自分が空を眺め仰向けに倒れているのだと自覚した瞬間に、アウロラははっきりと意識を取り戻す。全身に力を込めて立ち上がろうとするが、駆け抜ける激痛に苛まれ表情を歪める。
どれだけ気を失っていた!?
自身が気絶していたという事実に驚愕し、そこから経過した時間の確認を取ろうと周囲を見渡した。
記憶に残っているのは第二波として出現したネウロイ軍との交戦が開始されて小一時間足らず……ただでさえ少ない戦力を分断いてまで迎撃に向かったアウロラ率いる陸戦ウィッチの第一第二部隊。そして魔法力を持たない男性兵士により構成される戦車機動部隊。
戦闘は悲惨な結果だった。
死傷者こそ少ないが戦車部隊はほぼ壊滅。陸戦ウィッチの2割が弾薬を切らし白兵戦を強いられ、数名ほど負傷者が出ていた。
その中でもっとも甚大な被害を被ったのがアウロラであった。
交戦の最中、白兵戦に移っていた一人の陸戦ウィッチが小型ネウロイを魔法力で強化した銃剣で切り裂くも、刃が浅く入ったのかダメージをものともせず、小型とはいえ重戦車を上回る黒い巨体でウィッチを弾き飛ばした。
間一髪というタイミングで間に合ったシールドだが勢いは殺しきれず背中を剥き出しの岩壁に強打する。
ウィッチとして例外なく身体強化さええてなお、そのダメージは疲弊した彼女へ致命的な隙を作るのには十分なものだった。
背中を強打し、痛みで呼吸が乱れたそのウィッチへと追い討ちをかけるようにネウロイが自立するために生やしていた脚を振り上げる。
魔法力やシールドがあろうとも、あれだけの質量で押し潰されてしまったら一溜まりもない。
部下を救うため、アウロラのストライカーが唸りを上げる。魔導エンジンが燃え尽きるほど全力でスピードに全魔力を割り当て走り抜ける。
間に合え――!
突き出した左腕が恐怖に撃ち震える部下の肩に触れ、勢いのまま突き飛ばす。
間に合ったという一瞬の安堵……だが次の瞬間、まるで振りかぶったハンマーで殴られたような衝撃が彼女を襲う。
視界がめちゃくちゃに廻る。叩きつけられる肩、背中を、頭、足……ボールのように地面を何度も跳ね上げ、痛みを感じる間もなく意識を刈り取られた――。
「ぐっ……ぅう!」
吹き飛ばされた時なのか、地面を転げ回った時なのか。骨折したであろう足を無理矢理動かし、鮮血に塗れた左腕の間接を強引に戻す。
腕が動かず、足も折れ、意識は朦朧とし、視界が歪む。流れ落ちる紅い体液が体力と体温を奪っていく。
それでもなお、彼女の心は折れなかった。
耳鳴りがする。爆発音を至近距離で受けた時のような一時的な聴覚媒体に障害が発生した感覚……。ぼんやりとする視界で周囲を見渡せば、多くのウィッチや兵士たちがアウロラへ向かって何かを叫んでいるのが見えた。誰も彼も、ネウロイとの戦闘を繰り広げ、余裕など微塵もない……にも関わらずアウロラの身を案じる彼女らの姿にアウロラは思わず笑みを浮かべてしまう。
ああ、私はこんなにも満たされているのだ。
アウロラにとってスオムスに生きるもの全てが家族のように思えていた。出身や血の繋がりなど関係なく、ただ言葉を交わすだけのかんけいであり上官と部下という関係であっても……彼女にとって全てが愛おしかった。無論、最愛の実妹であるエイラが一番であるが、皆を大事に思うアウロラの気持ちは本物だった。
時に厳しく、時に優しく……。皆の上に立ち、皆の前を行く、道標になるような人物、それが『アウロラ・E・ユーティライネン』である。
そんな自分が部下を、家族を残して倒れることなど許されない。彼女自身が赦しはしない。
アウロラは奮起する。
戦闘は終わっていない。ならば戦おう、例え手足をもがれようとも。
立ち上がったアウロラに、ネウロイのビームが掃射される。震える手でシールドを展開させるも、ビームの出力に押されアウロラの右腕までもが悲鳴を上げ始めていた。
「くっ……ぬぅう!」
額から流れ出た血液が片目を侵食し、瞼が閉じる。
終われない――!
