魔法戦記ガンダム ~鉄血のウィッチーズ~   作:青の細道

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この作品では主人公の目的が元世界(鉄血世界)への帰還ではなくアグニカの理想を自分なりに叶えさせるためストウィ世界でのネウロイとの戦争を終わらせる事にシフトしていくので二つの世界観がなぜ繋がったのかという原因追及はそんなに深くまで探らない(考えてない)です。
ただ一応ちょっとしたものとして、鉄血世界で最後にトーマと戦闘したモビルアーマ―「ヴァ―チューズ」は由来する力天使と呼ばれる天使位階の第五位でありヴァーチャー、デュミナスとも呼ばれる神の力と恩恵を人々に授けて地上に奇跡を起こす天使とされる。
難局にある善人に勇気を与え、鼓舞し、その力を引き出す存在と言われてます。

まぁモビルアーマーなのでそんな神様補正なんて無いんですが洒落の一環としてということで。描写としてさも一瞬で決着をつけたように思えるヴァ―チューズとの戦闘ですが、実際にはトーマの部下含め艦艇やモビルスーツなどを壊滅までされた状態での一騎打ちにしました。その代わりモビルアーマーの子機であるプルーマも全滅させた状態。

(自分で読み返している内に「アウロラ姉さんって怪我するイメージないから、違和感持たれるんだろうな~」という不安が出たのはここだけの話)


第一話:白銀の世界

その日、地球上の北欧で上空を通過する未確認の飛翔物体が観測された。

飛翔物体はスオムスとバルトランドの両国間に位置する最大の山『ハルティ』へ墜落したと伝令が入ったが、何故か数時間もの間『不可思議な妨害電波』によって無線通信が使えず。報告が遅れていた。

 

スオムスを始め、その周辺に建設された基地施設は騒然とした様子で多くの兵士たちが跋扈している。

 

「急げ! 第一第二小隊は私と共に先行し第三第四小隊は後方に待機しろ!」

その中で誰よりも大きく突き抜ける声を上げる女性がいた。銀色に輝く長髪に凛とした美しい顔立ち。だがその表情は正しく軍人の顔であり、彼女の部下たちは足早にその命令を敬礼と共に執行する。

 

「観測班は何をやっていたんだ……ネウロイが内陸に進行してから報告があっては遅いというのに」

苦虫を嚙み潰すように小さく愚痴を零す。

 

本来ヨーロッパ大陸戦域に建設された数多くの基地を通じ、ネウロイの出現と進路予測などの報告はいち早く通達されるようになっている。

だが今回に至っては出現時も、進路予測の報告も無く突如内陸の山に墜落されて数時間後にやっと伝令が流れてきたのだ。

 

遅すぎる。もしもその未確認飛翔物体が彼女たち、そして世界の脅威である『ネウロイ』であった場合、すでに内陸進行が始まり付近の村などが襲われている可能性が高い。

そして何より彼女『アウロラ・E・ユーティライネン』がもっとも腑に落ちないのが観測班の報告に合った『不可思議なノイズ』だった。

 

まさかネウロイがジャミング攻撃を……?

 

破壊の限りを尽くすだけの存在であるネウロイが『戦術』を繰り出してきた。そんな事例はない。一刻も早く発見しネウロイであれば速やかに撃破する。ただそれだけだ。

 

「中尉! 全機出撃準備完了しました!」

一人の兵士が敬礼と共に報告をすると、アウロラは「よし」と頷き基地内に響き渡る声で出撃の合図を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何もない? 間違いないのか?」

ハルティ山に到着して小一時間。アウロラは信じられないといった表情でもう一度周辺地域包囲100kmまで捜索班による索敵を行ったが、通信機から各捜索班の状況報告を伝えに来た兵士もまた、アウロラ同様に困惑した面持ちで「はい、間違いありません」と返答する。

 

「陸路だけではなく空からも捜索し何の痕跡もなし……。各地の基地からネウロイの観測、襲撃、何でもいい。些細な事でも報告はないか」

 

