魔法戦記ガンダム ~鉄血のウィッチーズ~   作:青の細道

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第五話:青い空の向こう

寒波が過ぎ去り、スオムスの空に清らかさが取り戻された。

太陽から発せられる光が空気中に散乱し、光の中で波長の長い赤色と違い波長の短い青色はより広く散乱することにより見える空が青色であるという認識現象。名を『レイニー散乱』という。

 

そんな青い空に、二本の飛行機雲が縦横無尽に駆け巡っていた。

前方の影を追うように、その後ろを離れまいとするもう一つの影。

 

「へっへ~ん! 当てられるもんなら当ててミロ~!」

余裕の表情を見せ、追跡するニッカに対し片目を閉じ舌を見せ挑発的な態度を取る銀髪の少女エイラ。

 

二人は今ストライカーユニットを履き、航空機動による格闘戦を繰り広げていた。

繰り広げていたといってもエイラはただ逃げるだけで反撃などはせず、ニッカの持つペイント弾が装填されたスオミM1931短機関銃から放たれる弾を軽やかに躱している。

 

「くっそー!」

顔を顰め、何としてでも当ててやると意気込むニッカであるが弾は掠りもせず。まったく隙を見せない彼女の機動についていくのもやっとだった。

傍から見れば後ろを取っているニッカが優勢に見えるが、二人の様子はまるで逆。

 

「何度見てもすごいものだな」

構えていた双眼鏡を下げ、トーマは小さく呟く。二人の模擬戦を観察する彼にとって、ウィッチの戦い方というものは見慣れない物珍しさがあった。

 

彼の世界で重力下での航空戦というものは戦闘機が主だ。固定されたジェットエンジンにより前方へ加速し、主翼や尾翼にある昇降舵によって上下に、機体そのものを傾けることによって左右に機動を取る三次元機動。だが機体はもちろん搭乗者の負担などの問題点もあり、激しすぎる機動変換は重大な損害を生みかねない。

 

しかしウィッチ達の戦い方はまるで違う。足に履いたストライカーユニットを動力とし、両手と足の動かし方ひとつでありとあらゆる方面へ自由に駆け巡っている。

翼を持つ動物である鳥よりも変幻自在に飛び回るその様を初めて見た時、トーマは「まるで天使みたいだな」と感想を述べた。

現にエイラは両手両足を色々角度へ伸ばし、腰を捻り重心を逸らして機動を変則的にする。

 

彼女たちの動きを、宇宙空間でモビルスーツを扱う自分たちモビルスーツパイロットの姿に重ねる。あくまで無重力下であるという条件でならばウィッチのような動きは阿頼耶識システムの恩恵もある似たような動きを、ぞれ以上の速度と反応で再現は出来る。

 

ただし重力下であるならばそうはいかない。爆発的な推力を生み出す推進機を用いたとしても数十tを超える重量を持つモビルスーツを航空機のように飛ばすこと自体。専用の装備が無くては不可能である。

それに加えてあれほどの激しい機動戦をしようものならば確実にエイハブリアクターの生み出すエイハブ粒子が齎す耐G効果を振り切る勢いのGが掛かり文字通り『中身が出る』だろう。

 

これが魔法力を持つ彼女たちの戦い方なのかと、再度認識する。

 

「…………」

 

「なぜそんな顔をする」

思考していたトーマの隣にいつの間にか立っていた女性。エイラの姉であるアウロラが彼の思い詰めた表情を見てその意味を問う。

 

「いや、たしかにあの力を使う事でネウロイという存在に対抗できるならば、それを使う事は至極当然の事なんだろう……だが——」

トーマは目を細め眉間に皺を寄せる。握っていた双眼鏡に加わっていた握力がより一層強まり、ミシリと鈍い音が漏れる。

地上を走る戦車、海を渡る軍艦、空を翔る航空機。この世界に存在する人類の兵器たちはどれも彼から見れば骨董品の、あまりにも粗悪なものばかりであり、それを用いてビームを雨のように注ぎ、強大な質量を持つネウロイを殲滅できるはずもない。

その中で唯一対等に渡り合えるストライカーユニットと、それを扱うウィッチ達の『魔法』はまさに希望であり掛け替えのない戦力なのだろう。だがそれではあまりにも……。

 

