暗殺教室〜 穢れた少年〜   作:狂骨

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イトナ再び

放課後

 

殺せんせーの涙ながらの誘いに皆は仕方なく寺坂の暗殺に付き合う事となった。

 

「そうだ!そんな感じで散らばっとけ!」

水着に着替えた皆は寺坂の指示通りプールにそれぞれ散らばった。だが、やはり不満に思う者もいるだろう。

 

「愚問だね。何で僕達が君の暗殺に付き合わなければならないのか」

「うるせぇよ竹林。さっさと入れ!」

「!?」

抵抗しプールへと入らない竹林を寺坂は後ろから蹴りを入れプールに突き飛ばした。

 

「すっかり暴君だぜ寺坂の奴…」

「あぁ…あれじゃ一年の時と同じだな…」

木村と三村は寺坂の横暴な態度を一年の頃と重ね合わせた。

 

すると、辺りを見回しながらターゲットである殺せんせーが現れた。

 

「なるほど。先生を水に突き落として皆さんに刺させるという訳ですか。いい案ですが、君はどうやって先生を水に突き落とす気ですか?その銃だけでは先生を動かす事すらできませんよ」

そう言い殺せんせーは寺坂を見た。寺坂の手には一丁の拳銃。皆がいつも使っているモノだ。だが、これだけではマッハ20の生物を水には突き落とさないだろう。

だが、寺坂は迷う様子を見せず、ゆっくりと銃口を殺せんせーの顔へ向けた。

 

「覚悟はいいな?モンスター」

「えぇ準備万端ですよ。鼻水も止まりましたし」

「ずっとテメェが嫌いだったよ…消えて欲しくてしょうがなかった…!」

「えぇ知ってます。この暗殺の後二人きりでゆっくり話し合いましょう♡」

寺坂から吐き出された言葉に殺せんせーは完全に馬鹿にしているようで緑のシマシマ模様で返答する。

それに寺坂は青筋を立てながら引き金を引いた。

 

「(来いッ!イトナ!)」

 

 

カチッ

 

 

その瞬間

 

プールの堤防が破壊された。

破壊された事により、そこから一気にプールの水が生徒達を攫うように流れ始めた。

 

「!?」

「ッ!皆さん!」

殺せんせーはすぐさま飛び上がり触手で生徒達を巻き上げた。

 

「この先には険しい岩場が!落下すれば死んでしまう!」

触手で次々と生徒達を巻きつけると近くの岩場に引き上げた。だが、水に入れるにつれ、少しずつ触手が水を吸収してしまい、使い物にならなくなってきていた。

 

ーーーーーー

 

「…!なんだ今の爆発音…!」

暗殺へと参加しなず、遠くから見ていたカルマは突然の爆発音に驚きすぐさま現場へと向かうため山を下っていた。

 

「おい、今の音はなんだ?」

「分からない…けどなんかヤバイ感じがするな…!」

下山の途中に合流した神威もカルマの横を走っていた。

 

そして、葉っぱを掻き分けるとプールへと到着した。

 

「…!な…何だよこれ……」

「…!」

カルマは空になったプールを見て目を丸くしていた。神威はその光景を見るや否やすぐさま走っていった。

横にはその光景を見て同じように目を丸くし立ち尽くしている寺坂の姿があった。

 

「お…俺は何も悪くねぇ…話が違うじゃねぇか…イトナを呼び出して…闘わせるって…」

その言葉からカルマは寺坂の作戦自体がシロの仕業だと見抜いた。

 

「そうか…自分で立てたんじゃなくて、最初から操られてたって訳ね…」

カルマがいると分かった瞬間 寺坂はすぐさまカルマの胸ぐらを掴み自分の無実を訴えた。

 

「言っとくが俺の所為じゃねぇぞ!?こんな計画やらす方が悪いんだ!皆流されていっちまったけ…ガハァ!」

寺坂の弁明にカルマは呆れると拳を握りしめ 殴り飛ばした。

 

「流されたのは皆じゃなくて自分じゃん。人の所為にする暇があったら何するべきか考えろよ?ターゲットがマッハ20でよかったね。じゃなきゃお前は大量殺人の実行犯になってたよ」

