暗殺教室〜 穢れた少年〜   作:狂骨

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消えているモノ

「…お前か…」

殺せんせーは神威の血まみれの顔 そして制服を見た。

 

「どうしたんですかその血は!?まさか怪我!?急いで保健室に!」

「…」

無理矢理連れて行こうと絡んでくる触手を神威は払った。

 

「…そこで熊を殺しただけだ」

「!?」

神威の言葉に殺せんせーは辺りを見回すと近くに熊の死骸が広がっており悲鳴をあげた。

 

「ヒィィイ!これ神威くんがやったんですか!?」

「騒ぐな。というか何故 来た?」

「にゅ?」

神威が殺せんせーへ現れた理由を尋ねた。すると殺せんせーは先程の雰囲気から一変した。まるで何かを疑うように。

 

「突然ですが…神威くんは…何かを隠していませんか…?」

「なぜ そう思う?」

唐突な質問に神威は聞き返す。

 

「以前よりも神威くんは皆と距離を置いています。その上 先程の叫び声、何かに対して恨みを抱いているようでした」

 

その言葉に木の葉が数枚 枝から離れ二人の間に舞い落ちた。神威は一瞬驚くもすぐに平常を取り戻す。

「へぇ。やっぱり殺し屋となると感情の読み取り方が違うな」

「……?」

 

殺せんせーは首を傾げる。

「何を言っているんですか神威君?私は元は人工的に作り出された生物ですよ。そんな元が人間みたいな言い方よしてください」

「……」

神威は少しの間殺せんせーの顔を見つめると「そうか」と言いこの場から去ろうとした。

 

「ちょっと待ってください!戻って皆と遊びましょうよ!?苦手なら先生がヌルヌルと教えますから!」

そう言い殺せんせーは神威を連れて行こうと触手を絡ませてきた。が、神威はそれを振り払った。

 

「俺に構うな。お前は“あの人”が残していったアイツらと接してればいいんだよ」

「……あの人……!?」

殺せんせーが神威へ今の事を問おうとした瞬間 神威は空高く跳躍すると木々の生い茂る林へと消えていった。

 

神威がいなくなると殺せんせーの雰囲気が変化した。それは、自分の忌まわしき過去の事を思い出しているようだった。

「…やはり君も…『あぐり』のことを…」

 

そう思いながらも殺せんせーは皆の元へと戻っていった。

ーーーーーーーー

 

次の日

 

 

神威は休み時間になると校舎を出て一人また、山の中へと来ていた。

 

「……」

いつもは聞こえるはずの鳥達の声が聞こえなかった。

 

「(やけに静かだな…)」

そう不思議に思いながらもしばらく気晴らしに散歩をすると校舎へと戻った。

 

「いつつ…」

「ん?」

すると近くの木陰に誰かが木に背中を預けていた。よく見るといつも寺坂と絡んでいる村松という生徒だった。

 

「こんなところで何してるんだ?」

「いつつ…なんだ神威か…」

神威は未だに寺坂グループと話した事があまり無かった為 こうして彼らと話すのは初めてだった。

村松は尻を抑えながらよろよろと立ち上がると事の始まりを話した。

 

「この前の模試の結果が良くてな。寺坂に見せたらいきなりキレて突き飛ばされたんだよ」

「へぇ。分からんな。なぜそんな事で怒るんだ?」

「俺も分からねぇよ。今まで一緒にいたけどよ…正直、もうついてけねぇよ」

そう言うと村松は神威の横を通り過ぎトボトボと校舎へと戻っていった。

 

「(まぁ俺にとってはどうでもいい事だがな)」

そう思いながら神威も教室へと戻った。

 

ーーーーーーー

 

教室へと戻ってみると 緊迫した雰囲気に包まれていた。

辺りには白い煙が広がっており 皆は咳をしていたり 中には目から涙を出しているものもいた。

「何だこれは」

「俺が聞きてぇよ。戻ってきてみればこのざまだ」

隣にいる村松もその光景に唖然としていた。すると中にいたドレッドヘアーの吉田という寺坂の取り巻きの一人が事の発端を話した。

なんでも 殺せんせーが買ったバイクで皆が盛り上がっている中 突然 寺坂が教室のドアを開け その雰囲気が気に入らなかったらしく、殺せんせーのバイクを乱暴に蹴り倒したのだ。そして周りの皆がブーイングし寺坂を攻めると怒った寺坂はスギ花粉のようなスプレー缶を床へと叩きつけて出ていったのだ。

 

「それでか…」

「…たく…アイツ何が嫌なんだよ…」

吉田も村松と同じく 寺坂に呆れていた。

皆々 寺坂がクラスに一向に馴染まない事や素行の事で色々と悩んでいた。

彼はなぜあそこまで皆から距離を置くのだろう。

 

ーーーーーー

 

