魔法戦記ガンダム ~鉄血のウィッチーズ~   作:青の細道

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更新が遅れて誠に申し訳ございません(土下座
PCが天に召され、スマホでせこせこ五時間費やした最初のデータをちょっとしたミスで全削除してしまい涙で枕を濡らしてました。


第七話:反撃の狼煙

エイニ率いる航空ウィッチの部隊がネウロイと戦闘を開始して一時間が経過しようとしていた。

状況は芳しくなく苦戦を強いられている。

制空権を独占し、地を這うネウロイを一方的に倒せるほど、敵であるネウロイは甘くはない。航空ウィッチが基本的に戦うネウロイは自身と同じく上空を翔る航空型のネウロイ。空を飛ぶ構造なのか、どういう概念かは不明であるが航空型は陸戦型と比べて火力と防御力に差がある。その代わりになのか再生能力と機動力に関しては航空型に軍配が上がる。

 

ウィッチの武装には限界がある。通常の航空機同様に積載量と言えるだろう。過剰な武装を持つ場合は機動力の著しい低下。最悪は飛行すら困難になる。

故に彼女たちは機銃。軽機関銃や対装甲ライフルなどといった武装を好む。だが陸戦ウィッチは空を飛ぶことはないため重武装である大口径の大砲などを装備できる。

 

結論から言って決定打に欠けるのだ。

 

地上を走るネウロイは確かに航空ウィッチたちからすれば格好の的であるが自分たちの攻撃が通用しないのであれば意味がない。コアを持たない小型のネウロイならば一定のダメージを与えれば撃破は容易ではある。

だがコアを持つ大型ネウロイになれば話は別。コアを破壊しなければ撃破の出来ない場合、純粋な火力が求められ再生速度を上回るダメージを与え露出するコアを狙い撃つ。

言葉にすれば簡単ではあるが現実はそうはいかない。

まず第一に火力の不足。エイニたち第一部隊は機関銃による敵機の牽制

ラウラ率いる第二部隊は簡易爆弾の爆撃によるネウロイへの攻撃。エイラ率いる第三部隊は第一第二部隊の援護。

そして攻撃の要であったラウラ隊によって行われた爆撃で大型ネウロイを撃破することは叶わなかった。

 

 

結果、持久戦という名の消耗戦を彼女たちは強いられる。

今、この場で最も火力を持つのはハンナの持つ20mm口径の対装甲ライフル。だがこれは弾数が少なく連射速度に欠けている。

 

そして何より一番の問題。それはコアの位置……。ネウロイの持つコアが存在する箇所には一定の法則や決まった配置などはなく完全にラン

ダムなものだった。航空機や自動車、人類の持つ機械で言うならばエンジン。人体で言うのであれば心臓。ネウロイにとってコアとはそういうものであるが機械や生物の類いと逸脱した怪異――ネウロイにその常識が通用しない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……!」

地上より放たれる紅い閃光を旋回し、回避するエイニは苦虫を噛むように表情を顰める。第二部隊の攻撃が失敗に終わり、敵戦力の中枢である大型ネウロイは大陸を駆けずり回り、近づかせまいと無数のビームでウィッチ達を牽制する。

各ウィッチたちはビームを回避するか魔法力のシールドで防ぐかで手詰まりとなり反撃の余地はなかった。

とにかく今、彼女できることは一秒でも敵の進行を食い止め陸戦部隊の到着まで持ちこたえさせることだった。

 

しかし――。

 

まだなのか!?

 

エイニの表情に焦りの色が滲んでいた。微かに視線だけを周囲にいるウィッチたちへ向ければ誰も彼もが息を荒げ、肩を上下させている。額に汗を滲ませそれを袖で拭うもの、大丈夫かと疲労の激しい仲間に声をかけるもの、陸戦部隊の到着はまだなのかと声を荒げるもの。

 

皆がみな、余裕などというものはどこにもなかった……。スオムスきってのエースであるエイラですら魔法力の消耗で疲弊し、回避行動のキレに綻びを見せ始めている。

 

このままでは、マズイ……か。

残り二つとなったDP28軽機関銃の弾倉の内一つを装填し、エイニは小さく呼吸を繰り返し息を整える。ネウロイの位置を見極め、一度高度を上げる。迫る紅の閃光を避け一定の高さまで

