神威side
義姉を気絶させた俺は保健室を出て木陰から潮田 渚 を見ていた。理由は鷹岡が烏間の選んだ生徒と一騎打ちをする事となり磯貝でなく、渚を選んだからだ。
たしかに奴は未知なるものを隠し持っている。集会の時だってそうだ。本校舎の馬鹿どもを殺気で威圧したからな。
「(さて、アイツはどうでるんだ…?)」
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渚side
「やります」
僕は烏間先生からナイフを受け取ると身体を温めるため軽く準備運動をした。対する鷹岡先生も上着を脱ぎ捨てた。やっぱり烏間先生と同じ軍人だから凄くガタイが良い。腕なんかも僕より倍は太いからついつい圧倒されてしまう。
すると烏間先生の手が肩に置かれ烏間先生は小さい声で僕に伝えてきた。
「いいか。これは奴にとってはただのゲームだ。だから最初は君にワザと攻撃を当てさせる筈だ。そこを突け」
僕は頷き烏間先生のアドバイスを頭に入れた。
「よし来い!」
向こうもやるき満々だ。向こうが軍人なら殺す気で行かなくちゃ。でも殺せば僕は殺人犯。やらなければ重傷を負わされ他のみんなにも苦しい訓練が降りかかる。
そう思っていると一つの考えにたどり着いた。
殺さなくてもいい。
僕はゆっくりと歩き出した。いつものように。通学路を歩くようにゆっくりと鷹岡先生に向かって歩いて行った。
のんびりのんびり…と。ゆっくり。
トン
すると僕の頭と構えていた鷹岡先生の腕がぶつかった。そして僕は 瞬時に殺気を出しナイフを振るった。
ここで初めて鷹岡先生は僕の殺気に気が付いた。気がつくのが遅いとは言え流石は軍人だ。僕の振るったナイフはアッサリと避けられる。だけど最初から僕はそう思っていた。だから逃げられないように服を掴み体制を崩す。正面からだとまた防がれるからゆっくりと背後に回って首筋にナイフを向ける。
「捕まえた」
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「へぇ。アイツ…殺意をコントロールしてやがるな」
一部始終を見ていた神威は無表情でありながらも渚に感服していた。
しばらくその姿を見た神威はそのまま山の奥へと消えていった。
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僕は鷹岡先生に勝つことができた。クラスの皆は大喜びし、何故か前原くんからはビンタを……。
「でもサンキュー!さっきのはスッキリしたぜ!」
「ははは…」
その時 先程倒れた鷹岡先生が 目を血走らせ歯をむき出しにしながら憤怒の表紙を浮かべ此方をみていた。
「ガキのくせにいい気になりやがって…まぐれがそんなに嬉しいか…?もう一回だ…!もう一回勝負しろッ!!」
「確かに次は僕が負けます。ですが僕らの担任は殺せんせーで教官は烏間先生です。父親を押し付ける鷹岡先生よりプロに徹する烏間先生の方が僕はあったかく感じます。僕らを強くしようとしてくれた事には感謝します。ですがすいません。出て行ってください」
激しく怒る鷹岡先生に対して僕は言いたい事を述べた。
だけど気に入らないのか鷹岡先生は目を血走らせ襲いかかってきた。
その時 鷹岡先生の体が宙を舞ったと同時にその場に崩れた。見ると目の前には烏間先生が立っていた。
「身内が迷惑をかけてすまなかった。後の事は任せろ。今まで通り君らの教官が出来るよう上に掛け合おう。いざとなれば銃で脅してでも許可は取るさ」
その言葉に皆は喜んだ。僕も凄く嬉しかった。
「く…させるかよそんな事…俺が先に掛け合って…「交渉の必要はいりません」
鷹岡先生が歯を食いしばりながら言った直後 旧校舎の方から声が聞こえ 皆が目を向けるとそこにはいつもと変わらぬ雰囲気を漂わせている理事長がいた。
「り…理事長…」
「新任教師の腕前に興味がありまして全て拝見させていただきました」
そう言うと理事長は倒れている鷹岡先生に向けて腰を下ろすと懐から一枚の紙を取り出した。
「鷹岡先生、貴方の授業はつまらなかった。教育に『恐怖』は必要です。が、暴力でしか恐怖を与えられない教師は三流以下だ。神威君に殴られた時点で貴方はもう『教育』を失っております」
そう言いながらまるで無数のムカデが入り込むかのように『解雇通知』を鷹岡先生の口にねじ込んだ。
「ここの教師の任命権はあなた方防衛省にはない。全て私の支配下である事をお忘れなく」
そう言うと理事長は去り、鷹岡先生も解雇通知を飲み込むと叫びながら荷物を持ち出て行った。
鷹岡 先生はクビとなり教官は今まで通り烏間先生。その決定に皆は歓喜の声を上げた。
だが、僕らには一つ気になる事があった。鷹岡先生が神威君に向けて言った言葉
『人体実験』
その言葉が全く意味が分からなかった。
皆が見回すも神威君の姿はどこにもなく呼んでも返事は返ってこなかった。