こんなところで終わるわけにはいかない――!
「ああああああああああっ!!」
喉を潰さんばかりの咆哮が放たれる。
ビームが掃射されて13秒……ネウロイの攻撃が弱まるよりも先に、アウロラのシールドが砕けた。
「隊長――!」
悲痛な叫びが、今度ははっきりと聞こえた。そして同時にインカムから微かに響くノイズが彼女の思考を真っ白に染め上げる。
エイニ・アンティア・ルーッカネンは困惑していた。
ほんの数分まで爆発と銃撃で騒然とした戦場には静寂が訪れ、もはや聞きなれてしまったノイズに不快感を抱くこともなく、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
彼女だけではない。その場にいる全てのウィッチが、ただ一つの、絶対的なまでの破壊を齎した存在を見つめていた。
白銀の巨人。悪魔の権化。山の神――。
それぞれがかの存在を形容する言葉を思い浮かべる。
たった一瞬で……たった一人でネウロイを撃滅したそれに、恐怖と高揚の入り交じった眼差しを向ける。
そんな視線に気付いてか。巨人の首が持ち上がり、空に浮かぶウィッチたちへ顔を向けてくる。
「っー」
誰かが息を飲み、誰かが声にもならない悲鳴を上げる。
正面から捉えた巨人の顔は、人のようで人じゃない。悪魔の形相を体現したようなものだった。宝石のように透き通った蒼く光る目に感情などなく、ただただ空に浮かぶ彼女たちを見やっているだけのようだった。
こいつは敵か……それとも――!
銃を掴む手に力が入る。滲み出る汗を拭うこともなく、瞬きをするこおすら忘れるほどの緊張感が包み込む。
ネウロイをあっさりと駆逐したその力が自分たちに向けられた時、果たして生き残ることが出来るのだろうかという疑惑はすぐに不可能だ。という結論に塗り潰される。
逃げる……?
こんな化け物を放って?
否、それ以前に逃がしてくれるとは到底思えない。
だが殺す気があるのなら何故襲ってこない?
エイニは思考する。今この状況で、どういう判断を下すべきか、どのほうな答えが正解なのか。
だがあまりも不確定すぎるその存在を退ける術を、彼女は導き出すことができなかった。
たらりと一粒の雫がエイニの頬を撫でる。
グン、と巨人が右手を掲げた。
「っ全機戦闘態せ――!」
反射的に声を荒げ、手に持つ機関銃を目の前の巨人へ向けた彼女は絶句した。
ネウロイという獲物を狩り尽くした巨人が、今度は自分たちに襲い掛かってくるのだとばかり考えていた。
だがその巨人は、その巨大な掌をこちらに向けて左右に振っている。手を振っている――。まるで出かける子供を見送る母親のように……別れを惜しむ友人へ再会を祈るように……。
20mの巨人は、変化するはずのない無機質な顔でヒラヒラと手を振ってきている。
「えっ……は――えぇ……?」
目を細め、困惑し、素っ頓狂な声を漏らすエイラ。エイラだけではない、全員意味も分からず顔を見合わせ、疑問符を浮かべながら白銀の巨人を再度見やる。
巨人からは明らかに敵意というものが感じられなかった。エイニは眉を顰める。何かの罠なのではないかと疑う。
しかしその疑いがただの思い違いであるとエイニはすぐに知ることとなる。
「おーい!!」
明後日の方角から両手を大きく振り、大声で接近する機影を見て何人かが驚きの声を上げた。
「ニパ!? なにやってんダヨこんなとこで!」
彼女――ニッカと親しい間柄の少女三名が彼女へと距離を縮める。
「お前は基地待機を命じられていたはずだぞ?」
睨むように眉間に皺を寄せるラウラ。ニッカがこの場にいるということは命令を無視し単独で行動した立派な軍旗違反であった。ニッカは「え、えーと」と目を泳がせ、誤魔化すように頬を掻く。
「そ、そんな事よりネウロイは? って、まさか本当に『トーマ』が倒しちゃったの!?」
ラウラの横から顔を覗かせ、地上に立つ巨人を見ながら発した言葉にエイニたちは「は?」と目を見開く。
巨人を見ても驚きすらしないニッカへの疑惑もあるがそれ以上に、彼女の口から出た思いがけない名前に思考が止まる。