そう言うとカルマは寺坂を置き去りにし、神威が走っていった方へと向かった。

一方で寺坂は、殴られた頬を触りながら自分が何をしたのかをようやく理解し歯を噛み締めた。

 

ーーーーーー

 

苦しい

 

突然水が流れ 飲み込まれてから何も見えなくなった。辺り一面真っ暗。けれど、息苦しさだけが残り続けていた。

 

私はここで死ぬのか?このまま…

 

嫌だ…そんなのは絶対嫌だ…!まだ生きたい…!神威君ともっと一緒にいたい!桃矢にだって会いたい!だから目を覚ませ!目を覚ますんだ!私!

 

「!ガバァ…!」

目を覚ませば私は水中にいた。何とか水面へと顔を出すためその場で手足を動かした。

 

その時だった。

 

ドボンッ!

 

何かが水中に飛び込み私の身体を抱き抱えそのまま 一気に上へと連れていった。

 

バシャァ

 

「ぷはぁ!」

水面から出た途端に私は酸素を吸い呼吸を整えた。次回は少しずつ鮮明になり瞬きしているうちに私を助けてくれた人は近くの岩場に着地し横にさせてくれた。

 

「……と…桃矢…?」

視界が安定しないのか私の目の前には髪の長い男の子の顔があった。それはまるで自分の…弟のようなシルエットだった。

 

「…息はあるか…」

「!」

その声に私は正気を取り戻した。気がつけば辺りには誰もいなかった。

 

ドンッ!

 

「!?」

何かがぶつかり合う音が聞こえ、私は立ち上がりそこへ向かった。

ーーーーーーーー

 

「にゅぅ…」

崖の下では、今 まさに、殺せんせーが殺されそうになっていた。

 

相手は前回 神威に敗北したイトナ、そしてシロだった。イトナは前回と比べ、触手の数が少なくなっているものの、瞬間速度が倍となっていた。そのため、いつもよりも力が出せない殺せんせーは防戦一方を強いられるしか無かったのだ。

 

「ハハハ。少しずつボロがで始めてるね。防げるにしても残りあと数分ってところかな?」

「にゅう…」

シロの分析に殺せんせーは見抜かれたように焦る。本来なら、水を吸っただけではここまでは弱体化はしない。多少は劣るもののイトナよりは上な筈だ。けれども、殺せんせーが力を出せないのは水だけではない、水に含まれている薬の成分だ。この成分は触手の動きを鈍らせる特殊な効果を持っており、殺せんせーは生徒を救出するために何度も触手を水へと入れたので数本はもう使い物にならないのだ。

 

「……ん?」

その時だった。上空から何かが殺せんせーとイトナの間に飛来した。

 

バシャァァンッ!!

 

巨大な水飛沫が吹き上がり、イトナと殺せんせーの二人は水を大量に浴びてしまった。

 

「やれやれ…厄介なのが現れたな」

シロの言葉にイトナは目を血走らせる。前回 自分を敗退に追い込んだ人物が現れたのだ。

 

「か…神威くん…」

水飛沫が晴れ、殺せんせーの前には首に筋を浮き上がらせている神威の姿があった。

 

「やぁ神威くん 久しぶりだね。それにしてもどうしたんだい?そんな顔して」

「…」

殺せんせーは後ろにいるため確認はできないが、今の神威は少し怒りを見せているだろう。それもそうだ。自分の“家族”を危険な目に遭わせたのだから。

だが、その怒りの表情にイトナは屈することは無かった。シロは首を傾げると不審な質問をする。

 

「なぜ殺せんせーを助けるんだい?ここで彼が死ねば地球が救われるんだよ?」

ごもっともだ。ここで殺せんせーが死ねば地球は救われる。だが、神威にとってそんな事はどうでもよかった。

 

「コイツにはやってもらう事がまだある。それにその気になればいつでもぶっ殺せるんだよ」

「へぇ。随分と自信に溢れてるじゃないか。イトナ、相手をしてあげなさい」

「…」

シロに指示されたイトナは触手を振り回した。

「兄さんをやる前に……お前を殺す…!」

「やってみろ。今度は確実に息の根を止めてやるよ」

その時だった。またもや乱入者が現れた。

 

