IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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専用機タッグマッチトーナメント 開催

とうとうこの日がやってきた。

 専用機専用タッグマッチトーナメント。

 名前の通りIS学園に在籍している専用機持ちのみが出場し戦う大会。

 普通専用機は各国のIS乗りの中でトップレベルにしか与えられない為、専用機をもっている者はIS学園の一般生徒と比べるとその操縦技術の差は歴然である。そんな専用機持ちがタッグを組んで争うこのトーナメントは、専用機持ちにとっては自分の技術を限界まで引き出し戦える場として、一般学生にとっては授業では見られない高レベルの操縦技術を学べる場としてお互いにメリットがある。大会開始までまだ時間があるのに、ほぼ全ての生徒が観客席に座って待っている。皆この大会に凄く関心を持っていることがわかる光景だ。

 

「ねえねえ! どのチームが優勝すると思う? 大本命はやっぱり現役のロシア国家代表の会長と第四世代のISを持つ篠ノ之さんのチームよね! 一番人気だから倍率低いわ~」

「次点で人気なのは3年のダリル先輩と2年のフォルテ先輩のコンビね。この二人去年もタッグ組んで出場してたからどのチームより安定してるもの」

「それよりも織斑君! ほとんど接点なかった更識簪さんと謎のタッグ結成したけど、織斑君と更識さんのチームはどうなの?」

「織斑君は専用機持っているといってもIS学園に入ってからだし、織斑君の専用機って偏った性能だから……。更識さんは2学期初めに行われたクラス対抗戦で3組と戦い勝ってるけど3組代表は専用機持ちではないし、それ以前の学園行事は無人機襲撃とかIS暴走とかあって流れてるから実力がよくわからないのよね。だから人気もボーデヴィッヒ、デュノアペアとオルコット、凰ペアより低くなってるわよ」

「でも更識さんは一応今は日本代表なんでしょ? それなのに低いの?」

「そこなんだけどなんか代表に選ばれた理由ってよくわからないし、IS学園ではさっき言ったみたいに実力見せてもらえてないもの」

「大穴は……青崎さんの単勝だね。これ賭けてる人いるの?」

「数人万馬券狙いでいるみたいよ」

 

 会場に向かう途中こんな会話があちこちから聞こえてきた。……ああ、うん別の意味でも皆この大会に凄く関心持っているんだな。

 

「……」

 先ほどの賭け話を聞いてから簪は不機嫌そうに俺の横を歩いている。自分たちが出場する大会で賭けが行われていることに怒っているのか?

 

「葵のせいで万馬券があっちになっているなんて。本来なら私達が万馬券扱いされるも優勝し、がっぽり儲けるつもりだったのに」

 ……そうだった、こいつはこういうやつだった。

 

 

 

 

「ついに始まりました専用機専門タッグトーナメント! 例年でしたら全学年合わせても数名しか専用機持ちはいないから実質トーナメントと名ばかりの決闘でしたが、今年はなんと! 専用機持ちが合計11名! IS学園始まって以来の最多出場数! 過去にないほどの激戦が繰り広げられるのは間違いありません!」

 

 告白大会同様、何故か新聞部部長を務めている黛先輩が司会を行っている。黛先輩の隣には前回同様に解説者として千冬姉が座っている。ってあれ? 千冬姉の横にもう一人分空席があるな。

 開会式が始まり、学園長の挨拶から楯無さんの生徒会長としての選手宣誓が行われていったが、このへんはどこの学校の体育会と変わらないなあとか思いながら半分以上聞き流していた。おそらく多くの生徒も似たようなものだろう。だって俺も含め多くの生徒が気になっていることと言ったら、

 

「それでは! 皆がとても気になっていた対戦表を発表します!」

 そう、朝起きてからずっと気になっていたこの大会の対戦表だ。初戦はどこと当たるのだろうか? まさかいきなり葵と当たるのか? 