「……何度も言っているが——」

溜め息を吐き、言葉を返そうとしたアウロラを「わかってるさ」とやや怒りを混じらせた声色で遮る。

 

「彼女たちは自分の意志で戦っている。決して強制されてのことじゃない。……だがそれでも……俺は……」

 

「…………」

 

トーマ・イヅルにとって戦いとは、生きる術であり、目的であり、唯一といっていい『存在意義』であった。

生まれた時から親を知らず、幸せなどという物も理解できず、気が付けば戦いに身を投じる事になり戦う事で自分の存在を自覚しその中で見つけた確かな『もの』。そしてそれを見つけさせてくれた存在のために彼が出来た唯一の恩返しもまた『戦う事』だけだった。

 

戦いのこと以外あまり何も知らなかった彼にとって、自分がただ守られるだけの存在であることが遣る瀬無かった。

 

「ウィッチの力を見て、無力感に打ちひしがれそうになっているのはお前だけではないさ」

魔法力を持たないものは少なからず誰でも同じような悩みを持っていた。軍属の男性兵士など。自分よりも遥かに幼い少女に頼りっぱなしであるという事実に悔やんでも悔やみきれない気持ちを持つ。

 

「それでも我々人類はネウロイを倒し、平和のために戦っている。武器を持つことだけが『戦う事』ではないさ」

アウロラの言葉に、トーマは小さく「そうだな」と答える。だがその瞳は遥か遠くを見ていた。空を翔る二人の少女を超え、漂う雲を抜き、果てしないまでの宇宙(そら)を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三日後、基地を離れていた指令が戻る。長い間御座なりになっていたお前の処遇が正式に決まるだろう」

司令室にて、机を挟んでアウロラは書類の一つを眺めながらトーマへ伝える。彼女の隣にはスオムスでは珍しい漆黒の髪。眼鏡を掛けアウロラ同様に凛とした顔立ちの女性『エイニ・アンティア・ルーッカネン』少佐は基地の臨時指令として基地全体の指揮を担う職務についていた。

椅子に座るエイニとその傍らに立つアウロラのスオムス軍でも一際存在感のある二人と対面して顔色一つ変えない少年。トーマは書類に記載された『報告書』と書かれたページを流し読みしている。

トーマ個人の事をほとんど知らない者からすれば二人と対等に会話する彼の存在はあまりにも異質で、一部では「実はとんでもない奴」もしくは「どちらかと恋仲なのでは?」という噂なども立っていた。後者はともかくとして前者についてはある意味で合っていると言える。

スオムス軍属であるエイニは少佐、アウロラは大尉と兵の中でも上位に立つ階級を持っている。一兵卒や下士官のウィッチからも慕われ絶対的な立場を持つ二人とは別に、トーマはこの世界において『身元不明の遭難者』という肩書が表向きの立場である。

 

しかし彼の持つ階級は『大佐』であり、かの二人よりも上に居る存在であった。その事実を知るのはこの場にいる三人と、そして下士官の中で唯一ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長だけが認知している。

 

エイニとの初対面時、彼が別世界の住人であるというアウロラの報告を「酒で酔っているのか?」と真に受けていなかったが二人に見せた時のようにトーマの持つ端末映像を見せ、彼の語ったその世界での歴史を説明し納得させるも、そのような人物の処遇を上層部にどう説明したものかと悩ませる羽目になった。

 

三人が出した答えは、とりあえず別世界の住人であるという事は隠し『記憶喪失の遭難者』という形で一報を出すことにした。それに加え、彼の持つ優秀な人材としての価値も報告書に記載する。

物資はもちろん、人手の足りないスオムスにおいて優秀な人物は一人でも多く居てくれることに越したことはない。

 

エイニとアウロラの上層部への進言は『トーマ・イヅルのスオムス軍の義勇兵として所属させる』というものだった。

 

一言でいえば現状維持に過ぎない事でもあるが、正式に決定すれば彼の限られた規制にある程度自由が与えられる。

元々この世界で身寄りのない彼をどこかへ追いやるほど無情ではない。

衣食住を条件に、トーマはベルツィレ基地の所属となり貢献することにも同意している。

 

