IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

23 / 58
夏休み 葵VS会長(前篇)

「え、今何て言いましたか?」

 おかしいな、今この人……千冬姉の代わりにコーチやるって言った? ははは、そんな馬鹿な?

 

「ん? 聞こえなかったのかな? 今後は織斑先生でなく、私が君のコーチをすることになったのだよ」

 

「……そういうことだ。すまんが、今日からISについては楯無に聞いていけ」

 しかし俺の願いに反し笑顔で肯定する会長に、苦虫を噛み潰したような顔をする千冬姉。ああ、聞き間違えじゃなかったのかよ。

 

「え、どういう事ですの?」

 

「どうして嫁のコーチが教官でなく貴様なのだ?」

 突然のコーチ変更に動揺したのは俺だけでなく、セシリアやラウラ達も驚いている。先月から今日まで、千冬姉からずっと教えてもらってたのに急にコーチ変更からな。でも、一番驚いてるのは俺だ。

 

 

「すみません会長、納得のいく説明をお願いします。俺は織斑先生に教えてもらっていたのに、勝手にコーチを変更する理由を」

 俺は不機嫌を隠しもせず、目の前の会長さんに聞いた。勝手にコーチを変えられて納得できるか。千冬姉に教えてもらって、最近自分でも強くなってきているのを実感しているんだ。それに俺の機体を考えたら、千冬姉以上に良いコーチなんているわけがない。

 

「納得のいく理由? いいよ、教えてあげる。それはね」

 そう言って会長は扇子を千冬姉の方に向け言った。

 

「多くの学生から言われてるからだよ。織斑先生は弟をえこひいきしてるって」

 

 え?

 

「いや君、朝から晩まで織斑先生からISの指導受けてるでしょ。それが一部生徒から『教師が特定の生徒ばかり教えるのは不公平だ!』みたいな苦情が生徒会から寄せられてね」

 

 ……ああ、そうきたか。

 

「私としてはどうでもいいと思ってたんだけど、苦情の人数が一定数に達しちゃってね。生徒の要望を聞くのが生徒会の仕事だし、一応解決させなくちゃって思って。そういうわけで一夏君、さっそくだけど今日から私が指導するからよろしくね。後ちなみにこの件は学園長からの許可貰ったことだから、織斑先生でも拒否できないからね」

なるほど、千冬姉が苦い顔していたのはそういうことか。千冬姉が何で生徒会とはいえ、生徒にすぎない会長さんの意見に従ってたのは、すでに根回し済みってわけだからか。

 でも、そう言われてはいわかりましたなんて言えるわけがないぞ、こっちは。

しかし状況は予断を許されない。このままいくと、コーチはこの会長さんになるのは間違いない。先月の……臨海学校行く前なら俺も何も言わずに従ってただろうけど、今はもう無理だ。会長さんの実力は俺よりも何倍も凄いんだろうけど、それでも―――俺の目標に届く程の物があるとは思えない。なら俺がすべきは、

 

「会長、事情はわかりました」

 

「うん、わかってくれた。じゃあ」

 

「でも事情はわかりましたが、承諾出来ません。俺は今後とも織斑先生がコーチをしてくれる事を望みます」

 会長さんを見ながら、俺は自分の本心を伝えた。

 

「え……、いや織斑君、話聞いてたかな。もうこの件は学園が決めた事なんだから拒否権は無いんだけど?」

 俺の返事を聞いて、会長さんは若干困惑した表情を浮かべた。箒達も何か俺の言葉を聞いて驚いている。千冬姉は……あれ、何で明後日の方を向きながら右手で顔隠しているんだろう? そんな千冬姉を葵はやけにニヤニヤしながら小声でなんか言って……あ、千冬姉にどつかれてるし。

 

「会長さん、さっき言いましたよね。生徒の要望を聞くのが生徒会の仕事だって」

 

「うん、そう言ったけど……流石にそれで織斑先生とのコーチを続けたいは」

 

「いえ違います。俺の要望は織斑先生にコーチを続けて欲しいじゃないです」

 

「はい?」

 俺の返答を聞いて、会長さんはさらに困惑した表情を浮かべた。周りを見たら箒達も似たような反応している。いや、嘘は言っていない。まあ語弊する言い方してるけど

 

「ん? どういうことなの? 織斑君は今後も織斑先生にコーチを続けて欲しいってさっき言ったよね?」

 

「ええ、そう言いました」

 だって、結果的に俺の目標を叶えてくれるのは千冬姉だけだろうし。

 

「だか」

 

