IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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学園祭 葵の返事

 三ヶ月。

 私があの日一夏の前から姿を消して、IS学園で再び会った日からおおよそ三ヶ月過ぎた。

 IS学園に来てからは一夏と再び馬鹿やったり、箒や鈴とは性別変わってからは前よりも仲良くなったり、セシリアやシャルロットにラウラとは友達になったりと充実した三ヶ月だった。その間死にかけたりもしたけど、思えばまだIS学園に来てからたった三ヶ月しか過ぎて無い事にちょっと驚いた。

 そして同じように、弾とも再会して三ヶ月経ち―――まさか私は弾にこう告げる日がくるとはね。

 

   私と、付き合って下さい

 

 

 弾と二年ぶりに再会した日、あの時から私は思っていた。もし、私に恋人が出来るとしたら弾が良いなって。

 その日から私は、それとなく弾にアプローチを掛けてきた。一夏には決してしないちょっとした誘惑。抱き着いたり、思わせぶりな態度を取ったりして、弾には私はもう女の子だという印象を強くさせていく。

 これまでの弾の反応を見る限り、弾から私に対する好意は見受けられた。だから私の方から告白すれば、きっと弾は私を選んでくれる。

 

 そうなったら、きっと私が望む未来にいきつくはず。

 

 それが、きっと私にとって一番良い結末を迎えられるんだ。

 

 

 

 

 様々な思いを胸に抱きながら、私は弾の前に立った。戸惑っている弾を見つめながら、私も緊張で胸が潰れそうになるけど、勇気を振り絞り弾を正面から見据えると、

 

 弾、私と付き合って下さい

 

 私は告白した。

 

 顔が赤くなっているのを自覚しながらも、私は弾から視線を外さない。顔を伏せたい衝動に駆られるけど、まだ弾から答えを聞いてないから出来ない。

 私の告白を受けた弾は何か呆けた顔をしながら私を見ている。まあ当然よね、さっきまで弾は無理やり私に告白しろとかされてたのに、私から告白されたんだから。

そんな事を私が思っていたら、

 

「………すまん葵、口パクで言われても何言ったのかわからん?」

 ……私にとって意味不明な事を言った。

 

 ……何、人の一大決心な告白を聞いてないふりするつもり?

 わかったわよ、貴方がそう言うんなら、私はもう一回言ってあげるわよ!

 私は再び弾を見つめて言った。

 

 だから、私と付き合って下さい!

 

 どう? 今度こそ、ちゃんと言ったわよ。

 しかし、弾の反応は、

 

「???」

 先程同様、何か困った顔をしながら私を見つめるだけだった。

 

 え、どういう事? 私、ちゃんと弾に付き合って下さいって言ってるわよね? あ、でもそういえば、さっきから観客も静かね? さっきまで私達が告白したら大きなリアクションしてたのに? そう思って周りを見渡したら、皆戸惑った顔をして私達を、いや私を見ている事に気付いた。小さくささやく声から「青崎さん、何て言ってるの?」「聞こえないよね?」といったのが聞こえてきて、そこで私は

 

 

 さっきまでの告白が、私の口から声に出て無かった事に気付いた。

 

 

 

 え、な、なんで? 緊張のあまり失語症にでもなったの? で、でもそんな事ってあるの?弾にこれを言うのは遅かれ早かれ決まっていた事なのに?

 

 混乱した私は、周囲に視線を彷徨わせる。観客席では箒達がいて、箒達も皆困惑した表情で私を見つめている。そして視線を変えたら、今度は会長と千冬さんが私を見つめているのに気付いた。そして二人とも―――酷く悲しげな顔をしながら私を見つめていた。

 何でそんな顔で私を見つめるんですか? まさか私が弾に告白しようとしたから? でもそれは私が一番―――

 

「葵」

 不意に名前を呼ばれ、私は弾かれたように呼ばれた方へ顔を向ける。誰かとかは考えるまでもなかった。だってそれは、他の誰よりも、私が聞いてきた声なのだから。

 

「……はは」

 顔を向いた先には一夏が立っていた。

 

 あれ、不思議だなあ。さっきまで混乱してたのに、一夏の声聞いただけで落ち着いてるのがわかる。それにさっきまで声出なかったのに、苦笑とはいえ声が私の口から洩れた。

名前を呼んだのに、一夏は私を見つめるだけで何も言わない。しかし、私をみつめる一夏からは、ある言葉が私に訴えているのを感じる。

 

「葵」

 今度は一夏の隣、さっき私に告白した裕也が―――、一夏と同様の表情を浮かべて私を見つめていた。

 そして、そこでようやく、私は何故さっき声が出なかった理由に気付くことが出来た。

 

一夏、弾、裕也。この三人と私の違い。それは、

 

 

 ――――――伝える言葉が心からの本心かそうでないかということ。

 

 

 

 三人は本当のありのままの気持ちを、私に言った。でも私は……、

 

 弾と付き合えたら良いなというのは本心。

 

 でも、本当に一番好きかとなると……

 

 駄、駄目! それは……考えないようにしてきたのだから!