何かがおかしいとアウロラは考える。ネウロイが出現して既に何時間と経過したのならば襲撃報告の一つでもあっておかしくはない状況。

だが未だに村への被害一つ報告が無い。ただ一度「空から謎の飛行物体が山に落ちた」とだけだった。

 

何かの見間違いか? いやそれはありえない。

 

アウロラは空を見上げる。太陽は沈み満点の星空を無数の航空ウィッチが駆け抜けていく。その中には彼女が所属している基地以外や、近隣諸国のウィッチまでもが捜索に加わっていた。

未確認機の存在は自分たちだけが報告を受けたわけではない。つまり幻などではないということだ。

 

幻でも無ければネウロイでもない。なら一体『何』がこの山に落ちたというんだ?

アウロラは吹き上げる風に靡く銀色の髪を撫でながら目前に聳え立つ強大な山を見上げた。不気味なほどまでに静寂の訪れる麓。降り続ける雪はやがて吹雪となる兆しがあった——。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の捜索はやがて打ち切られ、後日。小規模ながら継続したハルティ山周辺区域の探査活動。その中心にアウロラは居た。

二日目の午前。一つの可能性がアウロラを含め、捜索班のウィッチ達の頭をよぎる。

自分たちはその未確認の飛行物体をネウロイである前提で探していた。つまり既に『動いている』という先入観での捜索。

 

地上と空だけ……。

 

もし、その飛行物体が墜落した時点で動いていなかったとすれば……。

 

何十時間という時間をかけて降り注いだ雪の高さは地上の地形を変え、あるべきだった痕跡すらその白いベールで覆い隠してしまっている事だろう。

出来る限りの範囲を絞って、その物体を探す除雪作業が始まった。

陸戦ウィッチは一般の兵士はもちろん。上空で捜索をしていた航空ウィッチ達も含め大掛かりな作業になる事は間違いなかった。

 

砂漠の中でオアシスを探すようなものだ、と除雪作業が開始され3日が経過した頃に誰かがそう言った。

 

熱い砂の砂漠と冷たい雪の草原。言いえて妙だが近い何かを感じると同館の声を漏らす者が多くいた。

 

「うあああああ、来る日も来る日も雪かき雪かき。いい加減疲れてきたよぉ」

そしてまた一人、大きなため息と共に掴んでいたスコップを地面に刺し、背中から倒れ込む少女がいた。淡い金色のショートヘアーに水色のセーターに真っ白なズボン。倒れた雪の上でワサワサと腕を振り駄々をこねる子供のような仕草をする。

 

「泣き言言う暇あったら少しは掘ったらどーダァ。『ニパ』」

そんな彼女に呆れた様子で除雪を黙々と、それでいて気怠そうに続けるアウロラに似た銀色の髪に、金髪の少女と同じ制服に身を包んだ少女が声をかける。

 

ニパと呼ばれた少女。『ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン』は小さく「そんなこと言ったってさぁ~」と口を尖らせる。

 

「あるかもわからない、そもそもどこにあるかもわかんない物探してこのひっろ~い雪原を手当たり次第に掘り返してたんじゃ何年経っても見つかんないじゃんか~」

上半身を起き上がらせ、両手を大きく広げ周囲一面に広がる雪の大地を恨めしそうに眺めながらもう一度溜息を吐く。

 

「お前はまだ気楽ダロ~、ストライカーユニット壊してこっ酷く怒られるよりマシなんだかンナ~」

スコップの柄に手と顎を付き憂鬱さをより一層際立たせる銀髪の少女。『エイラ・E・ユーティライネン』が目を細めながらそう言うと慌てた様子でニッカは異議を唱える。

 

「だから『壊してる』んじゃなくて『壊れる』んだってば! 私のせいじゃないんだって!」

頬を赤くし必死の形相で訴えるニッカに対してエイラは「はいはい」と受け流していく。

 

「大体、その飛行物体だってネウロイじゃない可能性もあるのに、何で探したりするのかな~……」

その疑問を「私に聞かれてもナ~」と二人揃って溜息を吐くニッカとエイラ。そんな二人に怒号が飛び交う。

 

