IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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夏休み ウォーターワールド

俺って、もしかしたら物凄く恵まれた存在なんじゃね?

 ウォーターワールド内にある喫茶店の前で葵が着替えて来るのを待ちながら、ここに来るまでの事を振り返り、俺はそう思った。

 

 爺さんからウォーターワールドのチケットを貰ったから、どうせ暇だしと葵と二人でここに来たが……途中電車に乗ってる間、

 

「おい、見ろよあの子!」「ん?…おお、すげー可愛い子じゃん!」「いやあの子ほら先月TVに出てなかったか?」「あの制服確かIS学園の制服だよ……ああ!思い出した!あの子だよ!ブリュンヒルデの再来とか言われた、事情があって発表が遅れた元男のIS日本の代表候補生!」「元男?なんだそれ?」「なんか複雑な生まれだったらしいぞ」「そうそう!ニュースで見た!そういやあの子、ああ見えてIS乗ったらむちゃくちゃ強いぜ」「ああ、模擬戦シーン見たが……信じられないなあれは」「IS以外でも、剣道も強いらしいぜ」「剣道?空手で無くて?」「確か先月九州で行われた剣道大会で、大会最多の一本勝ちしたとかTVで言ってたぞ」「それよりも…可愛いな」「胸もデカイ!」「マジで元男?全くそんな面影ないぞ」「あれ嘘でね?男は織斑一夏しか操縦できないって世界中の学者言ってるし」「一緒にいる奴は誰だ?彼氏か?」「荷物持ちじゃね?」「マネージャーとかでは?」

 ……こんな会話が、目的の駅に到着するまで聞えた。

 

 先月葵はTVで、新しい日本代表候補生と紹介された。いままで専用機が無かったが、どういうわけか専用機も手に入ったので、日本政府は正式に葵を日本代表候補生として大々的に発表した。

そしてその時……葵の過去も一緒に紹介された。プライバシーの問題なのか、政府としてもその辺りは騒がせたくないのかほとんどそういう経歴ですと言った紹介のみで葵の過去の写真等は伏せられていた。その結果……今の所葵は元男の辺りは世間では半分冗談扱いされている。ネットやいくばくかの雑誌には女性原理主義の集団もあり、葵の存在を認めないのもいるが、それらは今の所少数勢力でしかない。それにISを扱える男は一夏のみと世界中のIS関係者が発表してるせいもあり、現在の葵は世間の目からは完全に女の子として扱われている。

…もっとも、そう思われる最大の要因は、やっぱ葵の容姿のおかげでもある。発表時、葵は高そうな和服を着て、髪もそれに合わせ綺麗な髪飾りを付けて薄く化粧して登場しその姿は……よく知っている俺ですらすげえ綺麗だなって思ったからな。爺さんや親父に蘭も惚けていたしな。下手なアイドル以上だったから、惚れた奴も多かっただろう。もっとも、その直後、葵の模擬戦シーンが流れ、葵の放った拳の一撃で対戦相手がありえない勢いで吹き飛んだシーンが流れた時は、TVの向こうの司会者さん達は度肝抜かれてたたが。……しかし対戦相手は誰か知らないが、可哀想だったな。マジで一方的にやられてたし。誰か知らないが、彼女が元気である事を祈ろう。

 

 

 

 

 駅から降りた後でもウォーターワールドに到着するまで、葵についての噂の声は延々と聞えて行った。しかし葵はそんな周囲の視線や、声を聞えてないかのように歩いていた。……凄いな、俺はお前の彼氏と勘違いされ、何人かの男から嫉妬の視線や怨嗟の声を喰らっただけでもびくびくしたんだがな。しかし葵が周囲の視線や声に全く意に介さないで俺に世間話を振るもんだから、俺も葵に合せ、なるべく周囲の事は考えないようにした。

 ウォーターワールド到着後、俺と葵はお互い水着をレンタルして着替えたら内部の喫茶店の前で集合する事にした。俺が水着を選んだ時には、すでに葵は水着を選んでいて、葵はどんな水着を着るのか気になったが、

 

「それは後のお楽しみってね」

 そう言って、葵は笑いながら更衣室へと向かった。……絶対わざとやってるな、あいつ。

 

 