 

 でも、それが……弾に告白しようとしても私が声が出なかった理由なんでしょうね。

 三人は本音をぶつけたのに、私は……ほんの少しの偽りを皆に言おうとした。そしてそれを……心は騙そうとしても、私の体は許してくれなかった。

 

 あ、ヤバいちょっと目頭が熱くなってきた。泣きそうなの私? で、でもここで泣くとかありえない! 弾に向かって歩いて泣き出すとか弾が私を泣かしたみたいになっちゃうじゃない! でも、あヤバい本気で泣き

 

「あ~あのな葵」

 再び混乱した私に、弾が頭を掻きながら私に言っていく。

 

「いやさっきから口パクしたり深刻な顔で悩んだりしてるのかわからんけどな、裕也と同様俺を振りたいならさくっと断っていいいぞ」

 

「え?」

 

「いや『え?』じゃなくてよ、それで悩んでるんだろ? 律儀な性格をしているお前だから、一人一人返事を返してるんだろうが、俺の時にそんなに返事に困るなよな。そんなに俺の家でメイド姿でウエイトレスで働くのが嫌なのか? 嫌ならきっぱり言えよ」

 混乱する私に、弾は苦笑を浮かべながら―――優しい声と目をしながら私に言った。それを見た私は、思わず笑い出しそうになった。

 

 私が思った通りだ。弾は本当に――――良い人だ。

 

 

「うん、ごめんね! 恋人とかは―――やっぱり考えられない。お世話になっている五反田食堂には何か恩返ししたいとは思うけど、さすがにメイドで接客はちょっとした葛藤が」

 せっかくの弾が用意してくれたこの場を切り抜ける策! 乗らないわけにはいかない。そして今度こそ、私は―――弾に本心を告げる事ができた。ああ、やっぱり本当は私……弾は違うんだとわかった。だって……胸につかえていた何かが取れたような何か晴れ晴れとした気持ちに今なっちゃったんだもの。

 

 

「え、え~っと。青崎さん、新庄君に五反田君を振ったわけですけど、では最後に残った織斑君は?」

 何か恐る恐ると言った感じで、黛先輩が私に近づいてきた。あ、そういえば黛先輩いたんだった。周りを見渡したら、さっきの私と弾とのやり取りは多少不自然だったかもしれないけど、どうにか納得してもらえたようで最後に残った一夏の返事に注目している。

 私は一夏の前に立ち、

 

 

「一夏、私達ずっと親友だよね」

 

 考えるよりも先に私の口から言葉が出た。

 

 ………あれ? 

 

「おう! 当然だろ!」

 一瞬おかしいなあと思ったけど、笑顔で一夏が私に向かって頷いているから……まあいいか。

 

「あ~なんと! 織斑君までお断りされちゃいましたあ! 結局三人とも玉砕という形になってしまいましたあ!」

 全ての返事が終わり、黛先輩がマイク片手にエキサイティングしている。観客からは「う~ん、全員駄目かあ」「織斑君可哀想…」「いや新庄君を振ってくれたのは嬉しいわ!私にもチャンスが!」「織斑君にもまだチャンス残っているのね!」「あの赤毛の子お姉さんが慰めてあげようかしら」等の声も聞こえてくる。どうやら観客も一応満足しているようだ。

箒達を見たら、全員……どこかホッとしている顔をしているのが見えた。一夏がどう返事するかが一番気になってたけど、私が親友でいようと言った後、笑顔で返事したからでしょうね。……いやここで変な返事を一夏がしなくてよかった。もし何か紛らわしい事言ったら、ここが廃墟になったかもしれないし。

 会長と千冬さんはどう思っているのか気になって、視線を変えようとしてたその瞬間、

 

 

 私の視界は白一色に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 葵が三人に返事をし、告白大会が終了し皆が気を緩めた瞬間の事だった。それは会場の誰もが、千冬すら気付く事すら出来ない一瞬の出来事だった。誰にも気づかれる事無く会場何かが投げ込まれ、ステージは一瞬にして白煙覆われた。楯無や千冬がステージに上り楯無はISミステリアス・レイディを展開。ナノマシンの水蒸気を使い白煙を強制的に吹き払う。

しかし白煙が無くなった後のステージに残っているのは、黛ただ一人。葵、一夏、弾、裕也の姿は無かった。

 

 

そしてそれを確認した楯無は、小さく微笑んでいた。

 




 大変遅くなった上に、短くて申し訳ありません。
わりと修羅場な出来事を迎え、なかなか執筆する余裕無かったので気力がある今先を進めてみました。
今回の話にある通り、弾ルートは完全消滅します。期待されてた方々は申し訳ございません

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