スオムス軍総司令官であるマンネルハイム元帥は何故か彼をいたく気に入ったようで手紙にも是非我が軍の、ひいては世界のために力を貸してほしいという言葉が掛かれていた。

 

「俺にできる事なら、協力させてほしい」

トーマの言葉に、アウロラとエイニは笑みを浮かべる。

 

「そうか、ならば早速——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局『こう』なるのか」

司令室で独り、積み重なった書類の山を眺めながらトーマはポツリと呟く。

正式ではないにしろ、このベルツィレ基地に所属することはほぼ確定であるのだろう。そして協力できる事なら何でもやると言ったのは自分であるが、まさかまた書類整理地獄に放り込まれることになるとは……と少し前に言った発言に軽く後悔している。

 

以前片づけたはずの書類の山と同等かそれ以上はあろう始末書やら進言書、報告書、契約書の数々……。

 

自身の自己PRに特異な事は書類整理という項目を加えようかとすら思えるほどにこの数日だけでどれだけの数をこなして来たか考えたくもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「疲れた~」

全身から脱力し、机にだらしなく上半身を突っ伏すニッカ。

模擬戦を終え、いつものメンバーであるラウラとハンナの二人と合流し四人は食堂に集まっていた。

 

「今日も残念だったね~ニパ」

普段通りのにこやかな笑顔を浮かべながら彼女の肩を軽く叩くハンナに対し「今日もは余計だよぉ」と力なく答える。

 

「まぁイッルに戦闘機動で勝てる奴はいないだろう」

ホットミルクを飲みながら一息つくラウラ。彼女のいう通り、四人はそれぞれエースと呼ばれるほどの実力を持ちながら、その中でも群を抜くエイラの強さ。

 

その一旦である彼女の固有魔法『未来予知』と呼ばれる感知系魔法の一つであり、現状の行動がもたらすあらゆる可能性の中から最も確率の高い結果をイメージとして感じとれるというだ。

未来が分かるという能力が、いかに有利であれるか、それは力を持つエイラを初め彼女と何度も模擬戦を重ねる他のウィッチ達が一番よく分かっている。

 

「ふっふ~ん『ダイヤのエース』は伊達じゃないんダナ~」

誇らしげに鼻を鳴らし、腕を組み勝ち誇った顔をするエイラ。

 

『ダイヤのエース』

とは彼女の通称であり、戦闘能力の高さもさることながら未来予知による敵弾の圧倒的な回避能力。『無傷の撃墜王』とも呼ばれ、その名の通り被弾するという事が今まで一度もない、ウィッチならば誰もが憧れる能力を有している。

 

そんな彼女に負けじと、日々精進するニッカであるが本日も軍配はエイラに渡ったのであった。

 

それぞれが一息つき、昼食を持って再び席に戻る頃。食堂に彼女たちの見知った人影が現れる。

すっかり馴染んでいたスオムス軍の軍服にボサボサの黒髪、切れ長の目に扶桑人と似た顔立ちの少年。ここ数日間だけで大分濃くなった目の下の隈と疲れた表情からは悲壮感すら漂わせていた。

 

「お~いトーマ~」

手を上げ、その少年に声を掛けたのはエイラだった。食堂には数多くの兵達も同様に談笑しながら食事を行っていたため場合によっては彼女の声がかき消され兼ねなかったが、そんなことはなくトーマはエイラの声に気付き、軽く手を振るい昼食であるスオムス料理のカーリカーリュレートとマッシュポテトの乗ったトレイを持って、四人の座る席に歩み寄った。

 

「お疲れさん。同席いいかな」

彼の申し出に四人は「もちろん」と了承する。長方形の机、その長い方の幅の席にニッカとハンナ。対面にエイラとラウラ。そしてニッカとエイラ二人の間にある席へと腰かけるトーマは17という若さを保つ少年ながら「よっこいしょ」と声を漏らす。

 

「オヤジ臭いゾ」

苦笑するエイラに「やかましい」と溜め息交じりに返す。

 

席に座って食後、模擬戦を終えたニッカのように大きく息を吐き疲れた様子で肩を脱力させコキコキと首を鳴らしては重苦しい声を吐く。

 

