放課後、僕らは真ん中を囲うように机を移動させリングを作った。そしてその中で神威君とイトナ君は向き合い戦闘の合図を待っていた。
「では神威くん、リングの外へ出たら負け、というルールでいいかな?」
「あぁ」
そう言うとシロという人は手を上げ合図を出した。
「では……始め!」
ヒュンッ!
「ん?」
スッ…!
突然神威君は右へ避けた。そして僕らはとてつもないものを見てしまった。
それは殺せんせーと同じ…
_____『触手』だ。
イトナ君の頭部から何本も生えていて…残像を残す程 しなっていた。
「どこでそれを………」
その言葉は殺せんせーの方から聞こえてきた。
「どこで手に入れたぁ!!!!その触手を!!!!」
見ると殺せんせーの肌がドス黒く染まっていた。歯も剥き出しになっていて…寺坂くん達に激怒した時とは比べものにならない程まで…。
殺せんせーのこんな表情を見るのは初めてだ。
「君に言う義理はないねぇ。だが納得したろ?この子と君は兄弟だ。にしても、怖い顔するねぇ。何か嫌な事でも?」
「…………どうやら貴方にも書きたい事が山程あるようですね……」
「だから言う義理はないと言っただろ?イトナ、殺れ」
そしてその触手は一斉に神威君に襲いかかった!
「ん?」
ヒュンッヒュンッヒュンッ…!
風を切りながら触手はマッハで神威くんに迫っていった。
「…!!」
僕らの目に映ったのは異様な光景だった。
「な!全て避けただと?」
それはたった一瞬の出来事だったけれど、僕らの目にはちゃんと捉えられていた。マッハ20の触手を神威君はいとも容易く避けたのだ。
全て避けきると神威君はイトナ君を挑発するかのように手招きをした。
「どうした?来いよ?」
「殺す!」
その挑発にイトナ君は乗り、触手を更に神威君に向けて放った。
ーーーーーーーー
放たれた触手を神威は横に身体をズラす形で避ける。
続いてくる触手も同じように避ける。第三者から見れば、イトナの触手は殺せんせーとほぼ同等。全てが残像を生み出す程である。それに対して、神威の回避はそれを凌駕していた。
「フッ!」
一斉に向かってくる触手に向けて、神威は構えると、自身の寸前の前に来た触手に手を当てると叩くように振り払った。
「なに…!?」
動揺するイトナ。だが、その動揺が神威の行動を許してしまった。
「行くぞ」
地面を踏み込むと、一瞬でイトナの目前に移動する。ようやくその姿を捉える事ができたが、時は既に遅い。
「ガハァ…!」
イトナの腹に神威のブローが叩き込まれる。いや、それだけでは終わらない。怯むイトナに休む間を与える事なく、神威はその身体に向けて次々と蹴りを放つ。
「ぐぅぅ!?」
放たれる連続蹴りにイトナの身体から次々と血が滲み出る。
「触手だけに頼ってるお前が勝てる訳ないだろ」
蹴りを終えると、イトナは満身創痍の状態と成り果てていた。服は所々に破れ、体力も殆どが削ぎ落とされていた。
「遊びは終わりだ」
そして、神威はその状態のイトナへと最後の追い討ちとして頭を掴むと窓に向けて放り投げた。
ガシャアァァァンンンン!!!!!!!!!!!
イトナの身体はカーテンを間に挟みながら窓ガラスに直撃し、外へと放り出された。
「お前の足はリングの外……ルールに従えばお前の敗けだ。俺より弱いって事だ」
「な…!!」
『弱い』という言葉にイトナ君の目付きが変わった!
「消えろ」
その吐き捨てられた言葉にイトナの怒りが頂点に達した。
「ヴゥゥおおおおおおおァァアァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
目は血走り、頭に生える四本の触手は殺せんせーと同じく黒く変色し、動きも荒々しさを増していった。
「俺は強くなった!!!!触手を得て誰よりも強くなったんだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
雄叫びを上げながらイトナは怒りの矛先を神威に向け、その場から飛び上がると漆黒の触手を神威に向けて放った。
sideout
俺は堀部とやらを吹っ飛ばしたあと教室へ戻ろうとした。
「ヴゥゥおおおおおおおァァアァァァ!!!!!!!!!!!!」
後ろでなにやら呻いているがどうでもいい。呻いて強くなれるなら苦労はねぇ。
グシュ
?
何だ?
これ?
俺の腹部からなにら変な物が飛び出して来た。よく見ると触手だった。
何だ?何でこんなんが…………あれ?………………意識が……………だんだん……………
「神威君!!!!!」
姉の叫び声を最後に……俺の意識は…途絶えた……………
sideout
イトナの触手が神威の腹に向けて放たれた時、殺せんせーはすぐさま救出しようと前に出る。
だが、その瞬間
「にゅ!?」
横からシロの袖に仕込んでいた光が自分を照らした。
殺せんせーは身体が硬直し、動けなくなってしまう。
「おっと、手が滑ってしまった」
「!?」
光が無くなったが、時は既に遅かった。
目の前には 触手で胴体を貫かれて倒れている神威の姿があった。
「神威君!!!!!」
矢田が叫びだし、すぐさま駆け寄ると神威を抱いて起こした。腹部からは大量の血が流れておりこのままでは命に関わる危険な状態であった。
「神威君!大丈夫ですか!」
すぐさま殺せんせーもその場に移動した。神威の安否を確認するも神威の目は閉じており呼吸もしていなかった。
「邪魔をするなァァァァッ!!!!」
イトナがその場に攻撃を仕掛けるもすぐさま殺せんせーが2人とも安全なリング外へと運んだ。
その瞬間にイトナの身体は突然床に落ちる。
「すいませんねぇ殺せんせー、この子はまだ早かったようだ。しばらく休学させてもらうよ」
原因はシロが放った麻酔針だった。シロはイトナを担ぎその場を去ろうとしたが殺せんせーは肌を黒くしながら止めた。
「待ちなさい!教師としてその子は放ってはおけません!卒業まで私が面倒を見ます!それに……先程の光!あれは何の真似ですか!!」
殺せんせーは明らかにシロが自分が神威を助けようとした行為を妨害したとしか思えず声を上げていた。けれども、シロは反省の色を見せようとはしなかった。
「それは申し訳ない。手が滑ってしまってね。この子はすぐに復帰させますよ。ま、止めたければ止めればいいさ」
そう言うとシロは去ろうとした。
ブシャァ!
殺せんせーが止めようとしたものの触れた瞬間に殺せんせーの触手が破壊された。
「対せんせー用繊維。君は私に触れることはできない」
そう言うと今度こそシロは去っていった。
「にゅ〜……」
「殺せんせー……」
「とりあえず私は神威君を病院へ連れて来ます!皆さんは早めに下校を」
そう言い殺せんせーは神威を持ち上げると矢田を来た。
「殺せんせー!私も一緒に行きます!」
「…………分かりました。」
そう言うと殺せんせーは2人を持ち上げ病院へと飛んでいった。
「にしても、驚いたわ。あのイトナって子、触手を出すなんて…」
「いや、あの触手攻撃を全部躱す神威にも驚いたよ」
「うん……でも何で殺せんせーはあの時あんなに怒ったんだろ…?」
「あぁ…ますます気になるよ…殺せんせーの秘密……それに神威も…」
「うん…」
クラス中ご疑問を持ち始めたが今はそれを聞けるような状況では無かった。