「だってそれは」

 会長さんが何か言う前に、俺は

 

「俺の本当の要望は、葵や他の日本代表候補生を倒し―――日本代表となってモンド・グロッソに出場し優勝する力が欲しいからです」

 箒達に秘密にしていた、満月の夜海を眺めながら葵に言った俺の目標。もっと力を付けて、その言葉に説得力が出てきたら皆に言おうと思ってたのに、まさかここで言うはめになるとはなあ。

 案の定、会長さんを始め箒達ですら呆気にとられたような表情を浮かべている。ただし千冬姉と葵だけは、俺を見て笑みを浮かべていた。

 

「最近一夏があんなに練習してた理由って……」

「葵さんを倒して日本代表、さらに織斑先生と同じモンド・グロッソ優勝……、確かに一夏さんが本気でそれを目指すのなら、あれ程の練習を積まれるのもわかりますけれども」

「教官のように強くなりたいのだと思っていたが、目標が世界最強だと……。クラリッサが以前男は誰もが一度は世界最強を目指すとか言っていたが、嫁も例外ではなかったということなのか」

「ちょっと目標設定極端すぎじゃない? あの臨海学校で、一夏が自分の力が足りないと痛感したにしても、それでいきなり世界最強目指すとか」

「……ううむ、日本男子として上を目指すのは素晴らしいと言いたいが」

 ……うわ、俺の後ろから皆好き勝手言ってやがるな。しかもどれも俺の夢を無謀扱いしてるし。いや、俺とずっと模擬戦して俺の実力を知っているからこその発言何だろうけど。

 

「ねえ織斑君、一つ聞いていいかな」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「それは本気で言ってる?」

 さっきまで呆気にとられた表情を浮かべていた会長さんが、真剣な顔をして俺に聞いてきた。

 

「いや本気で言っているのはさっきの話からわかるから……、ねえ織斑君。そのモンド・グロッソ優勝は自分が唯一の男のIS乗りが理由だから?」

 口元は笑っているが、目は笑っていない。どうやらこれが会長さんが一番聞きたいことのようだけど、どういうことだろう? 俺が唯一の男だから? 

 会長さんの質問の意味を考えていたら、急に会長さんが笑顔になっていき、

 

「あ、もう言わなくていいよ。どうやら私の思い違いだったようだから」

 さっきまでの真剣な態度から一変、笑みを浮かべながら扇で口元を隠した。わからん、会長さんは何を気にしていたんだろう?

 

「じゃあ織斑君、君はこう言いたいんだね。自分はモンド・グロッソ優勝を目指している。だから私ではその夢を叶えるためには役者不足なんだって」

 

「……すみません、ストレートに言いますがそうです」 

 IS学園の生徒会長で、先程の葵達の反応からこの人も相当の腕前だとは俺でもわかる。でもそれでも、俺がモンド・グロッソで優勝するための力を付けてくれるとは思えない。

 

「うわあ、一夏知らないから言ってるんだろうけど……ロシアの国家代表の更識会長にもの凄い暴言吐いてるわね」

「……そうね、あれって『お前は世界一になれないんだから、世界一を目指す俺の指導なんて出来るわけねーだろバーカ』って言ってるのと同じよね」

「鈴さんそれは言いすぎなのでは……」

「でも会長を擁護するわけではないけど、ISの実力と指導力は別かなと僕は思うけど?」

「ふ、それならシャルロット、指導力なら教官が一番だ。かつて部隊で落ちこぼれだった私をここまで鍛え上げてくれたのだから。……私も本当なら一夏と同様教官の指導を受けたいのに」

「そもそもなれるかどうかは別にして、日本代表を一夏が目指すならロシア代表の会長が指導するのは問題があるのでは?」

 ……また先程同様、皆俺の後ろで好き勝手言ってるし。いやそれよりも、ロシアの国家代表! 代表候補生でなく会長さん代表なの! 葵の言う通り、俺かなりこの人に失礼なこと言ってるな、やばい謝った方がいいかな? 生意気言ってすみませんって。

 しかし当の会長さんは俺の話を聞いて、また難しい顔をして黙っている。しかし結論が出たのか、また顔を上げると笑みを浮かべながら俺の前に立ち、

 

「わかったわ! 貴方がそこまでモンド・グロッソ優勝の為に努力をするというなら―――私も生徒会会長として全力で貴方のサポートをしてあげる!」 

 目を輝かせながら、嬉しそうな顔をして俺に言ってきた。ってえええええええ!

