南蛮船内でのランチを終えた慶次は船長が前日に用意してくれた宿へと戻っていく。
一等上等なこの宿だが、非常に高級な布団はないものの蒸し風呂ではあるが風呂はあるのだ。
そんな宿の宿泊費はこの堺の町にいる間は船長が払ってくれるというのだ。
今回の南蛮人との話は非常に興味深いものであった。特に神殺しについては。
インド天竺に神殺しがいて今回日本であるであろう神具を得ようとしている。まさか、この南蛮船が異国の神殺しと関係があるとは思わなかった。
南蛮人の故郷である西洋での神殺しの扱い方がこの日ノ本とは違い随分と単純かつ極端に呪術師の王として畏怖されているのであろうことが自身に対する態度で違うことが分かった。
海を越えれば同じ神殺しであってもいろいろと違うのだ。
そういうことを考えていると天竺の神殺し、ラークシャサとやらに会ってみたくなってきた。
しかし、今回の一件に絡んでいるのは遠い異国ににいる神殺しだけではないようだ。
船長は言っていた。
”ムガル帝国人の一人が神託を受けたと言っていたのを聞いた。”と。
つまりはもしかするとまつろわぬ神でさえも関わってきているのだろう。
面白くなってきた。
普通の呪術師であればまつろわぬ神も神殺しも関わる神具に関係する騒動など見て見ぬふりをして関わり合いになりたくもないことであろうが慶次はこれに好奇心を大いに刺激された。
関わらないなんていうことははありえないと。
慶次は南蛮物や唐物の並ぶ店をゆっくりと見ながら宿へと向かう。
しかし、前日から借りている宿の前に一人の女性がいた。
その女性は巫女だった。
白衣に緋袴、それに千早を纏った何とも上品な巫女装束。
年のころは慶次よりも二つ、三つほど上だろう彼女は冷たさを感じる雰囲気を纏っている可愛いというよりも美しいと称し得る容姿をしており、射干玉の腰まで届く髪は丈長で結われている。
腰にある佩刀は太刀ではない。もっと古めかしいそれは蕨手刀だろうか。三尺ないくらいの長さだ。
この俗な空気をはらんだ堺の町に入り込んだ澄んだ清らかな空気を身に纏う彼女ははやはり慶次よりも視線を集めていた。
誰かを待っていた風な彼女は真っすぐに慶次を見て歩み寄る。
神聖な雰囲気を放つ巫女と異様な雰囲気を放つ傾奇者は否応なく周りの視線を集めた。
「お待ちしておりました、羅刹の君よ。私は京の媛巫女近衛篠と申します。」
目の前の巫女は京の媛巫女と名乗った。
媛巫女とは日ノ本の女呪術師の中でも特に高位の巫女のことだ。
ということは、前回京を訪れた時に羅刹王であることがばれてしまったのであろうか。
なんとも迂闊なことをした。こんな事だったら京の都を避けて堺に行くべきであった。
この後はこの堺の町にいる天竺の者たちの動向が気になるのだ。
邪魔されるわけにはいかない。
「何を言っているのか。」
「今回は京の一媛巫女としてではなくあるお方の巫女として参りました。
あなた様が羅刹の君であることは京の都には知られていません。
ここでは人目が多ございます。場所を移しましょう。」
そう言って巫女は歩き出した。その方向は堺の町を出る方向だ。堺の町の外で話そうというのか。
とはいえ彼女は京の都の呪術師には慶次が羅刹王であることは知られていないと言った。
ならば、独断で自身の存在を知り、手の者を差し向けるあるお方とやらに興味が湧いた。
それに、彼女がそのお方とやらの巫女であるというのならばその者はまつろわぬ神であるかもしれない。
慶次はそのまま先を行く篠を追って堺の町を出ることとなった。
場所は変わって人の多い堺の町とは真逆の人がまばらに見えるのみの田植えを終えたばかりの田畑の広がっている。
堺の町からさほど離れていないにも関わらず堺にある大量の物の流れる街道を外れたこの場所は広い大地に田畑のが広がり農民が作業をしている。
頭上には天気の変わりやすい春から雨の多く降る梅雨へと移り変わることを示すかのように先程までは晴れていた空には今にも振りだしそうな黒い不気味な雲がある。
