「ふむふむ。クラス対抗の球技大会ですか。健康心身で競い合うとは大いに結構。しかし……トーナメント表にE組が載ってないのは……」
渡された用紙を見て殺せんせーは疑問に思った。それはクラス対抗球技大会が近日にあるからだ。A〜からDは入っているものの………
「E組はエントリーされねぇんだよ。1組余るってステキな理由でさ」
岡島が困惑する殺せんせーに説明した。
「その代わり、試合後のエキシビション、要するに見せ物に参加させられるんだ。男子は野球、女子はバスケ、の選抜メンバーと戦らさせるんだ。一般生徒の為の行事だから部の連中は本戦に出られない。だからここで皆に力を示す場所を設けたって訳」
「だから負けたクラスもE組が蹴散らされる様子を見てスッキリに終われるしE組に落ちたらこんな恥かきますよって警告にもなると」
「成る程…いつものやつですか…」
「そ」
磯貝と片岡のダブルクラス員の説明に殺せんせーは若干の汗をかいた。
すると
ガタンっ
「俺ら晒しもんとかマジ勘弁だわ」
クラスの荒くれ者である寺坂とそのつるみである吉田と村松が不満な表情で席を立つと
「じゃあな」
「おいっ!寺坂!」
それだけ言い捨て入り口の戸を開けて出て行った。
「野球ときたら頼りになるのは杉野だけど何か勝つ秘策とかねーの?」
前原が杉野に尋ねると杉野は少し歪んだ表情をした。
「無理だよ…うちの野球部物凄く強ぇんだ…。特に今の首相の進藤は豪速球で他の高校からも注目されてる。勉強もスポーツもできるとか不公平だよな…」
落ち込んだ表情をすると杉野は手に持っている野球ボールを握りしめた。
「だけど勝ちたいんだ殺せんせー。好きな野球で負けたくない…!こいつらと組んで勝ち…「ワックワックワックワック♪」
「「「「「……………」」」」」
「えぇと…殺せんせーも野球がしたいのはよく分かったよ…」
見ると殺せんせーはウキウキであり野球の格好までしていた。
「ヌルフフフフフ!先生も一度スポ根ものの熱血教師をやりたかったんです!殴ったりはしないのでちゃぶ台返しで代用を♪」
「「「「「「「用意良すぎだろ!!!」」」」」」」
そして終わった後、寺坂組を抜いたE組の皆は各自下校の準備をしていた。カバンも何もない神威はいつも置き勉である。
そしていつも通り置き勉をして矢田と帰ろうとすると
「神威!」
「ん?」
突然杉野に呼び止められ神威は振り向いた。
「何だ?」
「お前ってさ、野球したことあるか?」
「…大まかな投げ方と打ち方なら…」
突然の質問に神威は顔色を変えずに答えた。
「ならさ!ちょっとこの後………
「?」
ーーーーーーーー
ーーーーー
ボンッ!ボンボンっ!
いよいよ球技大会当日となり、E組の面々は緊張構えをしていた。他の組が次々とやり終えるとようやく自分達の番であるエキシビションの時間だ。
『では!お待たせしました!E組vs野球部エキシビションマッチを行います!』
すると皆は球場に入った。
「学力と体力を兼ね備えたエリートだけが上に立てる…それが文武両道だ杉野。お前は両方とも持たなかった選ばれざる者。それは他の奴らも同じだ。そいつら共々二度と表舞台を歩けない試合にしてやるよ」
そう言いすてると進藤は自分のベンチへと歩いて行った。
「あれ?そう言えば殺せんせーは?」
「あ…あそこ」
皆が渚の差した方向を見ると散らばっている野球ボールに擬態している殺せんせーがいた。
「ワンっ!とぅっ!すりぃっ! わんっ!とぅっ!すりぃっ!」
「な…何を表してんだ?」
「えっと…殺す気で勝てってさ」
殺せんせーは国家機密な為、人前には出ることが出来ず顔色で指示を出すようだ。
「確かに俺らにはもっとデカイ目標がいるんだ!奴ら程度に勝てなきゃ殺さないな」
「よっしゃー!殺ってやるか!!」
「「「「「「おうっ!!!!」」」」」
磯貝の掛け声と共に神威以外のE組の皆は掛け声を上げた。
先行はE組であり、一番バッターは木村だ。
「プレイ!」
「んっ…!!!」
開始の合図とともにピッチャーの進藤は本気ではないものの自慢の速球を投げた。
結果はストライク。だが木村は驚いただけであり、それ以外はこれといった反応はなかった。
「おぉ〜…すげ!?やっぱエースは違うな〜。よし!もう一本!」
『お〜っとバッター気合い充分だw」
アナウンスが木村を小馬鹿にすると、
カキーン
今度は打ち返し一塁へと進んだ。しかも扱いが難しいバントだ。野球部が駆けつけると
『せ…セーフ!?』
なんとラインギリギリのセーフであり、野球部が呆気に囚われていると木村はスタスタと進みすぐに一塁へと着いた。
「木村君はE組で二番手の瞬足。一度気を引かせれば一塁などあっという間でしょう♪あむ」
ねるねるね〜るねを作りながら殺せんせーは解説した。
『二番 E組 潮田君』
次は渚であり、これまたラインギリギリのバントだ。
「な…!!」
「バカな…!素人ならまだしも進藤クラスの速球を狙った場所に跳ね返すのは至難の業だぞ…!?」
二回も自慢の球を打たれた進藤はともかく監督も驚きを隠せなかった。
それもそのはず、彼らは時速などでは勝負にならないマッハで練習をしたのだから、進藤と同じホームで飛びっきり遅く投げた殺せんせーの球を見た後は進藤の球など止まって見えるだろう。
カキーン!!
『打ったー!E組……とうとう満塁!?調子でも悪いのでしょうか進藤君!?』
呆気に囚われ進藤は打席を見ると
「す…杉野!」
因縁の相手でもある杉野が立っていた。
進藤は心を整理し先程のバントを見て対策である速球を投げた。だがその瞬間に杉野はバットの持ち方を変えた…!
カキーン!!!!
『ビ……打撃ぃぃーーー!!!?????深々と外野に抜けるー!!」
打撃うちをしホームランを取った。
そのまま塁に立っていた木村達は一斉に動き出し走者一掃のフリーベースを決めた。
「よっしゃぁあー!!!!!!」
杉野や他の皆も歓声を上げていた。
「な……何だこれは…このままでは……」
野球部のベンチで監督である先生が困惑していると
「顔色が悪いですね寺井先生。体調が優れないのですか?」
「!!り………理事長…!」
そこにはこの学校の理事長である浅野学峯が立っていた。