 

「ちょ、聞いてなかったんですか! 俺は世界一を目指してるんですよ! 会長さんはロシアの国家代表で、言ってしまえば将来の俺の敵なんです! 大体会長さん、自分もロシア代表なのに世界一目指す相手の支援とかしちゃっていいんですか!?」

 

「ふふ、織斑君知っているかな? IS学園特記事項第二一、学園の生徒は在学中あらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の許可が無ければ誰も介入できないんだよ。だから私が織斑君を鍛えても文句言われないの」

 

「いやそれでも、会長さんすでにロシアに帰属してますよ! 文句言われるんじゃないんですか!」

 

「この際はっきり言うけど、世界で唯一のIS乗りである君を指導するだけでロシアにとって計り知れないサンプル情報が手に入るし、ロシアの代表が手塩かけて鍛えた君が優勝とかも、それはそれでこっちにとってプラスになるし」

 うわ本気でなんかぶっちゃけちゃってるよこの会長さん!

 

「それに」

 会長さん、扇子を閉じてポケットにしまうと、俺の右手を両手で握りしめ、

 

「さっき君が真剣な顔をしてモンド・グロッソ優勝の話をした時の顔。あれみたら応援したくなっちゃってね」

 笑みを浮かべながら言う会長は言った。

 

 

 

 

 

「千冬さん、一夏がまた一人撃墜させたようです。あいつの撃墜数はそのうちルーデルを超えるんじゃないでしょうか?」

「織斑先生だ葵。……一夏の奴狙ってないのに結果的に相手をたらしこむとは」

「天然なのが恐ろしいですよね」

「……お前は撃墜されないのか?」

「私がです? 何でです?」

「……いや何でもない」

 

 

 

 

 

 

「はいストーップ!」

 そう言いながら、俺と会長の間に鈴が割り込んできた。そして鈴の横にさらにセシリア、箒、シャル、ラウラが俺と会長との間に立ち塞がった。

 

「まあ一夏もさっき言ってたように本気でモンド・グロッソ優勝目指してるようだから、会長としても生徒の夢を叶えるために今後も織斑先生の指導が受けれるようにしてあげるのが会長としての務めなんじゃないの?」

 

「それに会長も忙しいのに、さらに一夏さんの指導までされたら大変でしょうから、特訓に関しましてはあたくし達が全面フォローしてあげますわ」

 

「僕たちも代表候補生なんだから、一夏に教えてあげれる事たくさんあるよ!」

 

「私は代表候補生ではないが……一夏の剣の指導は出来る。白式は雪片弐型しかないのだから、剣術の腕を上げるのはIS訓練として間違ってない!」

 

「そういうわけで会長、教官が駄目なら我々が嫁を鍛えるので他の仕事に専念していただこう」

 

 等々急に皆会長さんがコーチになるのを反対し、千冬姉の指導が一番俺の為になると言い出してきた。え、何この急変ぶりは。さっきまでは俺の援護してくれなかったのに。

 葵は何かそんな箒達を笑いながら見ているが……お前は反対してくれないんだな。

 急にわいわい言い出した皆に会長さんは面食らったが、すぐに真顔になった。

 

「ふうん、まあ君たちの言い分は理解できたよ。でも君達忘れてないかな。臨海学校前は一夏君は君達の指導を受けていた事を。でも、臨海学校後は頼み込んででも織斑先生の指導を受けている。これってつまり―――君達の指導じゃ足りないから一夏君は織斑先生に頼んだって事だよね」

 

「そ、それは……」

 会長さんの指摘に、鈴は何か言いたそうだが結局何も言えず黙り込んだ。他の皆も似たような顔をしている。

 

「そ、それはそうですけれど……では聞きますが、会長なら一夏さんの要求に応えることができますの? 織斑先生以上の指導が、会長なら出来るといいますの?」

 そんなセシリアの反論に、

 

「うん、出来るよ」

 会長さんは笑みを浮かべながら肯定した。

 

「少なくとも君達より、私の方が可能性あると思うわよ。もっとも、私も織斑先生以上に指導力があるとは思って無いわよ。だから―――青崎君!」

 

「へ?」

 急に会長さんに呼ばれて驚く葵だが、

 

「部屋替えするわよ! 今日から私が一夏君と同室にするから!」

 

「はあああああああああ!」

 続く会長の台詞に葵より俺の方が驚いてしまった。

 

「え、何でそうな」

「反対! 断固反対!」「いくら会長でも横暴過ぎますわ!」「嫁を鍛えるのと一緒に住む事は関係ないはずだ!」「そうだよ、そもそも一夏は男の子なのに女性の会長が一緒の部屋何て駄目だよ!」「そうだ! そもそも男女七歳にして席を同じゅうせずという言葉がある! 一夏と会長の同室なぞ許せるわけがない!」

 ……俺の言い分が、箒達の声で掻き消されてしまった。いや、俺も会長さんと同室は嫌だからいいんだけど。箒、シャル、より、にもよってお前等がそれ言う?