「さて、こんな人のいないような所まで連れてきて篠さんは俺を誰に会わせたいって言うんだ。」
篠は慶次を誰かに会わせるためにここまで連れてきたが、その目的の人物らしきものは見当たらない。
「それは、すぐにわかります。」
ふいに慶次の並外れた直感力がささやき頭上を見上げる。
そこには先程も見た黒雲があったがそこには猛々しい嵐を思わせる神気が感じられた。
そして、足元が不安定になったように感じ、下を見なくてもこの後何が起こるのかは一度経験していたので達観した様子で、そして、目の前が真っ暗になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
暗闇から目を開けるとそこは山の中だった。
知り合いであり、三年もの間共に鍛練を行った酒呑童子の住み処である御殿のある緑少なき峻険な岩山とは異なり、この場所は緑が深く直ぐ近くには音をたてて流れる流れの早い川がある。
渓流のあるこの山には雨と風が降り、強い風と雨が慶次の身体を叩き体温を奪っていく。
今にも雨がというより嵐が来そうな程に雲行きが怪しかったがまさかここまで天気が悪いとは思わなかった。
ここはある神の住まう幽世だ。
どうやら神その者によってこの地に無理やり連れ込まれたようだ。
まるで酒呑童子にされたあのときのように。
先程の神気といい、この風雨といいおそらくは嵐が神格化された神なのだろうと考えてみる。
その荒々しさは見過ごせるものではなかったが話を聞きたいだけというのはまあ、信じてみる価値はある。
酒呑童子もそうだったからだ。
ただこのままここに居座っているのは落ち着かなかったので何となくで移動する。
慶次は無意識に微かに神気の感じられる渓流に沿って上流へと向かっていく。
しばらく渓流を上流の方向に向かって行くと小さな掘っ立て小屋がそこにはあった。
さすがにここまで近づけば荒々しい神気がそこから発されていることが分かる。
中に入ればその神気で敵の存在を確認した羅刹王である慶次の身体は素早く戦闘態勢へと移行していく。
「おう、いきなり呼び出しちまって悪かったな。
前田慶次、だっけか。」
そこにいたのは身の丈六尺はあろう偉丈夫だった。
その者は粗末な衣と
その者から漏れ出る荒々しい神気は堺の町のはざれで感じた神気のそれであり、目の前の神が慶次に会いたがっている者だということなのだろう。
何故か俺の名前を知っているのかは分からないが、まずは、
「お前は何者なんだ。」
「殺る気があるのはいいが、まあ、まずは座れや。」
その神が座るように促すのは囲炉裏の傍、神の対面の場所である。
慶次はその神に促されるままに神の対面に座る。
「さて、まずは自己紹介からいこうか。
オレの名は速須佐之男命だ。スサノオでいいぜ。」
その神、速須佐之男命は慶次に誇るように自身の名を言った。
速須佐之男命。
日本神話最大の軍神として知られるも、かの神は元々は暴風・嵐を司る出雲の土地神であり、砂鉄の産地で崇拝されていた。。鋼を鍛え剣を作り出すときに必要な炎は強風にあおられるとその炎はさらに大きく激しくなる。そのため、速須佐之男命は鋼に縁のある神である。
速須佐之男命は日本神話における太陽神である姉の天照大神を天岩戸に追いやるといった逸話から「太陽を隠す」というトリックスターとしての性質を持つ。
更に、速須佐之男命に関して最も有名なのが日本神話においても有名な「八岐大蛇退治」の伝説である。
八岐大蛇の生贄にされようとした櫛名田比売を救うために八塩折之酒を用いた後に単身八岐大蛇に挑みかかり十拳剣にて退治した。
その際に尾を切り裂き、天叢雲劍を得た。
この英雄が強力な怪物と戦い女性を助け出すという八岐大蛇退治の伝承はペルセウス・アンドロメダ型の神話であるため、速須佐之男命は《鋼》の属性を持つ征服神としての性質を持つ。
