東方偏執狂~ブタオの幻想入り~   作:ファンネル

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第二十二話 紅魔館エピローグ

 

 

 

「みんなに何か言う事は?」

 

 パチュリーは、玉座の間に立たされていた。

 レミリアを中心に、咲夜、美鈴、フランの四人は、パチュリーを取り囲むかのように佇んでいる。

 その様子は、さしもの中世の『魔女裁判』の様である。

 

 四人はパチュリーを冷めた目で見ている。

 パチュリーは、視線を逸らしながら、弱々しく反論する。

 

「い、一応反論するけどね、わ、私は……私はあの男に洗脳されたわけじゃないわよ? あいつがその……私と同じ趣味を持ってたから、『同好の士』って奴よ! だからあの時、仲良く語り合っていたのはそう言うのじゃなくて……」

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 パチュリーの告白を聞いた四人に何ら変化はない。変わらずパチュリーを冷めた目で見ている。

 酷く侮蔑の含んだ冷たい視線。

 『養豚場のブタを見るかのような目』なんて生易しい表現ではない。

 そんな目で周囲から見つめられ、パチュリーもとうとう我慢できずに告白した。

 

「わ、悪かったわよ! 本当の事言うわよ! ――あいつに……心惹かれました。良いでしょ!? これで!」

 

 顔を真っ赤に染めながらのパチュリーの告白に、周りの目は少しだけ柔らかくなった様な気がしたが、その表情は侮蔑から愉悦に変わったかのようだった。

 レミリアは、パチュリーの告白に満足したのか、小馬鹿にする様にパチュリーをけなす。

 

「あんなに偉そうに言ってたあなたがねぇ~。まさか一日で陥落する何てねぇ? ちょっとチョロいんじゃない?」

「うぎぎッ!」

 

 反論の余地も無い。パチュリーは歯ぎしりしながら、レミリアの愉悦に歪んだ笑顔を見てるしか出来なかった。

 

 とはいえ、ある程度、イジって満足したのか、今度はちゃんとした顔でパチュリーと対面する。

 

「で、どうだった? ブタオとの初めての接触は」

「……」

 

 自分の感情に主観と客観を交え、極めて公正にパチュリーは話しだす。

 

「……凄かった。私は最初、あいつに対して敵対心を持ってた。みんなの様子がおかしくなっていくのを見て、ブタオが何かしたんじゃないかって……。その敵対心は大きくなっていって……。でも、実際に対話をしてみたら何の力も無いごく普通の人間で……いつの間にか持っていたはずの敵意は霧散して……。あいつに好意に近い感情に変わってしまった。――ハッキリ言って異常としか言えない。なんなのかしら、この感情は……」

 

 自己に起きた事象に対し、分析を進めるパチュリーではあったが、この異常ともいえる事態にパチュリーの顔はとても楽しそうに笑っていた。

 

 とても楽しそうに。

 

 えもいわれぬ高揚感。未知に対する好奇心が、彼女の知識欲を刺激する。

 パチュリー本人はきっと気付いていない。自分が笑っている事に。

 そんなパチュリーを見て、満足したかのようにご満悦なレミリアは、彼女の思考を一時止める。

 

「パチュリー。分析は後にしてちょうだい。ブタオの持つ不思議な力に興味が無いわけじゃないけど……。今はそんな事よりも大切な事があるでしょ?」

「……そうね。確かにそうだわ」

 

 親友のレミリアの意図を察するパチュリー。彼女はほんの少し思案した後に、周りに対して提案する。

 

「ブタオの力が何なのかは、後で調べるとして……。外部にブタオの能力が漏れだしたりしたら大変ね。結界の範囲の拡大と増強……。それに妖精メイド達に緘口令を敷いて、それから……」

 

 パチュリーは、次々にこれから紅魔館が行うべき事を上げ連ねていく。

 ただそこにいるだけで対象者を魅了する、最悪とも言える洗脳能力――。外部にブタオの能力が蔓延したら、とんでもない異変に発展するのは目に見えている。

 

 実際に洗脳された彼女たちだからこそ分かる事がある。

 それは、ブタオに『悪意』が無いと言う事だ。

 

 ブタオには悪意はない。その事実は、ブタオの能力が彼自身の意志で行われているものではないと言う何よりの証拠。

 力の制御の出来てないブタオを外へ連れ出すのは、危険極まりない。

 