 

「……とりあえず私としては、デュノア君と篠ノ之君には言われたくはないなあ」

 ジト目をしながら言う会長さん。いや、まあ気持ちはわかります。

 

「まあまあ会長。私もなんか抉られた気分ありますけど、とりあえずそれは置いときまして何で一夏と同室になるんですか?」

 葵は会長さんにそう言いながら、若干ジト目をしてちらっとシャルと箒を見た。会長さんと葵の視線に、さすがに気付いたのかシャルと箒も少し気まずそうになった。

 

「うん理由だけど、私もさすがに織斑先生よりも指導力があるとは言えない。でも、織斑先生に代わって一夏君を日本代表にしてモンド・グロッソ優勝という目標まで鍛え上げようとするなら、生活リズムまで全て管理していかないと無理だと思う。だから私が私生活もつきっきりで指導して、一夏君の体調を管理しないといけないと思うのよ」

 ちょ、ちょっと待ってくれ!

 

「会長さん! いくらなんでもそれはやり過ぎです!」

 

「ん? だって一夏君は優勝したいんでしょ? ならこれ位しないと在学中に代表候補生にもなれないかもしれないよ? それとも……君のさっきの決意は嘘なのかい?」

 く、そ、それは嘘じゃない。嘘じゃないですが、いくらなんでもそこまで会長さんにされるのは……。く、こうなったら!

 

「葵!」

 

「へ?」

 今度は俺に呼ばれて驚く葵に、

 

「会長さんがお前を追い出そうとしているぞ! 反対してくれ!」

 俺は助けを求めることにした。そうだよ、会長さんの話なら、葵は部屋を追い出されるんだよ。なら葵もきっと、

 

「いや、いいんじゃない?」

 反対するに決まって……、え?

 

「何がそこまで会長が一夏の指導に命燃やしてるのか理解出来ないけど、会長の指導なら問題無いと思うし。強くなりたいなら会長のご厚意に甘えたら?」

 俺の思惑とは裏腹に、葵はあっさり会長との同室に賛成しやがった。

 

「ちょっと葵!」

「何でお前が会長との同室に賛成している!」

 葵の答えが予想外だったのは俺だけでなく箒達も同様なようで、鈴も箒も驚いた顔をしながら葵に詰め寄っていく。

 

「まあまあ皆落ち着いて。最初に箒、次にシャルロット、その次に私で、今度は会長が一夏の同室になるだけじゃない。今までとそう変わらないわよ」

 変わるよ! 俺にとっては物凄く変わる! 

 

「それに一夏、こんなに美人な会長が一緒の部屋に住むのよ。男なら願ったり叶ったりじゃない」

 

「そうそう、お姉さんとラブラブな生活送っちゃいましょ!」

 葵の言葉を聞いて、しなを作りながら色っぽく会長さんが言う。……何が男なら願ったり叶ったりだ!大体それよりも俺にとっては

 

「青崎、お前もしかしたら誤解しているかもしれないから言うが……もし更識が織斑と同室になった場合お前は二年の宿舎に移って更識のルームメイトと一緒に生活してもらうことになるが」

 

「え?」

 今までずっと黙っていた千冬姉の言葉に、葵の目が点になった。

 

「何だ、まさか貴様織斑の部屋から追い出されたら一人部屋になるとでも思ってたのか? そんな部屋用意出来るのなら、とっくにお前と織斑は部屋を別にしている」

 

「え~っと」

 葵は会長さんの方を向くと、

 

「うん、まあそうなるかな。でも大丈夫、あたしのルームメイト良い子だからすぐに仲良くなれるわよ」

 会長さんが笑顔をしながら葵に、暗に今会長が住んでる部屋に移動を命じた。会長さんの言葉を聞いた葵は数瞬何か考え事をした後、

 

「一夏と私は昔ながらの幼馴染! その絆は家族のように強靭! ですから一夏と部屋を変えるのは断固反対します!」

 会長さんに堂々と言い放った。……うん、葵。その台詞もっと早く言ってくれたら嬉しかったんだがなあ。俺、お前の親友だよな?

