カンピオーネ~天下一の傾奇者~   作:カラミナト

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一章 水神、そして天空神
一話


幽世。

欧州では”アストラル界”、中国では”幽冥界”、ギリシアでは”イデアの世界”。そして、神々からは”生と不死の境界”などというように呼ばれている。

日本は大江山、そしてそこの主と関わりの深い伊吹山の主に二つに入り口を持つ鬼の大将のために存在する山頂の龍宮御殿。

万民がイメージするであろう赤と白とそして金の装飾で彩られた煌びやか海底の竜宮城とは違いこの龍宮御殿はその名の通り煌びやかだが、それはゴツゴツとした岩山の山頂の広い大地にの上に広がっている。木々の緑と天上の青、そして御殿の白と黒で彩られた武骨ながら綺麗で多彩な色で彩られている。

 

今、この山の龍宮御殿の中、広すぎる中庭には刃と刃の合わさる金属音、衝撃と振動と砂埃、それに周囲の熱気と物理的な熱気に包まれていた。

この広大な中庭を囲むのは異形の者ばかり。それらは日本において鬼と呼ばれるものである。皆頭に立派な角を持っている者の、角を一本持っている者日本持っている者、はたまた三本、四本持っている者が存在する。そして、多種多様な角の形、大きさ。多種多様な肌色。多種多様な背格好。多種多様な衣服というように様々な鬼たちが数百、数千と存在している。

 

そして、彼らの注目する中庭の中央部には二つの影があった。一つは通常の人間の大きさだがもう片方はその二、三倍は縦に横に大きかった。

一方は、人間でもう一方は左右と額に三本の角があることから鬼であることが分かる。

 

着流し姿の人間はその身に朱と金の炎を纏い、大きな朱色に金の装飾のされた素槍を持っている。

一方のもろ肌を出した袴姿の鬼はその身の丈に合う大太刀を持っている。

両者はそれぞれの得物を構え相対している。彼らの周りの床は既に谷のように深く抉られたり、十数メートルのクレーターがいくつもあったりと散々な有様である。

 

「はあああっ!」

 

中段で槍の穂先を下の方に向けた左前半身の構え。

その構えから素早く穂先を相手に向け投擲する。朱色の長槍は赤く輝く炎に包まれて真っすぐに鬼へと向かっていく。その槍はまるでロケットのように炎を後ろへと噴き出し推進力を得て猛スピードで突き進んでいく。

 

普通ならば武器を手離すなどという愚行は犯すべきでない。武器を手離すということはつまり自殺行為だ。しかし、武器を手離すことによって相手の意表を突き、その一瞬を見逃さず必殺の一撃を放つなどといったように攻めに繋がる行動であれば別だ。

 

そして、彼は次の行動を起こしていた。

羅刹王故の莫大な呪力を使った”猿飛”で人間離れした跳躍力と身軽さを得た彼はその身のこなしと高速で鬼の死角となる後方へと移動する。以前には何も持っていなかったその手に先程投擲したばかりの朱色の長槍と同じ槍が彼の手に宿る赤く輝く炎が鬼の後方に現れたときにはそれを象って出現し始めていた。

 

鬼の前方には猛スピードで迫る赤く輝く炎の槍が迫ってきており、後方にはいつもの中段の構えをした青年が下から上に背中から鬼の心臓目掛けて突きを放っていた。

まさに、前門の寅後門の狼。鬼の得物は大太刀ただ一つのみで神速に至らんとするそれらの攻撃は防げてもどちらか一方だけだろう。

絶対絶命の窮地に陥ったと思われたが鬼の顔に焦りの色は見られない。

 

前方後門と鬼を挟み込むように放たれた攻撃はしかし防がれた。

 

鬼は左足を引き大太刀を円を描くようにしたから上へと振り上げ左切り上げで槍の突きを横から下方に弾いて防いだ。

 

その数瞬後に鬼の後方から大きな爆発音が轟いた。

圧縮され、穂先の一点に集中された炎の槍が鬼を覆うほどに大きく厚い鉄の楯に阻まれて爆発を起こしたのである。

こちらは青年が放った槍の突きとは違い完全に熱と衝撃を防ぎきれずに少なからず鬼の背中に傷を負わせた。

 