 

 

「おい二人とも、サボってる暇があったら哨戒任務の方に移動するか?」

「うげっ」と体を震わせ二人が声の主を見ると、大きく息を吐いた。項垂れる二人の前には眉を吊り上げ腕を組むポニーテール頭の少女と、ニッカと瓜二つと言わんばかりに顔立ちの似た少女が優し気な笑みを浮かべる少女の二人が立っていた。

 

「なァんだヨー『ラプラ』と『ハッセ』か~。……ねーちゃんかと思ったダロ脅かすなよナ~」

安堵の溜息を漏らすエイラに、ラプラと呼ばれた少女『ラウラ・ニッシネン』はほほう、と口角を吊り上げる。

 

「いい度胸だなイッル。アウロラさんに言いつけ——」

ラウラの言葉が終わるよりも先にエイラの「ごめんなさい勘弁してください!」という謝罪と青白くなった表情でスコップの手を再度動かし始める様に溜息を漏らす。

 

「まぁまぁラプラ。二人が愚痴るのも仕方ないよ。もう三日目連続で雪かきなんだし」

怒るラウラをなだめる様に二人の間を取り持つニッカと瓜二つの外見をしたハッセという愛称の『ハンナ・ウィンド』が肩を軽く叩きなだめる様に言葉をかける。

 

「基地周辺だけなら毎日やってるけど、こう当てずっぽうに近いものを探せって言われてもモチベーション上がんないよ~」

 

「そもそも観測班の報告に合った飛翔体って、ホントに存在したのカー?」

よいしょと立ち上がるニッカと、いつの間にか会話の輪に戻ってきたエイラ。

 

「私達だけじゃなく他の基地でも観測されたんだ。見間違いってことはないだろうとアウロラさんも言ってただろう」

 

「そーだけどさー」

だらける二人に再度、溜息を吐きながらラウラは踵を翻す。

 

「あれ、ラプラどこいくの?」

 

「これから私は『ルーッカネン』隊長と哨戒任務だ。じゃあな三人とも。しっかり働くんだぞ」

 

「「「は~い」」」

立ち去るラウラに手を振って見送ると、またしてもニッカはため息を漏らした。

 

「いつになったら終わるのかな~」

見上げた空には青空と雲。そして燦々と煌めく太陽に手を翳す。北緯69度、東経21度に位置する極寒の雪国で販促された『ソレ』がなんなのか。

 

ニッカを含め、その場に居た全員が知る由もなかった……。もはや自分たちの常識を超越した者が自分たちのすぐ近く、その地中に埋まっていることを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅっ……ぅ、っは!?」

全身を突き抜けた激痛に意識を無理矢理呼び起こされる。

瞼を開き首を持ち上げると同時に痛みが全身を駆け巡る。体の節々が尋常ではないほど痛い。腹部、背中、右腕etc...

とにかく全身が痛い。

 

「くっそ……いってェ」

生きていたという軌跡に涙を流したいところだが、今頬を伝う涙は間違いなく痛みによるものに違いない。微かに動かせる左腕で暗いコクピットシートの下部を弄り、緊急用の救急キットを探し当てる。

中には応急処置用の治療セットや飲用の薬を始め、注射器などの器具も備わっている。その中から注射器と鎮痛剤の入った瓶を取り出し、未だはっきりしない意識の中でゆっくりと薬を吸い上げる。

 

薬品で満たされた注射器の針を首筋に押し当て、一気に中の鎮痛剤を流し込んでいく。

本当なら少量が義務付けられているが構うことはない。少しでもこの痛みを忘れられるならば。

 

「はぁ……はぁ……。…………うん?」

呼吸を整え、ゆっくりと息を吐くとそれが白い事に気が付く。

そして痛みが引くと今度は急激な寒さに悶えることになった。

 

さっ……寒っ。なんだっ北極圏にでも落ちたのか!?

