この宇太水分神社に向かう途中に慶次に無理矢理ついてきた篠は自分もまつろわぬ神との戦闘に加わろうと考えていた。しかし、慶次はそれを許さなかった。
一対一の戦闘を邪魔してほしくないからではない。
神具を持った天竺の呪術師がまだこの場に来ていないのだ。
作戦というものが完全には出来ていないであろうと考えたからだ。
まつろわぬ神に神具を届けようと考えている方にはラークシャサの部下の隙をみて神具を奪い素早くまつろわぬ神のいるところまで向かわなければならないのだ。
しかし、部下四人は何時隙を見せるかなどというのは分からない。
故にまつろわぬ神に神具を届けようとしている方はその神のいる宇太水分神社までの移動手段を手配していないのではと考えた。
そして、実際にまつろわぬ神のところまで辿り着いたとき、天竺の呪術師はまだ来ていなかった。
そこで、馬上で話をしていたように篠はまつろわぬ神ではなくいつか来るであろう神具を持った天竺の呪術師を相手取るために慶次とまつろわぬ水天が戦っているところより京のある北の方向で警戒していた。
篠は戦いを見ながらも天竺の呪術師が来るのを警戒していた。
しかし、篠は失敗してしまった。
天竺の呪術師はいつの間にかそこにいた。
そして、慶次が水天に追撃を駆けようとしているのを邪魔した。
篠は慶次が満足に戦える環境を作ることさえできなかった。
天竺の呪術師がこの場に侵入したのを察知出来なかった己を叱咤し、すでに水天を正面に見据えることで慶次に警戒されなくなった呪術師に向かって神具というよりもスサノオの従属神である天叢雲劍を抜き払い突貫する。
天竺の呪術師は右手に握りこまれた短剣のようなものを構え、篠の突貫に備えた。
刃と刃の合わさる金属音が辺りに響く。
さすがに片手では豪刀の天叢雲劍を受けきれなかったのか呪術師は右手の短刀の部分と手首の金属の部分も使って天叢雲劍を右に受け流した。
彼の左手には赤色の神具がある。
篠は五摂家近衛家の姫であるので父親から皇室の神宝八尺瓊勾玉の存在を知っていた。
しかし、実物を見たことは一度もなかった。
それもそのはずだ。
帝でさえその八尺瓊勾玉を継承するときにしか一生に一度ほどしか見ることはないのだ。
況してやただの五摂家の姫ごときであれば言うまでもない。
篠が始めて見るその神具は、赤かった。
八尺瓊勾玉。まさにその通りの外観をしていた。曲玉の部分以外は。
その形は円環というよりも円盤に丸く小さな穴を開けたような形をしており、その大きさは直径が子供の頭ほどもある彼のように抱き抱えるようにして持たなければならないくらいに非常に大きい。そして、色は丹、赤色で、炎が圧縮されて鉱物の中には抑えられているかのように不思議な赤色が揺らめいている。
その神具の姿は絵にして表すならば円に点を描くようなものだ。
円に点。
これは古代の太陽のシンボルだ。
古代エジプトにおいてそれは太陽神ラーや太陽神そのものを表す象形文字として扱われた。
そして、中国では太陽や日を意味する初期の感じであり、今日の“日”の起源となっている。
八尺瓊勾玉は赤瑪瑙でできており、まさに太陽の不死性を表すかのようにこの神具は壊すことのできない不滅不朽の性質を持っている。
「篠、任せる。」
水天に集中している慶次が篠に対して言葉を発する。
篠は慶次には見えないだろうが頷いて答えた。
「Quem é esse cara?(あいつは何者なんだ?)」
「・・・」
呪術師がチラリと慶次の方を見て異国語をしゃべるが篠には何を言っているのか分からない。
「・・・Eu entendo.Você não sabe línguas estrangeiras.(・・・そうか。異国語は分からないよな。)」
呪術師は悲しげにそう呟いた。
篠は異国語は分からないがこの呪術師が何を言っていたのかは予想がつく。
恐らくは慶次殿のことを聞いたのだろう。堺で慶次殿が会った天竺の呪術師はこの者か?
