暗殺教室〜 穢れた少年〜   作:狂骨

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穢れた本能

「か…神威…くん…?」

「……」

突然現れた神威は、後ろで自分の名前を言う矢田に目を向けず鋭い眼光で鷹岡を睨みつけていた。

 

「グフ……なんだ?お前も父ちゃんに逆らうのか?」

拳を抉り込まれた鷹岡は腹を押さえながらゆっくりと立ち上がると神威を睨んだ。

対してその問いに神威は答える様子はなかった。

 

「おいおい。父ちゃんが聞いてるんだぞ?答えないのか?それともおっかなくて答えられないのか?」

鷹岡の言葉に神威は答えなかった。いや、鼻っから答えるつもりなどなかった。それに対し鷹岡はさらに挑発をしかけた。

 

「おいおい酷い目だな。まるで感情がないようだ。ま、そりゃしょうがないか。『人体実験』を受けてたんだしなぁ…?」

「…ッ!」

鷹岡の放ったその言葉の中にある1つの単語に今まで黙っていた神威がまるで虚をつかれたかの様に目を開いた。聞こえたのか周りの皆も同じ反応をみせていた。

 

「な……なぜお前がそれを…!!」

神威は言葉を震わせながら鷹岡に問う。すると鷹岡はニヤッと笑った。

 

「俺はお前らの父親なんだぜ?息子達の情報を仕入れておくのは常識だろ?理事長から見せてもらった生徒一人一人の情報にちゃ〜んと目を通したさ。たくさんの書類に目を通してる時 1つだけ妙な物があったな〜。顔は少し似ているが名前が全く違う生徒が。その名前が「黙れ…!」

瞬間 神威の足が振り上げられ鷹岡に向かって放たれた。だが焦りによって神威の足がぶれその蹴りは鷹岡にかわされた。

 

「放心状態となったか。本当にやべぇな〜 バケモノはよ〜!!」

 

蹴りを躱した鷹岡はさらに目を血走らせ挑発した。その瞬間 神威の目が太陽に照らされ一瞬光ると同時に全身からドス黒い殺気を湧き上がらせた。

「ッ殺す…!」

『バケモノ』その言葉に神威の心は乱れ本気で鷹岡を葬ろうとした。その時、教員室のドアが乱暴に開かれそこから少量の怒りを混ぜた表情をした烏間が走って来た。

 

「やめろ鷹岡!!」

そう叫びながら烏間は駆け寄ると神威と鷹岡の間に入った。

 

「これ以上 生徒に手荒な真似をするな!大丈夫か 前原くん 矢田さん」

「俺は平気っす…いっ…」

「わ…私も大丈夫です…」

前原と矢田は自分の安否を伝えた。だが神威は突然 間に入った烏間に対し怒りを見せた。

 

「邪魔をするな烏間…!邪魔するならお前から先に消すぞッ…!」

今までに聞いたこともない程 の怒声に烏間や周りの皆は冷汗を流した。すると、烏間はゆっくりと神威に近づき神威の耳に何かを口にした。

それと同時に 今まで殺意に溢れていた神威が一瞬にして静まり返った。

 

「こんな事で止めてしまってすまないが…」

「……いや…いい…」

神威はそう呟くと尻餅をついた矢田の元へ歩いて行った。

烏間は神威の落ち着きに安堵の息を下ろす。あと一歩遅ければ神威は確実に鷹岡を殺していただろう。

最悪な事態は回避できたが、烏間は鷹岡を睨んだ。

 

「鷹岡、これはどういう事だ?」

その問いに鷹岡は笑顔で答えた。

「何って教育さ。それにちゃんと手加減してるんだしいいだろ?なんせ俺はコイツらの父親なんだからよ〜」

その時 鷹岡の肩を何かが掴んだ。

 

「いや……貴方の子供ではありません…私の生徒です…!」

そこには怒りの形相を浮かべた殺せんせーが立っていた。

「ちょっと目を離していた隙に…何をやっている…?」

顔は赤く染め上がりそれに伴い触手も炎の様に染まっており、顔にはいくつもの青筋が浮かび上がっていた。

それに対し鷹岡は表情を変えずに肩に置かれた触手を振り払った。

 

「何か文句でもあるのか?モンスター。授業は政府からの命令で殆ど俺が受け持っている。そして、今のもアイツらに対してちゃんと教育になっている。それとも何か?多少 教育論が違うだけでお前に危害を加えてない俺を攻撃するのか?」

「ニュゥ…」

鷹岡の言葉に殺せんせーは反論出来なかった。成す術もなくなった殺せんせーはその場を離れた。

 

「ようし!まずはスクワット300回だ!」

鷹岡は手を鳴らし皆にやるように指示した。それに反抗する者はいなかった。皆は渋々頷き やることとなった。

神威は矢田を立たせると鷹岡を睨んだ。

(アイツ……誰から知ったんだ…?俺の素性は理事長と烏間しか知らねぇ筈…)

そう考えるも神威は矢田を背負い保健室へ連れていった。

 

ーーーーー

ーーー

保健室に着いた神威は矢田を降ろすとすぐベッドに寝かせた。

「さっきのところ…まだ痛むか…?」

「うん…でも少し引いてきたよ」

矢田の状態を確認すると神威はそのまま保健室から出ようとした。すると不意に手を掴まれた。

「お願い…一緒にいて…」

「…」

矢田の頼みに神威は何も言わずに近くにあるイスへ背を向ける形で座った。

 