「なんかこう振り返ると、凄く可愛いと絶賛されてる女の子と俺は今二人っきりでここに来てるんだよなあ。誰から見てもこれデートになるよな」

 いやそもそもよく考えたら、俺って葵と二人で出掛けた事なんて片手で数える位しかないんだよな。そりゃ葵と出会ったのは中学の時だし、実質葵とは一年しか付き合ってない。

 

「それでも……一夏と葵と鈴とで馬鹿騒ぎしてた頃が、中学時代一番楽しかった」

 世界初の男性操縦者となった一夏に、中国の代表候補生となった鈴、男から女になったと思ったら日本の代表候補生となった葵。個性的すぎる三人と馬鹿やってた時は、一番充実していた。一夏ほどでもないが、俺も葵が、そして鈴がいなくなった時は……すげえ悲しかった。

 葵が来るまで、ぼ~っと色々考えていたら、

 

「だ~れだ?」

 この言葉と同時に、俺の視界が急に暗くなった。……いや、俺にこんな事するのここではお前しかいないだろが。後、お前くっつきすぎ! 胸が背中に当たってる! わざとか! わざとなのか!

 

「葵、悪ふざけは」

 手を振り払い、急いで離れて振り向くと、

 

「……誰?」

 俺の知らない、めっちゃスタイルの良い金髪美少女がいた。目は青く、髪は背中を隠す程長くて、太陽の光が当たり金色に輝いている。肌は白いが、白人という程白くは無い。顔立ちは大人っぽく、満面の笑顔で俺を見ている様子は少し子供っぽい。身長も高く、170近くはあるだろう。引き締まった体に、でかでかと自己主張する大きな胸。それらを大人っぽい黒いビキニで隠している……やべ、見過ぎたら息子がやばくなる。総合的に見て、俺が今まで見て来た女の子の中でもトップ3に入る位可愛い金髪美少女が、今俺の目の前にいる。俺が惚けて彼女を見ていたら、

 

「ぷ、ははっはははは! 何、マジでわからないの!弾、あんたは誰とここに来たのよ」

 俺を指差して大笑いをし始めた。え、じゃあまさか、

 

「え~~~、もしかして葵?」

 半信半疑で聞くと、

 

「当たり。というか当たり前でしょ」

 葵は笑いながら肯定した。いや待てやこら。

 

「わかるか!いきなり金髪碧眼になりやがって!」

 ほんの数十分で金髪になって現れたらそらわからねーよ!

「まあまあ。ここじゃ目立つからちょっと移動しましょ」

 そう言って、葵は何処かへ歩き出したので、俺も渋々ついていく事にした。

 

 

 

「ま~さすがにうっとおしかったからね。有名人になって目立つのはしょうが無いけど」

 ウォーターワールドの目玉の一つ、巨大な流れるプールでレンタルしたイルカ浮輪につかまりながら、葵は顔を曇らせながら言った。

 

「昔からいた近所ならともかく、今日みたいに少し遠出したらあんな有様だし。いくら新しい日本代表候補生だからって、まさかあんなに注目されるとは思わなかったわ。元男ってことがやっぱ目立つ原因なんだろうけど」

 いや、おそらくそれは今の所関係ないと思うぞ。どう考えてもお前の見た目と模擬戦のインパクトのせいだろ。

 

「葵、碧眼はコンタクトだとわかるが髪はどうやったんだ?俺と別れて30分位しか経ってないのに、その金髪は地毛かと思う程見事に染め上がってるぞ」

 

「束さんが10分でやってくれました」

 俺の疑問に、葵はにっと笑って、髪を掻きあげた。

 

「束さん?もしかして篠ノ之束博士か?え、ここにいるのか?」

 

「違うわよ。臨海学校から帰る時、束さんに頼んで貰ったの。束さん、世界中から追われてる身だからこういった変装道具沢山もってるのよ。もっとも、この髪染めは束さんが私が小学生の時いたずら目的で作ったものだけどね。昔道場で一夏と箒と千冬さんと束さんと私で寝ていたら、翌日一夏は銀髪、箒は赤髪、千冬さんは金髪、私は茶髪にされて、朝起きたら全員びっくりしたわね。驚く私達を見て束さんは大笑いしてて、そして怒った千冬さんが……まあその後は泣きながら束さん全員の髪を元に戻してくれたけどね。いや凄いわよこの髪染め、水に専用液垂らして、それを髪に濡らすだけでみるみる金髪になっていくのよ。そして戻す時は専用の戻し薬を同じ要領でかければあら元通り」