パイロットスーツによってある程度の温度や衝撃に耐久性があるとはいえ物には限度がある。しかも『ヤツ』との戦闘で損傷したコクピットブロックのところどころから外気が入り込んでいるようで微かな隙間風が感じられた。

 

俺は一体どこに……いや、そんなことより戦闘は。俺はどのくらい気を失って——。

すぐにアンドロマリウスのダウンした機能を再度立ち上げさせるために操縦桿の間に設置されたパネルの起動キーを押す。

 

………。

 

……?

 

反応がない。

 

「くそっこんな時に!」

ガンと八つ当たりで操作パネルへと握り拳を振るう。だが起動しないものは仕方ない。モビルアーマーとの戦闘に加え正式な装備も無しに大気圏に突入。機体フレームは無事でもパイロットや感性制御システムなどに異常があって当然だ。むしろ俺が生きている事自体が奇跡に近い。

 

仕方ない。

 

「ぐっぬぅ」

痛みは引いたものの、やはり万全の状態ではないため身動き一つに体力を大きく消費する。

救急キット同様。緊急時のためにコクピットに格納されている野戦用サバイバル装備一式と護身用の拳銃などをかき集める。宇宙空間ではあまり意味をなさないが備えよ常に、が俺の信条だ。

 

とにかくここが北極圏だとするなら前線基地か通信基地の一つでもあるだろう。偵察隊が出ていることを願って救難信号を出そうにもアンドロマリウスは機能停止。個人端末のGPSも壊れているのか現在地が衛星から受信できない。もしか戦闘ですべて破壊されたのか?

 

一刻も早く本隊と合流しなければ。戦争はまだ終わっていないはずだ、こんなところでくばるわけにはいかない。死に物狂いで勝ち取った勝利と生還だ。

 

 

 

耐熱防水加工の施された外套を深くかぶり、コクピットハッチを手動でこじ開ける。戦闘で潰されたせいもあってかなりの労力を有した。

 

「うおっ!?」

やっとの思いでコクピットを開き外へ出ようとした俺の体がグンと引っ張られる。ああ、忘れていた。阿頼耶識と繋がれたケーブル端子の存在があった。

だがこれはモビルスーツの起動中にしか取り外しができない。一応緊急時の時に強制排除できないこともないがこれがまたかなり苦痛を伴う。

 

「ええい、ままよ!」

意を決し強制的に阿頼耶識を解除する、と同時に鎮痛剤の効果をかき消さんばかりの激痛が背中のピアスを通して骨身に突き抜ける。

 

「ァあっづ、痛ってぇええ!!」

背中にドロリとしか湿気を感じる。強制的にシステムとの接続を解除すると移植したインプラントと肉体の定着箇所に亀裂が入り流血するのが当然の結果だ。

運が悪ければ脊髄ごと引きずり出される……なんて噂もある。

痛みに悶えながらもう一度鎮痛剤を注入し、ふらつく足に気合を入れて立ち上がる。

 

幸いにも外は明るく日中のようで、雲行きも吹雪く気配はない一面白銀の世界が広がっていた。

 

こんな危機的状況にもかかわらず、無意識の内に「綺麗だ」と声が漏れた。

死にそうになっているのに何を悠長なことを言っているんだろ自分で自分に苦笑してしまう。

 

「待ってろよ相棒。必ず迎えに来るからな」

振り返り、仰向けの形で地面に埋もれた生涯の相棒へ僅かばかりの別れを告げ、俺は一歩一歩ゆっくりと歩を進め途方もない旅の始まりを歩み出したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこだよここ!!」

歩き始めて数時間。俺は思わず声を荒げた。あるけどあるけど雪原雪原森林雪原。建造物どころか人のいた痕跡すら何もない。いくら極寒の北極圏であっても少なからずの施設は立っていたはずだぞ。

以前来たときは数百kmおきに中継基地を中心にちょっとした街が数ヶ所もあったのを覚えているから間違いない。

ならここは一体どこだというのだ。

 

保存用のレーションやエナジーバーの残り数も多くはない。もって4.5日が限界。野生動物のいる環境ならまだしもこの北極圏の中で食料調達は困難だろう。

 