「おーいトーマー!」
再び手を振るニッカは躊躇いもなく巨人の方へと飛んでいく。
「お、おいバカやめろっ!」
慌て後を追うエイラたちエース組。エイニは先ほどの言葉に引っ掛かり、彼女が出した名前の少年と……その会話や記録に出てきたものと照らし合わせ、ようやく答えを見いだした。
「まさか……アレがそうだと言うのか……」
エイニが驚愕する中、一足先に巨人――ガンダム・アンドロマリウスに向かったニッカを追ってきた三人の少女。エイラ、ハンナ、ラウラは改めて近くで見るアンドロマリウスの恐ろしさに撃ち震える。自分の身長よりも10倍以上高い全長。ネウロイに負けず劣らずの巨体でありながら二本脚で直立する人型のそれがどれだけ常識はずれな存在なのかを再認識させる。
「遅かったな、怪我は無いか?」
巨人を中心に発せられた声に聞き覚えのあった全員が目を点にする。それは男……それもまだ少年であるはずの『彼』の声そっくりだったからである。
そんな彼女たちを他所にニッカは「トーマが速すぎるんだよ!」と頬を膨らませた。
「ちょ、ちょっと待てニパ。何でこれに驚かなかったり、これからあいつの声が聞こえたり、色々重なりすぎて頭がおかしくなりそうダゾ」
引き攣った表情で説明を求める旨を伝える。
「私からは何とも言えない……でもこれだけは言える」
ニッカは慈愛に満ちた笑みで人差し指をアンドロマリウスへと向ける。
「『彼』は味方だよ」
駄目なのか……私では。
アウロラは己が無力を嘆いた。どんなに強くあろうとしても、どれだけ力を付けようとも、限界という境界線が彼女の願いを、想いを、希望を、気持ちを拒む。そんな心情を表すようにアウロラの背後には大きな崖が迫っていた。いつの間にかこんなところまで飛ばされていたらしい。退路などはない。
北欧最強と吟われた彼女はウィッチであると同時に一人の人間であり、18歳の少女だった。
ああ。と溜め息にも似た声が白い息となってスオムスの雪原に流れる。二度目。大地に仰向けで倒れた彼女は空を眺めていた。いつの間にか見慣れた雪が降り始め、灰色の空が広がっている。
ネウロイは前の攻撃で倒れたアウロラを、もはや脅威とも攻撃対象とも捉えていないのか、他のウィッチへとビームを凪ぎ払っている。
血が滲むのも厭わず唇を噛み締めた。不甲斐ない、情けないと自分で自分の無力さを詰る。
ふざけるなと、彼女は大地を踏み締める。骨折した右足をだらりとさせ、重心をまだ動く左足へ掛ける。動く度に全身へ激痛が走る。それでもアウロラは立ち上がった。強靭な精神力だけが今の彼女を動かす原動力となる。
「ぐゥっ」
奮い立つ闘志とは裏腹に悲鳴を上げる体。もはや立っている事すら叶わないほどに全身の力が抜けていくのが分かる。
ダメだ、駄目だ倒れては。倒れるわけには……。
ガクガクと震える足取りで一歩……一歩……また一歩……。ゆっくりと前へと進んでいく。飛び交う銃弾やネウロイのビーム。アウロラの名を叫ぶ声は爆発に飲み込まれる。一人、また一人と奮闘していたウィッチたちが倒れていく。魔法力も体力も気力も削れ、地べたに這いつくばり絶望を抱く。終わってしまう。
終わる――。
終わる――。
「っ終われ……ない!」
ボロボロになった姿のまま、アウロラの存在に気づいたネウロイの一体が彼女へと振り向く。四本の脚を交互に入れ替え、生物らしからぬ姿がアウロラを捉える。
既に死に体のアウロラに対する慈悲などネウロイには存在しない。収束する赤い閃光。その一撃は彼女の肉体を焼き払うのには過剰な出力のビームを放つ予兆――。
――ここまでなのか、私は――
ついに精魂尽き果て、膝から崩れ落ちる。
白い大地。アウロラが辿った鮮血の道が途絶えようとしている。
死の予感。アウロラの脳裏に走馬灯が駆け巡る。
大切な家族、大切な仲間、大切な場所。
――ユーティライネン大尉、貴女の強さは確かに国一番かもしれないな――
不意に少年と交わした言葉が甦る。何故、印象には残っていた。だが彼の言葉が今まであった大切なものに勝るものだとは到底思えない。
では何故?