 

「ほ~それは凄いな! 俺にもくれ!」

 

「駄~目。これは束さんが私だからくれたものだから。欲しかったら束さんに言って貰いなさい」

 

「無茶言うな、無理に決まっているだろそんなもん! 俺なんかが会いに行っても門前払いされるだろが」

 大体何処にいるかもわからない篠ノ之博士にどうやって会いにいくんだよ。

 

「しかし変ね、変装してもさっきから視線をずっと感じるんだけど……」

 そりゃ変装したお前の姿が目立ち過ぎだからだろ。金髪に碧眼はやりすぎだ。しかもお前の顔とスタイルが、さらに注目を集める要因になっている。

 

「ま、私が青崎葵だってわからなければそれでいっか」

 そういう問題なのか?視線がうっとおしいから変装したんじゃなかったのか?

 

「それより弾、何でさっきから私の横で泳いでるの?弾も浮輪レンタルしなさいよ、ぷかぷか浮いて流れていくのは気持ちいいわよ」

 葵は気持ち良さそうに、イルカにしがみついる。確かに気持ちよさそうだが、

 

「葵、お前は良いかもしれんが男はそんな物につかんで浮いてるなんて恥ずかしいんだよ」

 女子ならともかく、この年でそれにつかまるのは恥ずかしい。

 

「わかったわ、中二病ってやつね」

 

「やめろ、そういう表現」

 

「だってあれみなさい」

 葵の指差す方を向くと、そこには小さい子と一緒にシャチの浮輪で浮かんでいる40代位の父親がいた。

 

「いや葵、あれは例外だろ。子供と一緒なら別に問題無い」

 

「ふうん、じゃああれは?」

 次に葵が指差す方を見ると……そこにはカップルが身を寄せ合って浮き輪につかんで浮いていた。

 

「……いや、あれも例外つーか」

 ある意味正しい使い方で、恋人が出来たらやりたい行動の一つだが、……他人がやってるとムカつくな。

 そんな事思ってると、

 

「弾、つかまる?」

 葵はにっと笑いながら少し体をずらした。身を寄せ合えば俺も一緒につかめるだろうスペースがそこにある。

 

「……あのなあ葵、さっきから俺をからかっているだろ?」

 さっきから誘惑しまくりやがって。半眼で葵を睨むと、

 

「ごめん、なんか反応が楽しくて」

 再び体を元の位置に戻し、葵は笑顔で答えた。

 

「この小悪魔」

 こいつ、本当に心から女になりやがったな。お前も昔は男なんだから、男の純情弄ぶなよ。

 

「だからごめんって、それに……こういう事するのは一夏と弾位しかしないわよ」

 ……うわ、こいつやっぱりわざとやってるのか?そういう台詞が一番くるんだよ! こう、いろいろと!

 

「弾?顔赤いけど日焼け?」

 

「ほっとけ!」

 

 

 

 

 

 

 その後、流れるプールから上がった後は、、

 

「~~~~!」

「おおお!意外とはええー!」

 葵と一緒に巨大スライダーをゴムボートに乗って滑ったり、

 

「よし、私の勝ち!」

「ちっ、葵次はバタフライで勝負な!」

競泳用プールで葵と泳ぎの勝負をしたり、

 

「さあいけ弾! 男を見せなさい!」

「いや待て!さすがにこれは怖いって葵押すなあああ!」

 飛び込み台から葵に落とされたり等々、葵と二人でウォーターワールドの施設を遊び倒して行った。

 

 

 

「あ~ちょっと疲れたわね」

 休憩スペースにある椅子に座ると、葵はテーブルの上に倒れた。

 

「…俺も疲れたよ。葵、お前少しはしゃぎすぎだ」

 さっきからハイテンションで遊び回ってたなこいつ。……俺を飛び込み台から突き落とす時が一番良い笑顔していたがな。

 