篠は疑念を抱いたがどうせ異国語は分からないので何もしゃべることはなかった。
それ以降、呪術師も一言もしゃべることはなかった。
会話を終えた後は先に呪術師が水天の方に向かうようにして動き出した。
篠はかれがその左手に持つ神具をまつろわぬ水天に渡さぬように阻止しなければならないのだ。
二度目の刃と刃の合わさる金属音が響き、武器において不利な呪術師がまたも同じようにして短剣で天叢雲劍を受け流す。
それを三度、四度と繰り返す。
そのうち、隙を作り出した呪術師が篠の懐へと潜り込む。
彼の右手に握り込まれた短剣は近接の格闘に向いている。
拳を握り込んで殴るようにして突きだすだけで殴打の威力をそのまま短剣の一突きとして利用できるこの武器は非常に有用である。
難点は唯一近接、格闘戦にのみ有用であることであろうか。
篠はその突き出された武器を天叢雲劍の柄で弾く。
すぐに篠が態勢を戻したと見ると呪術師は素早く斜め後ろへと下がった。
篠は彼の動きをこの時異国の武術によるものかと思ったがそれは違った。
単純にそうしたほうが水天に近くなるからだ。
下がった彼はすぐにフードも被り、全身をその身に纏う外套で覆い、呪力を使い闇に溶け込むようにその場から消えていった。
篠はまたしても失敗したのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
一度下がった水天は周囲の水を利用して水の盾を入念に作っていた。
高速で移動する慶次に対応するためか最初のような壁ではなく宙に浮遊する水の盾である。
その神力の込められた盾は一種の神具のようである。
水天の周囲には水たまりがあり、無用心には近づけない。
更に水天の正面に浮遊する水の盾も勢いのみで突破出来るほどに生易しいものではない。
「猛火の焔は敵を貫く矛とならん。」
それに対して慶次は聖句を呟く。
左手にある朱色の長槍と同じ槍を右手にも作り出す。
慶次はその多量の呪力の込められた炎の槍を水の盾目掛けて投擲し、それは爆炎と衝撃波を辺りに振り撒きながら爆発した。
慶次の最大威力とも言える爆炎の攻撃である。
その爆炎はと衝撃波は水天の周囲の地面を焦がし、半径10メートルはあろうクレーターをも作り出しており、周囲の半径十メートル圏内にある木々はなぎ倒されるか、枝葉を焼かれて禿げていた。
それでもなお水天の水の盾は微動だ、さらに水天が慶次の高速移動を警戒して巡らせた水たまりもそこに蒸発することもなくあった。
「矛盾の勝負は神殺しの矛よりも神の盾の方が強かったか。」
慶次の炎の槍はしかし、水天の水の盾を破ることは敵わなかった。
しけし、これは前哨戦だ。
本番はこれからだ。
慶次は聖句を紡ぎ炎の槍を作り出す。
その両手には二つの槍がある。
さっきと同じだ。
水天には慶次がまた同じことをするつもりなのかと。先ほどの一当てでその炎の槍ではこの水の盾を破壊することは敵わなかったはずだと疑問に思った。
しかし、水天は全力を込めて正面にある水の盾を強化する。今さっき作り上げた盾よりも強く。
水天が慶次の攻撃に備えた後、慶次は先ほどと同じように炎の槍を投擲した。
その炎の槍は先ほどと同じように表面を抉ることは出来ても強化された水の盾を半壊させることはできなかった。
しかし、その炎の槍の爆発のすぐ後にもう一度同じような爆発が起こった。
その爆発は強化された水の盾を破壊し、その盾を通して水天に爆炎と衝撃波を叩きつけた。
水天は自身の水の盾が破られたことを理解しながら爆炎に焼かれながら後方へと衝撃波で吹き飛ばされた。
慶次は炎の槍を投擲した後にさらにもう一度その炎の槍の後ろに隠れるようにして炎の槍を投擲したのだ。
慶次は炎の槍を二本使用することで強化された水の盾ですらも透過して水天にダメージを与えたのだ。
「猛火の焔は敵を貫く矛とならん!」
隙を与えた慶次は再び聖句を紡ぎ作り上げた炎の槍を中段に構え、突きを放つために正面に突貫した。
水の盾を破られた以上慶次はその高速の移動で突貫して来るであろう。
それを理解していた水天は天から降る雨と地面を濡らす水をかき集めて水天の周囲をグルリと回るようにして円錐状の地面から生えた大きな刺を外からやって来る慶次に向けて張り巡らせた。
その地面から生えた水の刺があるのを理解しながらも慶次は突貫する
自身の身を省みずに。
これで終わりにするために。
アシシュが神具を持ってきた以上速く終わらせた方がいい。
慶次に向けられた刺は胸や腹を貫くようしてそこにある。慶次は急所を避けるために上に跳んだ。
前方へと進むエネルギーはそのままに進む慶次に対して水の刺は足を抉るものの慶次は気にせずに進む。
「グ、クッ、ゥオオォォッ!」
慶次の炎の槍は水天の腹部を焼きながら貫いた。
「ウグッ!」
煙をあげる炎の槍を素早く引き抜き下から上へと槍を払い、水天の左腕を飛ばした。