「随分疲れてるみたいですね……」

四人の中で、何故か唯一トーマに対して敬語で接するニッカ。階級を意識する事は無くなったが、どうにも慣れないようでエイラ達と接するような態度での会話はまだできない様子である。

 

「まぁな、ここ2.3日ずっと書類とにらめっこだ。流石に飽きるさ」

世話になっている以上、与えられた仕事はやるけどなと付け加えマッシュポテトを頬張る。

 

「アウロラさんやルーッカネン隊長が上機嫌な代わりに犠牲になってるとはご苦労な事だな」

口角を上げ、厭味ったらしく言うラウラ。

 

「そう思うなら交代してくれよ」

彼の救いを求める声にそっぽを向き湯気の立つホットミルクを飲んで何も聞こえていないフリを決め込んだ。

 

「あはは、でも無理だけはしないでね?」

 

「流石にもう徹夜漬けはしないさ」

え、前はしてたの? と内心思うハンナであったが、そこはあえて聞かないことにする。彼女は空気を読めるウィッチである。

 

「そういえば」

何かを思い出したように、口へ運ぼうとしたスプーンを止めるトーマ。

 

「新しいユニットの調子はどうだ?」

 

「え、ああ……はい。バッファローよりも性能は申し分ないんですけど、やっぱり使い慣れてない機体だから少し扱い辛い感じ……です」

前回の破損したリベリオン製のストライカーユニットである『ビヤスター F2Aバッファロー』に代わって、カールスラントからのお下がりとして回してもらったカールスラント製の『メッサーシャルフ Bf109G-2』が配備され、先行して使用していたニッカにその使い心地などの感想を尋ねる。

「ふむふむ」と彼女の感想などをメモ帳に書き記していくトーマにエイラとラウラは溜め息を吐き、ニッカとハンナは苦笑する。

 

そんなに仕事熱心だからいいように使われるんじゃないかな。

 

四人は同じような事を考えた。

ストライカーユニットには製造した国柄や戦術に合わせてスペックに大きな差が出る。一撃離脱を好むウィッチに持久戦や格闘戦を目的に作られたユニットを渡しても性能を活かせなかったり、そういった組み合わせを含め今後導入予定であるカールスラントのユニットを誰にどのようにどれだけの数を配備するかを視野に入れていたトーマは先行試験で運用するニッカの意見を真剣に聞いていく。

 

「ふむ……やはりカールスラントでは一撃離脱戦法が主流になっているだけあって機体の調整もそれに合わせているようだな……。戦力や物資の少ないスオムスでもできるだけ損害や消耗は抑えるべきなら同じように一撃離脱を主流にするべきだろうか……」

ぶつぶつと食事の手を止め、思考を掻き巡らせる彼の姿は仕事人間のそれだった。

 

「ていっ」

唐突にエイラの手刀がトーマの額に突き刺さる。

 

「飯の時くらいそういうのは一旦忘れろ、こっちまで疲れるダロ―」

彼女なりの気配りなのだろうか、それとも本当に鬱陶しいだけなのかはわからないが、そう言ってカーリカーリュレートを一口齧った。

 

「……それもそうだな」

メモ帳を懐にしまい。スプーンに乗ったまま放置されていたマッシュドポテトを口に入れる。

その後は談笑を楽しみながら食事を勧め。五人は楽し気な昼食を終える。食器を片付けそれぞれが自分たちの持ち場へと戻るため分かれ道で一言挨拶を交わす。

 

「じゃあな、午後の訓練もがんばれよ」

 

「そっちも書類に押しつぶされんなヨ~」

 

「またな」

 

「がんばってください」

 

「…………っ」

エイラ、ラウラ、ハンナの三人とは別にニッカはどこか思い詰めた表情で手を振るだけで彼の背中を見送っていた。

やがてトーマの姿が見えなくなると共に小さく息を漏らすニッカ。揶揄うネタを見つけたとばかりにエイラが彼女の脇を小突く。

 

「溜め息の理由、当ててやろうカ?」

 

「な、なんの話かな?」

 

「恍けんなって~見りゃわかんダヨ」

 

「ニパ、ず~っとトーマさんの顔見てたもんね~」

 