――だが忘れないことだ。貴女は一人で生きているわけじゃない――
そんな事は分かっている。
――貴女には守る人が居て、守る場所があって、守る世界がある――
そうだ。だから私は強くあろうとした。
――それと同時に貴女を守りたいと願う人が、帰りを待つ場所が、生きる世界がある――
この会話をしたのはいつだったか……酒を飲んでいたせいではっきいと思いがけない出せない。なのに少年の言葉はハッキリと思い出せる。
――受け売りだが、ニホン……いや、こっちでは扶桑だったな。扶桑では人という字はヒトとヒトが差さえあって出来ていると聞いた――
「初見で『どう見ても片方が寄りかかってるだろ』と思ってしまったが」と少年がはにかむ。
――人は寄り添うことで生きている。どんなに力を持っていようが、結局は人は一人では生きていけない――
――誰かを助けられる人間は、同時に誰かに助けられる人間だ。……だから――
――どうしようもなく不安になったら、誰かを頼ってもいいんじゃないか?――
アウロラ・e・ユーティライネンは『天才』ではなかったが、優秀だった。何でも人並み以上に出来て、その中でも突出した戦闘力の高さを買われ部隊長にも任命された。慕ってくれる部下が出来て、愛する妹も含め守りたいものがたくさんあった。肩を並べて戦ってくれる友がいた。多くの苦難を共に乗り越えてきた。大好きな故郷があった。生まれた時から慣れ親しんだ純白の故郷。決して恵まれた環境ではなかったが、この国こそがアウロラの全てだった。
それらがあれば他にはなにも要らない。
……その、はずだった。
「じゃあ、お前が私を支えてくれるのか?」
酔った勢いなのか、無意識の内から出た本心だったのか……。真剣な面持ちで語っていた少年へ問い掛けた。
アウロラからそんな言葉が出るとは思ってもいなかったと言わんばかりに少年――トーマは目を見開いた、が。すぐに笑みを浮かべる。
――貴女を支えてくれる人は沢山いるさ――
指折りしながら一人一人名前を並べていく。
――エイニ・アンティア・ルーッカネン――
――エルマ・レヴォネン――
――ラウラ・ヴェルヘルミナ・ハッキネン――
――ハンナ・ヘルッタ・ウィンド――
――ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン――
そして……。
――エイラ・イルマタル・ユーティライネン――
それだけじゃない、と少年は次々にウィッチや整備兵、一般卒兵、多くの人名を並べていく。たった二週間、たった二週間で彼はベルツィレ基地に在住する者の名を覚えていた。その事を意外そうに言うアウロラに、トーマは皮肉を込めえ「書類仕事の賜物だ」口角を吊り上げる。
「『お前』は違うのか?」
熱で顔が火照るのは酒のせいだと思いつつ、アウロラはトーマをジロリと睨む。
――俺には貴女を支えられるほどの力は無いさ――
そんな事はない、と思わず言ってしまいそうになったアウロラは酒瓶を煽り口角を出そうになった言葉を流し込んだ。
――でもいつか、そう成れたら良いなとは思ってるさ――
「……ふん」
年下のくせに生意気奴だと思いつつ、もう一度酒瓶に口をつける――。
「誰でも良いぃ!! 死神だろうが悪魔だろうが、私の魂ならくれてやる!」
その代わり——。
悲しみでも無ければ怒りでもない。どんな感情を抱いているのか自分にすらわからずあふれ出る涙をぬぐい叫ぶ。
「ネウロイを倒せぇええええええええええええええ!!!」
アウロラの願いがスオムスの大地に木霊する。
その願いを叶えたのは、天使でもなければ神でもない……。
正義を司る、一体の悪魔だった。
「うおォあああああああああああああああ!!!」
ネウロイを崖ごと左腕の鉄塊で打ち砕いたアンドロマリウスは、霧散するネウロイの残骸から鋭利な矛先を引き抜き立ち上がる。
残りのネウロイを前に、その悪魔は傷だらけの少女を守るように立ちはだかる。