「まあね~、やっぱ本当に久しぶりに遠慮なく遊べたからかな~。箒達とも一緒になって遊ぶけど、やっぱこういう遊びは彼女達とは出来ないし。思いっきり遊び倒すなんて……いや鈴なら付き合ってくれるかな?」

 

「ふうん、そういうもんか?」

 

「そういうもんよ。弾、彼女出来たら気を付けなさい。今日みたいなコースで遊んだら彼女途中でついて来れなくなるわよ」

 ……言っとくが葵、今日のお前のペースは男でもついて来れなくなる奴出るぞ。

 

「あ~大満足。ここに来るのは予定外だったけど、来て良かった~。ありがとうね、弾」

 

「う……まあ礼は爺さんに言えよ」

 

「ええ、厳さんには感謝しないとね」

 俺も帰ったら爺さんに感謝しないとな。来て良かったぜ、しかも葵の水着姿もこうやって見れるしな。……やっぱでけえな。たった二年で成長しすぎだろ。

 つい葵の胸を凝視していたら、

 

「……弾、一夏にも前言ったけど女は男がどこ見てるかわかるわよ」

 呆れた顔した葵が、腕で胸を隠し始めた。……まあ全然隠し切れてないけどな。

 

「あ、いや悪い葵。つい、な。あ、ところで葵、さっき久しぶり思い切り遊んだとか言ってたが、そうでもないだろ? お前らの事だから、一夏と二人で遊びに行ったりしてるだろ」

 二年前の一夏と葵は、二人で遊び回ってたからな。どちらかというと、一夏と葵の二人につられて俺と鈴が巻き込まれる事が多かったし。

 しかし、次に出た葵の言葉は、

 

「いや、こっちに戻ってから私と一夏は一度も二人で遊びに行った事はないわね。よく考えたら、こっち来て弾が女になって初めて男と二人で出掛けた相手になるかな」

 俺の予想外のものだった。はあ!?

 

「なんだそりゃ!? お前と一夏が!?」

 

「へ?そんなに驚く事かしら?」

 

「いや驚くだろ! 二年前はほぼセットでお前ら一緒にいただろ」

 

「今も対して変わらないわよ、部屋一緒だからむしろ前より一緒にいるし。それに遊びに行く時は鈴やあんたと一緒に遊びに行こうみたいな事が多いだけで、基本一夏とは遊びまわってるわよ」

 

「でもお前さっき、久しぶりに思い切り遊べたとか言ってたな。理由は女子と一緒だと思い切り遊べないからって。なら一夏と遊びに行けばいいじゃねーか。あいつなら無条件で、というか大喜びで一緒に行くだろ?」

 俺の疑問に、

 

「……うん、まあそうなんだけど」

 葵は、何故か微笑を浮かべながら答えた。

 

「弾、喉乾いてない?ちょっとジュース買ってくるね、弾は何がいい?」

 そう言って、葵は立ち上がった。あからさまに何か誤魔化そうとしてるな。

 

「……まあいいか。あ、ジュースだが葵座ってろ、俺が買ってきてやるよ」

 

「いいわよ、私が買ってくるから。ここの無料チケット貰ったんだから、ジュース位奢るわよ」

 

「そっか、じゃあ俺コーラな」

 

「りょーかい」

 そう言って、葵はジュースを買いに行った。……良く考えたら今の女尊男卑の世界じゃ、例えジュースでも女に奢ってもらうなんてありえない事なんだよな。

 

「やっぱり俺は……物凄く恵まれてるな」

 

 

 

 

 

「平和だ……」

 遊泳用プールに浮かびながら、俺はしみじみそう思った。最近は千冬姉と一緒にIS訓練に明け暮れてたから、こうして一日のんびりするなんて久しぶりな事だよなあ。

 

 今日、俺は鈴と一緒に新しく出来たというウォーターワールドに遊びに来ている。残念ながら葵と弾は用事があっていけないとの事なので、鈴と一緒に二人で来ている。何故か一緒にIS学園に住んでるのに、

 

「待ち合わせは10時、ウォーターワールドの入り口よ!」

 頑なに鈴が集合場所をここだと譲らない為、わざわざウォーターワールド前で集合となった。……う~む、IS学園前で集合でいいだろうに何故鈴はこんな面倒臭い事をしたんだろうか?葵に聞いても苦笑いしか返って来なかったし。つーか葵、わかっているなら教えてくれよ。