 

「じゃーん! このような対戦表となっています!」

 黛先輩の後ろに大型空中投影ディスプレイが表示された。そのトーナメント表に観客席から多くのどよめきが起こり、俺もトーナメント表を見て、

 

 

 

Aリーグ

 

第一試合  

青崎葵 VS ラウラ・ボーデヴィッヒ&シャルロット・デュノア

 

第二試合  

ダリル・ケイシー&フォルテ・サファイア VSセシリア・オルコット&凰 鈴音

 

Bリーグ

 

更識 楯無&篠ノ之 箒 VS 織斑 一夏&更識 簪

 

 

 初戦から、俺達は最強の一角との対戦が決まっていた。

「うわあ、最初っからクライマックス」

 隣にいる簪は何故か楽しそうな顔をしてトーナメント表を眺めている。

 

「おい簪、いきなり楯無さんと箒と戦うってのにえらく余裕あるな」

 

「いやどうせ勝ち上がって行けばいずれお姉ちゃんとは戦う事になるのは決まってるもの。なら体力万端な初戦から戦える方が助かるわよ」

 ……まあ簪の言うことは一理あるがトーナメントなんだから勝ち進めばどこかで戦うのはわかるけど優勝候補といきなりというのもプレッシャーデカいぞ。

 視線を葵達に向けると、葵や鈴達も発表されたトーナメント表を食い入るように見つめていた。

 葵はいきなり第一試合でラウラとシャル相手に戦い、鈴とセシリアは先輩コンビとの闘いか。

 

「……葵と戦うのは決勝か」

 

「葵が勝ち残ればね。そもそもそれが出来なければ一人で出場した葵がただのピエロになる。言っとくけど一夏、仮に決勝で葵と戦うことになっても葵に下手な遠慮とか」

 

「心配するな。戦うことになったら……全力を持って葵を倒す。そもそも今日まで必死で強くなったのも、葵を倒したいからってのが大きい」

 葵は日本代表になる為、その実力を示す為にタッグトーナメントに一人で出場し優勝を狙っているが……倒す! 絶対に勝って見せる!

 

「にしてもこのトーナメント表Aリーグに偏りすぎじゃないか? いやもともと人数少ないけどAリーグは2勝して決勝だけどBリーグは一勝でもう決勝にいけるし」

 

「実力考慮したんでしょうね。だってお姉ちゃんが本気出したら一人でもAリーグの先輩コンビはともかく他は勝てるもの。そしてそれは私も同じ。私達と戦うならあの4組の中で一番強いチームでないと私達と戦う資格無しってこと」

 とことん上から目線な簪の言葉だが、それが自信過剰というだけではないことはわかる。簪の本気を知っている俺は、簪の実力が楯無さんや葵とも引けを取らないのをここ最近戦い続けて身に染みている。

 

「Aリーグから試合始まるみたいだから一夏、私達はひとまず観客席で観戦するわよ。初っ端から葵が戦うようだし、葵がこのトーナメントでいきなり消えるか勝ち残って私達の前に立ちふさがるのか、見届けましょう」

 

「ああ」

 少し経てば最初の試合が始まる。あの日葵が一人でも戦い優勝するといった決意、それを見せてもらおうか。

 

 

 

 

 

 

 

 大きく息を吸い、ゆっくり息を吐きながら気持ちを落ち着かせる。時計を見ると後10分もすれば試合が始まる。かつてないほどの緊張が俺を襲っている。今まで空手や剣道の大会に出場したりしたが、今日の大会は今までの比ではない。何せ今までの大会と比べ、挑むべき理由と背負う覚悟が全く違う。

 

「勝てば官軍、負ければ賊軍。今日、優勝できなければ……第三回モンド・グロッソ出場は叶わない」

 先月の突然の代表辞任、そして簪の代表指名。

 正直あの辞任がある前は第三回のモンド・グロッソ出場を何がなんでも出場してやるという気はなかった。今年専用機を手に入れたけどスサノオにはまだ八咫の鏡が無いし、あの代表は千冬さんの影に埋もれてたけど実力はあった。山田先生を押しのけて代表になっただけあるし、実績も積み重ねてるからどうあがこうとも代表争いしても勝ち目がない。

 そのため今回は無理に争うより次回万全の状態で挑む事にした。それに――一夏達と過ごすIS学園の生活が楽しかったのも大きい。

 ただ、そんな風に思ってたのに先月あの代表辞任しちゃったから、代表の席が空いてしまった。一応簪が指名されてるけど……まだ、間に合う。実績という点では簪に大きく後れを取っているけど、まだ何か大きな功績を残せば可能性がある。

 簪自体は代表に執着していないけど、代表を決めるのは簪でなく日本のIS委員会だ。この大会でタッグ組んで出場してる簪に勝てれば、代表に選ぶ大きな材料になるはずだ。

 

 

 

―――地上最強の男―――

 