慶次は払った勢いで一歩下がりすぐに回転を加えながら水天の首を跳ねるために槍を弧を描くようにして遠心力をもってして振るった。
「ハアァァァァッ!」
その振るった槍はしかし水天の首を跳ねることはなかった。
慶次の炎を纏った槍は慶次に背を向けたアシシュの身体を左から両断していた。
即死だ。
アシシュは血を蒸発させながら逝った。
突然に現れたアシシュの伸ばされた左手には恐らくは八尺瓊勾玉なのだろう赤色の穴の空いた円盤が握り込まれていた。
その八尺瓊勾玉は、今、金色の輝きを放ちながら水天へと吸い込まれていった。
アシシュは身を呈してまつろわぬ神へ神具を届けるという目的を為したのだ。
「フフフ、よくやった我が信者よ。数百年の時をかけてようやく力を取り戻した。」
水天がいや、ヴァルナが目を開けるとそこにあった水のように透き通るような青の瞳は太陽や月の輝きを終わらせた思わせるような金色の瞳へと変わっていた。
「・・・完全には力を取り戻したわけではないのか。
しかし、これで十分だ。この瞳こそが私が天空神であるという証である!」
先ほどまでな冷徹な水天は少しでもヴァルナへと近づいたためか随分と調子がいいようだ。
「残念だったな。お前は私を殺すことができなかった。
私はヴァルナとして力を取り戻した。
これが現実、これが結果だ。」
ヴァルナは前に言った慶次の言葉を繰り返した。
「そうだな。アシシュの行動の終末だ。
心してヴァルナ、貴様にかかろうではないか!」
慶次は大声で言う。
自分でも分かるのだ。気持ちが高ぶっていることが。
本気とまではいかないようだが先程の水天よりも強化されたヴァルナとの戦いに心が躍る。
ヴァルナの身体の傷が治っていく。
ヴァルナは太陽にまつわる説話を持つ神であり、竜蛇にまつわる説話をも持つ神でもある。純粋な太陽神や大地母神とは異なり絶大な不死性は持たぬ者のその頑強さ、回復力はその他の神々とは異なり高い性能を持つ。
故にヴァルナとしてのこの神はその回復力によって今までの傷を癒しているのだ。
唯一跳ね飛ばされた左腕のみはそのままだが。
何の前触れもなく慶次に地面から先の尖った水の鞭が襲い掛かる。
水天が最初に時間稼ぎのために慶次へと向けた攻撃と同様だ。
しかし、その速さと強さは前の比ではない。
慶次の反応速度を超えて襲ってきた水の鞭は慶次の炎の槍のによる防御を無視するかのように慶次に襲い掛かり、炎の鎧でさえも貫き慶次の身を貫き、打つ。
たまらず慶次はその水の鞭を槍に纏う炎で薙ぎ払おうとするもののその水の鞭の頑強さは慶次の思う通りにはさせてくれない。
慶次は怪我を負いながらもどうにかその鞭の速度に慣れて防御も追いついてきたころにそれはやって来た。
「ッツ!鋼をも溶かす焔は敵の刃から身を守る盾とならんッ!」
慶次は水の鞭をさばきながらも炎を頭上に集中させる。
その聖句を紡ぐと慶次の頭上に炎を纏った大きな盾が現れた。
その盾が慶次によって作り上げられるとすぐに鉄の嵐でもやって来たかとでも思うような轟音が頭上から響く。
頭上に集中した慶次の隙をつくようにして迫る地面の水の鞭を慶次は炎の槍を振るい防ぐ。
「ほう。さすがだな。素早く察知し“雨”を防ぐか。」
慶次の頭上から降ってきたのは雨だ。
しかし、天から降る針として重力によって最強の凶器となった雨が慶次の頭上の炎の盾を叩きつけているのだ。
その盾から聞こえてくる轟音が慶次を今にも盾を破壊されるのではないかと不安にさせる。
ヴァルナとして力を取り戻した水天は水の支配力が桁違いだった。
天空神であるヴァルナは雨を完全に自身の支配下においたのだ。
慶次は宙空に短刀を複数作り出し周囲にばらまいた。その短刀は爆発し、爆炎と衝撃波となって周囲の水を蒸発し、弾き飛ばした。
取り敢えず、慶次の周囲には水たまりはない。それに、頭上から響いていた“雨”が降る音も今は止み、普通の雨音となった。
しかし、気を許すことなどできない。
頭上からはいつ“雨”が降りだすかが分からない。それに、慶次の周囲2,3メートルの水は消し飛んだもののその周りにはまだ水たまりがある。
いつ後ろから水の攻撃がやって来るかも分からない。
「輝ける焔は疾き風も迅き雷をも退ける守護とならん。猛き焔は大地を焼き祓う浄化の焔とならん。」
ボロボロになった炎の鎧を呪力を込めて強化する。
今、慶次の体力も呪力も少なくなってきた。先の水の鞭の攻撃で血も失った。
それに対してヴァルナは呪力は分からないが体力に関しては動き回っている慶次よりかはあるだろう。
それに、怪我を負わせたはずだがその怪我はすでに回復している。
圧倒的に不利だった。
ヴァルナとして力を取り戻した瞬間に一気に形勢が傾いた。
ヴァルナの金色の瞳も気になる。
太陽の眼という伝承から邪視の一種であろうか。
「どうした。先ほどは威勢のいいことを言っていたがもう終わりか、神殺しよ。」
「言ったはずだ。戦いとは華がなければならないと。
例え俺が死ぬるとも戦場に華を咲かせて散る!