夢を見ているのかと正気を疑う光景に、アウロラ呆然とした表情でアンドロマリウスの背中を見上げていた。禍々しいはずのその背中は、何か既視感を感じさせる。それが何なのか理解することなく、彼女は再度、意識を暗闇へと解き放った……その表情はどこか、安堵したような顔をしている。
「これで7つ!」
引き裂いた6m級のネウロイを払いのけ、俺は網膜内に表示されたレーダーを見る。ネウロイとおぼしき熱源反応が残り8、内一つはアンドロマリウス優に越える全長を持つ巨大な象と戦車を組み合わせた存在。
今まで戦ってきたモビルアーマーよりも強大な敵……。
だが、俺の敵じゃない。
「行くぞ、アンドロマリウス!」
押し込んだ操縦桿を通して、加速するアンドロマリウスの最高速が伝わってくる。常人ならば意識を引き剥がされるような衝撃。阿頼耶識を持つ俺には軽いアトラクション施設のようなものだ。
迫る敵をはたき落とそうと、象の鼻に似た黒光沢のある鞭が振るわれる。
「遅いっ!」
フットペダルを踏み込み操縦桿を下へ押し倒す。地面スレスレを這うように姿勢を低くしたアンドロマリウスを腰部の姿勢制御用スラスターで強引に回転させ、機体正面がグルリと天を仰ぐようにさせ、それと同時にドラゴンハングで奴の鼻っ柱に振り抜く。
大きく砕けるネウロイの鼻。だが思いの外威力が足りず、切断することは叶わないまま刀身は半分のところで止まった。
「ちぃっ!」
重力に引かれ、背中が地面に接触すうよりも速くメインスラスターを最大出力で噴射させ飛び上がる。
ウィッチたちを無視しアンドロマリウス一機に攻撃を集中させてくるネウロイ。こいつらには知性というものがないって話だったが、ウィッチを無視してまでこちらを狙ってくるという事は優先攻撃対象の概念があると見て間違いないだろう。知性……いや、この場合は『本能』とでも言うべきか。
「無駄だぁ!」
直撃するビームは尽くナノラミネート装甲によって遮断される。だが無敵であるというわけではない。ネウロイのビームは出力に個体差があるようだが、熱量を受け続ければやがてナノラミネート塗料が溶解してしまう。無論溶解してしまえば補給が不可能な今、防御力は著しく低下することだろう。
「だったら!」
こっちの消耗より先に潰せばいいだけの話だ。
一度距離を開け、飛んでくるビームを回避していく。ガス残量も心許ない。ナノラミネート塗料同様補給の見込みがないガスと弾薬についてはいずれ何とかするしかない。
今はこの戦闘を終わらせることだけを考えよう。
小さく一呼吸入れ、大型ネウロイ側面へと回り込む。図体ばかりで機動性に欠けるネウロイ。途中で飛び付こうとしてきた小型のネウロイを右腕で受け止め、マニピュレーターを食い込ませボールのように別の小型機へ投げつけ、その衝撃で動きの止まった二体諸共脚部で踏み抜く。ネウロイの構造がどうなっているのか知らないが、鉄のようでガラスのような外殻は白い破片となって霧散する。
次々と斉射されるビームの嵐。全身のありとあらゆるスラスターを噴かせ縫うように隙間を通っていく。踊るように、這うように、跳ねるように。ルーッカネン少佐たちが交戦していた大型同様、まずは脚を砕く。今度は十分な加速と遠心力を乗せた横凪ぎで奴の脚を叩き折る。大木よりも太い脚が、ミシミシと音を立てる。
が、完全に折れるよりも先に再生能力のスピードが上回ったらしく、その巨体を地に伏せることは叶わなかった。
「思ったよりも硬いな」
アンドロマリウスを踏み潰すために振り上げられた脚を躱し、数度ドラゴンハングを突き立てる。穿つには穿てる……だがダメージを与えた先から再生していく。長期戦は避けるべきか……。
なら狙うのはコアの一点。問題はそのコアがどこにあるかだ……。機械ならば動力となるため体の中央……生物的に言えば心臓か脳の位置にある推測できう……が、ネウロイにそういった常識は通用しないという。