 男なら誰もが憧れる、地上最強の男。俺もそれに憧れた一人だった。ガキの頃に抱いた夢だった。

 父さんが俺が生まれる前にその称号を手にし、父さんの子供である俺もそれに続こうと幼い頃から強くなろうと頑張った。頑張って修行し、努力を重ねて俺は世界一強い男を目指していた。

 だが……中学二年の春、その夢は永遠に叶わなくなった。俺の本当の性別は男ではなく――私の本当の性別は女だった。

 医者から告げられた時、頭が放心状態になり、理解したときは足元から自分の今までが崩壊していくのを感じたが……その事実を私はぼんやりと納得出来た。

 中学になり一夏がどんどん男らしい体格になっているのに、私だけどんなに体を鍛えても体格が貧弱。入部当初は私よりも全然力で敵わなかった同級生が、1年の終わり頃には飛躍的に向上してたのに私はそこまで増えなかった。地上最強の男となった父さんの精強な肉体と、私の肉体は根本的から作りが違っていた。

 容姿も父さんというより完全に母さん似だったから、中学に上がり二次性徴もしない私はますます女の子に間違われ、着替えなどは男子からの視線も酷く居心地が悪かった。そんな私の気持ちを察したんだろう一夏と弾が、私を囲むように着替えてくれていた。嬉しかったけど、そう思っては無かっただろう2人にまで私を女の子扱いしていると感じてしまい少し落ち込んだりした。ただ、そういうのがあったからあの頃私の中にこういう気持ちがあった。

 

 本当に自分は地上最強の男になれるのだろうか?

 

 そしてこの疑問は、中学二年の春に医者から告げられて解決した。

 

 女であることに納得はした。医者から明確なデータと自分の体がどういうものかと説明を受けたのもあるし、中学に入ってからますます増えた自分の性に対する違和感の理由が解消したからだ。

 ただ、その事実を認めるという事は――私が目指していた夢が絶対に叶わないという事を意味していた。

 

 所詮幼い頃父さんの偉業と、その背中を見て抱いた夢。

 

 でも……それを本気で追いかけていたのにこの結末は私を絶望させた。

 

 女でも地上最強を目指せると言う人もいるかもしれない。実際千冬さんや束さんは強い。恐ろしく強い。女でも強くなれるのはわかる。

 でも、それでも私は父さんを見て、地上最強の存在というのは男しかなれないと思う。理屈ではなく、おそらく本能的にそう思えるのかもしれない。

 それは手術後、完全に女になった私を鏡で見て確信に変わった。

 

 ああ、もう私は父さんがいた場所には届かない。

 

 そうして、私の幼い頃からの夢は完全に潰えてしまった。

 

 

 

 

 しかし数ヵ月後、私は新しい夢を抱くこととなった。

 束さんが開発した、世界最強の兵器IS。

 それを触る機会が与えられた私は、自分でも驚くほどISの操縦が出来て、初めての実戦で父さんに教えられた正拳突きによる腕から伝わる手応え。それに私の体は震えた。

 女しか扱えないIS。そのISは今まで培ってきた戦闘経験によって性能が変わってくる。

 そして世界最強の兵器であるISの世界一という事は、事実上あらゆる意味でこの世で一番強い存在になれるという事でもある。

 

 それに気付いた私は、歓喜して体を震わせた。新しい目標が出来たからだ。地上最強の男にはなれなかった。でも女なら、最強の兵器ISを扱えるのならなって見せようじゃないか。

 

 本当の意味での、地上最強の存在に。

 

 それが私が日本代表を目指し、モンド・グロッソ優勝を目指す理由。

 

 そしてその夢は、もう私だけの目標ではなくなっている。

 島根で私の専用機を開発してくれた出雲技研の皆。あの日私の為に命懸けで守ってくれて、私の為に専用機の開発や武器を作ってくれた。

 私の夢を笑わず、お前ならなれると励ましてくれた裕也達。

 

 皆の期待に、私は応えたい。

 それ以上に、単純に私は彼等の前で良い恰好がしたいのかもしれない。

 

 でも、それが今回無理してでも第三回モンド・グロッソに出場したいという動機のひとつでもある。

 

 だからラウラに、シャルロット。貴方達も代表候補生としてプライドがあり、私が単独で出場し貴方達に勝てると思われてるのが気に食わないのなら、私以上の覚悟を持って挑んで欲しい。

 

 私は、貴方達二人のその思いを喰らい、打ち負かすから。

 

 そうしてスサノオを展開した私はアリーナに向かった。

 


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