しかし、鬼は受けた傷の痛みを顔に出さずに槍を弾いたことにより重心を崩してしまった青年に対し、大太刀の返す刃で袈裟斬りに叩き付けた。

 

槍の穂先を下に向けたままで防御が間に合わないと理解した青年は大太刀と自身の間に炎を集め、圧縮し、強固な炎の楯を造り上げた。

 

その炎の楯は鬼の怪力で叩き下ろされた大太刀を防ぎ、すぐ後に崩れてしまうもののその間に槍を引き鬼と距離を取った。

 

そして、その後も素早さに分のある青年が鬼の周囲を動き回り、炎で、鉄で、槍で、大太刀で、攻撃し、防御しを繰り返していった。

時には両者共に炎を、鉄を操り刀に、槍に、短刀にと獲物を変幻自在に変えていき、更には体術まで使い相手に手傷を負わせようと多種多様な方法で攻防を繰り返していく。

 

青年の長槍と鬼の大太刀の奏でる度重なる剣戟の音が炎の熱風そして時折響く爆発音の中に響き渡る。

 

青年の動きは鬼を翻弄するかのような素早い動きからの素早い槍の突きの攻撃からなり、鬼は逆にその巨体を生かした大迫力の力攻めかと思われるが青年の動きに合わせるかのような小刻みな動きの中十数合の打ち合いの後に大きな一撃を与えるというような戦闘をしている。

 

そして今、十数合の槍と大太刀の打ち合いの後に青年がわずかながらに隙を見せた。

鬼はこの隙を逃すまいと素早く大太刀を大上段に構え一歩踏み出し上から叩くように袈裟懸けの力技の斬撃を放つ。

青年は鬼の大太刀受けざるを得ない態勢故に自身の朱色の長槍を大太刀と自分の間に持ってきて鬼の怪力と大太刀の大質量からなる振り下ろしを防ぐために長槍を炎で強化し、更に自身の身に纏う炎を両腕に集中させて朱色の籠手を形作る。

これは鬼が力技を放つときかつ態勢から避けることが出来ないときに青年が行ってきた鍛錬の時の対処方法である。今日だけでも十回に届かん位には行ってきた。

だからこそ防ぎきれる。

そう思い、鬼の大質量の袈裟懸けに備える。

 

青年のその小さな心の隙をこそ最も鬼が望んでいたこととは知らずに。

 

青年が考えていた長槍の柄と大太刀の刃が重なる大きな音と衝撃は現れなかった。

代わりの響いたのは刃が風切る音と床を大きく踏みしめて鳴るダンッという音だった。

 

そして、その後見えたのは右脇腹を深く切り刻まれ出血する青年の姿だった。

 

「クッ、そうか態と同じような行動を繰り返していたのか。自分の後の行動を制限して読み取らせ隙を作ると・・・

さすがだな。」

 

「フハハ、本物の殺し合いならばまだしもただの鍛練では貴様のような若造に勝ちを譲るわけにはいかぬでな。」

 

そう言った鬼の手にあるものは先程まで持っていた大太刀とは違い長さが短い太刀だった。

鬼の鉄を操る権能によって自身の得物である大太刀を太刀へと変化させ、得物の長さを短くすることによって態と青年の槍に当たらぬように空ぶらせたのだ。

そして、太刀の勢いを殺し、大きく一歩を踏みこみ、返す刃で青年の胴を真っ二つにせん勢いで青年の右から横に太刀を薙いだのだ。

 

しかし、青年は意表を突かれてものの鬼のこの左薙ぎの攻撃に対し対処して見せた。

青年は自身の長槍を持つ左手を離し、離した反動でそのまま右を前に出すように半身にして後ろに下がったのだ。確かに右脇腹に傷を負ったものの死を免れたのだ。

 

青年は槍から手を離し、体を身軽にして、バック転で鬼から距離を稼いだ。その後すぐに自らの炎をもってして未だにダラダラと血を垂れ流す右脇腹を焼いて傷を塞ぎこれ以上の大量出血を防いだ。

その間、青年は顔を微かに歪ませるだけでその眼は真っすぐに鬼を見据えていた。

 

「まだ続けるというのか」

 

「もちろん」

 

青年の負った脇腹の深い傷は普通の人ならば致命傷といってもなんらおかしくはないのだが、羅刹王の治癒力故かそれとも両者の考えが外れているためかどちらかそれとも両方なのかは分からないが、とにかくこの程度は両者にとって殺し合いでもなんでもなく日常的に行うただの鍛練なのだ。