「まるで恋愛小説のヒロインみたいだったぞ」

三人の指摘に、ボッとニッカの顔が赤くなる。

 

「ニパもついに恋するオトシゴロになったカー」

エイラは頭の後ろで手を組み、ニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

「こ、恋!? ちがっ……そんなんじゃないってば!」

 

「誤魔化さなくたってみんな分かってるぞ」

呆れた様子のラウラに「だから違うんだってば!」と声を荒げる。

 

「じゃあ何が違うんだい?」

まるで母親のような眼差しで頬を染めるニッカを見るハンナの表情は、どこか楽しそうだった。

 

「だから……好きとか、そういうのじゃなくて……」

徐々に声の音量が下がっていく。傍から見れば完全に恋に悩む乙女な彼女を可愛いと思う三人であった。

 

「トーマさんとの接し方が……今一よくわかんないだけで」

ニッカの自白に三人は疑問符を浮かべる。

 

「接し方?」

 

「別に変じゃないダロ」

今一分からないと言った様子の二人を他所に、少し考えて「あ~そういえば」とハンナは続ける。

 

「ニパってトーマさんに対してずっと敬語のままだよね」

普段から一定以上の相手には敬語が標準のハンナとは別に、不仲というわけでもなくむしろ仲がいいとも言える彼に対して三人は友達という感覚で接する中、何故かニッカだけが一定の間隔をあけた接し方を続けていた。

 

トーマ自身は「気楽に接してくれていい」と言っているためエイラなどは完全にニッカ達同期と同じような口調で接するどころか、最近ではアウロラに顎で使われている事を揶揄ってはちょっとした言い合いまでするほどの関係だった。

 

ハンナもニッカと同じように敬語を使ってはいるが、彼女に関しては珍しい事でもなく。むしろ自分たち含め、ウィッチや一兵卒、誰とでも平等に接する彼に随分懐いているように見受けられる。

 

ラウラはカードゲームなどといったものを通じ、珍しくエイラ以外に自分と対等以上に渡り合えるギャンブラーとしての知能を持つ相手を見つけ思考の読み合いが楽しい奴という認識を持っている。

 

無論、彼女たちだけではなく新人のウィッチや若い一兵卒の男性兵士たちからの評価も高く一部では『兄貴(イソヴェリ)』などと呼ばれているほどである。

彼は自分の事はあまり話さない人物であり、よく言葉の節々に「戦い以外あまり知らない」とは言うが、彼には得意まれない観察眼を持ち合わせているようで人の感情や思考を読み取る能力に長けているようで、色々な相談をされている光景を最近では多く目撃される。

 

彼がこの基地に来てたった一週間と少ししか経っていないにもかかわらずだ。

 

彼には人を惹きつける『何か』があるのだろう。アウロラやエイニも優秀な部下を持ったような——実際には彼の方が階級は上なのだが。とにかく異性の中でも対等な立場になって意見を言い合える存在は貴重らしく重宝している。

 

その中でどうにも、ニッカだけは彼との接し方に四苦八苦していた。

どう接せばいいのか分からない、なんて話せばいいのかわからない。

 

アウロラと自分以外、彼の本来持ち得る一面を知るが故なのだろうか、彼女は面と向かって彼に本心で話すことに微かな躊躇いがあった。

 

エイラ達三人をにトーマを紹介した日、彼女はトーマにとってスオムスが彼の居場所になれればと考えていた。

だが日にちが過ぎ、時間が経過し、彼と接していけば接していくほど彼の心境を深く考えてしまう。元いた世界で、彼には大切なものがあっただろう、友達が居て戦友が居て……もしかしたら恋人だっていたのかもしれない。

 

元の世界に帰りたいのではないか。

そう思うと微かに胸が苦しくなるようになったのはいつ頃からだろうか。トーマを身近に感じ、共に過ごしていくほどに一つの可能性として、訪れるかもしれない『別れ』の瞬間を想像してしまう。

 

そしてもし、元の世界に帰るのであれば二度と会う事はできず、また彼が戦いに身を投じて……死んでしまうとしたら……。

 

わからない。

自分がどうしたいのかわからない。

 

嫌いになりたいわけじゃない。

 