上がったところで急降下。ストライカーの出し得る最高速度と重力を合わせ急速に地上のネウロイへ迫る。真上からの軽機関銃が繰り出す7.62mmの雨。バリバリと硝子が割れるような音を響かせながら十数発ほど被弾した小型のネウロイは、やがて光を失い崩れ落ちるように霧散する。

小型の撃破はやはり容易ではあるが、敵を撃破してなおエイニの表情から焦りが消えることはなかった。

 

それもそのはず、彼女の視線の先……敵の中枢にいる三体の大型ネウロイのうち一体は小型のネウロイを産み出す母艦級だったらしく小型機を倒せど倒せど新たに産み出され切りがない。母艦級を倒そうにも

残り二体の大型機がまるで『守るように』攻撃の手を激しくし接近を許さない。そしてそんな大型ネウロイを倒す火力も彼女たちには残されていなかった……。

 

撤退という選択肢もある、が。今この場で逃げてしまえば地上部隊を置き去りにする形になってしまう。

そもそも敵を前に逃げ出すなどあってはならない。

 

頼む、早く来てくれ。

懇願し、やがて撃ち終え空になった弾倉を放り捨て、最後の一つを装填する。

 

「きゃあ!」

不意に一人のウィッチが悲鳴を上げた。

進路上にビームが横切り、驚き機動を止めたところで更に第二射――。シールドで何とか防いだが……代わりに『完全に機動が止まった』――。

 

「っ動きを止めるなァ!!」

ゾワリと悪寒が走り、有らん限りの声で叫ぶ。動きを止めてしまったウィッチ……まだ新人だったその少女は一瞬困惑した表情でエイニへ視線を向けた。――向けてしまった。

 

目下のネウロイ、大型を含め数多くの砲身が機動を鈍らせ格好の的となってしまった自分に狙いを定めているとも知らず。

 

「避け――!!」

言葉よりも速く、無数の紅い閃光が放たれる。大出力のビームがシールドを押し上げ、新人ウィッチの悲鳴が全員の耳にインカムを通して響き渡る。

 

バリン、とシールドが砕けると共に身を投げ出されたウィッチが地面へと落ちていく。履いていたストライカーユニットは片方が完全に欠損し、残った一方も火花を散らせ黒煙を上げている。

 

「っ――!!」

抱えていた軽機関銃を投げ捨て救助へと翔る。迫るビームもシールドで防ぎ、速度を緩めず一直線……。落下するウィッチの手をギリギリの所で掴み、高度を上げながら容態を確認する。致命的な外傷はなく、微かな裂傷と火傷……恐怖と痛みからか気を失ってしまっている。

しかし生きている。その事実が絶望に染まり変えていたエイニの表情をに、僅かな光をもたらす。

 

「隊長――!!」

安心したのもつかの間、部下の声に顔を上げ迫っていたネウロイの追撃を寸でのところで防ぐ。武器を捨て、人一人を抱えた彼女に…… 今度は敵の攻撃が集中力しようとしていた。

 

くそっ――!!

 

声も上げず、顔を顰め回避行動を取る。だが両手が塞がれ軽機関銃よりも重く不安定な荷物を抱えた今の彼女には満足な機動が取れるはずがなかった。

 

やむ終えずシールドを展開し防御する。部下である他のウィッチたちも直ぐ様援護に駆けつける。

 

「くっそぉ!!」

 

「このままじゃ……!!」

ウィッチたちが節々に苦痛の声を漏らす。

 

どうすればいい。

 

どうしたらいい。

 

何をしたらいい。

 

答えを導き出せる者はいなかった。否――。

 

答えは最初から一つしかなかった。

 

「っ……諦めるな!!」

エイニの声に全員が肩を震わせる。

 

「救援が来るまで持ちこたえるんだ!!」

諦めるなと、戦えと彼女は叫ぶ。

戦うことで未来を掴めと……諦めず前に進めと。

 

ウィッチたちの表情が変わっていく。困惑と畏怖、絶望と焦り……そこから一転し皆、強い決意を秘めた表情。言葉もなく、ただただ互いに顔を見合わせ頷き合う。

 

手負いの少女を同じく新人であるウィッチの一人に預け、代わりに彼女が使っていた武器を受け取る。エイニの判断を察してか、一瞬だけ表情を曇らせるもすぐに「了解」と強く頷き戦線を離脱していく。

戦力的に一人でもウィッチが欠けるのは痛手ではあった、だが負傷した仲間を基地まで運ぶ必要がある。エイニの判断は冷静であり妥当な決断だった。

 