とにかく優先すべきは寒さと風を凌げる場所を探すしかないか。

あと少しで日も落ちてしまう。明かりも無しにこの雪原を歩くのは自殺行為だ。

更に運が悪いことに少し前までは正常だった雲行きが怪しくなってきている。夜にでも吹雪いてきそうだ。時間は一刻を争う。

 

今日はもう塒探しに変えた方が良さそうだ。

 

少し進んだところで岩壁を発見し、それを辿ると人一人なら十分横になれそうな洞穴を発見した。中にまで入り込んでいた雪をかき出し近場で乾燥した枝などを集める。

固形燃料と枝を使い焚き火を起こし暖を取る。スーツのおかげである程度は耐えれるが、やはりあるのと無いのとでは段違いだ。

この暖かさが妙に安心感を抱かせる。

 

エナジーバーを一本消費し、雪を溶かした白湯で体内を温め喉を潤す。

 

こういった極限状態になると軍での食事がどれだけありがたいかを痛感する。

皆は無事だろうか。あの戦闘のさなか、率いていた艦艇とモビルスーツ部隊はほぼ全滅だが生き残った部下たちには別部隊への退去を命じたが。……そういえば最後まで俺に撤退しろと言っていた副官、もといアグニカさんを除いて唯一「友」と呼べた彼は無事だろうか……。俺のように阿頼耶識手術を受けてはいないが貴族出身でありながら最初から普通に接してくれていたっけ……。

二人がいたから俺は前向きに生きていけた。おかげで部下も出来、一艦艇を任されるほどまでに上り詰め、俺を『数合わせ』だと見下してくる者も減っていった。

二人には本当に感謝している。

 

本当に……。

 

だから必ず……。

 

もう一度……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅあっ!?」

いつの間にか睡魔に捕らわれていたらしく、気が付けば外は暗くなり吹雪になっていた。弱りかけていた焚き火に薪を足す。少し仮眠と休息のおかげか体の痛みは大分治まってきた。だが傷が癒えたわけではないため治療が施されなければ衰弱死は免れない。

腰を上げ外の様子を伺ってみる。やはり人為的な明かりなどはなく暗闇だけが続いているだけの雪原。

悪い夢なんじゃないかと今でも思ってしまう。

吹雪がいつ止むかも分からない。今は少しでも体力を回復させるため朝になるまで就寝することにした。

 

 

 

 

幼い頃の夢を見た——。

親の顔も知らず物心つく前から施設で暮らしていた俺の前に現れた軍の衛兵。暗くなりながらも黙って俺に別れを告げる孤児院の人々。

 

訳も分からず連れていかれ、年の近い貴族出身の少年たちに睨まれながら体を診察され、阿頼耶識の適性があると判断された俺は『数合わせ』としてガンダムフレーム72機の末席に加えられた。誰もが俺を見下し蔑む。ずっと泣いていたのを思い出す。ここに俺の居場所なんてない。誰も受け入れてくれない、誰も求めてはくれない。

帰りたい。例え血のつながりなど無くとも、少なからずかつての俺にとってあの孤児院が帰るべき『家』だった。

研究施設での生活が始まって数ヵ月。最低限の文学と訓練を教え込まれ、虐めに近い日々が続いていた。

 

そして阿頼耶識の移植手術の当日。俺を含め今まで威張り散らしていた他少年たちにも畏怖の感情が伺えた。

阿頼耶識の手術は決して高くない成功率とそれに伴う苦痛があると事前に教え込まれていた。「適性があっても恐怖に負けるような者は不要である」と研究所の一人が告げた。

無理矢理移植をすることはなく自己申告で手術を受けさせるという形を取った研究者たちの眼差しはプレッシャーそのものだった。

逃げ出せるものなら逃げ出したい。だが確実に逃げ出せたとしても捕まるだろう。そして最悪『処分』される。

そう思っていた俺は恐怖に打ち震え体を震わせていると、一人の少年がズカズカと他の少年たちを押しのけていった。

 