それに、戦いはまだこれからだろう。」
慶次は槍を構えヴァルナに向かって身体に水の鞭を受けようとも真っ向から突貫する。
頭上には炎の盾を連れて、足元は炎の盾を足場として正面まで移動する。
そこから慶次は炎の鎧のその圧縮された炎を解放して、推進力を得てヴァルナの死角へと回る。
慶次は今までよ中で最高速度で炎の槍をヴァルナへと突き出す。
しかし、その槍は空を切った。
慶次は右脇腹に一抱えほどもある円錐状の地面から生えた棘に抉られていた。
その身体に刺さった棘を炎の槍で切り裂く。
切り裂かれた先の棘はドロリと溶けて慶次の大量の血を含んで地面に落ちた
「この眼を取り戻した私は全てを見通す。
太陽の眼を持つ私に死角など存在しない。」
斜め後方からヴァルナの声が聞こえる。
「そして、この月の眼は時間を歪める。
神速に達する私の動きを攻撃を読むことはできはしない。
・・・はずなのだが、よくぞ寸でのところで気付いたものだ。
勘のみで神速に至った攻撃を避けようとするなど、やはり神殺しは侮れぬ。」
慶次は理解した。
ヴァルナは太陽の眼とやら死角からの攻撃を見切り、月の眼の能力で時間を歪め神速の攻撃を放ったのだ。
神速というものは桔梗から少し聞いたことがあった。
神速とは物理的な速度を上昇されることではなく、移動時間を短縮させるという時間を歪めることによって成せる権能である。
神速を持つ相手を相手取るには自身も神速を使うか、神速を見切るだけの技量をもつか、相手の神速を封じる権能を持っていればよい。
しかし、それさえなければ神速を持つものは無敵である。
慶次は神速に対応するだけの力を持ってはいなかった。
「なるほど、神速か。神速というものは無敵ではないのか?俺はわずかとはいえかわせたのだ。」
「それはお前が神速を見切るだけの技量を得るだけの器量をもっているということだろう。
しかし、神殺しよ。お前はここで終わりだ。」
ヴァルナはそう言って周囲に稲妻を纏った剣を顕現させた。その全てが神具に匹敵する代物だ。
「これは雷神インドラの雷で作りし剣だ。
アグニの権能を使うことは敵わなかったがこれで十分だ。
この私の神速にインドラの雷、避けれるものならば避けてみよ。」
慶次は思い出す。
ヴァルナとは悪人や罪人を取り締まるものであり、火神アグニと雷神インドラを伴ってその者らに罰を与える厳しい神としての一面を持つ。
これは後にヴァルナの成果がインドラやアグニに奪われることにも繋がるのだが、今重要なのはヴァルナがインドラとアグニを使い悪人や罪人をを取り締まったということだ。
ヴァルナはアグニのそれは無理でもインドラの権能を限定的に使用できるのだろう。
神速のインドラの剣が慶次に迫る。
「輝ける焔は疾き風も迅き雷をも退ける守護とならん。猛き焔は大地を焼き祓う浄化の焔とならん!」
炎の鎧を再び強化する。
インドラの剣が慶次の炎の鎧に当たる。
しかし、削るのみで大打撃を与えることはない。
慶次が弑し、権能を簒奪せしめたガルダは小人の種族ヴァーラキリヤであるインドラよりも100倍強くなるようにと願われて生まれたためにインドラの雷はガルダの炎に阻まれるのである。
しかし、だからといって全く安心できない。
インドラの剣が見えないのだ。
何かが動いているのは分かる。しかし、それ以上ではない。
「ぅグッ!・・・グァァッ!」
インドラの剣に紛れてヴァルナの水の刃が炎の鎧を抉る。そして、水の刃で抉られた場所を狙ってインドラの剣が生身の身体を貫く。
雷撃が全身を貫いた。
これでは大量のインドラの剣も警戒しなければいけない。
しかし、見て警戒することなどできない。
慶次を不安が襲う。
見ることができない。何もできないのだ。