速須佐之男命はこの日本神話における軍神としての知名度が高いが、他にも神仏習合により牛頭天王とともに京では祇園信仰、尾張では津島信仰。そして、源頼朝を中心とする坂東武者による氷川信仰などといったように速須佐之男命はこの日ノ本では広く、深く人々の信仰をを集めている。
そんなこの日ノ本において絶大なる知名度を誇るこのスサノオに対してしかし慶次はなんてことは無いとでもいうようにスサノオと対する。
その様は、何時でも相手取ってやるとでもいうかのような雰囲気を纏っていた。
「それで、お前は何のために態々こんなところまで俺を呼んだのか。」
「なんだ。やけに手厳しいじゃねえか。」
「話は聞こう。しかし、そのように荒々しい神気を垂れ流す貴様に対して警戒を解くことなどできはしない。」
「なるほどな。まあ、こればかりは大目に見てくれ。軍神、暴風神たるオレのの性分ってやつだ。
それで、何のためにお前をここに呼んだのか、だな。」
頷きはしない。ただスサノオに対し話の続きを促す。
「この目でみておきたかったのよ。史上初の日ノ本の羅刹王ってやつをな。」
まるで酒吞童子の時と同じ理由だ。
羅刹王に、時空を超えてきた人間に興味を持った。だから、無理やりにでも自分の領域に引きずり込んで目的を果たす。
「まあ、お前と一緒だな。
興味があったんだろ南蛮人にだから話してみたくなったと。」
「貴様と一緒にするな。俺は貴様のように無理矢理会おうなどとは考えていない。」
「お前だって同じようなもんだろ。神殺しという名前の圧力で面会を更には宿代でさえもぎ取ったのだからな。」
気にするな。自分の好きなようにすればいい。異国の神殺しだって大体そんなもんだ。
そう加えて言ったスサノオの言葉を聞き、それは事実でもあるのが簡単に聞き流しつつ話を続ける。
「まあ、オレの用事はこんなものだな。
後は、そうだな。大和の水神が異国から信者を呼んで何やら企んでやがるから一応忠告しておこう。
今はオレと同じく幽世に隠れてやがるが一旦まつろわぬ神として顕現したら畿内全域大嵐だ。」
奈良の水神とは前に酒吞童子が言っていた幽世に隠れ住む神のことだろう。
それに、異国からの信者というのはムガル帝国から来たアシシュたちであろう。
やはりまつろわぬ神も関わってくるというのか。
「貴様は手を貸さないのか。これは防げる天災なのだろう。」
「大和の水神が暴れそうだってのはもうすでに篠を通して京の呪術師連中どもに話してある。あとはお前らが好きにすればいい。分からないことがあれば篠に聞きな。
これでもオレは暇じゃあないんでな。」
そう言ってスサノオが手のひらを翻すような動作をしようとする前に気になっていた事を聞いた。
「近衛篠とは何ものなんだ。」
ただの媛巫女ではない。
最初に会った時から気になっていた。苗字からして普通ではないが、唯一スサノオと関わりのある人物であるらしいことは篠とスサノオからの話を聞いていて思ったことだ。
それに、あの異様な雰囲気を放っていた刀は。
「ああ、あいつは五摂家の近衛の娘で唯一このオレの神力を天叢雲劍を通してその身に宿す”神がかり”の術を使うことが出来る媛巫女だ。」
なるほど。篠が佩いていたのは天叢雲劍だったのか道理で異様な雰囲気をを放っていたのものだ。確かに、今に思い返してみればあの感じはスサノオの神力と似た雰囲気だった。
「そういうわけだ。それじゃあ、頑張んな。」
ちょうど近衛篠のことについて考えがまとまったところでスサノオは手のひらを翻した。
そして、今座っているところがちょうど先解のように暗くなっており、視界が真っ暗になった。
「お疲れ様でございます。」
視界が戻ると目の前には篠がいた。
「・・・スサノオは自分が俺に会いたかったからスサノオとの繋ぎ役である篠を俺に会わせたと言ったが、本当はお前が俺に会うためだったのではないか?」