施設へと戻った神威は部屋へと戻った。

「あら?お帰り。今日はいつもより遅かったのね」

部屋に入ると寝間着に着替えた赫夜が机に座っていた。恐らく勉強中だったのだろう。

 

「…あぁ」

何気なくいつもの素ぶりで返すと、その場に座り込んだ。

 

「赫夜…」

「ん?」

神威は静かに赫夜を呼ぶ。それに対して筆記の手を止めるとこちらを振り向いた。

 

「俺は…何に見える……?」

「…?」

その言葉に赫夜は首を傾げる。

赫夜は今発せられた言葉の意味が分からず質問をした。

「どういう意味?」

「何か変なんだ…前の鷹岡の件以来 何も感じなくなった…。何もかもがどうでもよくなったように」

 

机から降りると赫夜は神威の顔を両手で挟むと顔を近づける。前の神威だったら即 赤面しているが、今の神威は違う。全くの反応が無かった。

 

「…」

赫夜はしばらく神威の顔を見つめた。対する神威も赫夜の顔を見つめる。しばらくすると、赫夜はため息をつきながら手を離した。

「私にはよく分からないわ。もしかして慣れちゃったんじゃないの? はぁ…つまんない」

そう言い再び机へと向かった。神威は自分の顔を両手で触った。

「……」

 

ーーーーー

 

翌日の昼休み

 

「ひっく…ひっくひっく…」

殺せんせーが目から涙を流し泣いていた。

 

「どうしたのよ。さっきから涙流して」

女子達と同じ机で食事をしていたイリーナは不審に思い訪ねた。

 

「いえ…鼻なので涙じゃなくて鼻水です…目はこっち」

「まぎらわしッ!」

「どうも最近ひどいんですよね〜鼻水が」

未だベトベトと流れ出る鼻水を拭きながら殺せんせーは何故かと思っていた。すると、教室のドアが開かれ、寺坂が遅刻ながらも投稿してきた。

 

「お〜!!寺坂くん!今日は来ないかと心配でした!ね!皆さんもそうでしょ!?」

「う…うん…」

殺せんせーはすぐさま瞬間移動で寺坂の前に来ると肩を抱きながら鼻水を垂らし回した。結果として寺坂にほとんどこびりついており皆は引いていた。

寺坂は何も喋らずに殺せんせーの粘液を拭き取ると口を開いた。

 

「おいタコ、そろそろ本気でぶっ殺してやるよ。放課後プールに来い。弱点なんだってな?水が」

「にゅ…」

寺坂のまさかな発言に殺せんせーは驚く。そして寺坂は周りの皆へも横暴ともいうべき言い方で誘う。

 

「テメェらも手伝えや。俺が考えた策でコイツをぶっ殺してやるからよ〜!」

今まで暗殺に一切 参加しなかった寺坂のふざけた誘い方に前原は苛立ちながら立ち上がり反論した。

「寺坂、お前 今まで皆の暗殺に協力してこなかったよな?いきなりそんな奴に誘われても皆 はいやりますって乗る訳ねぇだろ」

前原のごもっともな発言に寺坂は鼻で笑う。

「来たくなきゃ来んでもいいぜ〜?そうなったら100億は全部俺のモンだな!」

捨て台詞を吐きながら寺坂は教室を出て行った。

 

「…あんな言い方だけど…どうする皆?」

片岡が皆に尋ねるも、今まで協力してこなかった者になど、する筈が無いだろう。

「私行かな〜い」

「同じく」

倉橋と岡野は当たり前のように反対した。

 

すると…

 

「…?足に違和感が…」

菅谷達と弁当を食べていた木村は足元から変な感触を感じた。それは皆も同じ…正体は…

 

 

「みんな行きましょうよ〜」

殺せんせーの鼻から滝のように漏れ出している大量の粘液だ。

 

「うわ!?粘液に固められて逃げられねぇ!?」

「せっかく寺坂君が誘ってくれたんですから〜皆と暗殺してその後 気持ちよくなかなオブブ…」

『まずアンタが気持ち悪いわッ!!』

 

ーーーーーー

 

「寺坂君!」

「あ?」

プールへと足を進める寺坂を一人の生徒が呼び止めた。渚だ。

 

「本気でやるつもりなの?」

「当たり前じゃねぇか」

「だったら具体的な作戦を皆に…」

寺坂は渚の胸ぐらを掴んだ。

 

「うるせぇよ!弱くて群れる奴ばっかが!本気で殺すビジョンも無い癖によッ!」

そう言い放ち渚を突き飛ばす。

 

「俺はお前らと違う!楽して殺すビジョンを持ってるんだよ!」

寺坂はポケットに手を突っ込むとそのままプールの方へと歩いて行ってしまった。

その様子を渚は止めず、ただ見ている事しかできずにいた。

 

 

 

 


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