 

 10時ウォーターワールドの前で鈴と合流した後は、一緒に中に入りそして二人で今日着る水着を選んで行った。この時何故か鈴を怒らせてしまい、10分程鈴を宥めるのに時間を費やしてしまった。……しかし何故鈴は怒ったんだ?わからない・

 その後先に中に入り、鈴が来るのを待っていた。

 

「おまたせ~」

 笑顔でこっちに駆け寄ってくる鈴。俺の前に立ち止まり、

 

「ね、ねえ一夏。どうかな、この水着」

 臨海学校の時と同様、同じ質問をしてきた。

 

「おう、似合ってるぞ! 臨海学校の時と同様可愛いぜ!」

 親指立てながら鈴にそう言うと、

 

「ほ、本当に!やったー!」

 予想外な程、鈴は喜んだ。おお、葵の言う通りにしたが……まさかここまで喜ぶとはな。さすが葵、女になって女が言われて喜ぶ台詞がわかってるんだな。

その後上機嫌になった鈴からサンオイルを塗ってくれと頼まれ、サンオイルを塗ってやった。しかし何故女子はみんな他人にサンオイルを塗ってくれと頼むんだろうな? 臨海学校の時もセシリアにシャルにラウラからもサンオイル塗ってくれと頼ましたし。

 ウォータースライダーに鈴がハマり、10回は滑った後は流れるプールに行ったりし、そんな事をやっていたらあっという間に時間は過ぎて行った。

 昼食は、鈴がお弁当を作って持ってきた為それを食べる事となった。鈴お手製の為やっぱり中華弁当で、当然の如く酢豚が入っていた。

 

「鈴、お前酢豚本当に好きだな。高確率で鈴の弁当に酢豚入ってるぞ」

 

「う、うっさいわね!いいでしょ、あんたはそれを食べてりゃいいのよ!」

 まあ酢豚以外にも青椒肉絲に棒棒鶏.サラダに海老チリに中華ちまき等、デザートにはゴマ団子とかなり贅沢な弁当だった。

 

「お、美味いな! 鈴、腕上げたな~。どれもめちゃ美味いぞ!」

 

「ふっふーそうでしょ! 一夏、あたしに感謝して食べなさい!」

 俺の言葉を聞いて、ふんぞり返る鈴。顔は凄く嬉しそうだ。ああ、しかしこれマジで美味いな。鈴の奴たくさん作ってるし、俺も弁当作ろうとしたがこれだけあるなら葵の言う通り作らなくて正解だったな。しかし葵の奴、何で半眼で「ワザとか一夏、なんでそんな事する?」とか言ったんだろうか?

 

 午後からは、なにやらマッサージやエステ、砂風呂体験コーナーがあった為、鈴と一緒に行く事にした。鈴はエステに興味があったので、俺はマッサージをやって貰う事にした。最近では葵にやって貰ってるが、本職の人のマッサージに興味あったしな。まあまあ気持ち良かったのだが……思った程たいした事無かったな、あの人のは。葵の方が上手いぞ、あの腕じゃ。鈴の方もあんまりいい腕の人じゃ無かったようで、不満ばっかり言っていた

 そして今、俺は遊泳プールの中でクラゲのように浮いている。なんかさっきから

 

「すげー可愛い金髪少女がいるぞ!」「ああ、俺も見た!競泳用プールで泳ぎまくってたな!」「さっきは飛び込み台で男突き落とした後、見事なフォームで飛び込んでたぞ!」「ああ、糞!男がいなけりゃなあ」

 

 みたいな会話が聞えてくる。ふうん、可愛い金髪少女か。もしかしてセシリアか?いやそれは無いか、セシリアは今イギリスに帰ってるもんなあ。

 ああ、なんかこう浮かんでるだけで体が溶けてく感じがする。最近訓練に明け暮れてたから、こういう穏やかな感じいいな

 

「な~に寝てるのよ一夏!」

 鈴に思いっきり顔に水を掛けられた。

 

「がはっげほげほ!おい鈴、何しやがる!」

 

「ちょっと離れてる間にあんたが寝そうになってたから起こして上げたのよ。プールで寝ると危ないじゃない」

 う、まあ確かにこんな所で寝たら危ない。風呂で寝たら死ぬ事もあるしな。プールじゃなおさらだ。

 

