空間に閉じ込められてたら、私だって切れそうになるくらい不快なはずだからね。

 

「ふはははは、これで貴女は言霊も使い切った! 妾にはわかっておるぞ、貴女に逆転の手立てがないことはな!」

 

 肩を切り裂き、足首を刈り取ろうと、首をも刎ね飛ばそうとする大鎌の一撃を、そろそろ受け流すのも防ぐのも限界に近い。

 急所だけは守りきれているが、それすらも危うくなりつつあるのだ。

 

「ちょこまかとっ! 往生際が悪いぞ、乾燐音よ!」

 

 その言葉とともに振り下ろされた大鎌に、私は反応することができなかった。

 今度こそその大鎌は、寸分の狂いもなく、私の胴体を深々と切り裂いたのだ。

 今の()には、状況を打破できなかった。

 ああ、無念……だ、ね。

 

 




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