どうにか神殺しの人間離れした直感力で急所をどうにか避けていく。
何撃とヴァルナの水の刃とインドラの剣の攻撃は続いた。
慶次は無防備にも受け続けるしかなかった。
しかし、ヴァルナも少し焦りを感じていた。
慶次を切り裂く刃の深さは段々と浅くなってきたのだ。
心眼を得ようとしている。
そう感づいたヴァルナはこれで最後だとばかりに大量の水の刃を見舞った。
それが、慶次を貫き切り裂くことはなかった。
それ以後は神速のインドラの剣を水の刃をなんなく受け流し、弾いていく。
慶次はこの戦いの中、満身創痍になりながらも心眼を開眼したのだ。
「これは・・・観自在とはこのことか。
まあ、何度も見ていたら嫌でも慣れるだろうな。」
世の日々鍛練する武術家が聞けばどう思うだろうか。
慶次はその天才的な槍術によってまつろわぬ神と戦い一戦のみで心眼を得たのだ。
ヴァルナは同じように神速の水の刃とインドラの剣を使って攻撃を仕掛け続けた。
しかし、観自在の心眼を得た慶次には相手にはならなかった。
神速だからといって槍術の天才である慶次には物量の攻撃はなんの意味もなかった。
唯一、ヴァルナの千里眼や周囲を俯瞰視することのできる太陽の眼によって神速にも至らんとする慶次の槍術をどうにかかわすことができていた。
しかし、太陽と蛇の不死性の性質を僅かながらももつヴァルナに対して炎の槍で傷付けた怪我は焼け石に水ですぐに回復させられた。
「神殺しには驚かされる。まさか、この一戦で心眼を得るとはな。」
「神殺しという存在はまつろわぬ神との戦いで権能を業を昇華させる。
そういう存在なのではないか。」
慶次はこの一戦で成長した。
武術の業を磨き、心眼を得た。
そして、権能の業を磨き、真の権能を理解した。
「これで終わりだ。」
神速の剣撃を受け続けて満身創痍の慶次はそう言って独特の中段の構えで槍を構えた。
それに対してヴァルナは地面に円錐状の棘を生やし、防御柵とし、周囲に水の刀を周囲に複数作り出した。
「熱き焔は強靭なる鋼を溶かし刃となって転生せん!」
慶次の炎の鎧がメラリと燃えて解放された。
槍を突きのみを考えた中段の構えでヴァルナに向かって突貫する。
その身にはメラリと炎を纏うのみだ。
ヴァルナは待つ。
目の前の棘状の防御柵を避けようとするとどうしても隙がうまれるはずだ。
そこを狙う。
慶次は槍の穂先を前に出して真っ正面から向かってくる。
そして、そのまま刺状の防御柵に突っ込み、
その身を棘状の防御柵に貫かれながらも突貫してきた。
「なっ!」
驚いたのは自身の身を呈して突貫してきたからではない。
慶次は防御柵で怪我を負うことなく向かってきたのだ。
そして、そのまま慶次は炎の槍をヴァルナに突き出した。
「ハアァァァァッ!」
突き出された炎の槍を腹部へと刺して押し出し、自身は離れる。
「グッ!・・・み、見事なり、神殺しよ。」
そして、炎の槍の圧縮された炎を解放してヴァルナの言葉を書き消すようにして腹部で爆発させた。
慶次は遂に権能を掌握したのだ。
このガルダの真の権能はその身を炎と化して怪我を回復させることである。
慶次は刺に突撃する前に身体を炎化させて透過して退けた。
そして、そのまま慶次は今までの怪我を回復させながら動揺するヴァルナへと攻撃を繰り出したである。
爆心地には直径数十メートルのクレーターがあり、その爆発の威力をありありと見せつけてくる。
その中央にはまつろわぬヴァルナではなく不滅不朽の赤色の神具、八尺瓊勾玉があるのみだ。
今の慶次に特に怪我は見当たらない。
しかし、体力も呪力も尽き果てた慶次は爆発の衝撃波に吹き飛ばされてそのまま倒れ、身体にずしりとした新たな権能を得た感覚を覚えながら気を失った。