最後の話を聞いて疑問をいだいた。
まつろわぬ神が関わる事件なんてものは大概人の手には負えないものばかりだ。
ゆえに、幽世に住まう日本神話最大の軍神という特大のネームバリューを持つスサノオに助けを請うたのだ。
この一件を収めるための案はないか、と。
スサノオの巫女である篠を通してスサノオに問うた。
そして、その答えが日本で唯一まつろわぬ神に相対することの出来る羅刹王たる慶次だったのだろう。
「その通りです。ですが、御老公も羅刹の君に興味を抱いていました。」
「まあ、そうみたいだな。
・・・その羅刹の君というのはやめてくれ。いつ他の呪術師に聞かれるか分からない。」
「では、慶次殿と。」
まあ、呼び方は五摂家の姫に様付けで呼ばれるよりはましだろう。
それよりも、御老公というのはスサノオのことなのだろうか。
どうやらスサノオはこの日ノ本の呪術界において相談役のような役回りとして随分と昔から関わりあってきたらしい。
「それで、御老公からお聞きになられたと思います大和の水神の件ですが・・・」
「ああ、元からこの件には首を突っ込むつもりだったんだ。それに、異国の呪術師とこの国の呪術師の問題ならばいざ知らず、まつろわぬ神に異国の神殺しもとなれば別だ。
出来れば京の呪術師とは関わりたくないのだがな。」
京の呪術師には羅刹王であることはばれたくはないのだが、まつろわぬ神が大和に顕現するとなればそうも言っていられない。放置すれば畿内に天災が降りかかるのみならず羅刹王の気配を感じて向こうからやって来かねないのだ。
今回の旅行の対価だとでも思えばいい。
俺は昨日アシシュからそして南蛮船の船長から聞いた話を篠に話す。
「なるほど、異国の呪術師に異国の神殺しですか。
何とも複雑なものですね。」
「全くだ。神殺しが関わっている以上何が起こるか分からない。
まあ、俺もその神殺しなのだがな。」
「それに、天竺の呪術師全員の意思が統一されているのかさえ不明です。
天竺の呪術師たちの目的はその神具なのでしょう。しかし、天竺の神殺しの意向が神具の収集であれば神に神具を捧げる者と神殺しに神具を捧げる者とで別れる可能性があるのではないかと。」
確かに、その可能性はあり得る。
全くもって混沌とした状況だ。
「それで天竺の呪術師が探している神具は何処にあるんだ。」
そもそもアシシュが言っていたような神具事態が聞いたことがないのだが、もしかしたら長いことこの国の呪術師の中心として在り続けた京の都の呪術師ならば知っているかもしれないと思って聞いた。
「おそらくは”八尺瓊勾玉”なのではないかと。」
「は?」
八尺瓊勾玉。
流石にそのことくらいは知っている。
三種の神器の一つだ。
今、篠が腰に佩いている天叢雲剣、八咫鏡に八尺瓊勾玉の三つのことを三種の神器といって支配者の証として歴代の天皇が継承してきたものだ。
そして、八尺瓊勾玉とは天照大神が天岩戸の隠れた際に玉祖命が作られ、八咫鏡と共に榊の木に掛けられたと言われている。
しかし、八尺瓊勾玉は伝承では勾玉であり曲玉、つまり決して円環状の神器ではないはずだ。
「いえ、確かに勾玉と銘打たれていますが本当は円環状、というよりも円盤に小さな穴が開いたものなのです。
この八尺瓊勾玉は現在帝が継承されておられます。玉というのは唐の国でも天子つまり”支配者”の証とされていますから。
他の所謂三種の神器はもう知っているようですが私がこの天叢雲剣を所持しており、八咫鏡においてはまつろわぬ天照大神降臨などという大事が起きないように伊勢神宮にて管理されています。」
八尺瓊勾玉とは、八尺(当時の長さで180cm)の円周の長さで、赤色(瓊=丹)の瑪瑙でできた曲玉なのだと言われている。
そして、勾玉は縄文時代の頃に出てきた装身具である。
この頃の硬玉(翡翠)装身具の起源は唐国の長江文明の一つ良渚文化における玉璧というものである。