「さぁ、もう一仕事いくぞ!」

 

「「「「了解っ!!」」」」

 

戦いは、まだ続く――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィッチ一名負傷!! 戦闘継続不能に付き離脱させた模様!!」

通信室が慌ただしくなる。ウィッチの負傷、その伝令に誰もが顔を大きく歪ませる。理由は様々ではあった。

 

だが一環した感情。それは10歳弱の子供が傷ついたことへのやるせなさだった。

 

「みんな……っ!!」

手を組み、祈るように目を閉じるニッカ。そんな彼女を支えるように傍らに立ち、その小さな肩へ優しく手を乗せる少年――トーマが「大丈夫だ」と励ます。

しかしトーマは僅かに視線を傾け、卓上に置かれた地図を見る。ネウロイの進行ルートとウィッチ部隊の展開、状況が通信を通して人為的に更新されていく様子に眉間を強ばらせる。

 

状況は悪くなっていく。

航空ウィッチにより足止めされ進行速度を僅かながら送らせているとはいえ、それでも彼女は劣勢でありジリジリと押されている。地上部隊との合流までに要する時間……合流したとしてもそこからネウロイを撃破できるまでの時間……そもそも確実に勝てると決まっているわけではない。それが戦争である。トーマはそれを『よく知って』いた。

 

必要なのだ。何か……この状況を打開できる決定的な『何か』が……。もしこの場にアンドロマリウスがあったならば直ぐ様出撃しえいた事だろう。だがこの場に、彼の半身である悪魔はいない。

回収作業もされず二週間近くも雪山で放置され、今頃は雪原の一部になってしまっているだろう。

 

トーマはベルツィレ基地に来て――否、この世界の情勢を知ってアンドロマリウスの事を誰にも話さなかった。アウロラやエイニはもちろん、ニッカにすらも……。

僅かな疑念と微かな可能性を危険視していた。

 

雪原を彷徨って、ベルツィレ基地に保護されたことによりアンドロマリウスの現在位置が分からなくなってしまったという部分もある。だがそれ以上に彼が恐れていた点は二つと。

 

一つはアンドロマリウス――モビルスーツの動力源であるエイハブ・リアクターが稼働中に生成するエイハブ・ウェーブによる通信妨害が引き起こすであろう混乱。エイハブ・ウェーブとはエイハブ・リアクター真空素子が相転移し、生み出すエイハブ粒子という重粒子が崩壊いたことにより生成される素粒子が拡散することによって発生する磁気嵐のようなものである。

これは通常の無線などを妨害していまう作用があり、この世界においてエイハブ・ウェーブの影響を受けないものは地下を通る有線通信と観測用レーダーのみである可能性があり、ウィッチ達や基地施設の無線機に干渉する恐れがあった。

 

そして、一番の危険視しているもの……それはアンドロマリウスの存在そのものである。

この世界においてモビルスーツがどのような存在であり、その存在がどれほどまでに不釣り合いでイレギュラーであるかは容易に想像がつく。

技術力の差はあれど、可能性はゼロではないモビルスーツという『兵器』の技術漏洩。トーマ・イヅルは人類を守護する立場であると同時に、人類が刻んできた歴史を知っていた。

大地や空気、水を汚した環境破壊。生きとし生ける生命を数多く滅ぼした生態系のバランス崩壊。そして同種族であるはずの人類同士による人種や宗教、利益や利害から生まれた戦争……人類は何年も、何十年も、何百年もその歴史を繰り返してきた。

 

そしてトーマ自身が戦った驚異――モビルアーマーもまた人類が生み出した災悪の一つであった。始まりがどうあれ、モビルアーマーは人類を滅ぼす厄災となり人類へと襲いかかった。

 

トーマは畏怖する。

もしもアンドロマリウスをこの世界で起動させてしまった時……自分がどのような立場になるかを、モビルアーマーは……ガンダム・フレームは阿頼耶識なしでは動かせない。今この世界で阿頼耶識を持つ存在はトーマだけである――。

もしも自分と、その半身とも言えるモビルスーツの存在がこの世界を歪めさせ災いを齎してしまうのであれば隠し通す必要がある。……だが、モビルスーツの戦闘力を持ってすれば少なからずネウロイに対して大きな決定打になり得る事だろう。

 

 

 

俺は……どうしたらいい。

 

 

 