 

「……と、というわけで会長! 一夏との同室は諦めてください! これについては断固反対します!」

 俺の視線に負い目を感じたのか、さっきまでとは違い、全力で葵も会長に反対してくれるようになった。

 

「そう、青崎君も反対かあ」

 ん?

 箒達に続き、中立派だった葵も反対するようになったのに……今会長さん、笑わなかったか?

 

「でも困ったなあ。流石に私も一夏君の要望を応えるには常に一緒になってサポートしないと無理だし」

 なにやら急ににやけだした会長さん。全然困っているように見えないんですけど? 会長の態度の変化に葵や千冬姉、箒達も訝しがっていると、

 

「じゃあこうしようか。私と青崎君が試合して、私が勝ったら青崎君は部屋移動で一夏君は私の指導を受ける。青崎君が勝ったら部屋はそのまま。一夏君の指導も織斑先生が参加できるよう私からも協力してあげる」

 会長さんは満面の笑みを浮かべながら俺を、いや葵に向けながらそう宣言した。

 

「織斑先生、もうこれでいいですよね。話し合いしても決着つきそうにありませんし」

 会長さんの言葉に、

 

「はあ。ああ、もうそれでいい」

 千冬姉は溜息をつきながら了承した。え、いいのか千冬姉。いや会長さんの言う通り、話し合いで決着つくとは思えないけどさ。……なんか変だな。最初は俺のコーチの件で揉めてたはずなのに、何で葵と会長が試合することになってるんだ?

「……やられた」

 会長さんの言葉を聞いて、葵は悔しそうな顔をする。

 

「会長と葵さんが、試合……」

「こう言っては何だが、私も凄く興味ある」

「真の意味でこの学園の頂上決戦じゃないかな、これ?」

 

 セシリア達も会長さんの提案に、かなり興味があるようだ。俺も同感で、スサノオを手に入れた葵と、ロシア国家代表の会長。おそらくこれ以上の対戦はこのIS学園には無い気がするからだ。しかし、

 

「会長、本気ですか?」

 何故か知らないが、葵はやる気がないようだ。どうした葵、お前強い奴と戦うの好きだろ?

 

「うん、本気」

 乗り気ではない葵とは対照的に、会長はやる気満々のようだ。会長の返答を聞いてさらに困った顔をする葵。ん? さっきから気になってたが、何であいつそんなに会長と戦うの嫌がってるんだ?

 

「葵、巻き込んだ俺が言うのもなんだが、どうして会長さんと戦うの嫌がってるんだ? お前の性格なら強者と戦うのは好きなはずだろ?」

 

「……人を戦闘狂みたいにいわないでくれる」

 

「じゃあ何でなんだ?」

 

「……」

 俺の質問に、だんまりな葵。どうしたんだ一体? そんな俺と葵のやり取りを見ていた千冬姉は、はあと溜息をつくと、

 

「青崎、そして更識。ちょっとこっちにこい」

 千冬姉は葵と会長さんを連れて俺達から離れていった。そして10数秒後、こっちに戻ってきたら、

 

「会長、全力を持って貴方を倒します!」

 

「うん、会長として本気で貴方を倒してあげる!」

 さっきまでとは違い、葵はやる気を漲らせながら会長に宣言し、会長は何故か少し怒った顔をして葵の返事に応えた。

 

「あ、あの織斑先生」

 

「なんだ織斑」

 

「葵に何言ったんです? 急に会長さんとの試合にやる気出してるんですが」

 俺の疑問に千冬姉は、

 

「……くだらんことに悩んでいたから、それを解消してやっただけだ」

 微妙に呆れた顔をしながら葵を見て言った。

 そして葵は俺の方に来ると、

 

「ごめん一夏、さっきは最初から一夏の味方をしなくて。でも、もう迷いはないから」

 申し訳無いという顔しながら言って、葵は会長さんとの試合の準備に向かった。

 

 

 そして、一時間後。

 

「更識、青崎。準備はいいか?」

 

「はい、織斑先生。こっちは何時でもいいです」

 

「私もいいですよ」

 

 場所は第二アリーナ。そこでロシアの専用機ミステリアス・レイディを装着した会長さんと、日本の専用機スサノオを装着した葵の試合が、

 

「では、始め!」

 

 千冬姉の合図によって、行われた。

 




テンポ悪くて申し訳ございません。
今回前後編に分けてますが、試合内容と結果についてはもう決まってますので後編は……まあ今までよりは早く出せると……思います。
いえ出張が多いんですよ最近……

正直早く後編書いたら、夏休みの短編ストーリー書きたいですね。
花火大会とか。誰が誰と見てるかは、ねえ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。