無闇矢鱈に攻撃していても埒が明かない。
「やるだけやってやるさ!」
結局のところ、でた結論が『数打ちゃ当たる』というものだ。が、何も思考放棄というわけじゃない。
「象から針鼠に進化させてやる!」
すぐ側にある針葉樹林へ降り立つ。一直線に突進してきたネウロイを捌き、何本もの針葉樹を押し倒していくヤツ目掛けて、手頃な倒木を両手に持ち――。
「串刺しと洒落混むか!」
一本、二本、三本、四本。次々と大木を強引にネウロイへ突き刺していく。いくら木と言えどこれだけの太さと大きさがあれば、ガンダム・フレームの機体出力と合わせて外殻を貫くことは容易にできる。
昔、まだ俺が孤児院にいた頃。人形の乗った樽にオモチャのナイフを突き刺していくゲームがあったことを思い出す。
名前は思い出せないが、無数の穴の内一つが人形を飛び上がらせるスイッチが仕込まれており、それを当てたものの敗北……というゲームだ。
本来であればその『一つ』を当てた者の敗北だが……。
47本目にして、外殻よりも硬いものを砕いた手応えと共に、象型のネウロイが沈黙する。――コアの破壊に成功した。
中枢格である大型ネウロイが撃破され、残った残党もウィッチ隊により駆逐される。
全ての戦闘が終わった頃……雲の隙間からはオレンジ色の光が差し込み、白い大地に降り注いでいた。
「終わった……か。っぐぅ!」
肩の力を抜くと激しい頭痛と吐き気に襲われる。やはり阿頼耶識を無理矢理解除したツケが回ってきたようだ。一度止まったはずの鼻血がボタボタと溢れ出てくる。
血を失い過ぎたか、意識が朦朧とする。
だが流石にここで倒れるわけにはいかない。ユーティライネン大尉は既にウィッチ達に回収されたようだ。撤退していく彼女たちは露骨にこちらを――アンドロマリウスを警戒しながら帰還する。無理もない。
「さて、俺はどうするか……」
アンドロマリウスに乗ったままベルツィレ基地に行くのは混乱を生みそうだが、流石にアンドロマリウスをここへ放棄していくのは賢い選択とは言えない。どこかに隠そうにも土地勘のない場所では探す余裕もない……そもそも見つけたとしてペテルブルクからベルツィレ基地まで徒歩で歩く体力は持ち合わせていない。
「始末書と報告書の山を覚悟で行くしかない……か」
思わず溜め息が漏れる。ネウロイよりも始末書や報告書の方が面倒に思えてしまうの俺だけだろうか。
駆け足気味でしたが、ようやくスタートラインに到達と行ったところでしょうか。……おそらくこれからアンドロマリウス無双を期待されている方もいると思いますが、ここからまた当分……アンドロマリウスは定休日に入りますか(土下座
政治的介入や情報隠匿その他もろもろでゴタゴタしたり、フラグ建てたり、結局アンドロマリウス使ったり……。
次の無双まで、どうか気長にお待ちいただけますようお願いします(;´д`)
(個人的)序章も終わったことですし、ずっと悩んでた『魔法戦記ガンダム ~鉄血のウィッチーズ~』OPとEDがようやく決まりました。
オープニングは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』から第一期後期OP『Survivor』
ウィッチ世界の少女たちとトーマの世界の枠を越えて『重なりあった願い』。ネウロイとい『機械のような奴らに支配される前に居場所を探す』トーマの戦いをイメージから。オルフェンズのOPだとウユニ塩湖に倒れるバルバトスと、その前に立つクーデリアですが、鉄血のウィッチーズではスオムスの雪原に四つん這いで項垂れるアンドロマリウスの前に、トーマが立っている感じ。
エンディングは『Fate/unlimited codes』からOP『code』 「せめてクロス元で統一しろ」と突っ込まれそうですが、曲の歌詞がウィッチ世界で生きるトーマの葛藤を反映させるのにぴったりだったんです許してください!