「ボクが最初に受ける」

その少年に恐怖という感情などはなく、歳も変わらないというのにその背中はどんな大人よりも大きく見えた。

それが『彼』との出会いだった。

 

アグニカ・カイエル——。

後にそう名乗った少年は誰よりも勇敢で誇りに満ちた人だった。

彼が一番に移植手術を受けた時、悲鳴の一つも上げることなく、むしろその顔は決意と闘志に満ちていたと今では思い出すことができる。

それを見ていた俺は、何故か胸の内から湧き上がる強い感情があった。

 

どうやったらあの人みたいに強くなれるのだろうか。

知りたい、その強さの理由を、そしてその強さの先にあるモノを……。

 

だから俺は——。

 

「次は誰だ」

何事もなく手術を終えた研究員の男の声に、俺は一目散に声を荒げた。

 

「オレがっ!」

声を上げた俺を驚愕の表情で見る他の少年。その表情はアグニカさんの時とはまた別のようなものに思えた。「ほう」と口角を上げる研究員は早速俺を手術用のベッドに固定させ、阿頼耶識を脊髄の中へと注入していく。

麻酔などは使用せず今までに感じた事のないほどの激痛で頭が破裂しそうだった。

彼のように悲鳴を上げないようにと思っていたが流石に無理があり、喉が潰れる勢いの絶叫を響かせた。

 

こんな痛みに耐えたのかと彼の忍耐に感銘を受けたが、すぐさま痛みで意識が飛びそうになり頭の中が真っ白になる。

 

ほんの5分程度の手術だったにも関わらず、俺には何時間の拷問に感じた。

 

手術台から降りる頃には顔面を体液で汚し朦朧とする意識の中、部屋を出ようとした俺の肩を誰かが叩き、振り向いた視線の先には彼の顔があった。

 

「君は勇気がある」

その言葉を聞いて意識が途絶えた——。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……」

今度は激痛にたたき起こされるわけでも、半端な仮眠からの覚醒でもない。列記とした起床だった。体感で8時間ほどだろうか。

外の様子でも見に行くかと腰を上げた俺は思わず驚愕する。

入口の穴が雪で埋まっていた。そんな馬鹿なと雪をかき分けるも掘れども掘れども雪、雪、雪……。

まさかこの数時間でここまで積もるモノなのか?

これが自然の驚異というものかと思い知らされる。この様子では外の景色も変わってしまっている事だろう。アンドロマリウスも雪に埋もれてしまった可能性が高い。

 

まずはこの洞穴から脱出しよう。生き埋めなんて御免だからな。

エナジーバーとレーションで粗末な朝食を終えた後、脱出を試みる。

道具が無いので手で掘り進んでいくしかないがパイロットスーツのおかげで素手

じゃないことが不幸中の幸いだろうか。凍傷にならずに済む。

 

数mは掘り進んだだろうか、重力で上の雪が崩れ危うく押しつぶされそうになるが、差し込んできた太陽の光を目にしようやく外に出られるのだと安堵する。

だが本当の地獄はこれからだった。

 

洞穴から脱出したはいいが積雪が高すぎてまともに進むことができない。何とか進んでは見た物の腰よりも上に積み重なった純白の壁はあまりにも険しいものだった。

だが進むしかない。

 

道中で長めの枝を使い、杖代わりに何としてもどこかしらの中継基地を見つける必要がある。

 

のたれ死ぬわけにはいかない。

ただのれだけを考えて無心で歩き続けた。

 

1時間、2時間、どのくらいの時間が経過しただろうか。

相変わらず雪原からは抜け出せない。まるで永遠に続いているのではとすら感じてくる。

昨日の夜ほどでは無いにしろ、再び雪が降り始めた。

 

このままではまずい。

いよいよをもって焦りが出てくる。

 

「はぁ……はぁ……っ」

次の瞬間、ガクンと視界が揺れ体が重力に引っ張られるように落ちていく。

地面が抜けた。いや、そもそも地面なんでない。

 

「しまっ……!?」

『雪庇』と呼ばれる現象だ。風の影響によって雪がひさし状に伸びたものを指し示す。

気づかぬうちに崖際に足を踏み入れたようだった。

 

「うあぁああああ!?」

ボロボロと崩れ落ちる積雪の塊と一緒に自由落下していく。下もまた積雪ではあるが深さが分からない。もしかしたら浅くした積もっておらず堅い地面がすぐあるのかもしれない。

 

やばい死ぬ!