この玉璧は同じ玉器の玉琮と共に神権の象徴として祭祀で中心的な役割を担ってきた。
そんな玉璧は日月の象徴として祭祀で使用されてきた。
アシシュが言っていた”日月の象徴”であるという神具に重なる。
更に、この玉璧は横に長い楕円や長方形の形に穴が開いた硬玉製大珠へと変わり、そして勾玉となった。
勾玉はCの字型またはコの字型のように湾曲したで玉に尾が出たような形をしている。
この勾玉において玉の部分は太陽を、尾の部分は月を表しているのだという。
「つまり、アシシャの言っていた特徴がぴったり重なるというわけだ。」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「つまり、その”八尺瓊勾玉”が我らが探している神具であると?」
「はい。伝承とはその形がことなるもののその可能性が高いかと。」
アシシュは慶次と会話した後にすぐに太極図を調べたが、明の国の学問であるということが分かった。
しかし、調べているのは決して明の国の神具ではない。この国の神具であるとかの神はおっしゃったのだという。
ならば、明の国のことではない。この日ノ本の国のことを調べなければならないのだ。
そこでアシシュは思い出した。
あの時慶次はこの太極図のことを色違いの”勾玉”なるものを重ねたような形をしているのだと。
”勾玉”とは何なのか。
これを知るには随分と時間がかかった。
この時代考古学などという学問は日本には存在しない。そのため、歴史として神話という者の存在は書物で知られるものの奈良時代頃には廃れてしまったためによく知られてはいない。
アシシュは運がよかったのだ。
普通は人の目を避けて人里離れたようなところに住むような桔梗のような京の都の呪術師ではない庶民の呪術師がこの堺の町にいたのである。
人間離れした非常識の固まりである慶次ではない。この日ノ本の国でも特に俗な堺の町に身を置き、この乱れた世界で古代、神話のことなどを調べる物好きな呪術師だった。
勾玉というものは遠い昔古代の時代に祭祀の道具としても使われた装身具である。
その独特な形は太陽と月を表しているのだとか。
そして、”八尺瓊勾玉”という三種の神器というものに名を連ねるれっきとしたこの国の神具として広くその名が知られているということだった。
また、その神具”八尺瓊勾玉”は”支配者”の証、天子の証としてこの国の王たる”帝”という存在が所持していることを知った。
「・・・なるほどの。我らが探す神具とはそれである可能性が非常に高いの。
伝承にて伝わる形が我らの探すそれとは異なるものの、神具とは神代のものゆえそれもあり得よう。
しかし、その”八尺瓊勾玉”がこの国の王であるを示すものであるというのならば、それを手に入れることは容易ではないな。」
老師の言う通り、その神具を手に入れるのは非常に難しい。
この国で最も硬度の高い呪術防壁を潜り抜け目的のものを見つけ出す。
そんなことは容易ではない。
「・・・仕方ない。あの者たちを頼るほか手はないようだ。ラークシャサの部下であり、かの王より力を借り受けていると聞く。」
ラークシャサより力を借り受けているとなればその力は神の権能には劣るものの、この国でも一流の呪術師どもを相手取って神具を手に入れることはできるだろう。
「しかし、よくやった。神具を特定したること見事。されどその神具がある場所が悪かっただけじゃ。」
そうだ。今回は、彼らの力を借りるのはしょうがない。元よりラークシャサの力を借り受けた彼らなしでは達成しえないであろうことは分かっていた。
勝負の場は、この日ノ本の国は京の都。そこで必ず我らが神具を手に入れる。
そこでふいに一人の人物を思い出す。
ーいや、大丈夫だ。彼はこの堺の町の離れに住んでいるというあの呪術師と同じく運よく会えただけのそこらの呪術師と同じだ。
アシシュはこの堺の町であった前田慶次といった青年を思い出しながら京の都の神具を思う。