トーマの葛藤に、かつて友だった男との『誓い』が頭を過る。

二人には夢があった。人類の驚異であるモビルアーマーを倒し世界に平和を齎そうと。

 

その夢に嘘はなかった。

 

その誓いに偽りはなかった。

 

もし……。

 

もしも戦う力が俺に有ったのなら、戦うことが出来るのであれば……俺は迷わず戦おう。

 

トーマの答えは未来を見ることだった。

例えその未来がどんな形であってもトーマは決意した、決意していた。元々戦うことしかできなかった自分に迷っている暇などないのだと……迷っている間に誰かが傷付き、苦しみ、涙を流してしまうのであれば戦おう。世界を救う、その言葉にどれだけの重みがあったとしても……語り合った友との夢を果たそう。

 

例え世界が違えとも……。

 

「トーマ……?」

不意に、傍らにいた少女から声を掛けられた。不思議そうに視線を上げこちらの様子を伺うように首を傾けていた。

 

「カタヤイネン曹長……俺は――」

 

「おいどうなっているんだ!?」

トーマの言葉が通信機を操作していた兵によって遮られた。視線を戻すと周波数を合わせるためのダイヤルを何度も調整してはエイニたち航空ウィッチ隊にへ呼び掛けている。

ザーと通信機を介して部屋全体へ状況が分かるように設置されていた大型スピーカーからはノイズだけが鳴り響いていた。

 

「どういた!」

兵たちが集まり、ヘッドマイクを着ける兵士へ訪ねる。通信が繋がらないと答えた彼の言葉に全員の顔が青ざめていく。

 

通信が繋がらない。それがどういう意味を指し示すのか……最悪の状況が予測される。考えたくはない、だがその可能性が高い。

 

航空ウィッチ隊の全滅――。

 

「ぁ……ぅあ」

ガクガクと震える足取りで前に歩こうと力を振り絞るニッカ。しかい彼女の思惑とは裏腹に、その足は数歩『後ろ』へと下がっていた。

 

「カタヤイネン曹長っ!」

膝から崩れ落ちそうになった少女の華奢で弱々しい体をトーマが受け止める。顔は青ざめ、足だけではなく全身が小刻みに震えていた。

 

「通信を……」

震える少女を腕に抱き、トーマが呟く。

 

「通信を繋げるんだ!! まだ彼女たちがやられたという確証はないだろう!」

若干17歳の少年に気圧され、兵たちは「はい!」と通信機を操作する手を急がせる。

 

腕の中では今にも消え入りそうな声で「ルーッカネン隊長……ニパ……ハッセ……ラプラ……皆っ……」と仲間の安否を祈るようにその名を呟くニッカのいたたまれない姿。

 

ギリ――。

トーマは歯を食い縛る。13という幼い少女が友を、仲間を失う恐怖に押し潰されていく様を見ていることができなかった。

 

かつての不甲斐なかった自分の姿に、あまりにも似ていた彼女の絶望に染まった姿が……。

 

違う……この娘は俺なんかとは違うんだ。

 

ゴン、と右手の甲で額を殴る。

 

 

 

ザーー。

 

 

 

考えろ……彼女たちが生きているという確証が得られる可能性を……『さっき』までは確かに通信は届いていたはずだ。

 

通信機が故障……?

 

 

 

ザーー。

 

 

 

否――。そんな都合よく全員の通信機が故障するなどありえない。

 

 

 

ザーー。

 

 

 

ネウロイによる通信妨害……?

 

 

 

ザーー。

 

 

 

その可能性も高い。もしもネウロイに戦術を繰り出すだけの知能があるのだとしたら。……しかしこれも違うだろう、もし通信を妨害できる能力を有しているなら今さらそんな回りくどいことなどするだろうか?

 

 

 

ザーー。

 

 

 

考えろ……!