「ねぇ…さっきの話なんだけど……あれって…どう言う事なの…?」

「…」

矢田は神威に聞いた。先程の鷹岡の言動を耳にしていたのは皆だけでなく 矢田にも聞こえていたのである。

すると神威は何も喋らずイスから立ち上がると矢田に近づいた。

 

 

「え…?」

神威は矢田の背中を軽く叩いた。

 

トン

その音と共に矢田の目は閉じ 意識を手放した。神威は前のめりに倒れた矢田を受け止めると静かにベットに寝かせた。

そして神威は保健室の扉を開くと静かに出て行った。

 

 

保健室を出た神威は入り口のドアに背中を預けた。

 

「くぅ…」

頭を抑えながら座り込み、口を噛み締めながら自身の感情を抑え込む。

「(なんだ…この締め付けられる感覚は…)

神威は数分 その場でうずくまると立ち上がりグラウンドへと戻った。

 

ーーーーー

ーーー

 

神威が保健室から出た時は 既に皆は限界に近づいていた。息切れしたものは鷹岡に容赦なく胸ぐらを掴まれ怒鳴られていた。

「烏間先生…」

その時 一人の生徒が涙を流ししゃがみ込んだ。

 

倉橋だ。

 

 

だが、鷹岡はその言葉を聞き逃さなかった。

 

「おい、烏間は俺たちの家族じゃないだろ?お仕置きが必要だな〜?父ちゃんの言う事を聞かない奴はッ!!」

鷹岡は自分の教育へ逆らう行為をした倉橋に向かい拳を振り下ろした。

 

だが その拳は誰かによって防がれてしまった。

烏間だ。

 

「それ以上生徒に手を出すな…暴れたければ俺が相手をしてやる…!」

その目は怒りに満ちていた。烏間はどんどん握力を強めた。流石の鷹岡も予想外なのか冷や汗を流していた。

だが鷹岡はすぐに持ち直し鳥間の手を振り払った。

 

「言っただろ?これは暴力じゃない。教育なんだよ。暴力でお前とやりあう気はない。やり合うなら教師としてだ…!。お前の生徒の中から一人選べ ソイツと俺が戦い生徒が勝ったらお前をここの適任と認めて出て行ってやろう。だがもし負ければ俺に服従だ」

そう言うと鷹岡はトランクから一本の対先生用ナイフを取り出した。

 

「だが使うのはこれじゃない。コッチさ…!」

そう言うと同時に鷹岡はケースからもう一本のナイフを取り出し対先生用ナイフを刺した。結果は見事に貫通。つまり 本物だ。

 

「やる相手が人間ならこうでなくちゃな♪さ、一人選べ」

「よせ!彼らは人を殺す訓練など一度もないぞ!」

「安心しろ。寸止めでも当たった事にしてやるよ。ま、できればだがな♪」

そう言うと鷹岡は烏間の足元へナイフを投げた。

 

(……俺はどうすればいい…奴と同じように容赦ない教育がここには必要なのか…ここに来てから迷いばかりだ……)

そのナイフを烏間はゆっくりと拾い上げると自分の後ろにいる生徒達へ目を向けた。

烏間は内心迷いを見せていたのだ。

 

 

『選ぶか選ばないのか』

 

ここで断れば鷹岡の教育がまた再開し更に生徒達は潰れる 。最悪の場合 彼らのトラウマとなり一生まとわりつく恐怖となってしまう。だが前者を選択した場合 その生徒一人だけ危険を伴わせてしまう。

 

烏間は自分の中で葛藤しながら考えた。前者か後者か。

 

数分悩んだ末に烏間は覚悟を決め選んだ。前者を。

 

そして烏間は自分の中で1番 暗殺のスキルが高い生徒へとナイフを差し出した。

「出来るか?渚君」

自分を選ばれた渚は動揺する。

周りの皆も同じだ。皆は 最初にナイフを当てた人物である『磯貝』を選択すると思っていた。

だが、当てたと言ってもその時は前原をペアを組んでおり、彼の実力はクラスで1番気の合う前原と一緒にいてこそ真価を発揮する。だが、今回はペアは認められない。そのうえ前原は先程 鷹岡の膝蹴りを鳩尾にモロに食らっており フルに活動できるとは思えない。

 

故に烏間は渚を選んだ。

だが烏間にはもう一つ理由があった。

それは昨日の鷹岡が来る前の訓練の時である。一度 皆の実力を確かめるため生徒は単独 またはツーマンセルを組み烏間と模擬戦を行った。その中で烏間は渚と対峙した時 何かを感じたからである。

 

それは気付いた時にはすでに喉笛に届いていた。防御しなければ食いつかれる。

 

まるで首筋に突然巨大な毒ヘビが牙を剥きながら現れたかのような感覚だったのである。

それを発動させた渚の能力を見極め 烏間は渚を選んだのであった。

 

「俺は地球の未来を掛けた暗殺を依頼した側として君たちとプロ同士だと思っている。プロとして君達に払うべき報酬は普通の中学生活だと思っている。もちろん強要はしない。その時はその報酬を続けるよう俺が鷹岡に掛け合おう」

烏間は渚や他の皆を見ながらそう言った。

 

その目は渚達が今まで見たこともないような程に真剣な目であった。

すると 渚の手がゆっくり動き 烏間の手にあるナイフを受け取った。

 

「やります」

 

 

「よりによってそんなチビを選ぶとは腐ったもんだな〜烏間」

意外な人物を選んだことにより烏間の心情を知らない鷹岡は鼻で笑う。

対して渚は落ち着きながらナイフを手に待ち構えた。

 

その景色を神威は旧校舎の木陰から見ていた。

その目にはナイフを手に取る渚が写し出されていた。

 

 


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