しかしそれ以上に怖いという感覚があった。

 

「私は……」

 

「……あんまり思い詰めなくてもいいんじゃないか?」

ラウラの言葉に、俯いていた顔を上げる。

 

「お前が今何を考えてるか正直分からないが、今あいつは『ここ』に居て、この基地の『仲間』なんだから」

 

——『仲間』——

 

「…………そっ……か」

ほろりとニッカに笑みが浮かぶ。

 

「そうだよね……『仲間』なんだよね」

世界は違えど、彼は自分たちと同じ『平和を望んで戦っている』のならば、それは正しく仲間なのだろう。

仲間とは共に過ごし、共に信頼し合い、共に歩むものだ。

彼の歩幅はきっと自分よりも大きい、だったら彼に合わせて『私』は少し足早に歩いてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、結局トーマの事好きなのカ?」

 

「っもう! イッル!」

気が付けば、ニッカの表情はいつも通り、明るく活発な15歳の少女に戻っていた。

 

「ちなみに私は結構好きだよ、トーマさん」

思いがけないハンナの告白に全員が「え?」と首を急速に向ける。

何かおかしい事でも言った? とでも言いたげに小首を傾げるハンナ。

 

「むしろイッルやラプラはどうなの?」

まさかの伏兵、普段慈愛に満ちた表情で2.3歩後ろに控えている事が常で自ら前に出て目立つようなことはしないといったイメージのあった彼女の言葉が突き刺さる。

 

「え……いや……うん?」

どうか、と尋ねられたエイラは小首を傾げ、しかし「別に好きじゃない」というわけでもなく。それでも「異性として好きだ」というわけでもない。どちらかと言えば彼が『イソヴェリ』と呼ばれるように彼女の姉であるアウロラとよく会話しているのを見たり、自分のイタズラに色々なリアクションを見せるのが面白いという感想が出てくる。

 

「まぁ、悪い奴じゃないよナ」

それがエイラの答えだった。

 

「た、たしかに……し、しかし……んぅ」

そして更にまさかの反応。普段仏頂面で新人ウィッチからクールなイメージを持たれているラウラが赤面し、顔を俯かせていた。思いがけない反応に「うわかわいい」と思ってしまう三人。まるでさっきまでのニッカが味わった気分を今は彼女が痛感している。

 

好き。という単語からどこまでを連想したのかはあえて聞かない事にした三人は当分。新しい弄りネタとして収穫を喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそんな平和は突如として鳴り響く警報によって塗りつぶされた——。

 

「近隣の観測班からの入電! ネウロイが出現! 繰り返す、ネウロイが出現! 戦闘員は速やかに出撃準備に掛かれ!」

 

 

 




次かその次くらいにはようやくぅ……ですかねぇ(曖昧
タグに『ハーレム』って入れた方がいいのだろうか……。
現状話的に明確なヒロインになりそうなニパだけなんだけど。
念のために言っておきますが、まだ誰にも『完全なフラグ』は建って、ないです。

ニパ=別の世界で戦い続け、この世界で独りになった主人公を助けてあげたいという感情が優先になっている。好きではあるが異性として意識してるのか自分でも分かっていない

エイラ=ねーちゃん含めて一緒にいると面白い、ニパ同様揶揄うと面白い反応をするため標的感覚。嫌いではない

ラウラ=カードゲームで良いライバル、男友達感覚だが恋人に成ったとしたらどうしようと妄想する事はある

ハッセ=(仲間として、友達として)好き。自分の発言を勘違いして受け取った周りの反応が思った以上に面白かったので今はそういうことにしている小悪魔感覚

アウロラ=使い勝手のいい奴(辛辣

全体的に「男を好きになる」っていう感覚がよく理解できていない、というのがストライクウィッチーズ世界におけるウィッチの認識なんじゃないかという勝手な解釈。(
男性との接触は魔法力うんぬん関わるからカールスラントや501みたいに規制受けてるだろうし。





そして話は変わりますが誠に申し訳ないのですが一身上の都合により、来週からの更新が不定期になるかもしれません……。
ちょいと家系がバタバタしてて支払いが遅れネットが止まる可能性がありますのん……。

とりあえず失踪だけはしないとだけ断言させてください!


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