 ブタオをこの紅魔館にずっと幽閉する。

 

 そう。これは幻想郷を守るため。幻想郷の平和を守るため――

 

 

 

 なんてのは、ただの大義名分である。

 

 彼女達自身、その事を理解している。

 本当の本当は、そんな綺麗事なんかじゃなくて――。

 

 ブタオと一緒にいたいのだ。

 

 ブタオと一緒にいると落ち着かないのに落ち着く。胸を焼き焦がすような痛みを伴いながら、その情動に快楽を得る。

 おおよそ言葉にできない自分達の感情に彼女達は酔いしれていた。

 

 ブタオと離れたくない。

 ブタオにずっとここにいて欲しい。 

 絶対に他人になんか渡すものか。

 

 ある程度の方針が決まった所で、レミリアは各自に伝える。

 

「――みんな。みんなで一緒にアイツを幸せにしてやりましょう」

 

 ブタオを幸せにしよう。彼女はそう言った。

 レミリアのその言葉を聞いた時、彼女達の心に言いようのない悦びが満ち溢れる。

 彼女達は思う。

 

 ああ、どうしようもなく、私達は“女”だ。

 愛する人の幸せを想うだけで、こんなにも満たされるのだから。

 

「ブタオを幸せにしましょう。そして、私たちもあいつに幸せにして貰いましょう」

 

 自分たちも幸せに――。

 いつに間にか、その場にいた全員が唇を歪ませながら笑っていた。

 これからの事を思うと、どうしても口が緩んでしまう。

 

 ブタオの笑った顔も、困った顔も、恥ずかしがっている顔も、はにかんでいる顔も――

これから全部、自分達に向けられるのだ。

 

 そうとも。この幸せを絶対に逃がしやしない。ブタオを絶対に離さない。この幸せは、自分達だけのモノだ。

 

 レミリア達の想いを知らず、当のブタオは、妖精メイド達と楽しく仕事に励んでいるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大陸風の意匠が伺える赴きある塀に囲まれた広大な屋敷。

 冥界を管理する【西行寺家】が住まう場所――白玉楼はそこにある。

 

 西行寺家の当主である西行寺幽々子は、最近の友人の様子に心配していた。

 いつもソワソワしているし、時折スキマを開いては、どこかを覗き見ている。とても落ち着きが無いのだ。

 以前までの彼女は、静かで落ち着きのある淑女の様な立ち振る舞いであったと言うのに、最近の彼女はまるで未熟な少女のよう。

 そんな友人――八雲紫は、今日もどこかアンニュイな雰囲気を出しながらため息をついていた。

 

「ねぇ紫? 本当に最近どうしたのよ、ため息ばかりついて」

 

 幽々子の問いに、紫はため息交じりに答える。

 

「……ちょっと、気になってる人がいて」

「気になってる人ぉ?」

 

 彼女の態度から、幽々子は何かピンと来たらしく、からかうように紫を囃したてる。

 

「もしかして殿方? 一目惚れでもしたのかしら? きゃーっ紫ったら乙女チックね~!」

 

 幽々子自身、あり得ない話だと思いながら紫をからかった。

 幻想郷の賢者である八雲紫が、まさか恋に悩むなんてあり得るはずがない。

 

 そう、あり得るはずがない。だと言うのに――

 

「ななな何言ってるのよ幽々子! そ、そんなわけ……そんなわけ……」

 

 顔を真っ赤に染めながら反論し、次第に口調が弱々しくなっていく。

 まるで初心な少女の様な反応に、幽々子は目を見開いて驚愕した。

 

「……うそ? 紫?」

「……ッッ」

 

 紫の乙女な態度に幽々子は開いた口が塞がらなかった。

 

「だだだ、誰!? 誰なのよッ!」

 

 とはいえ、幽々子もやはり少女であった。

 人の恋路に関わる事のなんと楽しいやら。幽々子は、たいそう興奮しながら紫に詰め寄った。

 

 その“気になっている人”とやらの名前を出すことが、大層恥ずかしいのか、紫は耳元まで顔を真っ赤に染め上げながら、その者の名前を口にした。

 

「――“ブタオ”って言う人なの」

 

 

 

 

 




紅魔館編、やっと終了!
次回より、白玉楼編を送ります
次回もゆっくりしていってください

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