「ま、その様子だと……一夏、あんたもかなりリラックスしたようね」

 俺を見ながら鈴は云々と頷いている。

 

「ああ、鈴今日はありがとうな。最近は千冬姉と一緒に訓練ばっかりしてたから、良い気分転換になった」

 

「どういたしまして。……ねえ一夏、聞いていい?」

 鈴は真剣な顔をして、

 

「どうして最近、あそこまで練習に打ち込むようになったわけ?一体何があったの?」

 真っ直ぐ俺の目を見ながら聞いて来た。……う~ん、やっぱりこれ聞いて来たか。

 

「言っとくけど、最近のあんたちょっと異常よ。臨海学校から帰って以来、今までとは考えられない位練習に励んでいる。あそこまで急に変わったら、おかしいと思わない方がおかしいわよ」

 鈴の言葉に、俺もまあそうだよなあと思う。以前の俺なら、練習なんてそこまでやろうとか思わなかったからな。

 

「いや鈴、前も言っただろ。俺は」

 

「守る力がなかったから云々な話は前聞いたわよ。でもだからって……毎日アリーナで倒れる位練習する理由になるの?」

 

「なるだろ。俺は……そのせいであいつが死にかけたんだし」

 この言葉に、鈴は黙り込んでしまった。……悪いな鈴、こう言えばお前が黙るのはわかってて言っている。ああ、守る為の力が欲しい。これは本当だ。だが、まだ理由はあるが―――言えないなあ。

 

「ふうん、まああんたがそう言うならそれでいいけど……あんた、気付いてるの?あんたがそうやって無茶やってるのを、多くの人が気にかけて心配しているのを」

 

「え?」

 

「……その顔じゃ気付いてないみたいね。いい一夏、あんたがその目標に向かって突っ走るのはいい。でもね、……毎回練習が終わった後倒れこむあんたを見て心配している人がいるって事を忘れないでよね」

 ああ、そうか。俺……鈴に心配かけてしまってたのか。確かに事情を知らない鈴達からすれば、今の俺は狂ったと見られてもしょうが無いか。

 

「悪かった鈴、心配かけちまって」

 

「べ、別にあたしは心配してないわよ!ただセシリア達がちょっとそう思ってただけよ!」

 顔赤くして言われても説得力ないぜ。

 

「と、とにかく一夏!あんたも心配されたくなかったら、少しは練習の仕方変えなさいよね!」

 

「う~ん、それは千冬姉に言わないと無理だなあ」

 

「……そもそもの原因は千冬さんのスパルタ教育のせいでもあるわね。何考えて弟の一夏をあそこまで?」

 

「いやあ千冬姉は俺の事を思ってやってくれているぞ」

 何しろ俺の目標に手が届くよう、真剣に俺を鍛えてくれているからな。ん、どうした鈴?何でそんな変な物を見るような目で俺を見る?

 

「あんた……シスコンの上にマゾだったわけ?」

 

「なわけあるか!」

 

 

 

 

 その後鈴から、「一夏、喉乾いたー」と鈴が言うもんだから、俺はジュースを買いに行く事にした。まあ弁当作って貰ったからな、これ位はお安い御用だ。

 プールから上がり、売店に行くとそこに、

 

「あ、すみませーん!コーラ二つお願いします」

 綺麗な金髪をした少女がいた。ああ、この子がさっき誰かが言ってた金髪の少女か。そしてその少女が売店の人からコーラを貰いこちらを振り向き、その姿をみて俺は絶句した。

 腰まである長い金髪に青い眼をした少女。俺はこいつを良く知っている。髪と目の色が違うが……こいつは間違いなくあいつだ。

ここにいないはずの、あいつだ。

 

「…葵?」

 俺の呟きが聞えたのか、葵はこちらを向き、

 

「……」

 何故か無言で固まった。

 




次回は、俺の親友二人が修羅場過ぎるか、あたしの幼馴染み二人が修羅場過ぎるで提供します。









すいません嘘です。
後裏設定として、模擬戦シーンで流れていた対戦相手は出雲技研にいた代表候補生候補とのシーンです。いえ本編に全く影響しませんけどね。

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