「イトナッ!シロッ!」

「?」

寺坂である。

 

「よくも俺を騙しやがったな!」

「ん?それはすまなかったよ。なぁに、友達をちょっと巻き込んだだけじゃないか。それに、浮いてた君にもチャンスだっただろ?」

その言葉に寺坂は更に怒る。

 

「うるせぇ!テメェは絶対許さねぇ!イトナ!俺とタイマン張れや!」

そう言われたイトナは自信に向けられる闘争心に反応し 寺坂の方へと触手を構える。

 

「おい寺坂、いきなりしゃしゃり出てきて何してんだ?」

神威は突然乱入した寺坂を威嚇する。だが、寺坂は臆さずに返した。

 

「今回の事は騙されていたとはいえ俺が実行犯だ。だから俺がケジメを付けなきゃなんねぇんだよ!」

「……」

寺坂は既に前とは違う。責任を感じ自分で何とかしなくてはと考えた結果なのだろう。神威は納得すると手を引いた。

「やめなさい寺坂くん!君では敵わない!」

「黙ってろフクレダコッ!」

 

 

 

 

 

 

そういい寺坂は羽織っていた制服を前に持ち、構えた。対するイトナも触手を振り回す。

 

_____いくぞ?」

 

「!?」

イトナの頭が振られた瞬間 マッハの触手が寺坂を襲った。脇腹に見事に入ったが、寺坂は意識を失わず、食らいつくように耐えていた。

 

「よく耐えたね。イトナ もう一発 あげなさい」

すると、

「へっくし!」

「え?」

イトナの様子が急変した。何度もくしゃみを出し始め、触手からは粘液が放出されてきていた。

それだけではない。

「それっ!」

「よいしょ!」

「てい!」

崖からはE組の面々が次々に飛び降りはじめ、イトナへ向かって水を浴びせ始めた。するとイトナの触手は水を吸収し始め、肥大化していった。

 

「あれれ?随分と水 吸っちゃったね。アンタらのハンデが少なくなった」

「!?」

E組の皆がいる中、岩場に座りながらこちらを見ているカルマがいた。恐らく、彼がこの策を思いついたのだろう。シロもバツが悪いのか唸る。

 

「んで?どうする?俺らも賞金持ってかれるのは嫌だし、みんなアンタの作戦で死にかけたし…寺坂もボコられた…これ以上やるなら、俺らも本気で水遊びさせてもらうよ?」

そう言うと皆は水を構えた。これ以上 水を吸えばイトナの触手は使い物にならないだろう。

 

「……引き上げるとしよう。(この子達をここで皆殺しにすれば…“反物質臓”と“負の細胞”がどうなるか分からない…)」

シロはイトナを呼ぶと、イトナは跳躍し、二人は森の中へと消えていった。

 

 

「ふぅ…何とか追っ払ったぜ…」

「もう来るなっての」

 

騒動が収まった事により、皆は口々に愚痴を漏らした。流石に皆もストレスになっただろう。

一方で寺坂は原に詰め寄られていた。

「そう言えば寺坂くん 散々言ってくれたよね?私の事 ヘビーだとか?」

「い…!?いやぁ…あれは敵がいて…」

「問答無用!」

 

「ほんと無神経だよね〜そんなんだから人の手の平でころがされるんだよ〜♪」

「うるせぇカルマ!いつも高いところから見下ろしやがって!」

 

バシャン!

好き勝手言うカルマを寺坂は水場へと引きずり下ろす。

「ちょ!?何すんの!上司に向かって!」

「誰がだ!触手直に食らわせる上司がどこにいんだよ!この際にテメェに普段の恨み キッチリ晴らしてやる!」

そう言い寺坂はカルマの顔へ次々と水をかけ、辺りにいる皆も混ざった。

 

見ると 寺坂の顔はいつもの険しい顔ではなく 何かを楽しんでいるかの表情であり、少しだけだが、皆に馴染んできている様だった。

皆の水遊びを眺めている矢田は不意に崖の上を見た。

 

「…?」

そこには背中を見せて去って行く神威の姿が一瞬だけ見えた。

 

 


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