 

青年の答えに対し鬼は口元を大きく歪ませそれに答えた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

この龍宮御殿のある幽世は比較的自由に霊視が出来る便利な場所ではあるが、人が住むような場所ではないため長居しすぎると人としての肉体を失う危険性がある。

それなのにこの青年は何故このような場所に普通にいることが出来るのか。

 

それは、彼が神殺しだからである。

 

彼の名前は前田慶次。

この日ノ本で唯一の羅刹王であり、この長い歴史をもつ日ノ本において史上始めて現れた羅刹王でもある。

 

彼には450年程後の平成の世の日本から神の権能によって時空を越えてタイムスリップしてきたという秘密をもつ。

そして、この戦国時代に辿り着いて三年間拾ってくれた前田桔梗を呪術の学問の師と仰ぎ、そして親子のように過ごしてきた。

 

そして、この時代に飛ばされて二番目にあったのが先程までの鍛練相手となっていた酒呑童子である。

 

桔梗と話し終えた慶次はせっかちな酒呑童子によってすぐさま慶次のいる伊吹山の入り口から酒呑童子の拠点であり、配下の大小様々な鬼が多くいる御殿へと連れ込まれた。

そこでは無理矢理連れ込んだ割には特にこれといった用事もなく桔梗に話した自身の話を特にガルダとの対戦の様子などを聞いただけで酒呑童子の用事は終わった。

 

ただ単に暇だっただけなのである。

 

慶次はこの時無理矢理連れ込まれ、更には話を聞く以外に大した用事もなかった酒呑童子に怒りを覚えてもののこの後にどうせだから実力を見せてくれと言った戦闘狂とも言える酒呑童子の案に乗って手合わせをすることになった。

 

その手合わせから始まって暫くはこの伊吹山で大人しくすることになるだろうしガルダから簒奪した権能を使いこなすにもちょうどいいということで日々第三者から見ると殺し合いにしか見えない鍛練を始めることになったのである。

 

ここで先程の鍛練からも分かるように両者の権能は非常に似通っている。

慶次の権能“迦楼羅炎”は攻防ともにバランスの良い権能で身に纏う炎を攻撃には槍や刀といった武器に変え、防御には楯をといったように炎を物質化する権能である。

 

ガルダは母を解放するために天上へ向かったときに風神ヴァーユが軍勢を整えるものの、多くの神々を打ち倒し、神々の王インドラの最強の武器ヴァジュラの攻撃を受けるも倒れることはなかった。

 

このことからガルダは高い攻撃力を持ち、強靭な身体による防御力も持つ非常に攻防バランスのとれた神なのである。

 

そして、酒呑童子だが、かの者は鉄を操るという力を持っている。

これは、酒呑童子が大江山の古代の山師を指していることからくる。

山師というのは当時の鉱山技師のことであり、この山師たちは大江山の豊富な鉱山資源、技術で多くの富を得ていた。そのため、これに目を付けた都の勢力がこれを襲い、富を収奪し、大江山を支配下においた。

この時のことを都の者たちが自身を正当化しようと山師たちを鬼つまり民の敵にした鬼退治の説話が作られた。

 

このことから山師(鉱山技師)である酒呑童子は鉄を操り、刀や槍といった武器を造る、さらには楯などといった防具も造ることができる力を持つ。

 

同じ炎や鉄といったものを操り、武器を防具を造り、攻防ともに活用する力を持つからこそ最初は武器を扱う技術や権能を使いこなすことに関して一日の長である酒呑童子が鍛練において優勢であったが、天性の槍術と身のこなしの上手さから今では勝敗は僅差で決まる。

 

同じような権能を持つからこそ、この日々の鍛練は慶次の槍術の才を伸ばし権能の掌握を早めたのである。

今では権能を完全に掌握したわけではないが得意な槍を含め武器も炎も自在に操れるようになった。

 

「全くもって貴様のその朱槍は面倒だ。鉄ではない故儂の権能が及ばぬ。」

 