目を瞑り衝撃に備え体を受け身の姿勢にする。一か八か賭けるしかない——!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構吹雪いてきたナ~」

時間が経つにつれ強くなる風と雪の量が増していく。エイラは空を眺めながら髪に掛かった雪を払いのける。彼女だけではなく、付近でも除雪に精を出していた兵士やウィッチ達が手を止めて空の様子を伺っていた。

 

「また昨日の夜みたいにいっぱい積もられたらまた一からやり直しだよ~」

うへ~と気怠さと共に息を吐く。あれから結局何も見つかる事はなく。現場指揮にあたっていたウィッチから撤退指示が出された。

 

あと数時間もしないうちに再び寒波がくるとのこと。

 

「明日もまた雪かきやんなきゃいけないのか~」

 

「お~いニパ~、置いてくゾ~」

既に接収支度を整え纏まっていたエイラや他の隊員たちが憂鬱に呆けてたニッカを呼ぶ。今行く~と返事を返しスコップを担いだニッカは何気なく、少し離れた崖壁を眺めていると、あるモノが目に映った。

 

「ん?」

目を凝らし、その微かに動くソレがやがて人だという事が分かったニッカは慌てて「あぶない!」声を上げる。人影は崖に気づかない様子で徐々に足場のない雪庇の重なった部分へ歩んでいき——。

 

転落した。

 

「お、おいニパ! どうしたんだヨ!」

離れたところに居たエイラを含め、他の者たちにはその一部始終が見えていなかったらしくざわざわと走り出したニッカを不思議そうに眺めている。

 

「人が崖から落ちたんだよ!」

誰よりも一早く状況に対処したニッカが先行して走っていく。

数百mもの距離を目視で確認できるウィッチゆえの能力もあり、やがて落下した雪の積もった小さな山へと到着する。雪の大部分をスコップでどかし、残りを手探りで掘り起こしていくと堅い感触に指が触れる。

 

やっぱり人だ!

ニッカは掘り起こす速度をあげ埋まっていた人物を救出する。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

肩や胸部、大腿部に膝から下全体をゴツゴツとしたプロテクターに包み、体のラインに沿ったボディースーツ。見たこともない服装への驚愕は、体に纏わりついた血痕と、生気のない顔色に上書きされた。

 

「ぅ……」

微かにその人物……ニッカと差ほど変わりない歳であろう少年の口から声が漏れる。

生きてる。血色の悪い頬に触れるが異様に冷たい。このままでは命の危険がある。

 

「お~いニパ~いきなり走り出してどう……っどうしたんダそいつ!」

遅れて追ってきたエイラと数人のウィッチ達がニッカとその腕の中で倒れる少年に急いで駆け寄る。

 

「わかんない、でも怪我してるし体も冷たいんだ」

 

「とにかく基地まで運ぼう」

ラウラの提案に頷き、ニッカはハンナと共に少年の両脇を担ぎ上げ、慎重にトレーラーへと運んでいく。

 

「か……」

かき消えるような小さな声。少年を担いでいた二人には確かにその言葉が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

「かな……ず……いき……て……」




駆け足気味ですが第一話でした。
本当は雪原での遭難状態をもう少し引き延ばそうとも思ってたんですが書いてるうちに自分がダレるの図。描写に拘って()長ったらしいくどい分になってるんじゃないかと思う今日この頃。
これでは読む側はもっとダレるだろうと思い少し短くしました。
エイラ達の口調は完全に見様見真似ですのでおかしな部分があるかもしれません。

誤字脱字や頭痛が痛いなどの間違った日本語等のご指摘があればご忠告いただけると幸いです。
何度か見返しては修正しても、何故か無くならないのは何故なんでしょう……。

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