「ではお大事に」
翌日神威は医師から退院を許可され受付で退院手続をしていると
「おはよう」
後ろから聞き慣れた声が聞こえた。振り返るとポニーテールが魅力的な少女 矢田桃花が微笑みながら立っていた。
「あぁ……矢田か……服変えたのか?」
「うん。今日から衣替えだから。一緒に学校行こ♪」
その笑顔に神威はいつもと変わらぬ事に安心する。
「……あぁ。もう少し待ってろ」
渋々承諾すると矢田は微笑みながら入り口へと戻っていった。
その後 、手続きを終えると神威は入り口で待っていた矢田と合流し旧校舎へと歩いて行った。
サッサッサッサッ…
皆が必ず通る山道にて2人が歩いていると
「おはよう」
後ろから第三者に声を掛けられた。2人が振り向くとそこにはセミロングの髪を後ろで二つに分けているツリ目の少女 速水凛香がたっていた。
「あっ!凛香!」
「よう…」
お互いに挨拶を交わすと
「神威、退院したんだってね」
「あぁ。たった一日だけだったけどな」
「でもよかった。アンタがいないとつまんないからこれからは気をつけなさいよ」
そう言うと速水は神威の頭を撫でた。神威は何故か抵抗しなずに目を閉じていた。
「え?凛香何してるの!?」
「撫でてるの」
「ちょっとなんで!?」
「なんか………和むし…可愛い………」
「うぅ〜………なら私も!」
すると矢田も神威を撫で始めた。2人の手の感覚が次々に頭から感じ、それと同時に神威の長くボサボサな髪が次々と掻けわけられていった。
「………」
それはすぐには終わらなかった。
ナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデナデ…
(やっぱり可愛い………)
速水は頬を染めながら内心そう思っていると神威も頬を少し染めた。そろそろ限界のようだ。
「もういいだろ…行くぞ…」
「あ!待ってよ〜!」
神威は進むと2人も後を追いかけるように旧校舎へと向かって行った。
ただ2人は神威に何らかの疑問を抱いていた。
"なんで神威(君)は笑わない(の)?”
神威がE組に来てから少なくとも4ヶ月は経過している。それなのに神威は誰の前でも一度も笑顔を見せていなかった。皆で修学旅行に行った時も、律が改心した時も、イリーナが教師を続けらる様になった時も、神威は笑顔を見せなかった。
2人はそれが疑問に思って仕方がなかったのだ。そしてもう一つ、速水はともかく、矢田はとてつもなく疑問に思う点を持っていた。
それは
"あの目は何?”
修学旅行の時、不良に捕らわれた自分を助けた拍子にとれた眼帯、その下にあった人間ではない目玉。そしてヒビが入ったような目元、最初はメイクかと思ったがあれはメイクでは到底できるものではなかった。
そんなことを思いながらも2人は神威の後を追った。