酒呑童子の権能は当時の鉱山技師である大江山の山師のことを指していることから鉄を操るというものである。

しかし、酒呑童子の権能はそれに留まらずその先がある。それは、鉄の武器を無効化することが出来るというものである。

酒呑童子のその身体は鉄の攻撃受け付けない。鉄を操り、鉄と親しみ、鉄も味方とすることはあれど鉄がその身を傷つけることなぞはないのだ。

故に一部を除いて酒呑童子の身体はその身で刀などといった鉄の武器で受けるとその武器を無効化、ドロドロに溶かし使い物にならなく出来るのだ。

 

しかし、源頼光と四天王に寝首をかかれ、首を切り裂かれたという伝承上唯一の欠点として酒呑童子の首だけは鉄の刃を通すのだ。

 

このような特性により酒呑童子を相手取るものは苦戦を強いられるのだが、前田慶次だけは違った。

慶次の権能である迦楼羅炎は炎を物質化して得意の槍や刀などといった武器を造り出すことができるのだ。このような点から慶次の持つ朱色の長槍は鉄ではなく炎として見なされるため酒呑童子の不死身の身体を貫き得るのだ。

 

更に、ガルダは“竜蛇を喰らう者“として知られているため慶次の権能である迦楼羅炎は竜蛇に類する者であればその者に優位に働く。

そのため、八岐大蛇の子であるという伝承があり、鉄の武器を無効化するという蛇の不死的属性を持つ酒呑童子に対して慶次の迦楼羅炎で象られた朱色の長槍は有利なのである。

 

「権能の性質では俺の迦楼羅炎の方が勝っているはずなのだがな。

そろそろ一勝をもぎ取るとしようか。」

 

「フン、同じような権能を持つ以上長き時を生きた儂の方に一日の長がある。

技術で劣る貴様に負けようはずがない。」

 

そう。酒呑童子の言うとおり、同じような権能を持つ者との鍛練で慶次の権能の掌握は進んでいるものの、長い時をかけて磨き上げられた酒呑童子の技術に優らないがために慶次は三年たった今でも酒呑童子相手に一勝もしていないのである。

 

「しかし、羅刹王というものは常に上位の者を倒す権能の簒奪者だ。

今日死んだとしても文句は言うなよ。」

 

酒呑童子はそう大口を叩いた慶次に対して凶悪な笑みを向ける。

 

「ほう。そうまで言うとはなんぞ手があるというのか。良かろう。儂の期待を裏切るでないぞ!」

 

そう言って酒呑童子は太刀を再び変化させた大太刀を正眼に構える。

対する慶次は身に纏った炎を今日の鍛練で何度も行ってきた籠手の形成を全身で行い、赤と金の装飾で彩られた当世具足で身を包む。

 

「なるほど。鎧で身を包み防御力を底上げしたか。

なれど、その程度の防御力なぞ儂の怪力で打ち砕いてくれるわ!」

 

慶次が年齢為したことを読みその先の捨て身の突貫という行動さえも酒呑童子は読みきった。

 

しかし、行動を読まれた慶次は動揺も何も顔色さえも変えずに穂先を下に向けた中段で朱色の長槍を構え、酒呑童子を真っ直ぐに見据える。

 

そして、酒呑童子の読み通り慶次は炎の鎧を頼みとして突貫してきた。

 

素早さの勝る慶次を警戒し、酒呑童子はそのまま正眼に構えたままである。

 

「はああああ!」

 

慶次は声を上げ槍をただ真っ直ぐに突いてきた。

それに対する酒呑童子も突きを避けて槍を反らし、慶次の胴を薙ごうと動き出した。

 

酒呑童子の動きを読みつつも慶次はそれでも突貫する。

慶次の動きに疑念を抱くも酒呑童子は突き出された槍の左を大太刀で添えて右に反らそうとする。

 

慶次の槍は酒呑童子の横を通る。

酒呑童子の大太刀は既に右薙ぎに払われようとしている。

 

そして、

酒呑童子の大太刀は鬼の怪力をもって慶次の炎の鎧を破らんとそれにぶち当たり、

 

なんの抵抗もなく、まるで空気の塊を切り裂くようにして、

 

慶次の左を通り抜けた。

 

「なっ!!」

 

慶次は大太刀の軌道を描くように腹部から真っ二つに裂かれていた。

しかし、その断面からはメラメラと炎が燃え盛っており、腹部に空いた空間を埋め尽くしていき、そして、繋がった。

 