 

 

 

ザーー。

 

 

 

…………。

 

 

 

ザーー。

 

 

 

「……まさか」

トーマの頭に過った一つの可能性。

 

だがそれはあまりにも馬鹿げたものだ。その可能性は全員の通信機が故障した可能性よりも『低く』。

 

ネウロイの通信妨害にもっとも『近く』。

 

ウィッチたちが全滅したという可能性と同様に『認めたくはない』。

 

だがそれで居て、今一番……この状況をどうにかしたいという彼の願いに最も『都合がいい』可能性。

 

「カタヤイネン曹長を頼む」

兵の一人にカタヤイネン曹長を預け、どうかしたのかと訪ねてくる周囲を無視するように彼は全力で走り出した。まだ完璧に完治していない体に走る痛みも省みず走る。

 

 

 

走る。

 

 

 

走る。

 

 

 

そして、その手に希望の光を持つ可能性を……確信させるものを掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだと!?」

現れた第二軍のネウロイを迎撃に向かい出たアウロラの部隊に激昂が響く。目を見開き、告げられた報告を認められないとでも言わんばかりの表情。

アウロラは顔を顰め、中継用の小型通信機を担いでいたウィッチの一人へ「たしかなのか?」と問いかける。受け取った報告の内容原因なのあ、それとも『モロッコの恐怖』と呼ばれた彼女の怒りが混じった声色に怯えてか、微かに涙を浮かべながら何度も頷く。

 

ルーッカネン中隊との通信途絶。

 

その報告は無論アウロラたちにも届いた。やはり彼女たちも考えたくはなかったが真っ先に『全滅』という単語が思い浮かんだ。

 

そんなはずはない。

アウロラは頭を振る。思い込みや逃避行などではない。

 

理屈を抜きにしてアウロラは彼女たちが生きていうという可能性を確信している。理由などはなく根拠もない。

 

思い込みだと終われても仕方がない。

 

それでも彼女は、友の……家族の存命を確信している。

 

あいつらが簡単にはくたばるはずがない。

 

アウロラは高らかに叫ぶ。我々には我々の成すべきことがあると。

彼女の足が、鋼鉄の三号突撃装甲脚がうねりを上げた。震え上がる鼓動がアウロラの――強く気高い少女の……僅かに潜む不安を掻き消すように――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルツィレ基地、応答を!! 聞こえますかベルツィレ基地……!!」

暗雲立ち込める中、一人のウィッチが叫んでいた。真っ直ぐ直進し何度も耳元のインカムの具合を見ながら必死に叫んでいる。

背には負傷した、ようやく取り戻した意識を朦朧とさせる仲間を背負いながら。

 

「どうして……!?」

通信が繋がらないことに怒りすら抱き焦りを加速させる。基地が攻め込まれたなどという情報は一度もなかった。30分ほど前まで何の変哲もなく繋がっていたはずの通信がここに来て繋がらなくなるなど、あまりにも唐突過ぎる。

 

一体何が起きているというのか。

 

「ぅ……ん……」

疑問に困惑しているウィッチが、背に抱えた同期の少女の苦しそうな声に意識を引き戻される。

 

「待ってて……! もうすぐ基地だからね!」

意識をしっかり保てるよう声をかけ励ます。戦う戦友や上官の安否を祈りながらストライカーユニットへ送る魔法力に意識を集中させる。

 

すると視界の先にキラリと光るものがこちらに向かってくるのが見えた。

 

なんだあれは。と目を凝らすウィッチ。少しして、その姿をとらえ理解した彼女は「え……?」と眉を潜めた。

 

飛んできているのはウィッチだった。一人航空ウィッチ……少なくとも彼女が知る中で戦闘が繰り広げられている白海方面に展開したウィッチたち以外の航空ウィッチといえば基地待機を命じられたニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長くらいしかいないはずであり、実際そのウィッチは予想通りの人物であった。だが彼女が疑問に声を漏らしたのは基地待機を命じられたニッカの存在などではなく。

 

その細腕に抱えた不可思議な格好をした少年であろう人物の姿だった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡りベルツィレ駐屯基地。

北方へ展開していた航空ウィッチ隊との通信が途絶して数分。未だに誰もが諦めず通信を繰り返し、一刻も早く彼女たちと連絡が取れることを願い祈るように何度も、何度も呼び掛ける。

 

しかしやはり、返ってくるのはノイズばかり……。

 

諦めよう――。

 

誰かがそう言おうと口を開いた時、大きく音を立て部屋の入り口が開かれた。全員の視線が入り口へ注がれる。荒い息遣いの声色で誰が入ってきたのか何となく理解し遅れて俯いていたニッカが顔を上げた。

 

そこにはやはり一人の少年が息を荒げながら立っていた。微かに脇腹を抑え、苦痛に耐えるように顔を顰めている。だがどこか、その表情には微かに光明が垣間見えたのは気のせいだろうかとニッカは疑問を浮かべる。

 

