暗殺教室〜 穢れた少年〜   作:狂骨

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神威の苦悩

帰りのホームルームが終了し、皆が帰路に着く中、神威はいつもと異なり、早歩きと言っていい程のペースで歩いていた。

急いでいるという雰囲気ではない。何かを焦っているかのようだった。

 

「なぁ…?テスト返しの時もそうだけど…何か神威の奴 変じゃねぇ?」

「あぁ…」

後ろでその様子を見ていた前原はおかしいと思っていたのか、隣にいる磯貝に耳打ちする。磯貝も頷く。

 

「何か妙だよな。もしかしてテストの事かと思ってたけど…アイツ確か10位だろ?一位が取れなくて悔しかったんじゃねぇのか?」

「う〜ん。そうかもなぁ」

2人の疑問は晴れる事なく、謎に包まれていく。

 

ーーーーーーー

 

皆から離れて、神威は速走りで帰路へと着いていた。短時間で終わったのか、空はまだ青く、夏の蝉の鳴き声が鳴り響いており、神威の肌を暑い日差しが差していた。

 

「どうしたの?教室から出るなり早々と行っちゃってさ」

「…」

すると、神威の両肩に手が置かれる。振り向くと、赫夜の顔が近くにあった。

 

「お姉さんとは帰らないのかな?」

「…!!」

赫夜の言葉を聞いた瞬間 神威の額に筋が湧き立つ。

 

「黙れ…!!」

その言葉と同時に神威は振り返り様に腕を振り回し、赫夜の首を切り落とそうとした。腕を振り回すと、その風圧で後ろに立つ木が揺れ、次々と葉が吹き飛ばされていく。

 

「…ぐぅ!?」

その瞬間 神威はその場に膝を着いた。いや、着かざるを得ない状態にされた。

 

自身の後ろには赫夜が立っており、右腕を捻られていたのだ。

神威が怒りの目を向けるのに、対し、赫夜は鋭い目を神威に向ける。

 

「力で私に敵うと思わないで」

「…ッ…」

神威は必死に力を加える。が、まるで鉄に手を埋め込まれているかの様にまったく振り解く事は出来なかった。力の差を理解した神威はその場で抵抗を止める。

 

「アンタが怒る理由はこうでしょ?“お姉さんを本校舎に復帰させる為の条件である50位以内が成せれなかった”。けど、そんな事必要だと思う?」

 

「…どういう事だ…?」

 

「アンタがやろうとしてるのはただの“自己満足”に過ぎないのよ。今日E組に来てずっとアンタのお姉さん見てたけど、結構楽しくやってるじゃない。仮に復帰したとしても本校舎の人達と馴染めると思ってんの?馴染めなかったら地獄じゃない」

 

「……」

赫夜の言葉で神威はいつも見ていた矢田の顔を思い出す。本校舎に所属していた時よりも満面な笑顔や、勉学の向上。全てこのE組で成長できていたのだ。

 

「だったら…俺はどう償えばいいんだ…?」

自身の疑問を赫夜へとぶつける。赫夜は表情を変えずに答えた。

 

「簡単よ。今すぐに“家族”に戻ればいいの。たとえ血が繋がってなくても…あの娘にとってアンタはたった1人の弟なのよ?」

「……戻るだと…?」

 

戻れるのか…?こんな穢れた姿になった俺が…?あんな事を…しでかした俺が…?

 

いや…戻れる筈ない…!!

 

「戻れる訳…ねぇだろ…」

歯を軋めながら答える。

 

「はぁ…これ以上 事実を隠せば、一番苦しくなるのは貴方のお姉さんなのよ?」

「分かってる……だが…俺はもう…家族には戻れねぇんだよ…」

 

再び己の過去を思い出した神威は歯を噛み締める。

赫夜は溜息をつくと神威の手を引く。

 

「早く帰るわよ。いつまでも突っ立ってちゃ先に進めないわ」

 

ーーーーーーー

 

1学期の終業式が終わってから、神威君と会うことは無かった。彼といると何故か不思議な感覚に見舞われた。まるで不安が全て安心と自身に変わるかのように私のマイナスな気持ちがプラスへと変わっていた。

 

A組との賭けで取った合宿まで残り数日。私は荷物を揃えるためにせっせと支度をし始めた。

 

「えぇと…3日間の着替えと…水着と…一応酔い止め…」

支度をしていると、不意に手が止まった。

 

「…」

いつも飾ってある2人の写真。1人は私、もう1人は黒髪で少し長い髪を持った男の子。

まだ見つからない…。いつになったら…桃矢は戻ってきてくれるんだろう…。

私は再び支度する手を動かす。旅行前だというのに、嬉しい気分では無くなってしまった。

もしも…桃矢もいたら…連れて行ってあげられたのに…。

 

ーーーーーーー

 

家へと帰還した神威は赫夜に部屋まで抱き抱えられ、ベッドに仰向けに放り出されていた。

「…何のつもりだ…?」

 

「そんなに苦悩してるんなら…忘れればいいわ」

 

仰向けに横たわる神威の上には赫夜が覆いかぶさる様に跨る。そして、赫夜は顔を神威の顔へ近づける。

 

「私が全部…忘れさせてあげる」

「…!」

神威は抵抗するために四肢を動かそうとするが、両手両足ともに赫夜の四肢に押さえつけられていた。その上、力量も赫夜の方が上な為に動くことは叶わなかった。

 

「私と…しよ。そうすれば嫌な思い出も全部…忘れられる筈よ」

 

赫夜は、少しばかりか息が荒い。本気のようだった。そして、神威の顔へゆっくりとその妖艶な唇を近づけていった。神威も抵抗は無駄だと悟ったのか、手足をバタつかせる事をやめた。

 

そして、唇と唇が重なり合う甘い接吻を神威は抵抗をしないまま、受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______訳ではない。

 

「ふん!」

 

ゴチン!

 

「あう!?」

 

鈍い音が響き渡る。神威は唇が接触する前に咄嗟に頭を前へと突き動かし、自身の額を赫夜へぶつけた。流石の頭突きを予想していなかったのか、赫夜はその場でのけぞり、後ろに倒れた。

 

「何故俺がそんな事を。お前が心配する程じゃねぇ」

神威は押さえつけられていた腕をコキコキと鳴らしながら回すと痛さで転げ回る赫夜へそう吐き捨てる。

 

「…じゃあどうすんのよ。卒業までその複雑な感情を抱いたままでいる訳?」

 

「…あぁ…」

赫夜の言葉に神威は言葉を詰まらせ、曖昧な返事をする。今の神威には言い返せる程の答えはない。

 

「はぁ…もういいわ。話は変わるけど…明日 買い物に付き合ってもらうわ」

 

「…は?」

 

 

 

 

 


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