赤と金の仰々しい炎の鎧は酒吞童子の攻撃を真っ向から受けて隙を見出すためのカモフラージュただの張りぼてだったのである。

慶次はもちろんこの酒呑童子の動揺による隙を見逃すはずがなく槍を左から切り上げた。

 

酒呑童子は大太刀を振り下ろした時の反動を利用して左へと避けるも慶次の槍は酒呑童子の右腕に届く。

 

大太刀を持った酒呑童子の右腕が飛ぶ。

 

慶次の槍は酒呑童子の急所となる首へと突き込まれ、寸でのところで止まった。

 

「・・・殺らぬのか。」

 

「これで詰み。俺の勝ちだ。それ以上のもんは要らねぇよ。」

 

決着が着いた。

慶次の初勝利だった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「何故最後までやらなかった。」

 

二度目の質問だ。しかし、問いのニュアンスは違う。

 

「これはただの鍛錬だ。確かに殺されても文句は言えないような本気のぶつかり合いだが相手を殺す必要はない。

いつも俺を相手取ってそれでも俺を殺さなかったあんたと同じことをしたまでよ。

文句を言われる筋合いはねえ。」

 

酒吞童子はまだじっと見てくる。その先を促すように。

 

「ただ、あんたが現世でまつろわぬ神として殺り合うってんなら俺は本気で殺す。」

 

沈黙が続いた。

先程までこの中庭の周りでやんややんやと騒ぎ立てていた鬼どもはここにはいない。

酒吞童子と二人きりだ。

 

「なんであんたはこの幽世にいるんだ。いや、野暮な質問だったな。」

 

ふいに思い浮かんだ質問はいままでで一度も考えたこともなかった所謂酒吞童子の存在そのもの、核心を突くような質問だった。

恐らく酒吞童子に初めてこの鍛錬で勝って気が緩んでいるのだろう。

 

「まあ、簡単に言うと疲れたからというのが理由だろうな。」

 

「・・・そうか。」

 

疲れたから。

その答えに関してあまり理解できなかったがそれ以上聞くことはやめた。

 

「あんたみたいな奴は他にもいるのか。」

 

「儂のように幽世に隠れ住んで居る者か。」

 

「そうだ。」

 

まつろわぬ神が現世にではなく幽世に隠れ住んでいる。

その事実は羅刹王である慶次にとっては興味深いことであった。

その神が現世にひとたび現れればかの神と自分は対峙することになるだろう。故に少しでも情報が欲しかった。

まあ、酒吞童子のようにもう現世にて暴れようとは思っていないのであれば何の問題もないのだが。

 

「そうだな。名前までは知らぬが京の都には呪術師に干渉しておる者が一柱、それに大和の何処ぞにもう一柱おることは知っておるがそれ以上は知らぬな。

まあ、貴様に関わりがあるとしたら京の一柱であろう。京の呪術師に合えば自ずとかの神も関わってくるであろうな。」

 

京の裏に潜むまつろわぬ神。

そして、大和つまり平成の世の奈良にいるまつろわぬ神。

今後、関わってくるかもしれない二柱の神の事を考える。

 

「それはそうと。貴様、最後のあれはなんだ。」

 

思考中酒吞童子が言葉を挟んできた。

最後のあれ。つまり、身体が炎のようになり大太刀を避けた時のことであろう。

確かに今まであのような技を見せたことなどなかった。それに酒吞童子はあの権能のせいで初めて慶次に負けたようなものなのだ。

気になるのも当たり前だろう。

しかし、

 

「いや、分からない。」

 

「は?」

 

「あれは、何というか・・・今ならば出来そうだと思って勢いでやったんだ。

あれをもう一度やれと言われても・・・」

 

「やり方が分からぬ故出来ぬ、と。」

 

頷いて答えて見せた。

あの身体を炎と化する権能。それこそが迦楼羅炎の真の権能なのだろう。しかし、やり方が分からないのだ。忘れたではなく、分からないのだ。

それに、一つ不思議な点がある。

 

「あんたにもらった脇腹の一発なんだがそれが完全に癒えている。

ガルダは、迦楼羅天は不死身の神だ。恐らくはこのことに何らかの関係があるのだと思う。

しかし、今のところはさっぱりだ。」

 

今日の鍛錬は初めて酒吞童子に勝ったものの疑問が一つ増えた。


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