少年は何故かスオムス軍で普及している男性用の軍服ではなく、初めて遭遇した――。あの日、あの場所で彼を保護した際に身に付けていた用途不明の服装をしていた。肩を含む胸部、腕部、腰部や脚部を守るように取り付けられた金属光沢のあるプロテクター。白を基調とし赤のラインが所々に装飾され、胸部のプロテクターには何かの紋章が描かれていた。国旗というわけでもなく、部隊章というわけでもなく部隊名の一つも書かれていない。

 

荒くなっていた息を落ち着かせるよう呼吸を整え、少年――トーマはゆっくりと床に座り込んでしまっていた少女へと歩み寄っていく。

片膝を付き、これで何度目になるだろうか……ニッカの小さな肩へ手を置く。全身を包むボディスーツとニッカが身に纏う衣服の布地を通してジンワリと伝わってくる温もり。

 

「カタヤイネン曹長」

少年の、トーマ・イヅルの声が耳に届く。強く、優しく、はっきりとした声。ニッカは黙って彼の言葉を聞いていた。

 

「俺を連れて飛んでほしい」

その発言が反撃の狼煙となった事を誰もまだ知らない――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どういうことなのさトーマ!?」

場所は代わりガレージ前、歩幅が広く歩く速度が早いトーマを追いかけるニッカはやや駆け足気味になりながら彼へと問いかける。

 

「ああ、それは――」

 

「おぉうい小僧ー!!」

ガレージから響く、年齢を感じさせない男性の野太い声が駆け抜ける。見ればニッカの新しいストライカーユニットであるメッサーシャルフBF109G‐2が出撃用のカタパルトに固定され整備長である初老の小柄な男性――おやっさんの姿があった。

 

「こっちは準備完了じゃぁ!! いつでも行けんぜぇ!!」

そういってにかっと笑みを浮かべるおやっさん。その表情は楽しげで、冒険譚を読み目を輝かせる少年のようだった。

 

一体何をしようというのだろうか?

 

ニッカは先程のトーマが言った言葉を思い浮かべる。

 

――俺を連れて飛んでほしい――

 

言葉の意味は分かるが意図がはっきりしない。

 

「おやっさん、待たせてすまない」

申し訳ないといったトーマに対し、彼はガッハッハとさぞ愉快といった様子でバンバンと彼の腰をバシバシと叩いていた。「痛い痛い」と苦笑いを浮かべるトーマ。穏和なムードに少し剥れ、ニッカはむ眉間に皺を寄せる。

 

「ねぇってば!」

 

「ああ、すまないカタヤイネン曹長」

持ってきていた個人端末の電源を入れ、彼はスオムス――向こうの世界ではフィンランドと呼ばれる国の地形が立体的に映し出されていた。

その光景に整備士やおやっさんが驚いた声を上げる。ホログラム映像――と以前聞かされていたニッカは特に驚く事はなかったが、やはり何度見ても不思議なカラクリのそれを見るたびに、彼が元いた世界の優れた技術力を思い知らされる。

 

「どーゆぅ仕組みなんじゃァこりゃぁ……」

そう言って彼の肩を引っ張り自身の低い目線に合わせ訝しげに眺めるおやっさんをグイグイと押し退けるトーマ。

 

「作戦……ってほどじゃないが、これから君にはこの座標へ俺を運んでほしい」

地図の一点。ボンヤリと光が点滅する箇所……その地域には見覚えがあった。

 

ハルティ山――。

 

そこは彼を遭難から救出した場所だった。

北方に進出しようとしているネウロイ軍と航空ウィッチ隊の戦線よりも僅かに離れてはいるが、そこに何かあるのだろうかと小首を傾げる。

 

「ここに何かあるの?」

彼女の疑問に、トーマは微かに笑みを浮かべた。

 

「ああ、いい加減『迎えに行って』やらないとな」

その瞳の置くには、闘争に見いられた悪魔の申し子が潜む事をニッカはこの時……知るよしもなかった。




というわけで二週間ぶりの更新になりました。
活動報告の方で現状報告などもした方がいいのかとも考えましたが、使い慣れてないスマホ版に四苦八苦し、仕事でヒイヒイし、PCがないせいで軌跡の輪舞曲もできず(一応スマホの方でPC画面設定にするとログインとかはできますが重すぎて戦闘ができない……その代わり暇だったので想いの結晶4000でガチャ回したらSSRが二枚とS+が一枚出ました)

そんなわけでこれからはスマホによる更新が続くと思いますが、今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m

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